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アクション最前線

2016/06/17

障害のある子どもが保育園に入れない!?重症心身障害児も長時間お預かりすることのできる「障害児保育園ヘレン」とは?

 


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フローレンスでは、日本初・医療的ケアが必要な重症心身障害児を長時間お預かりすることのできる、「障害児保育園ヘレン」を2014年9月17日に東京都杉並区にオープンしました。しかし、定員を大幅に上回る入園希望者で、現在も杉並区内、そして区外から多くの入園のお問合せをいただいています。そして、今年7月には豊島区に2園目の「障害児保育園ヘレン すがも」を開園することになりました。

きっかけは一人のお母さんとの出会い

この「ヘレン」開設は、ある一人のお母さんとの出会いがきっかけでした。ある日、フローレンス代表理事の駒崎が重度の障害を抱えるお子さんを持つ一人の親御さんから相談を受けました。「障害のある子を受け入れてくれる保育園が見つからず、仕事を辞めなくてはならない」と。さっそく駒崎は重度の障害がある子どもであっても、親御さんが仕事に行っている間、長時間預かってくれる施設はないのか調べました。しかし、残念ながら、そうした施設は一カ所も見つけることはできませんでした。

「障害児を預かり、保護者の就労を支える」を目的とする機関は現状ではゼロ ヘレン社会的背景 未就学の重症心身障害児の受け入れ状況(図1)

ご存知の通り保育園による障害児の受入れは、日本においても進みつつあります。しかし、障害が軽度のものであれば保育園でもお預かりが可能ですが、医療的ケアが必要な重度の障害児となると、保育園ではお預かりは難しいのが現状です。医療的ケアに対応できるスタッフの不足で安全性を確保できないからです。

一方で、重症心身障害児のお預かりが可能なサービスとして、療育を目的とした児童発達支援事業が挙げられます。しかし、東京都で重症心身障害児が母子分離で通所できる児童発達支援事業所は数が少ない上に、その多くが毎日利用できるわけではなく、利用時間も1時間~5時間程度と限られています。つまり、重症心身障害児を、長時間・柔軟にお預かりすることのできる施設は、いまの日本には存在しないというのが現状なのです。(図1)

働きたくとも仕事を諦めざるを得ない親御さんたち

親御さんの側にも目を転じてみましょう。就労を希望する親御さんの場合を考えてみます。実は、冒頭でお話したような「働きたくとも、障害があるお子さんの預け先がなく、仕事を諦めてしまう」親御さんは少なくありません。

ある調査によると、フルタイムで働く母親の就労率は、健常児の場合34%である一方で、障害児の場合わずか5%であり、その比率はなんと7分の1となっています。

以上、見てきたように障害児保育という領域において、子どもにとっては重症心身障害児が増加しているにも関わらず、彼らを受け入れることのできる社会的インフラが整っていません。またその親御さんにとっては、そのことが原因で、働きたくとも働くことのできない現状が存在しているのです。これが、今のわたしたちが暮らす日本社会の姿です。障害児、そしてその親、双方を支える社会的な仕組みが整っていないのです。

日本初の「障害児専門保育園ヘレン」

そこでフローレンスでは、重度の障害があるお子さんを長時間預けられる場所がない、それにより親御さんの子育てと仕事の両立が妨げられている、という問題を解決しようと決意しました。そして、2014年9月17日、日本初・医療的ケアの必要な重症心身障害児も長時間お預かり可能な「障害児保育園ヘレン」を東京都杉並区にオープンしました。

ヘレンは日本初の障害児を専門的にお預かりする保育園として、「障害のある子どもたちが、自らへの肯定感、未来への希望を持てる社会」、そして「障害のある子どもの親たちが、子育てと仕事を共に楽しめる社会」の実現を目指しています。

最も大切なスタッフの研修 helen05

子どもの命を預かる保育において、最も大切なものはスタッフの「質」です。医療的ケアが必要な重症心身障害児をお預かりする場合にはなおさら、一つのミスが命の危険に繋がりかねません。そこで、常駐スタッフの研修には最も力を注ぎました。

研修は、座学と実地を最長5ケ月の期間実施し、障害に対する基礎知識の取得や体調が悪化した際の対処方法などについて学びました。

東京都新宿区にて障害児対象の訪問看護、居宅介護、移動支援、児童発達支援などを運営する「NPO法人えがおさんさん」には重心児の抱き方、コミュニケーションの取り方、安定した呼吸維持の方法などの講義や医療的ケアが必要な子どもの訪問看護師の同行などを行いました。また杉並区立こども発達センター「たんぽぽ園」や、東京都墨田区の重度心身障害児向け児童発達支援事業所である社会福祉法人むそう「ほわわ吾妻橋」からは、医療的ケアを行いながら、遊びを中心とした活動の技術、安全管理ノウハウを学びました。

漢字表記を「障害」としている理由

よく「障害」の「害」の字を平仮名にして「障がい」と記載して欲しいとの要望をいただきます。しかし、私たちが「障害」と漢字表記しているには理由があります。

障害の考え方には、個人の心身の不具合に問題があるので治療(=医療)が必要だとする「医学モデル」と、社会の側に物理的・制度的な問題があるので社会を変えるべきとする「社会モデル」があります。

前者は【足が不自由なのは本人の問題だから治療が必要】と考え「障がい」と記載するのに対し、後者は【足が悪いなら車いすを使えばいい、またスロープを設置するなど車いすで生活しやすい社会を作るべき】と考えるため、漢字表記の「障害」を用います。

ヘレンでは後者の見地に立ち、障害があるのは子どもではなく社会であり、「障害」は社会を形容すると考え、この立場を明確化するためにあえて「障害」と漢字表記をしています。

なぜヘレンは障害児専門なのか

「なぜ障害児のみを分離するのか」と、批判されたことがあります。確かに、いつか全ての保育所と幼稚園で、健常児も医療ケアの必要な障害児も関係なく受け入れられるような社会になれば、それは素晴らしいことでしょう。

しかしそれは、数十年の長い間、願われ続け、待ち続けられてきて、未だ実現してはいません。理想を唱え、理想以外は行わない、というスタンスを、我々は取りません。理想を見すえ、今できる一歩を、着実に歩んでいきたい。でなければ我々は、百年後も今と同じ理想を唱え、願い、待ち続けていることでしょう。まず今できる精一杯の歩幅で、歩んでいこうと思います。

そして全国的な問題解決へ

このようにフローレンスではヘレン開園を「障害児保育」問題解決への第一歩にしたいと考えています。しかし、ヘレンで救うことができるのは1園でわずか15世帯に過ぎません。根本的に問題を解決するには、制度そのものを変革していかなければなりません。

園名「ヘレン」の由来となったヘレン・ケラーは次のような言葉を残しています。

「私は一人の人間に過ぎないが、一人の人間ではある。何もかもできるわけではないが、何かはできる。だから、何もかもはできなくても、できることをできないと拒みはしない」

全ての子ども達が、親だけでなく地域社会にも抱きしめられ、愛される、そして健常児家庭だろうと障害児家庭だろうと、親は子育てしながら、大好きな仕事を続けられる、そうした社会を実現するために、フローレンスではできることから一歩ずつ歩みを進めていこうと考えています。

書いた人:明智 カイト