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2020/05/22

現代の「家族のあり方」をありのまま受け入れたら、まちが元気になった話【明石市長 泉房穂氏インタビュー】

 


こんにちは、フローレンス代表室長の前田晃平です。

普段は新規事業開発や政策提言の仕事をしていますが、日本の政治経済や子育て領域に関するあらゆる問題を、独自にリサーチしたり取材したりして記事する、ということもプライベートで行っていて、noteでこんな感じの記事を書いています。

 

これまで執筆してきた実績を評価いただき、ありがたいことに、2019年から日経新聞が運営するメディア「COMEMO」でキーオピニオンリーダーを務めています。

 

と、自己紹介はこれくらいにしておいて。

 

みなさん、子どもや子育て世代に対する大胆かつ戦略的な投資を行い、経済成長をも達成した街をご存知でしょうか?

今日はその街をご紹介すべく、フローレンスNEWSにやってきました。

 

すぱっと答えを言ってしまいますが、兵庫県明石市です。いま、明石市が熱いのです。

明石市は淡路島の北、神戸市の西に位置する典型的なベットタウン。

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一見、どこにでもある普通のまちですが……急速な少子化が進む日本にあって、明石市では合計特殊出生率(※1)が徐々に回復し、最新の調査でついに1.70になりました(2018年度)。

※1 一人の女性が15歳から49歳までに産む子供の数の平均

 

全国平均はむしろ悪化して1.42に。兵庫県全体では1.44、東京都は1.20、政府が目指す1.8は年々 遠のくばかりなのに…!

 

ただ、この明石市が熱いのはただ出生率が増えていることではありません。

この人口増を起点にして地域経済まで活性化させ、市の税収増を実現。そしてそれを再投資して、それがまた市の活性化につながる、という素晴らしい循環が実現しているところです。

 

市の税収は2012度の342億円から、2017年度には20億も増加して362億円に。地域経済の方では、2012年度の住宅需要1889戸から、2016年度には2674戸になっています。

なお、この辺りの詳細についてはnoteでまとめていますので、気になる方はぜひご笑覧ください。

 

なぜこんなことが起こるのでしょう?

世間から注目を浴びているのは、子育て関連予算を激増させたことです。

公共事業や下水道整備予算をバッサリ削減するなどして、2010年度当初126億円だった子ども部門の予算は2018年度当初には219億円とほぼ倍……!

すごいっ!……と、今まではここで終わってたんですが、最近、気付いてしまった。

 

単なる子育て支援策なら多くの自治体が取組んでいますが、その全てが明石市のような際立った人口増や、地域経済の活性化に繋がっているわけではありません(※2)。

※2 原則として、高齢者向け政府支出に対して家族関係支出の比重が高いほど、出生率が高いという緩やかな相関関係は認められています

実際、多くの自治体には「子育て支援は、子育て世代の奪い合いになるだけだ」という倦怠感が広がっています。

先日も、こんな記事がありました。

明石市のお隣の神戸市が、子育て支援に力を入れていくことを決めた、という素晴らしい内容だったのですが、最後に市長のこんなコメントが。

手厚い子育て施策で全国的に注目を集める隣の明石市を意識し、「近隣の自治体で人口を奪い合うのは互いに疲弊し、好ましいことではない」とコメントした

う〜む、これが多くの自治体の本音なのかもしれん。

子育て施策合戦をしても、若年層の限られたパイの奪い合いにしかならんじゃろ、と。

 

でも、明石市がみせてくれたのは負けた方が損をするゼロサムゲームではなくて、切磋琢磨してみんながハッピーになるというポジティブサムだったはず。

じゃあ、いったいどうすればそれを他のまちでもやれるのか?

 

これは聞きたい…

明石市の泉房穂市長に直接聞きたいぞ……!

 

というわけで、突撃インタビューのご相談を泉市長にしてみたところ、なんとOKのお返事がっ!

しかも勤め先のフローレンスまでやってきてくれました感謝しすぎて頭が地面にめり込むレベルでしたが、ここぞとばかりに気になっていたことを根掘り葉掘り伺いました。

  

重要なのは「とことん人に寄り添う行政の姿勢」

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いったいどうすれば明石市のような元気なまちになれるのか。そのポイントをずばり聞いてみた!

