フローレンスは、2014年に日本で初めて医療的ケア児を専門に長時間預かる「障害児保育園ヘレン」(以下、「ヘレン」)を設立して以来、これまでのべ372名※のお子さんをお預かりしてきました。
当時はほとんどなかった医療的ケア児の預かり先もこの10年で徐々に増え、2021年の医療的ケア児支援法が施行されてからは、地域の保育園でも預かる事例が増え始めました。
環境変化に伴い、フローレンスにも医療的ケア児保育について色々な相談が寄せられるようになり、現在はこれまでの障害児保育で培ったノウハウや知見を広める活動に取り組んでいます。

なかでも、わたしたちが特に注力しているのが、医療的ケア児を初めて預かることになった方向けの研修です。
(※)2023 年度までにヘレン、アニー、ナンシー(東京・神奈川・仙台)でお預かりした障害児・医療的ケア児数
全国どこからでも参加できるオンライン研修&現場体験@ヘレンをスタート
昨年11月から、「保育園で医療的ケア児を預かることになったけど、よく知らなくて不安」という方向けに『フローレンスの「医療的ケア児保育」はじめて研修』を始めました。
いつでもどこでも学べるオンラインの「動画研修」と、ヘレンで実際の保育を体験できる「現場体験」の2本立てになっています。(動画研修を受講した後に、希望者が現場を体験できます)
これまでに、看護師・保育士・臨床工学技士など40名近くの方が受講しています。北海道から福岡県まで住んでいる地域もさまざま!
ヘレン東雲園長 小田
東京都内の自治体・保育園向けに研修を実施するなかで、「医療的ケア児に会ったことがなくてどんなお子さんか分からないんです」「集団の中で一緒に遊べるのか想像ができません」など、色んな声を聞いてきました。
他の地域でも同じような悩みを抱えている方がいるんじゃないかと考え、誰でもアクセスできる研修を考えました。
ヘレンでも最初からうまくいっていたわけではなく、試行錯誤を重ねて、悩み相談し合いながらここまできました。
10年で培ったノウハウと、東京都で自治体・保育園向けに講演をしてきた経験を活かして、「医療的ケア児を初めて預かる方が不安に思う点を解消し、前向きな気持ちになれること」を目指して構成した研修です。
「知らないから不安」を「知って少し安心」に変えるオンラインの入門講座
オンライン研修では、現役のヘレンの園長・保育スタッフ・看護スタッフが医療的ケア児保育について解説をした動画を視聴します。いつでもどこでも受講できるため、ご自身の予定に合わせて視聴が可能です。
ポイント①:医療的ケア児の「そもそも」を知ることができる
保育園で預かることになってはじめて医療的ケア児に接する方もいるのではないでしょうか。これまで接した経験がないと、きっと不安に感じると思います。
わたしたちにもそれぞれ色んな特徴や個性があるように、医療的ケア児も個性あるひとりのお子さんです。研修では、ヘレンでお子さんのことをどのように捉えて日々接しているのか、その根っこの考え方からご紹介します。
また、「とにかく日々の可愛い姿を見てもらうのが1番…!」とスタッフがお子さんたちの動画を用意しましたので、そちらもぜひお楽しみに!
