赤ちゃん遺棄・虐待のない社会を目指す
赤ちゃん縁組
「こどもの貧困と虐待のない日本」を叶えるとりくみ
Story ストーリー
2週間に1人、赤ちゃんが
命を落とす現状を変えたい。
赤ちゃんの遺棄・虐待死ゼロへの挑戦。
公園のトイレで、自宅の押し入れで、あるいはコインロッカーで……。日本では、2週間に1人の赤ちゃんが虐待や遺棄で命を落とす痛ましい現状があります。背景には、妊婦の抱える複雑な事情があります。貧困や病気、若年や性犯罪被害による妊娠等により、誰にも相談できず、不安や孤独の中で一人で出産を迎えてしまい、追い詰められた末に赤ちゃん遺棄が起こることがあります。
フローレンスは、このような事態を防ぐため、予期せぬ妊娠をした女性のための「にんしん相談」を行っています。やむを得ない事情がある場合に対応するため、特別養子縁組をあっせんする「赤ちゃん縁組」も開始。さらに、政策提言により養子縁組あっせん法の成立に貢献し、健全な養子縁組につながるしくみづくりを後押ししています。
事業をつくる
赤ちゃん遺棄ゼロを目指して「赤ちゃん縁組」を開始
生みの親・育ての親みんなで赤ちゃんを守る特別養子縁組事業
「赤ちゃん縁組」は、赤ちゃん遺棄ゼロを目指して2016年にスタートした、特別養子縁組のあっせん事業です。本事業の大部分は寄付を原資に運営されており、19年には東京都で初めてのモデル事業に選定されています。
赤ちゃん縁組では、「にんしん相談」に寄せられた予期せぬ妊娠に関する相談の中で、やむを得ず赤ちゃんを育てられないとなった場合、不妊などの理由で新しい家族を望む国内のカップルに赤ちゃんを託します。
特別養子縁組は民法817条に基づく制度で、こどもと育ての親は家庭裁判所の審判によって戸籍上も実の親子となります。この制度は「児童の最善の利益を最大限に考慮する」ことを目的としており、こどもの幸せを重視しています。フローレンスの仲介により、41組の新しい家族が誕生しました(24年3月現在)。
フローレンスでは、生みの親、育ての親になりたい夫婦どちらにも寄り添い、生みの親には、自分で育てることを含めた情報提供やカウンセリングを丁寧に行い、本人の自己決定を何より尊重しています。赤ちゃんを託す選択をした場合は複数回も意志を確認し、意志が変わらなかった場合のみ縁組となります。マッチングの数は他団体に比べて多くありませんが、それは実母、赤ちゃん、養親三者の幸せをモットーにした縁組を大切にしているからです。
育ての親(養親)になりたい夫婦には丁寧な養親研修で意志と責任を確認
特別養子縁組でこどもを迎えるためには、法律により定められた研修を修了することが義務づけられています。赤ちゃん縁組で育ての親に申し込むには「オンライン基礎研修」と「ステップアップ研修」の受講が必要となります。
オンライン基礎研修では法定科目に対応した養護原理・養育論、ステップアップ研修では 養護原理・養育論・発達心理学・養育技術・養育演習など。座学研修のほか、フローレンスが運営する保育園で実際にこどもと関わる実習、対話のワークショップなども行い、夫婦が、赤ちゃんを迎えてすぐ育児ができる状態まで一緒に準備します。
養親になる・ならないの選択は、とても重いもの。だからこそ手厚い研修に力を入れています。それは、ご夫婦が考えを深めた先に決断するための道のりを整えることでもあります。
簡単ではありませんが、自分の意志で選んだ先にこそ幸せな未来が見え、続いていくと信じています。フローレンスの「赤ちゃん縁組」は、こども、生みの親、育ての親の三者の幸せを追求し、社会全体で赤ちゃんを育むことを目指したしくみなのです。
しくみを変える
悪徳事業者を締め出す「養子縁組あっせん法」の実現
養子縁組あっせん法成立までの道程
