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アクション最前線

2021/02/19

6年越し、悲願の法改正がなされました!医療的ケア児のために政策提言に力を貸してくださった皆さんに感謝

   


2月4日に厚生労働省から公表された「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定案」。この中に、初めて医療的ケア児用の基本報酬の新設が盛り込まれました!

医療的ケア児を預かる施設を適切に評価し、医療的ケア児家庭の居場所を増やすことにつながる、大きな一歩です。

実は、今回の報酬改定に至るまでには、フローレンス及び全国医療的ケア児者支援協議会、そして官民・党・省庁の垣根を越えた人々との協働による、6年もの長い道のりがありました。

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「医療的ケア児」という言葉が存在しなかった6年前

「医療的ケア児」。今では報道でもあたりまえに使われる言葉になりました。

しかし、障害児の中で特に日常的に「医療的なケア」が必要になる子どもたちが急速に増えていたことは、6年前にはまだ知られていない事実でした。

たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な子ども、「医療的ケア児」は、医療の進歩などを背景にここ10年で約2倍に増え、現在全国に約2万人いるといわれています。

しかしながら、そうしたお子さんをお預かりする施設は極度に不足しています。

結果として、家庭で24時間介護を担い、医療的ケア児家庭は保育や就労の機会を失っている実態がありました。

なぜでしょうか。

施設で医療的ケア児を預かるためには、ケアに対応する看護師などの手厚い専門人員配置や環境整備などが必要になります。

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「医療的ケア児」を対象とした福祉が財務的になりたたない

しかし、従来の障害児福祉制度は、医療や看護、専門療育・専門保育のスタッフがつきっきりになる現場を想定して作られていないため、医療的ケア児を預かる必要なコストを賄うには到底足りません。支援したくても、赤字覚悟という非常に苦しい状況が続きました。

また、そのような状況で新たな事業の担い手も増えず、結果として医療的ケア児の居場所がいっこうに増えない状況が生まれていたのです。

新しい社会課題に、官・民が一体となって動き始めた

この状況を打開すべく、2015年に「永田町子ども未来会議」が立ち上がります。医療的ケア児者への支援が極度に不足する状況を改善するために結成された、官民・党・省庁の垣根を越える大きな会議体です。フローレンスは他の障害児支援団体と共に「全国医療的ケア児者支援協議会」という障害児福祉業界横断団体を立ち上げ、これに参画しました。

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会議では、医療的ケア児を子育てする家庭が福祉サービスをきちんと利用できるよう、サービス事業者が医療的ケア児を預かるために必要なコストを考慮した、「医療的ケア児専用の基本報酬の新設」を提言してきました。

「医療的ケア児」は認知されたが、制度化へあと一歩

2016年、児童福祉法の改正で、初めて「医療的ケア児」という言葉が法律に盛り込まれ、自治体に支援への努力義務が定められました。

2018年、3年に一度見直しがなされる「障害福祉サービス等報酬改定」のタイミングでは、この改訂で医療的ケア児等の状況を改善したい、とフローレンスでも提言活動をさかんに行いました。

しかしながら、改訂の内容は実態に即したものとは言えず、制度の使いづらさや医療的ケア児を受け入れる施設への財政的なインセンティブが無いために、残念ながら医療的ケア児の受け入れ施設増にはつながりませんでした。

しかし、「医療的ケア児」の認知が広がったことで、少しずつ医療的ケアの軽いお子さんから、認可保育園の受け入れや転園が進むような事例が、全国で目立ち始めたのもこの頃からです。

山がついに動いた!2021年で制度化が実現

こうした試行錯誤の道のりから3年がたち、再び訪れたのが、今回の「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定」です。

昨年から、永田町子ども未来会議でも「医療的ケア児用の基本報酬の新設」に向けた議論がさかんに行われ、その声が盛り込まれた新報酬がついに設定されたのです。

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これまで、障害児の分類は約半世紀前に作られた「大島分類」というものが使われており、身体をコントロールする力(座位がとれる、立てるなど)と、知的能力がどの程度あるかという2つの軸によって、障害レベルが判定されてきました。

しかしこの分類だと、例えば、歩くことができて、健常児と同程度の知的能力を持っている場合でも、何らかの医療的ケアが必要な「動ける医療的ケア児」はどこにも分類することができません。

こうした事情もあって、これまで、「動ける医療的ケア児」1人当たりの基本報酬は、自閉症などの一般的な障害児と同じ830単位(9,296円/日)でした。
 ※1単位=11.2円(東京の場合)で計算

しかしながら、こうした「動ける医療的ケア児」は、人工呼吸器を付けていれば、その管理が必要になります。また、動けるからこそ自分で人工呼吸器を外してしまうリスクもあり、見守りは必須です。当然、人工呼吸器などの医療機器を扱える看護師の配置も必要になります。

それにもかかわらず、一般的な障害児と同じ区分で扱われていたため、受け入れにかかるコストと報酬にズレが生じていたのです。

報酬改定のポイントまとめ

今回の報酬改訂ポイントについて、以下にまとめましたので、もし詳しく知りたい方はご覧ください。

◼ポイント①:医療的ケアのスコア見直しと新たな「見守りスコア」の設定

そこで、今回の報酬改定では、医療的ケアの各項目の「基本スコア」が見直されるとともに、「見守りスコア」が新たに設定されました。「動ける医療的ケア児」を見守る大変さをきちんと数値化しようという動きです。

