親子と女性の「つらい」にともに立ち向かう
こどもと女性のためのクリニック
「子育てがしんどくない日本」を叶えるとりくみ
Story ストーリー
医療の現場からも、社会を変える。
「クリニック」を、
女性とこどもを支える地域拠点に。
こどもは熱を出すもの。そのケアを一緒に担う「小児科」は、子育て家庭を支える大切なプレイヤーです。しかし、その現場では「女性医師が子育てによって辞めていく」現実がありました。そこでフローレンスは、子育て中の女性医師が時短で働ける小児科と病児保育室を開設。地域の親子だけでなく、働くスタッフもみんなが人生を大切にできることを目指したこのクリニックは、やがて小児科だけでなく、心療内科・不登校外来へと展開していきます。さらに思いをともにする医師たちとソーシャルアクションも始めました。
地域に根ざす医療現場だからこそ気づける見えづらい課題を、社会の課題として世の中に問い、専門家の知恵と協力で社会を変えていく。わたしたちは今、そんな道も拓いています。
事業をつくる
「がんばる」を強いられる女性とこどもの、しんどさごと支えるクリニック
医師であり母親でもある当事者目線の「小児科」
こどもを支える医療の現場に、母親がいない。厚生労働省による2019年の調査によると、病院勤務の医師の労働時間は週に56時間を超え、日本の医療は医師の長時間労働が支えている現実が明らかになっています。また、16年の調査では、女性医師は離職や休職の割合が男性医師より多く、その最大の理由が「出産・子育て」でした。「それっておかしい」。そんな思いから、17年に子育て中の女性医師が働き続けられる“時短クリニック”として、小児科・病児保育室を持つ「医療法人社団ペルル マーガレットこどもクリニック(現在は「医療法人社団マーガレット フローレンスこどもと心クリニック」に改称)を開設しました。
こどもの病気を診るだけでなく、母親でもある医師たちが当事者として保護者の心配にも寄り添える。それは、医療を起点とした新しい子育て支援の始まりでもありました。
時短クリニック
開業時は診療時間を9:30〜16:30(昼休憩1時間)に設定。多くのクリニックが平日午後半日と土曜午後半日を休診時間とするなか、月〜土まで終日診療としています(現在は子育てが落ち着いた医師が延長対応できるようになったため9:30〜17:30まで)。複数の医師が役割・機能を横断しながら業務を担うことでこどもの急な発熱時なども交替が可能なしくみに。
女性のしんどさにともに向き合う、「女性のための心療内科」
母親のみならず日本の女性をとりまく環境には、周囲も自分も「つらくても我慢するべき」と考えがちな空気があります。心身ともに追い詰められた末の悲しい事件も後を絶たず、母親の精神疾患に由来する児童虐待のケースも少なくありません。母親の心の健康は、こどもの心身の健康にもつながる。23年11月、わたしたちはその課題に、女性のための心療内科開設で応えました。
根性論ではなく、医療という立場だからこそ言える「我慢しなくていい」という言葉の力がある。兆しを見過ごさずに早い段階からケアすることを重視し、女性特有のさまざまなしんどさの当事者でもある女性医師が多く所属する特長を生かしながら、ひとりひとりの心の不調に寄り添うのはもちろん、その原因を生む社会の変革も目指す心療内科です。
不登校のこどもと家庭の心身を支える「不登校を選んだ子のための外来(不登校外来)」
23年11月には、こどもの心の専門医による不登校外来を開始しました。文部科学省による22年度の調査によると、国公立・私立の小・中学校の不登校児童生徒数は約29万9000件で過去最高。不登校児を支える保護者はこどもとともに苦しんでいたり、こどものケアで転職・休職せざるを得なかったりする場合も多く、不登校児はもとより、その家庭全体にとっても困難な状況が続きます。不登校児は初期に頭痛・腹痛などの身体症状を訴えることが多く、背景に発達障害があるケースも珍しくありません。
フローレンスでは、不登校児家庭は医療も支え手になれると考えています。クリニックでは不登校は「選ぶ」ものと考え、たとえ好んで選んだわけではなかったとしても、ひとつの意思表明として尊重し、最善の道を探ります。
そうしてこどもと保護者に伴走しながら、誰もが可能性を花開かせることができるよう、不登校児にまつわる社会課題の解決も目指しています。
しくみで変える
医療を通じて社会を変えるしくみづくり
経営と医療の分離システムで、「働き続けられる」医療現場へ
現在、医療法人の理事長は、医師免許のある人が担うのが原則とされています。ただ一方で、医師は医療のプロであるため必ずしも全員経営が得意というわけではありません。また、子育てなどで働き方に制約がある医師側からは「クリニックで働きたいが、経営することは負担が大きい」という声もありました。しかし、医師以外の人が経営を担うには、一定の運営実績と都道府県の認可が必要であることが医療法で決められています。
