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アクション最前線

2022/11/10

テクノロジーで重度障害児・者の可能性を拡げ、誰もが暮らしやすい社会へー視線入力ゲーム開発者・伊藤助教×吉藤オリィ氏×フローレンス駒崎 鼎談

    


2022年8月27日に、重度障害児・者を対象にした視線入力訓練ゲーム「EyeMoT 3D シリーズ」を用いたeスポーツ全国大会【フローレンス杯】アイ♡スポを初開催

どんなに重い障害があっても同じ土俵でみんなでガチンコで楽しめるゲーム大会を!」をテーマに行われた今大会。重度の障害がある方も、視線をパソコンのマウスのように使って意思表示をする「視線入力」の技術を使い、ゲームを行います。

会場となった「分身ロボットカフェDAWN ver.β」は、ロボットの遠隔操作を通して「人類の孤独を解消する」ことを目的に、分身ロボットOriHimeを開発・提供している株式会社オリィ研究所が運営しています。

開催を記念して、「EyeMoT 3D シリーズ」を開発した島根大学総合理工学部の伊藤史人助教と株式会社オリィ研究所の代表吉藤オリィ氏、フローレンス会長の駒崎弘樹が「重度障害児の就労と社会参加」をテーマに鼎談。

それぞれの視点から、デジタル技術を活用した障害児や医療的ケア児の支援の未来を語りました。今回は3者による鼎談の模様をレポートします。

 

重度障害児・者の可能性を広げることは、誰もが暮らしやすい社会をつくること

駒崎弘樹(以下、駒崎):私が会長を務める認定NPO法人フローレンスでは、医療的ケア児や障害児家庭の支援事業を行っています。

今回の大会をフローレンスが協賛したのは、伊藤先生の情熱に惹かれたからです。私たちが普段触れ合っている子どもたちの中にも、体が動かない重度障害児の子たちが多くいます。そんな子どもたちが、この視線入力ゲームに参加したり、友達と遊べたりしたら、可能性が大きく広がるんじゃないかと思ってワクワクしました

吉藤オリィ氏(以下、オリィ):私は孤独を解消できないかということで、人工知能の研究をしていました。でも、人工知能では人を癒すことができないと気づき、やっぱり人と会って話すことが大事なんだと考えたんです。

そして、それをサポートできるものを作ることにしました。車椅子も作りましたが、乗れない人もいる。そこで作ったのが、”心の車椅子”である分身ロボット『OriHime』です。

もともとは学校に行けない子どものためのツールとして作ったのですが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など重度難病の方にも使われるようになりました。そこで彼らから言われたのが「OriHimeで誰かの役に立ちたい」ということでした。

その思いに応えるべく、障害者が社会で働くための研究をやろうということになり、今実験をしているところです。その実験の場というのが、まさにここ「分身ロボットカフェDAWN ver.β」。テクノロジーを駆使して、多くの人が働けるような研究や開発をこれからもやっていきたいと思っています。

伊藤史人氏(以下、伊藤):以前、乙武洋匡さんが「障害者の形はいろいろあるが、将来の自分でもある。健康なうちに社会をよくすれば、将来自分が病気や障害になったときに役に立つ」とおっしゃっていて、こういった活動は人のためだけでなく、自分のためにもなるという側面があると感じました

オリィ:日本は平均寿命が長い国だといわれていますが、健康寿命に関しては他の国と変わらないといわれています。つまり、健康じゃないけど長生きしている国。

海外からは「呼吸器つけて延命するなんてかわいそう」だと思われていますが、これからは「呼吸器をつけながらどうやって生きていくことが喜びや幸せなのか」を追求していくと、他の国の憧れに変わり、日本が誇るべき新たな価値になるのではないかと考えています

駒崎:1980年代にアメリカで障害福祉に携わっている人々が、道の段差を夜中に勝手にコンクリートで埋めて、スロープにしてしまうという過激な行動を起こしたことがあったんです。もちろん法律違反ですが、車椅子の人たちは通りやすくなり、助かったと言って喜びました。さらには車椅子ユーザーだけでなく、ベビーカーを押す人や配送業者といった人たちも通りやすくなりました。

これを「カーブカット効果」と呼び、もっとも厳しい状況にある人に環境を合わせることでその他大勢の人たちも助かり、さらには経済効果も生まれることがあるという話です。今回の大会を見ていて、まさに同じような効果が得られるのではないかと感じました。

重度障害児・者支援における視線入力装置を利用したeスポーツが盛んになることで、我々が年老いて、体が動かなくなってしまっても最期まで尊厳を持って意思表示ができる社会になるかもしれません。そういう意味で、今まさにカーブカット効果が起きようとしているんじゃないかと思います。

伊藤:なるほど。思い切ってオーバースペックにやってみると、意外と役に立つことがどんどん増えてくるのかもしれませんね。

視線入力でお絵かき、サッカーも。子どもの可能性は無限大

駒崎:先日、大手運送会社さんの方と視線入力について話す機会があり、今後はドローンでの配達が一般的になるだろうから、そのパイロットとして障害者も活躍できるのではとおっしゃっていました。ぜひやってみたいですよね!

