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2016/09/20

【社会起業のレシピ】vol.10 「マネタイズモデル(行政事業受託モデル)」

 


行政事業受託モデルとは

簡単に言うと、行政の仕事のアウトソース(外注)である。

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行政が税金と公務員を使って行う事業を、民間に代わりにやってもらう。税収が右肩上がりの時は、何でもかんでも行政が自分たちでやっていたが、税収が頭打ちとなり、予算制約がある中で、施設を管理し、事業を行っていかなくてはならなくなり、企業やNPO等の民間に外出しを行うようになっていった。

どうやって受けるのか

基本的に、受託のお仕事の情報は、「公募」というプロセスにかけられる。つまり、「いついつまでにこういうお仕事をしてくれる事業者を募集していますよ」ということが、役所のホームページ等に掲載される。

そこに書かれている要項や、説明会に行き、所定の様式に従って公募用紙を埋め、書類審査を受ける。更には面接等プレゼンテーションの機会を経て、晴れて受託成功となる。

受託のメリット

何といっても、行政事業受託は、安定している。毎年、必ずお金は入ってくる。通常の事業の場合はお客さんが来ないと潰れるが、行政事業受託の場合は、成果と連動していない場合も多い。この事業をとりあえずやったら、いくら、という形でもらえる。(無駄遣いのように聞こえるかも知れないが、利用者の有無にかかわらずセーフティーネットとして必要なものもあるためだ)
また、行政事業を受託すると、ある程度の信頼性が付与される。「◎◎市の事業を受託しています」とホームページに書けるため、どこの馬の骨か全く分からないNPO、という状態からは脱却できる。

受託のデメリット… (1)ペイしない

一方、デメリットもある。まず、信じがたいことだが「そもそもペイしない」条件の受託事業もある。例えば、「NPOはボランティアだから」と、正当な人件費を入れこんでいないという例もいまだに存在する。

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フローレンスが運営する「おうち保育園」で子どもと遊ぶ。おうち保育園は、マンションの空き部屋や空き一軒家を使い、小規模で家庭的な保育を提供する

完全に足元を見られているのだが、それでも実績づくりのために申し込むNPO等がいるので、役所としても値上げするインセンティブが湧かない。よってそのまま、という悪循環になっている。こういう事案には手を出してはいけない。後でつらくなる。
また、ペイする案件もあるが、全体的には利益率は低い場合が多い。最初の見立てと異なり、後から色々な費用がかさんできて、結局、利益が出ないと忙しいだけ、というケースもよくある。事業に手を挙げるかどうかは、同様の事業を行っている事業者にヒアリングを行い、費用を厳しめに見ておくのは基本だ。

受託のデメリット…(2)資金繰り悪化

また、自治体の予算の関係で「支払いが年度末一括」というケースもある。立ち上げ当初のNPO等の資金繰りは厳しい。数百万円を立て替えざるを得なくなり、キャッシュフローが悪化することもある。ちなみにこうした場合は、役所との契約書を担保に「ブリッジローン」を政府系金融機関と組むのをお勧めする。通常だと信用力のない弱小NPOでも、役所からの支払いはほぼ確実なので、年度末までの間の資金ということで貸してくれるのだ。

受託のデメリット…(3)士気の低下

役所の委託事業は、仕様書によってガチガチに決められている場合が多い。例えば何かの施設であれば、開所時間から閉所時間、人員配置、提供サービス内容等々。

役所としては、最低限の住民サービスを担保したいし、どんな事業者が入ってこようと、つつがなく事業が回ってほしい。しかしNPOとしては、自分たちの独自色を出し、住民たちのニーズを拾い上げ、新たなサービスをしたいと思ってくる。

例えば、私たちがある自治体の施設を受託した時の話だ。働く親の子どもを預かるのだが、18時に閉所時間が定まっていた。しかし企業の定時は18時が一般的なので、通勤時間を考えて、18時半まで開所時間を延ばしたいと自治体に申し入れた。それが住民サービスを向上すると信じて。けれど自治体から返ってきた答えは「NOだ。他の施設と整合性を取らなくてはいけない。もし、あなたたちだけが違ったサービスをしたら、他の施設が『なぜ、あそこはここまでやってくれて、他はやらないのか』というクレームが来る」というものだった。

これで現場は「より良くしていこう」という気をなくしたのは言うまでもない。

受託の罠 

さて、上記のようなデメリットのある仕事を続けていくとどうなるかというと組織の中で「受託文化」が形成されていく。分かりやすく、通常の自前のアイディアで、顧客(利用者)からお金をもらう「自主事業」と比較してみよう。

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ある意味、インセンティブの構造が真反対なのをお分かり頂けるだろうか。この受託事業に慣れるとどうなるか。

・利用者よりも役所寄りの姿勢
・新規事業へのリスクを取らない
・改善への貪欲さをなくす
・徹底してニーズを読むシビアさがない

という受託文化ができてしまう。すると受託事業しかできなくなる。そうなると、事業に占める受託の割合が増え、いつしか完全な行政下請け組織が出来上がってしまう。行政受託事業は利益率が低い場合が多く、案件の数も限られていることから、組織の全体戦略を描こうにも広がりを持てない

受託事業の使い方

こうした難点を持っている受託事業だが、使いようによってはうまく機能する。まず、組織の魂がこもったイノベーティブな自主事業をあくまで主体にし、受託事業は全収入のうちの何%と定めて、それ以上の大きさにしない、という自主制約を持つ。

さらに、受託事業を人材の育成の場として、ここで所定の期間学んだ後、本業である自主事業に職員を異動させることで、技能や知識をつけさせる。また、新規で採用した職員の研修の場として活用してもよいだろう。

行政への提案

最後に自治体や行政の方々に言いたいのは、行政受託事業のパフォーマンスを上げる方法だ。

はっきり言って今の日本の行政委託事業は、事業者のモチベーションを上げる仕組みになっていない。むしろ事業者のイノベーションを殺す仕組みと言っても言い過ぎではない。

参考になるのは、米ニューヨークのセントラルパークの受託事業だ。セントラルパークはセントラルパーク・コンサーバンシー(CPC)というNPOに委託されているが、市はCPCとガチガチの仕様書に基づいた契約書ではなく、抽象度の高い契約内容にしておき、CPC独自でボランティアを集めたり、寄付集めをする自由を認めたりしている。結果、市からの委託金の6倍以上の寄付を集め、世界中から観光客を引き寄せている。要は「好きにやってくれ。でも成果は出してくれ。でなければ契約更新しないよ」という形式だ。

プロセスを縛る仕事の出し方ではなく、成果を約束させる仕事の出し方へ。住民もNPOも役所も、そっちの方が幸せなのではないかと思うが、どうだろうか。


>>【vol.11「現場の声に耳を澄まそう」】に続く

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