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厚生労働省HP「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」(令和3年2月4日)p.12から抜粋 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000734439.pdf

これにより、例えば、人工呼吸器を付けて、胃ろうをしていて、人工呼吸器が外れてしまったら即時の対応を要するお子さんの場合、以下のとおり合計7点アップします。

《改定前》合計13点
 人工呼吸器(基本スコア):8点
 胃ろう(基本スコア):5点

《改定後》合計20点
 人工呼吸器(基本スコア):10点
 人工呼吸器(見守りスコア):2点
 胃ろう(基本スコア):8点

◼ポイント②:必要な看護師配置が可能な「医療的ケア児用基本報酬」の新設

このスコアが関係するのが、今回新設される医療的ケア児用の基本報酬です。ケアに必要な数の看護師を配置できるように考えられた額になりました。

前述のとおり、改定前、「動ける医療的ケア児」1人当たりの基本報酬は、一律830単位(9,296円/日)でしたが、改定後は以下のとおり大幅にアップすることなります。

 ・15点以下なら1,552単位(17,382円/日)《3:1》
 ・16~31点なら1,885単位(21,112円/日)《2:1》
 ・32点以上なら2,885単位(32,312円/日)《1:1》
※定員10人以下の施設(児童発達支援センター以外)の場合
※《》内は、この基本報酬を得るために必要な看護師配置 《看護師数:医ケア児数》

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厚生労働省HP「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定における主な改定内容」(令和3年2月4日)p.12から抜粋 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000734439.pdf

例えば、上記の「人工呼吸器を付けて、胃ろうをしていて、人工呼吸器が外れてしまったら即時の対応が必要なお子さん」の場合、合計20点なので、基本報酬は9,296円/日から21,112円/日にアップします。

これで、必要な人数の看護師を配置すると経営難になってしまう問題の解決が期待されます。

さらに、少人数の医療的ケア児を預かる施設に対しては、特に採算が取りづらいことを鑑みて、このスコアによらず、預かりの人数や時間数に応じた「医療連携体制加算」が付くことになりました。

例えば、医療的ケア児を1人のみ、4時間以上預かる場合、改定前は基本報酬の830単位(9,296円/日)のみでしたが、改定後は基本報酬885単位+医療連携体制加算1,600単位 (合計27,832円/日)が支払われることになります。

これで、小さい施設を含め、多くの施設で医療的ケア児の受け入れが進むことが期待されます。

◼ポイント③:重症心身障害児施設の看護職員加配加算の要件緩和

重症心身障害児施設(重心施設)で、重症心身障害の医療的ケア児を預かる場合の看護職員加配加算の要件が緩和されました。改定前は、「基本スコア8点以上の医ケア児が5人以上」いることが要件でしたが、「その施設の全医ケア児の前年度1日当たりの合計スコアが40点以上」であればOKになりました。

例えば、5人定員の重心施設で、スコアが28点(人工呼吸器(12点)・気管切開(8点)・胃ろう(8点))の子が1日平均1.5人いれば、合計40点以上なので、看護職員加配加算が付きます。そして、その重心施設の医ケア児1人当たりの報酬は、基本報酬2,098単位+看護職員加配加算400単位(合計27,977円/日)となります。

施設に通うことができない医療的ケア児家庭にも届け

今回の報酬改定の結果、新規事業者も参入しやすくなりました。今回の改定が、医療的ケア児家庭の居場所増につながることを願っています。

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永田町子ども未来会議に参画してくださる国会議員のみなさん、厚生労働省のみなさん、そして、一緒に声をあげ続けてくださった医療的ケア児家庭のみなさん、本当にありがとうございました。

一方、今後にむけた課題も残されています。

2015年に開始された「子ども・子育て支援新制度」の地域型保育事業の1つである「居宅訪問型保育事業」で医療的ケア児をお預かりする場合は、まだ一般的な障害児と同じ額の加算のままです。

障害児通所施設と同様に、障害児が自宅で保育を受ける場合にも、医療的ケア児預かりに対する適切な報酬設定がないと、施設に通うことができない障害児家庭が置き去りになってしまいます。

フローレンスおよび全国医療的ケア児者支援協議会では、居宅訪問型保育事業においても法律新設をめざし、引き続き提言活動を行ってまいります。


寄付者の皆さんと共に、社会に「あたらしいあたりまえ」を

フローレンスのこうした政策提言活動は、皆さまの寄付によって支えられています。

目の前の親子を事業でサポートするだけでは、全国にいる同じ境遇の親子にとっての解決には至りません。

私たちの活動の成果は、自らが福祉事業者であることと同時に、現状にあっていない古い法制度や社会の構造をアップデートしていくことだと考えています。

今回のように、法制度化して他の福祉事業者が参入できることで、はじめて全国のご家庭にサポートが行き渡ります。

全国医療的ケア児者支援協議会をはじめとした、こうした地道なコミュニティづくり、政策提言活動はすべて団体の持ち出しで行う活動ですが、フローレンスを応援してくださる皆さまからの毎月のご寄付で運営することができています。

心より御礼申し上げます。

寄付者の皆さまに、また新しいご報告ができるよう尽力してまいりますので、引き続き、ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。




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