伊藤:今日の大会では、非常に強力な視線入力ユーザーがやってくるので、ぜひ駒崎さんと対決していただきたいです……! 我々が障害者の土俵(視線入力)に入ると、非常にもろい。それを体験してほしいというのも、今回の目的です

オリィ:分身ロボットカフェでも、たまにOriHimeにローラーをつけて「OriHimeサッカー」をやってるんですが、元Jリーガーの方が一緒に遊んでくれたことがあるんです。そしたら、うちのチームが勝ったんですよね。その次は負けてしまいましたが、そういう可能性があるんだと思いました。

伊藤:基本的に子どもの能力は無限大であると考える必要があり、そのための環境を用意して、自由にさせることで可能性が広がります。

駒崎:私たちも「デジタル療育」のような、新しい領域が必要なんじゃないかと思います。ゲームを活用したり、創作したロボットを動かしてみたりといったことを療育施設や学校でできるよう後押ししていきたいですね。

伊藤:こういった取り組みを行う上で「目標設定」は重要ですが、一方でそれが限界になってしまうことも多いんです。設定した目標を超えてくるという点に子どもの能力の醍醐味があるので、そこをどうアシストするかが課題だと思います。そういえば、オリィさんのところに、視線入力で絵を描く子がいましたよね。

視線入力に取り組む様子

オリィ:スイッチを一切使わず、視線入力だけで描いていますね。

伊藤:それって開発者は想定していない使い方なんじゃないですか。

オリィ:私も視線入力で絵が描けるなんて無理だと思っていました。だけど、もう1日20時間くらい、起きたらすぐ目でパソコンを動かし続けてきた人たちはパワーポイントを使ったり、曲を書いたりといろんなことが当たり前にできます。私たちがマウスでやることと同じことが全部できるといっても過言ではありませんね。

駒崎:視線入力でDJをやっている方もいて驚きました!

オリィ:そうそう。かっこいいですよね。体が動かなくなっても、あんなかっこいい生き方ができるかもしれないという希望があります。大人たちがかっこよくないと、子どもの希望になりませんからね。

駒崎:現場でサポートするみなさんにとっては、新しいことに取り組む大変さはあると思います。ただ、フローレンスのナースがデジタル療育について学んできたところ、子どもたちに新たな可能性が芽生えるんじゃないかと感じ取ってくれていたようです。

伊藤:現場からボトムアップで取り組もうとしてくれるのはうれしいですね。EyeMoTはもともと子どもたちのために開発したものですが、親や周りの支援者が使い続けないと子どもは使い続けられません。周囲が前向きに取り組めて、楽しいと思える状況を作ることも大事だと思っています。

親御さんと一緒に視線入力ゲームに挑戦!

オリィ:私の友人で知的障害のある車椅子ユーザーの息子さんのお父さんがいて、そのお子さんはもともと車椅子の操作ができませんでした。でもお父さんはできるようになると信じてやり続けて、その結果、車椅子を自由自在に操れるようになったということがありました。今は学校から脱走しちゃうそうですよ(笑)。

伊藤:子どもはすぐ想定を上回ってくることを、我々はしっかり受け止める必要がありますよね。今回のイベントはまさにそこの想定の壁を超えるためのものだと思っています。

「どんな障害があっても人生を楽しめる」社会に向けて

オリィ:伊藤先生はEyeMoTの開発者として、想定していなかった結果などはありましたか?

伊藤:みなさん健康状態が良くなっている気がします。というのも、やっぱり夢中になれるものがあって、モチベーションが維持されると心身にも影響があるんじゃないかと思います。

オリィ:分身ロボットカフェのとあるパイロットの方の話で、以前はずっと入院していたんですが、毎日働くようになり、10年ぶりにスケジュールを管理するために手帳を買えたと喜んでいました。もしドクターストップがかかったら辞めるつもりだったそうなんですが、むしろ医師から「もっとやりなさい」と言われたんだそうです。

駒崎:今回のようなテクノロジーを使った療育を現場で活用していきたいということはもちろん、こんな大きな可能性があることを、世の中に対してもっと発信していきたいと思いました。社会にはまだまだ知られていません。

「寝たきりになったらもう何もできない」といった認識が一般的ですが、そうではないことをもっと知ってもらいたいですね。

また、こういった大会がさらに大規模になったら、「令和の甲子園」になるんじゃないかなと期待しています。そして世界中の人たちを巻き込めたら、新しいパラリンピックにもなりますよね。すごくワクワクします。

どんな障害があっても人生を楽しめる、そんな社会を作っていけたらいいですね。

 

デジタル技術を活用した、新たな障害児支援のあり方を考える

障害の有無や住んでいる場所にかかわらず、誰もが同じ土俵で楽しめるインクルーシブなゲーム大会。こういった試みが、今後は障害者の就労や社会参加の可能性も広げていくことにつながると私たちは信じています。

フローレンスは今後も障害児や医療的ケア児の支援において、デジタル技術の可能性を模索していきたいと考えています。




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