障害児家庭を保育とケアで支える

障害児・医療的ケア児家庭支援

「どんな親子も孤立しない日本」を叶えるとりくみ

障害児・医療的ケア児家庭支援

Story ストーリー

「医療的ケア児の居場所が
どこにもない」から始まった、
医療的ケア児支援の軌跡。

フローレンスは、あるひとりの保護者からの「医療的ケア児を預かってもらえる場所がどこにもない」という相談を受けて、日本初の障害児を専門に長時間保育する「障害児保育園ヘレン」を開設しました。
その後、医療的ケア児を自宅で保育する「障害児訪問保育アニー」、医療的ケア児のご家庭に看護師が訪問し、看護・療育を提供する「医療的ケアシッター ナンシー」を展開し、医療的ケア児の支援を拡大。さらに、「全国医療的ケア児者支援協議会」や「永田町子ども未来会議」とともに、憲政史上初の医療的ケア児のための法律「医療的ケア児支援法」の成立に貢献しました。
また、テクノロジーで医療的ケア児の自己表現を支える「インクルーシブ・テック」も推進しています。

Journey & Reflection 歩みと想い

1本道を歩く2人のこども

事業をつくる

医療的ケア児への保育と支援の創出

2014年「障害児保育園ヘレン」の開設
障害児保育園ヘレンで保育サービスを受ける医療的ケア児

「医療的ケアが必要なこどもを預かってほしい」という保護者の声を受け、医療的ケア児を受け入れる保育施設が圧倒的に不足していることが明らかになりました。当時の東京には、医療的ケア児を受け入れる保育園は存在しませんでした。

そこで、14年に「障害児保育園ヘレン」を杉並区に開設しました。当時は医療的ケア児を保護者の就労支援を目的に預かる制度がなかったため、児童発達支援事業と居宅訪問型保育を組み合わせた新しい形態の施設としてヘレンは誕生したのです。これにより、医療的ケア児の家庭が抱える問題へ一つの解を提供できました。

医療的ケア児の保育の場と家庭の交流の場を拡充
自宅で障害児訪問保育アニーの訪問ケアを受ける子ども

「障害児保育園ヘレン」の開設後、15年には障害児向け訪問保育「障害児訪問保育アニー」を開始しました。アニーは、感染などの観点で外出できず「通う」ということができない医療的ケア児のためのサービス。障害のために保育を受けられないこどもと、働くことを諦めていた保護者を、訪問保育という形でサポートしています。

より高度な医療的ケアを必要とする子にタブレットを使った発達支援を行うスタッフ

19年には、より高度な医療的ケアを必要とするお子さんにも支援を届けられるよう、看護師による「医療的ケアシッター ナンシー」を開始しました。
お子さんがご自宅でケアを受けながら発達支援として楽しい時間を過ごすことができ、保護者も安心してケアから離れて休息の時間を持てるようにする支援サービスです。

「障害児保育園ヘレン」「障害児訪問保育アニー」「医療的ケアシッター ナンシー」でお預かりしたこどもは、10年間で370名を超えました。

さらに、21年には障害の有無に関係なく親子が交流できる「インクルーシブひろば ベル」を東京・品川区に開設。訪れる方が多様な人と関わりながら互いへの理解を深めたり、子育てに関する相談をしたりと、安心して過ごせる場を提供しています。

しくみを変える

憲政史上初の医療的ケア児のための法律が誕生

政党を超え医療的ケア児の課題を議論する「永田町子ども未来会議」が発足
政党を超え医療的ケア児の課題を議論する「永田町子ども未来会議」が発足

15年3月、障害児保育園ヘレンの視察をきっかけに、元国家戦略担当大臣の荒井聰議員と、野田聖子議員が中心となって「永田町子ども未来会議」が設立されました。野田聖子議員は、医療的ケア児の保護者でもあり、「障害児保育園ヘレン」にお子さんを通所させていました。
この会議は、政党を超えた取り組みとして、厚生労働省や文部科学省などの中央省庁も巻き込み、医療的ケア児に関する問題を積極的に議論する場となりました。

児童福祉法の改正

「永田町子ども未来会議」の後押しにより、児童福祉法に「人工呼吸器を装着している障害児その他の日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児」という表現で、医療的ケア児の存在が初めて盛り込まれました。