 

「それは『とことん人に寄り添う行政の姿勢』だと思っています」

「そもそも私は人口増論者ではありません。様々な理由で困っているご家庭があって、そこに本気で寄り添って応援してきた。そしたら結果的に人口も出生率もあがったんです」

 

市長曰く、この「とことん人に寄り添う」ために大切なのがお金と人手の両輪。両方ないとダメ。

明石市といえば、金銭面での手厚い子育て支援で知られていますが(※3)それだけじゃ足りないと。

※3 第二子以降の保育料無料、中学生までの医療費無料、いずれも所得制限なし、等々

 

「例えば、単身のお母さんが、子どもが突然病気になって保育園に預けられなくて困っていたとします。でも、それは保育料をタダにしたって助けられないし、現金があってもどうしようもありません」

 

た、たしかに……。

 

「うちは万が一 何かあった時の人手、つまりサービスに力をいれてきました」

「何かあっても明石市だったらなんとかなる、そういう信頼・安心感が結果的に出生率の回復だったり、まちの発展に寄与していると思っています」

 

先ほどの例のように子どもが急に熱を出してしまった場合、明石市は駅前にある病児保育施設に格安で預けることができます。

出勤途中に子どもを預けて行けるのだ…!

 

子どもを抱えながら近所の人と交流したい、と思ったらやっぱり駅前に親子の交流スペース(全世帯無料)があったり。

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一時保育ルームがあるので、子どもを預けて買い物したり、子育ての息抜きをしたりすることもできるし、

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子どもが騒いでもまったく問題なしの図書館まであります。

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もし万が一 離婚することになり、パートナーが養育費を払ってくれなかった場合でも、行政がその建て替えをしてくれます。

貧しい家庭で、食生活に困っていても全小学校区に子ども食堂があります。

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画像参照元:あかしこども財団

児童虐待を未然に防ぐため、中核市としては関西で始めて児童相談所を設置。しかも、駅前の超一等地に。

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画像出典元:神戸新聞,2019/3/25

 

障害者もイキイキ生活できように、地域のお店(マックやスタバも含む)に補助金を出し、筆談ボード、折りたたみ式スロープ、点字メニューの作成などを奨励しています。

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画像参照元:みんなの介護, 2018/11/27

 

これだけ具体例をあげてもまだほんの一部で、まさに「それ!それで困ってたんだよっ!」という住民の細かいニーズを先取りして施策に落とし込みまくる明石市。

かゆいところに手が届く行政、とでもいいましょうか。こりゃ確かに「明石だったらなんとかなる」って思えるわ。

 

でも……

結局振り出しに戻るようですけど、こんなの普通できないですよ……

「生活者の目線で〜」とか言うは簡単ですが、それができない政治家が圧倒的多数だから今の社会の現状があるわけで……

 

脳内の「標準家族」をアップデートせよ!

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「誰にだってやれますよ。実際に、今ではこういった住民のニーズを先取りした取組みにしても、議会に提案してもらって実現するケースが増えてきました」

「ポイントは『標準家族』のモデルをどう想定するかです」

 

ー標準家族、ですか?

 

「標準家族とは、税金の試算や行政サービスについて考える際の基準として想定する家族のあり方のことです」

 

ービジネスで言うとターゲット像とか、ペルソナみたいなものですね。

 

「政府をはじめ、日本の行政の多くは標準家族をこのように考えています。勤労する父親、心優しい専業主婦の母親、健康の育つ二人の子ども…」

 

ー確かに、政府の施策をみているとそんな感じがします。先日のコロナの一斉休校とか典型的だったかも。日中の家にお母さんがいると思ってるっていう…

う〜ん、なるほど……納得しかない……

でも、そんな標準家族のモデルに基づいて様々な施策を打ち出しまくる明石市ですが、当然それは税金を使ってやっていることです。

ところが、明石市は決してリッチなまちではありません。同じ人口規模の自治体と比べたらむしろ貧しいレベル…

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明石市は完全に黒地経営で、借金してやってるわけでもない……

つまり、選択と集中がシビアに行われているわけで、犠牲にしている部分もあるのが現実です。となると、議会や市民から「やりすぎだ!」とか「俺たちの方にもお金を回せ」とか、そういった反対も少なくないのでは……?

