出前型の食支援を通じて家庭を見守る
こども宅食
「こどもの貧困と虐待のない日本」を叶えるとりくみ
Story ストーリー
「待ってちゃダメだ。こちらから行こう」
食をフックにしたアウトリーチモデル
「こども宅食」を生み出し、全国に広げる。
悲しい事件や相談の背景には、つねに孤独と孤立の問題があります。「本当に困っている家庭は、自分から『助けて』と言えないのではないか。ならば、こちらから出向こう」。そこで考案したのが、定期的に食品を届けて信頼関係を築き、課題を抱える家庭を行政サービスや支援団体につなげる「こども宅食」事業です。
17年、東京都文京区と複数の民間支援団体と協働する形でこども宅食が実現。その後、コロナ禍を契機に国の予算にこども宅食への補助が含められ、また、中間支援団体としての「こども宅食応援団」が創設されたことで、こども宅食は短期間で全国に広がりました。
事業をつくる
行政・企業・NPOの協力で「こども宅食」モデルを共創
コレクティブ・インパクトを実践した「文京区こども宅食」
17年にスタートした「文京区こども宅食」は、東京都文京区、一般財団法人村上財団、セイノーホールディングス株式会社(ココネット)、一般社団法人RCF、特定非営利活動法人キッズドア、特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会との協働で生まれた事業です。
この事業は、経済的な理由で食生活に影響を受ける家庭のこどもに対し、企業などから提供を受けた食品を配送するものです。また、食品の配送を通じてこどもとその家庭を必要な支援につなげ、地域社会からの孤立を防ぐことも目的としています。
今では、山形市や神戸市等の全国の自治体・地域団体と連携し、さまざまな場所でこども宅食を実施しています。
コレクティブ・インパクト
多様なステークホルダーが領域を超えて協力し、社会的課題の解決に向き合う手法で、欧米で研究・実践されています。文京区こども宅食は、日本でコレクティブ・インパクトという概念が広まる以前から実践されている大規模な事例と言えます。
大手食品会社から食品の寄付を募る「こどもフードアライアンス」
文京区で始まった「こども宅食」モデルが全国に広がる中で、食品の確保が大きな課題となりました。そこでフローレンスは、日本最大級の食品卸企業である株式会社日本アクセスとパートナーシップを結び、同社とつながりのある大手食品会社から食品の寄付を募りました。
この取り組みの結果、全国の「こども宅食」団体を通じて、多くの食品が日本中のこどもと子育て家庭に届けられました。23年度には約2.5万世帯に対し、合計25.3万点の食品を提供し、日本最大規模の食糧支援を実現しました。
全国の団体とのコラボレーションにより生まれた「こども宅食赤ちゃん便」
全国のネットワークが広がる中で、地域の団体とのコラボレーションも進化していきました。
佐賀県で「こども宅食」の活動に参加していたこども宅食応援団のスタッフは、産前産後に孤立するケースが多いことに心を痛めていました。この問題に対処するために始まったのが「こども宅食赤ちゃん便」です。佐賀県の現地の支援団体とともに、トライアル事業として開始し、赤ちゃんがいる家庭に食品に加えておむつやミルクなどを届けています。
単に物資を届けるだけでなく、スタッフが配送先の家庭を訪問し、赤ちゃんをあやしたり遊んだりしながら、じっくりと話を聞き、相談に乗るスタイルを採用しています。
さらに、こども宅食応援団では「こども宅食赤ちゃん便」を全国に広げるため、実施団体への助成や、同じような取り組みを行う全国の団体との意見交換会や勉強会等を行っています。24年3月に行った最初の助成公募には多くの団体から応募があり、そのうち7団体へ助成を行いました。
しくみを変える
「こども宅食」が国策に
政府の「支援対象児童見守り強化事業」の創設
コロナ禍によって、こども食堂などが利用できなくなり、こどもを見守る機会が減少したことを受け、政府は20年度に「支援対象児童見守り強化事業」を創設しました。この事業では、支援スタッフが訪問して家庭状況を把握し、食事の提供を行う民間団体に補助を行います。
これにより、「こども宅食」が国策の一つとして位置づけられることになりました。
行政が抱える壁を解決し、支援を全国へ拡大