フローレンスでは、新しいチャレンジを行う地域や分野を規制緩和などで支援する国の制度「国家戦略特区」への提案と東京都との相談を経て、当法人の理事長をフローレンスグループの会長でもある駒崎が務めることで経営と医療の分離を実現。新しいクリニック運営のかたちを進めています。
女性だけの問題からみんなの問題へ、「男の子にもHPVワクチンを」
子育て世代に多いことからマザーキラーとも呼ばれる子宮頸がんは、HPV(ヒトパピローマウイルス)により発症します。主に性交渉によって感染するため、性交渉前の年齢でのワクチン接種が子宮頸がん予防の有効な手段とされていますが、現在、助成で接種することが法律で定められているのは女の子のみで、男の子は法の定めがありません。また、世の中ではまだまだ「女性だけの問題」と考えられています。
しかしHPVは、子宮頸がん以外にもさまざまな病気の発生に関わるウイルスです。男性も、接種によって、中咽頭がんや肛門がんなどの病気を予防でき、性交渉による他者への感染リスクをかなり減らすことができます。にもかかわらず、社会的には男性接種の必要性はほとんど知られていない、または知っていても金額の高さから接種がしづらい。その状況には解決策が必要でした。
そこで、他団体とともに無料でHPVワクチンを60名にプレゼントするなど男性接種を知ってもらうきっかけづくりの活動を行い、さらに他の啓発団体と連携し、公費助成を男の子にも広げられるよう政策提言を実施しました。
その後、東京都は男の子へのHPVワクチンの無償化を政策として採択。HPVをみんなの問題とする成果につながりました。
子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)
HPVは性的接触経験のある女性であれば50%以上が生涯で一度は感染するとされている一般的なウイルスです。子宮頸がんをはじめ、多くの病気の発生に関わっています。特に、近年若い女性の子宮頸がん罹患が増えています。現在、HPVワクチンは、小学校6年~高校1年相当の女子を対象に、定期接種が行われています。13年6月から、安全性等の確認から積極的な勧奨を一時的に差し控えていましたが、専門家の評価により22年4月から他の定期接種と同様に、個別の勧奨を行っています。
参考:厚生労働省「予防接種情報」より
文化を生み出す
医療現場から社会を変える「ソーシャルアクション・クリニック」へ
ひとり親を子育て家庭みんなで支える「寄付つきワクチン」
「フローレンスこどもと心クリニック」では、ふだんから病気の診療だけではなく「こどもと女性の悩み」に寄り添っているなかで気づく社会課題に対し、ソーシャルアクションも行っています。18年以降行っている「ひとり親家庭へのインフルエンザワクチンプレゼント」もそのひとつ。当院でインフルエンザワクチンを接種される方に寄付を呼びかけ、その寄付を元に、ひとり親家庭の方にワクチンをプレゼントしています。
こどもがインフルエンザに罹患すると、長ければ1週間近く登園・登校ができず、その間保護者は仕事を休むことになります。この費用支援には、「今まではこどもしか接種させられなかったが自分の分も接種できた」「働き続けることができた」など喜びの声が多数寄せられました。
18年にクリニックが費用の全額を負担して開始し、20年からはより多くの人に関わってもらうため寄付のかたちをとることに。一団体からの援助ではなくみんなに輪を広げて支え合うしくみにすることで費用と心の負担を減らし、親の収入に関わらずすべてのこどもがワクチンを接種できる社会を目指す取り組みです。
これからしていくこと
クリニックは今まで「医療で人を助ける場所」でした。しかし困りごとを抱える人は、病気だけでなく、さまざまな問題を抱えています。わたしたちは、医学の知恵や技術によって人を直接的に助けることはもちろん、医療を通じて気づく社会の課題にソーシャルアクションという手段で立ち向かっていく、そんな機関を日本に広げたいと考えています。
そのために、医師自身も負担を抱えないしくみ、課題に気づいた医師が動きやすいしくみを含め、事業のさらなる安定や挑戦を目指しながら、文化醸成の原動力も培っていきます。
ひとり親へのインフルエンザワクチン提供数
231件※
- 2018年~2023年までの合計(寄付総額742,500円、うち法人補填額104,000円)
女性のための心療内科受診者数
のべ192人※
- 2023年11月〜2024年4月
不登校外来受診者数
のべ150人※
- 2023年11月〜2024年4月
古いあたりまえ
医療は、「人の病気」に立ち向かう場所
新しいあたりまえ
医療は、「人の病気」だけでなく
「心・体・社会のしんどさ」にともに立ち向かう場所
こどもたちのために、
小さな変化を起こしませんか?