ポイント②:医療的ケア児を「チームでサポートする」大切さを知ることができる
担当の先生から「自分ひとりでお子さんを見れるかな…」と不安の声を聞くこともあります。大切なことは、看護師・保育士・園長とみんなでお子さんをサポートすることです。研修では、他の園の事例も紹介しながらスタッフ同士の連携方法をお伝えします。
また、保育園外での連携も重要です。医療的ケア児は生まれた時から、住んでいる地域に主治医や訪問看護師などたくさんのサポーターがいます。日々の関わりや支援方法に悩んだ時も保育園だけで抱える必要はありません。地域のサポーターとの効果的なつながり方を知ることで、保育園に負担が偏ることなく、お子さんにとってより良い方法を探すことができるようになります。
ポイント③:医療的ケア児も「一緒に遊ぶ」ための工夫が学べる
保育園からよく伺うお悩みが「医療的ケアをするたびに別室に連れていくので、あまり遊びに参加できない」「人工呼吸器を使っているので移動させられずお子さんは天井をずっと見ているが、どうしたら良いか」などです。
でも、医療的ケアの有無に関わらずどんなお子さんも遊びが大好き…!ヘレンでは「一緒に遊ぶ」ことを大切にして、医療機器の移動方法や遊び方にさまざまな工夫をしています。医療的ケアを保育の中にうまく溶け込ませ、遊びの合間にケアを行っている様子を紹介します。
見て、聞いて、感じる——次のステップは現場体験
オンライン研修を受けた後に、ご希望の方はヘレンを1日見学することができます。
ポイント①:保育に参加したり、医療的ケアの様子を見学できます
ヘレンの1日は朝の会から始まり、活動、昼食、午睡、午後の遊び、おやつと、一般の保育園と同じようなスケジュールで生活しています。それぞれの活動に一緒に参加しながら、合間に必要なタイミングで医療的ケアを実施している様子を見学することができます。
こどもたちが友達やスタッフとコミュニケーションをとりながら楽しそうに遊んでいる様子を実際に見ることで、ご自身の保育園で預かるイメージを膨らませていただけたらと考えています。
ポイント②:スタッフや園長と疑問点について話しながら理解を深められます
見学の前に知りたいことをヒアリングして、疑問点に併せて保育スタッフか看護師が見学に付き添います。看護師と保育スタッフの連携の仕方、災害対策グッズの設置場所からお子さん関連の書類の種類についてなど、幅広いご質問をいただいてます。
▼現場体験の詳細はこちらから

受講した多くの方が医療的ケア児を預かることに前向きな気持ちに
心構えやポイントを知ることで、漠然とした不安やもやもやが「できるかもしれない」「やってみようかな」と前向きな気持ちに変化していきます。受講者の声を紹介します。
Yさん
医療的ケア児を受け入れることになり、不安や責任が大きく、できれば受け入れたくないという気持ちもあるのが現状でした。
しかし、医療的ケア児とその環境、家族、多種職連携ととてもわかりやすく講義してくださり、苦手意識も緩和されました。少しずつですが継続して医療的ケア児への知識を深めていきたいと思います。
Sさん
医療的ケアの知識もなく、具体的にどのようなものがあるのか知りたくて受講しました。
出産後から入園まで、どのような環境で支援を受けているのかや、お家でのタイムスケジュールを知ることができ、イメージがより具体的になりました。
「医療的ケアはメガネやコンタクトレンズの延長のようなもので、子どもの日常である」という考え方が、よく理解出来ました。災害時の準備等、とても参考になり、園でも相談し合いたい内容であると感じました。
研修を受けてくれた方とつながり続けたい
研修はあくまでも医療的ケア児保育を知る入り口で「むしろここからがスタート」とヘレン園長の小田は言います。
ヘレン東雲園長 小田
数年フローレンスがサポートしている保育園に話を聞いていると、医療的ケアをよく知り不安がなくなると、そのお子さんの発達支援をどのようにやっていこうか、集団の中で一緒に遊ぶにはどうしたら良いか、と徐々に悩みが変化してくるようです。
わたしたちも日々悩んでいることがたくさんあるので、研修を受講して終わりではなく、受講者の皆さんとはできればつながり続けて、お互いに疑問に思うところや工夫している点を共有し続けたいです。そんな仕組みが作れたらと検討中です。
医療的ケア児支援法の施行後、前例がないなかで試行錯誤している方が全国各地にたくさんいます。フローレンスはこれからも、全国で医療的ケア児の保育にチャレンジされる方々が安心してお子さんと過ごせるようにサポートしていきたいと考えています。