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2017/02/28

【社会起業のレシピ】vol.31「腹立ちながらも、社員の声は聞け」

 


eNPSでスタッフの不満を洗い出す

組織を維持していくには、スタッフの「満足度」という指標が重要なのは言わずもがなである。満足度の高い組織は、サービスの質も、スタッフの定着率も高い。低ければ、その逆となる。特にソーシャルビジネスやNPOでは、対人サービス業的側面が強いので、前線でサービスを行っている人々のモチベーションが低いと、即サービスの質がだだ落ちする。

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スタッフと打ち合わせする様子

しかし、この「満足度」は把握するのがかなり困難。みんな和気藹々で職場の雰囲気がよかったとしても、決して安心はできない。それぞれに不満を抱えながら、たんに面と向かっては言えないだけかもしれないのだ。スタッフの人数が増えるにしたがって、その傾向は強くなる。

そこでみなさんにおすすめしたいのが、定期的にスタッフの満足度調査を実施すること。フローレンスでもかなり初期の段階からこの調査を実施している。使用している指標は「eNPS」。以前、この連載でも取り上げた顧客の満足度を測る指標「NPS」(ネット・プロモーターズ・スコア)の従業員版だ(「e」は「employee」)。

やり方はほぼ同じ。「あなたはこの職場を知り合いにすすめたいと思いますか?」という質問をして、0~10までの11段階評価で答えてもらう。さらに、その評価をした理由と、改善していくにはどうすればいいかをフリーコメントで答えてもらう。このように定量、定性の両面で調査するのである。これを半年に1回や3か月に1回等、組織体力に合わせて実施する。

惨憺 たる結果に、 呆然 ……

実施してしばらくのあいだ、フローレンスでも結果は惨憺たるものだった。給料や仕事のやり方など、不満が出るわ、出るわ。不覚にも僕自身は、創業当初のノリのまま、「みんな一丸となって働いている」と思い込んでいたが、みんなの本音はこうだったのか……と思い知らされた。腹が立つやら、つらいやら。「何を甘えたこと言ってるんだ。文句があるなら、辞めてもらって結構」と、喉まで出かかりそうだった。しかし、人が増えれば、こうした事態が起こるのは当然のこと。多様な価値観の人が入ってくるし、全員が「思い」を一つにするには、コミュニケーションの量が絶対的に少なくなる。経営者自身、スタッフが2倍、3倍となれば、一人ひとりとのコミュニケーションの密度も薄くせざるをえないからだ。だからこそ、満足度調査を行って、隠れた不満を白日の下にさらす。そして、その不満を一つひとつ解消し、スタッフの満足度を少しずつ上げていく。経営者がエゴ丸出しで「これで我慢しろ!」では、ブラック企業への坂道を転げ落ちることになる。

マイナスをゼロに、ゼロを100に

顧客用のNPSで見たように、この調査での評価は3段階に分けられる。0~6が批判者、7~8が中立、9~10が推奨者。0とか1はいわゆる社内クレーマーかその予備軍。ウェブ上に会社の悪口を書くといったことがリアルに起きる層だ。2から6は、憎しみまではいかないかもしれないが、組織に対して不満をもっている人たち。7~8は、とりたてて文句のない人たち。多少は不満を感じることがあっても、おおむね満足しているが、口コミしてくれるまではいかない。9を超えると、満足していて、知人にも「うちの団体良いよ」と言ってくれる層。このレベルの人が増えると、採用において「口コミ」のチャネルが威力を発揮する。そして9~10の推奨者の割合から、0~6の批判者の割合を引く。それによって、正味の推奨者率が出る。正味でどれだけ、うちの団体をポジティブにクチこんでくれる人がいるの、というわけだ。例えば推奨者が10%で、批判者が25%だったら、-15%となる。
やってみると分かるのだが、意外にもマイナスとかが平気で出たりする。おい、お前ら志で入ってきたんちゃうんか、と叫びたくなる。そしてフリーコメントで聞いてみると「自分としては良いが、万民には勧められない」「処遇のことを考えると、誘いにくい」等、色んな意見が拾える。これらを読むと、腹立たしいが「確かに」と納得できる指摘もあり、改善点が浮き彫りになってくるのだ。

できることからやる

調査結果がマイナスであれば、まずは0に向けて頑張る。0に行ったら100に向けて頑張る。とはいえ、「給料を上げてくれ」等、やれたら良いがやったら財務が破綻するような要望も、平気で上がってくる。それを真に受けて、組織を傾けてしまっては、元も子もない。

とりあえずできそうなことから、どんどん手をつけていけば良い。「新しい仕事に慣れない」であれば、部署替えしたり新たに入ってきた社員に対し、昼食を一緒に食べる等、タッチポイントを増やして相談に乗る機会を増やすことから始める。

また例えば「業務量が多い」であれば、3か月に1回「しごとダイエット会議」をやって、「本当はやらなくても良いかも」な仕事を一つ、やらないことに決めてしまう。意外に「やり始めた時は意味があったけど、今はもうない」というような制度やフローというのが残っていたりすることが多い。また経営者からすると優先順位の低い取り組みに、現場は過剰に労力をかけていることもある。

こうした「できることからでもやる」姿勢は、社員に伝わっていく。そして「ちょっとずつだけど、良くなっている」感が醸成されることで、大幅に良くなってなかったとしても、希望を持てるようになっていく。そして処遇改善等、財務も絡む経営的に重たい事象に関しては、きちんとした計算の上、3か年計画等に明記し、社員と共有していくことも、片方で進めていくことだ。短期的な改善と、中長期的な改善を両輪で回していくイメージである。

経営者の気持ちとは「切り離す」

なお、先ほども述べたように、スタッフの満足度調査は、経営者にとっては心理的にかなりきつい作業。できれば、やりたくないのが本音だろう。ちなみに僕は今でもやる度に不愉快になる。しかし、組織の最善のために自らの感情を超えるのが経営者。やらないわけにもいかない。

ゆえに、実施にあたっては、経営者が直接はかかわらずに、人事等、担当部署が定期的に行う制度にすればいいだろう。経営者が関わったり手を動かしたりしていると、緊急でもなければ収入にすぐに繋がるわけでもないので、心理的に嫌なものは後回しにしがちだ。そして先延ばしにし続ける。この調査をうまくまわしていくには、いかに経営者の気持ちとは切り離して実施できるかが肝心なのである。

>【vol.32「理念が額縁で腐らないようにするには」】に続く(3/7更新予定)

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