この改正により、児童福祉法第五十六条の六第二項で、すべての自治体に対し、医療的ケア児を支援する「努力義務」が課されたのです。

学校での保護者の付き添い義務の是正
微笑む医療的ケア児のお子さん

17年、当時小学校3年生だった医療的ケア児の山田萌々華さんは、「学校に通いたい」と願っていました。しかし、医療的ケア児の通学には保護者の付き添いが必須だったため、両親が共働きの萌々華さんは特別支援学校には通えません。
この状況を改善するために、医療的ケア児支援の関係者たちが「全国医療的ケア児支援協議会」を設立し、積極的な要望活動を行いました。
地道な活動が実を結び、19年8月に小池百合子東京都知事と萌々華さんの会談が実現。翌月の議会で東京都教育委員会は「来年度から保護者の付き添いなく学校生活を送ることができるよう校内管理体制を整えて参ります」と答弁しました。以来、付き添いの義務は段階的になくなってきています。
医療的ケア児と保護者が、学校内での付き添いについて希望に合わせ選択できる体制がつくられていくよう、今後も働きかけを行っていきます。

医療的ケア児支援法(医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律)の成立
国会議事堂前に集まる有志

児童福祉法と障害者総合支援法が改正されても、医療的ケア児への支援は十分ではありません。これには「努力義務」では強制力が弱いことと、自治体への補助不足が理由として考えられます。

そこで、「永田町子ども未来会議」に参加する議員を中心に、より強い支援を目指して「医療的ケア児支援法」の成立に動き出しました。また、後にフローレンスの社員となる当事者を含む有志がネット署名を行い、広く社会に呼びかけました。その後21年6月に「医療的ケア児支援法」が成立し、法的に医療的ケア児を支援する体制が整いました。この法律は、公立の認可保育園でも医療的ケア児を受け入れていく態勢を段階的に進めるきっかけにもなりました。

文化を生み出す

誰もが活躍できる「インクルーシブ・テック」の普及

eスポーツを通じた「インクルーシブ・テック」の推進
eスポーツ大会で画面を指さすスタッフと医療的ケア児

テクノロジーの発展により、医療的ケア児でも視線を動かすことで絵を描いたり、ゲームを楽しむことが可能になっています。フローレンスでは、このようなテクノロジーを「インクルーシブ・テック」と呼び、その普及を目指しています。

その一環として、パラeスポーツイベントを開催。テクノロジーを活用した新しい価値観と文化の創出を目指し、障害のある方々の可能性をさらに広げていくための取り組みです。

インクルーシブ・テック

わずかな力でも押しやすいスイッチやレバーなどの入力デバイスや、視線をマウスのように用いる視線入力など、こどもの思いやアイデアの表出を支援するものをはじめ、障害による課題を乗り越え、誰もが参画できる「インクルーシブ社会」の実現をサポートするテクノロジーのこと。日常生活に取り入れ、経験を重ねることで将来的には就労などにつながる可能性もあると考えています。

これからしていくこと

医療的ケア児への保育と支援は、「ありえない」を「あたりまえ」に変えた事例です。今後は、医療的ケア児が成長して大人になった際に、ひとり暮らしができる社会を目指し、新たな支援を盛り込んだ法律の制定を推進したいと考えています。
さらに、医療的ケア児がアートやゲームを通じて自己表現を楽しめるよう、「インクルーシブ・テック」の普及を推進していきます。

Social Impact 社会的インパクト

赤い文字で「Florence」と書かれた白い壁の一部

お預かりした障害児・医療的ケア児数

のべ372

  • 2024年3月時点。ヘレン、アニー、ナンシー(東京・神奈川・仙台)でお預かりした障害児・医療的ケア児数

New Normal 新しいあたりまえ

国会前に集合する医療的ケア児の家族と支援者たち

古いあたりまえ

保護者が医療的ケア児を
24時間365日看護・介護をするのがあたりまえ

新しいあたりまえ

医療的ケア児の保護者だって働ける。
医療的ケア児もテクノロジーで自分を表現できる。
医療的ケア児とその家族を社会全体で支え、
当事者が望む支援にアクセスできる