支援対象児童見守り強化事業によって、こども宅食に国家予算が付くようになったものの、いざ支援を行うとなると、都道府県が、そして基礎自治体が手を挙げなければ実行できないものでした。コロナ禍によって自治体でも人手不足が深刻化するなか、新たな取り組みに手を挙げられる基礎自治体は多くありませんでした。
そこでフローレンスとこども宅食応援団は、民間の中間支援団体が補助を取りまとめ、民間のこども宅食団体に分配する「政策セカンドトラック」を提言しました。これは、こども宅食議員連盟を通じて実現されました。
このしくみは、政府の「ひとり親家庭等の子どもの食事等支援事業」となり、基礎自治体が参加できない地域でも、補助を受けてこども宅食を行うことが可能になりました。そして、フローレンスやこども宅食応援団自体がまずはその中間支援団体として手を挙げ、このしくみを現場から実行し、全国へ広げる活動もしています。
政策セカンドトラック
通常の政策の流れ(政策ファーストトラック)では、国から自治体、そしてNPOなどの地域支援団体を通じて、利用者に支援が届けられます。一方、政府セカンドトラックは、自治体を介さず、NPOなどの地域支援団体が国と直接つながるしくみです。これにより、自治体の手続きを省略し、支援をより迅速に利用者へ届けることができるという利点があります。
政府備蓄米の活用について農林水産省に提言
こども宅食が国策となり全国に広がるなか、配送する食品の不足が課題となりました。各団体がこども宅食を継続するためには、安定的な食品の確保が必要です。そこで、政府が供給不足に対応するために毎年100トン備蓄している「政府備蓄米」を活用できないかと考え、こども宅食議員連盟を通じて農林水産省に申し入れを行いました。
その結果、21年に政府備蓄米を1団体あたり300kgを上限にこども宅食団体へ無償提供することが決定されました。
文化を生み出す
中間支援団体の創設とネットワークの拡大でアウトリーチ文化を広げる
「こども宅食応援団」創設と広がるネットワーク
「文京区こども宅食」の開始直後より、「わたしたちの地域でもこども宅食をはじめたい」という嬉しい声が寄せられるようになりました。それを受け、こども宅食を実施したい団体にノウハウを提供する中間支援団体「一般社団法人こども宅食応援団」を創設し、ノウハウ提供とこども宅食の全国ネットワーク化を進めています。
その結果、こども宅食応援団のネットワークは24年4月現在、40都道府県196団体にまで拡大しました。これにより、さまざまな施設で居場所づくりなどの活動をしてきた団体が、こども宅食をアウトリーチのツールとして活用し始め、アウトリーチ文化の広がりにも貢献しています。
これからしていくこと
文京区から始まり全国に広がったこども宅食を、今後はすべての市区町村に広げ、新たなセーフティネットを構築していきたいと考えています。また、食材のほかおむつやミルクなども含む「こども宅食赤ちゃん便」や医療的ケア児の家庭向けにお弁当をお届けする「医ケア児おやこ給食便」など、こども宅食を応用した新サービスを今後も開発し、全国の実施団体の皆さんとともに活動を広げ、孤立や虐待などの課題解決に貢献していきます。
これらを支えるために、こども宅食に関する政府の政策メニューがより良いものになるよう、引き続き政府への提言を行います。また、利用できる政府備蓄米の総量を大幅に増やし、すべてのこどもたちが主食である米を食べられる「ベーシックライス」構想を実現します。最終的には、アウトリーチが当たり前となる社会を目指します。「児童虐待」や「こどもの貧困」という言葉がなくなる未来を信じています。
食支援を実施した世帯
のべ10万世帯※
- 2021年度以降、全国のこども宅食実施団体を通じてフローレンスが全国規模で食支援をしたのべ世帯数
こども宅食の実施団体数
196団体※
- 2024年4月末時点。 こども宅食の全国普及事業については、フローレンスグループの一般社団法人こども宅食応援団と連携し実施しています
古いあたりまえ
福祉といえば、課題を抱えた方が
自ら相談窓口に足を運ぶ「お店モデル」新しいあたりまえ
課題を抱えた方のもとに出向き、
相談や支援を届ける「アウトリーチ」が
福祉の中であたりまえに行われる
こどもたちのために、
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