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2017/04/25

【社会起業のレシピ】vol.38「どんどんサービス増やそうぜ!はOKか?」

 


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ソーシャルビジネスにおける新規事業・多角化の基礎講座。

これまで必死に取り組んできたビジネスが、スケールアップ、さらにはスケールアウトを経て、拡大のゴールがある程度見える段階にまで発展してきたら、事業の「多角化」を考えるソーシャルビジネス/NPO経営者もいるだろう。

社会問題と「出会い」やすい、ソーシャルビジネス経営

というのも、社会事業を行っていると、新たな社会問題にそれこそ「出会って」しまったりする。僕の場合、病児保育をしていたら、あるひとり親の方と出会い、その苦境を知ってしまった。そこから、ひとり親向け、格安病児保育をやることになった。また、社員が育休から戻ってこようとした時に、たまたま待機児童問題で復帰できず、そこから待機児童問題解決のために小規模保育を立ち上げることになった。更には障害児の親との出会いから、障害児保育園も創った。

これらは最初から戦略的に狙ったのでも何でもなく、社会問題との出会いから、やむにやまれずやり始めたことだ。課題の最前線にいると、望まずとも「見えてしまう」のだ。放ってはおけない、と思う人も多いだろう。

多角化で踏まえなくてはいけないこと

「多角化」というのは、複数の事業を行うことで、新たな事業が成長すれば、組織としては成長エンジンを複数化できる。一方で、投入できる人や時間、お金等のリソースが分散されてしまうというデメリットもある。更には、その新規事業が失敗した時には、本業にもダメージを与えるリスクもある。やむにやまれず出会ったしまった社会問題に対して、胸は熱くたぎってしまうだろうが、こうしたリスクを十分に計算しなくてはいけない。

多角化しやすい領域

一般的にはビジネスと同様に、ソーシャルビジネスにおいても「隣接領域」の方が多角化しやすい。たとえば、これまでのサービスが「就学前の子ども」を対象にしていたのならば、「学齢期の子ども」も加えるとか、「ヘルパー派遣」だけだったサービスに施設での「デイサービス」も加えるとか……。こんな具合に、いまのビジネスと隣接している領域でサービスメニューを増やしていく。
なぜ、隣接領域がいいのかというと、ノウハウが似ていることも多く、新メニューの開発も展開もしやすいからだ。また、ユーザー(顧客)が重なりやすいことも、メリットとして挙げられる。たとえば、先ほどの例でいえば、「就学前にお世話になっていたので、学齢期になってからもお願いします」と、引きつづき利用してくれる可能性もある。そのため、利用者を増やしやすい。この辺りは学問的にも研究が進んでいて、著名なものだと戦略論の大家、リチャード・ルメルトの研究が挙げられるだろう。(『多角化戦略と経済成果』1974等)

ルメルトは諸研究の中で、以下のように語る。

<1>主力事業の周辺や主力事業から派生した関連事業に限定して多角化を行っている企業の収益性は、相対的に高い

<2>主力事業だけに限定して事業を展開している企業や、事業間の関連性が薄い多角化を展開している企業の収益性は、相対的に低い

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経営者が現場にいるうちは、多角化は時期尚早

また、時期に関しては、本業から経営者が離れて、新規事業にある程度のキャパシティを割ける、という段階になってからが望ましい。

ところが、実際のところ、なかなかそこまでじっと我慢することは、起業家にとって難しい。事業を展開しはじめると、前述したように色々と困っている人たちに出会う。すると、社会起業家の多くは、手助けしたくなる。そしてあれもこれもやりたくなってしまうのだ。

しかしそこでは、持ち前の起業家精神にタガをはめる必要が出てくる。いまの事業で目標利益率まで達成していない場合は、時期尚早である場合が多い。

なにせ、その段階では組織はまだ小さく、慢性的な人手不足の状態。お金だってそれほどあるわけではないだろう。ノウハウだってまだまだ試行錯誤中。

そこにきて、もう一つ二つと事業が加わろうものなら、エネルギーが分散してしまう。隣接領域だからといっても、やはり新しいサービスメニューを開発・展開していくとなると、お金も時間も人も、かなり必要となるからだ。そうやってエネルギーが分散してしまえば、必然的にもともとのビジネスの質も悪くなる。その結果、どちらともグジャグジャになって、組織そのものも破綻……となってしまいかねない。

だからこそ、新規事業に取り組むタイミングは、もともとの事業が目標利益率に達していることが財務的な条件である。またスタッフもそろい、経営者が「自分がもともとの事業からいなくなっても組織がまわっていく」と確信できた、そのときだ。

まとめ

本業を壊さないよう、新規事業を育てて行く。この難しい両立を達成していくことが、多角化には求められる。社会事業の場合、ビジネスよりも「目の前で困っている人」が見えやすい環境にあるので、自制するには強い気持ちが必要だが、冷静な頭と情熱的な心を両立させ、多角化に臨まなくてはならない。

しかし一方で、新規事業は困っている人々を助け、組織の成長を助ける。この難しい両立にきちんと相対していくのも、ソーシャルビジネス経営者の課題だと言えるだろう。

>【vol.39「国に事業をパクってもらい、社会変革を行う方法」】に続く(5/2更新予定)

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書いた人:駒崎 弘樹