 

「失われた福祉」を行政と地域で取り戻す

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「確かに、市長に就任した当初は反対が凄まじかったです。なにせ、市議会議員全員一致で『市長に議会軽視の反省を求める決議』をされちゃうくらいですから

「だから最初は本当に辛かったですよ。でも、やり続けてたら地域経済が上向いてきて、みんながハッピーになった。だから自然と反対の声もなくなっていきました」

「駅前に子連れが増えると商店街は潤います。店に筆談ボードやスロープが設置されれば障害者が利用できるようになるし、評判もアップします。まさにWIN-WINです」

 

ーそうは言っても、最初は結果が出るかもわからなかったはずです。なのに、どうしてそういった反対を押し切れたのでしょうか。

 

「それが現代の行政の役割だと考えているからです」

泉市長は朝日新聞(2017/12/6)のインタビューでこう話しています。

かつて日本社会は大家族主義で、ムラ社会でした。

うちは漁師で、10人兄弟だった父の長兄は戦死、身篭っていた妻は5番目の兄と再婚しました。また知的障害があっても漁網を引っ張る仕事があり、親族や地域の中で食べていくことが可能でした。

でも、今はサラリーマン社会になり、核家族化が進み、コミュニティーの支え手機能が薄れました。

ひとり親家庭や障害のある人への行政の支援が必要な時代になったのです。

 

そもそも「福祉」とは、人類の長い歴史の中で、家族やコミュニティが提供してきたものでした。

私の母も言っていましたが、私が小さい時に酷い夜泣きをしていると、翌朝お隣のお母さんがやってきて「昨日は大変だったでしょ、赤ちゃんみとくから、ちょっとお昼寝したら」って助けてくれたと。

もちろん逆パターンもあり。

 

でも今は、そもそもお母さんの多くは日中働きに出ています。ライフスタイルは変化し、核家族化が進み、地域の関係性も希薄になってきました。

 

つまり、現代はかつてあった助け合いの仕組みが失われている異常事態なのです。家族のあり方が現実に変化しているにも関わらず、家族の役割についての価値観だけが化石みたいに残っている。「子どもの面倒は親がみてアタリマエ」みたいな。

 

でも、それは事実誤認です。

長い人類の歴史からいえば、子どもの面倒は地域ぐるみでみてアタリマエです。困難を抱えている人がいればお互いに助け合うのが常識です。

 

明石市がやっているのは実は特別なことでもなんでもなくて、ただ現実をみて、現代の家族が必要としていることを見極め、それを行政が音頭を取って地域を巻き込みながら提供しているだけ。

家族のあり方が変化して、その困りごとも変化した。だったら行政も変わって当然ではないか。「やりすぎ」でもなんでもない。

泉市長にはそういう確信があるからどんな反対も押し切れたんだと思います。

今回のインタビューのきっかけとなった問い

「いったいどうすれば他のまちでもやれるのか?」

 

その答えはとてもシンプルで「現代の家族のあり方をありのまま受け入れる」ということだと思いました。

それに基づいて、みんながどんなことに困っていて、どうすればそれを支えられるのか考え抜くこと。

そうすれば自然と「とことん人に寄り添う行政の姿勢」になっていく。

すると、そこに人が集まってきてくれる。

まちは元気になっていく……

 

「ただし」と泉市長はいいます。

「困っている人を助ける、なんて考え方は間違っています。そんな考えに基づいた施策は多くの市民からご支持をいただけません。だって、そしたら今 困っていない人にはメリットがないでしょ」

「支援を要する『人』がいるんじゃないんです。支援を要する『時』が誰にでもあるだけなんですよ」

 


いかがでしたでしょうか?

明石市の子育て施策についてもっと知りたい方は、こんな書籍もおすすめです!

子どもが増えた! 明石市 人口増・税収増の自治体経営(まちづくり)

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