16年当時、インターネット上で赤ちゃんと養親希望者を簡易的にマッチングするサービスが登場し、大きな議論を呼びました。特別養子縁組では、こどもの幸福のために収入や職業だけでなく、育児能力なども見極める必要があります。「特別養子縁組が人身売買の温床になってはいけない」。フローレンスは、他の養子縁組支援団体と協力して、「適切な方法で特別養子縁組を仲介しない団体を排除できる法律」の制定を政府に求めました。
この働きかけを受け、野田聖子議員(当時)などが養子縁組議員連盟を設立。17年には、「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律」、通称「養子縁組あっせん法」が成立しました。
この法律により、インターネット上で簡易にマッチングを行う事業者は認定を受けられなくなり、特別養子縁組のあっせんを行うことができなくなりました。
養子縁組の親でも育休が取れるよう育休法の改正を提言
育休取得対象の拡大が実現
特別養子縁組を考えていても、共働きの夫婦では実現が難しいケースがあります。これは、特別養子縁組が家庭裁判所から正式に認められるまでの監護期間(試験養育期間)が、育児休業の対象外だったためです。
特別養子縁組が家庭裁判所で正式に認められると、法律上の親子となり、こどもが1歳になるまで育児休業が取得できます。しかし、特別養子縁組制度では、法律上の親子関係が認められるまでに最低でも約6ヶ月間の監護期間が必要です。
そのため、共働きの夫婦が赤ちゃんを迎えるためには、どちらかが退職するなどして赤ちゃんを育てる必要がありました。
この状況を受け、フローレンスは厚生労働省に、「養子縁組でも育児休業がとれるよう」働きかけました。その後、17年1月1日に「改正育児・介護休業法」が施行されました。これによって育児休業取得対象が拡大され、特別養子縁組が成立するまでの監護期間も育児休業の対象となりました。
文化を生み出す
養子縁組をあたりまえにする新たな文化づくり
漫画への制作協力など
事業だけでなく、メディア等への協力により、制度の認知を後押しすることにも力を入れています。
19年には、テレビドラマ化もされた人気漫画「パーフェクトワールド」の制作協力を行いました。同年8月、作者の有賀リエさんが赤ちゃん縁組事業部を訪れ取材し、その内容が反映された第10巻が11月13日に発売されました。
また、23年には蒼井まもるさんの「あの子の子ども」7巻巻末企画への協力も行っています。同作品では赤ちゃんができた未成年カップルの妊娠期間の様子が描かれており、予期せぬ妊娠から出産する際の選択肢として、特別養子縁組や里親の制度について解説するページを監修しています。
フローレンスの育児休暇取得に関する就業規則を改定
17年1月1日に施行された改正育児・介護休業法に先駆けて、フローレンスは15年5月に就業規則を改定しました。「こどもとして養育されている実態」があれば育児休暇を取得できるようにし、里親や特別養子縁組の監護期間でも、社員の育児休暇取得を取得できるようになりました。
また、この取り組みを発信することで社会の興味や理解を促したいと考えています。
これからしていくこと
赤ちゃん縁組事業から「赤ちゃん虐待死ゼロ」事業へ。赤ちゃん縁組の取り組みを広げ、赤ちゃん遺棄を防ぐことはもちろん、医療との連携により、にんしん相談時のアフターピルの処方や無料産院ネットワークの全国拡大を図り、予期せぬ妊娠に悩む女性の支援策を充実させていきます。
そして養子縁組をあたりまえの文化にし、予期せぬ妊娠をしても絶望しない社会に近づけるよう、今後も赤ちゃん縁組事業に取り組んでいきます。
さらに、現在法律婚カップルに限られている特別養子縁組を、事実婚カップル・LGBTカップルでも利用できる未来を見据えて政策提言を行います。
特別養子縁組 委託件数
41組※
- 事業開始から2024年3月時点までの合計数
古いあたりまえ
予期せぬ妊娠に悩む妊婦は自己責任。
赤ちゃん遺棄にもつながる新しいあたりまえ
生みの親、育ての親、
社会みんなですべてのこどもを幸せにするこどもたちのために、
小さな変化を起こしませんか?