時代に合ったルールづくりと提案

政策立案・政策提言

「ルールと空気が変わり続ける日本」を叶えるとりくみ

政策立案・政策提言

Story ストーリー

当事者ニーズに寄り添った
「新しいあたりまえ」をつくる。
多くの取り組みや提言が、
国や自治体のルールに採用。

フローレンスはさまざまな親子の声に応え、多くの支援事業に奔走してきました。目の前の一人に向き合い続ける中で、現行の法律や補助事業のエアポケットに入ってしまう人たちの存在など、現場にいるからこその課題を発見してきました。支援の実践者として、そうした法律や補助事業の使いにくさも実感していたのです。

それを解決するために、わたしたちは新しい事業モデルをつくり、各現場で試行錯誤を繰り返しました。そしてその新しいモデルをもっと広く、多くの人に使ってもらえるように働きかけました。そうすることで、新しい支援の裾野を早く、確実に広げていけると考えたのです。

こうした「新しいあたりまえ」を、社会に定着させ、未来でも継続していくために、続けてきたのが政策立案・政策提言です。志を同じくする仲間とともに、ときには署名活動や記者会見を行って世論を巻き込みながら、「新しいあたりまえ」の必要性を国と社会に訴えてきました。そんなたくさんの提言は現在、国や自治体の法律や条例などに複数採用されています。

Journey & Reflection 歩みと想い

1本道を歩く2人のこども

しくみを変える

日本版DBS(こどもの性被害防止)

性犯罪歴がある人がこどもと関わる仕事に就くことを防ぐ「日本版DBS」の創設
性犯罪歴がある人がこどもと関わる仕事に就くことを防ぐ「日本版DBS」の創設

フローレンスは保育現場を運営する事業者として、また親子をめぐる社会課題に取り組む団体として、こどもの性被害防止策については、早くから着目してきました。2017年千葉県で起きたベトナム人女児暴行殺害事件をきっかけに、駒崎弘樹は自身のブログで、イギリスで運用されている「DBS(Disclosure and Barring Service)」(前歴開示および前歴者就業制限機構)などを参考に、「日本版DBS」の必要性をいち早く訴えました。

「日本版DBS」とは、保育園、学校などこどもと接する事業を運営する事業者が新たに人材を採用する際に、その採用候補者に性犯罪歴がないかどうか、関連機関に証明を求める制度です。この制度があれば、一度でも性犯罪を犯した人を、こどもと接する職業に立ち入らせないことが可能になります。

代替テキスト代替テキスト

しかしながら、制度化が進まないうちに、さらに凄惨な事件は続きました。
20年、ベビーシッターのマッチングサービスに登録していたシッターが、小児わいせつの疑いで逮捕された事件は社会に大きなインパクトを与えました。これを受けてわたしたちは、「日本版DBS」の導入を急ぐべく、過去に性被害に遭われた当事者や実務家を交えた記者会見を実施。すぐに森まさこ法務大臣(当時)に要望書を、続けて全国から署名を集め、橋本聖子内閣府特命担当大臣(当時)にも要望書を提出しました。

23年8月には、塾や習い事、無償ボランティアも含めた「子どもと関わる仕事すべて」を制度の対象とすることを求めて署名キャンペーンを行い、こども家庭庁の小倉將信こども政策担当大臣(当時)へ8万筆超の署名を提出。さまざまな訴えを続け、ついに24年3月、「日本版DBS」を含むこども性暴力防止法案が閣議決定されました。

小児性犯罪は、被害者がこどもであることから、被害の実情が把握されづらい上、きわめて再犯率の高い犯罪です。こうした卑劣な犯罪からすべてのこどもたちが守られるよう、今後もこの法律の運用と改善を訴え続けていきます。

男性育休をあたりまえに

「男性育休」義務化の推進と「男性産休(産後パパ育休)」の創設
「男性育休」義務化の推進と「男性産休(産後パパ育休)」の創設

親子や子育てにまつわる多くの課題に直面すればするほど、「男性の家庭進出」が進んでいないことを実感する機会が増える。これはフローレンスが活動の中で得た大切な実感でした。社内では創業以来「男性スタッフの育休取得率100%」を実践。さらに男性育休にまつわる社員の実録も度々発信してきました。

しかし社会全体を見てみると、100%にはほど遠いというのが現実でした。この課題に当事者意識を持って取り組んだのが、10年に厚生労働省と有識者で発足した「イクメンプロジェクト」です。駒崎弘樹は発足時よりこのメンバーに入り、13年には座長に就任しました。

イクメン

イクメンプロジェクトでは、「イクメン」という言葉の普及活動も行われました。男女共同参画および出生率向上のためには、父親の家事育児参画は必須。しかし男性育休取得率は一向に伸びず、父親=家事育児を行うというイメージは希薄で、家事育児を行う父親は「素敵でかっこいい」ものだという認知も不足していたのです。このプロジェクトが世に送り出した「イクメン」という言葉が広がったことで、新しい父親像を提案することもプロジェクトの大きな目的でした。

「イクメン」の周知は想像以上のスピードで進んだものの、実際のデータに目を転じると、男性育休取得率は17年データで約5%という数字。この数字を躍進させるべく、イクメンプロジェクトは「男性育休義務化」を提言することに舵を切ります。
駒崎は企業の働き方改革を進める株式会社ワーク・ライフバランス小室淑恵代表、市民団体であるみらい子育て全国ネットワーク天野妙代表、父親支援を行うNPO法人ファザーリング・ジャパン塚越学理事など、多くの有志メンバーと協働。「男性育休義務化アベンジャーズ」と称して数々の政策提言を行いました。
それが「男性産休の創設」と「男性育休義務化」に向けての政策提言でした。

この活動は、21年6月、育児・介護休業法の改正という形で結実。それから同法は23年4月へ向けて段階的改正を重ねていくことになりました。

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段階的改正の一貫として、22年10月から“男性版産休”という位置づけの「産後パパ育休」が創設。23年4月1日からは男性の育児休業取得促進のため、「常時雇用する労働者が1,000名を超える事業主は、育児休業等取得の状況を1年に1回公表すること」が義務付けられました。

フローレンスは、厚生労働省「イクメンプロジェクト」、株式会社ワーク・ライフバランスとともに国内の企業を対象に独自の実態調査を行いました。調査協力の呼びかけに応じた、141社の回答から得られた分析結果を、記者会見で発表しました。

こうした取り組みの成果は確実に身を結び、同年7月に発表された厚生労働省のデータによると、従業員1,000人超の企業のうち、男性育休等取得率は46.2%、平均取得日数は46.5日という結果に。「男性育休は取れてあたりまえ」という社会に向けて、大きく前進しました。

イクメンプロジェクト創設からここまで実に13年。この取り組みを通して、社会を変えるためにかかる時間の長さを痛感しました。そして多くの仲間の力や議連の協力を得られたことで一層「フローレンスだけでは社会を変えられない」ことも実感できた年月でした。

受動喫煙をなくそう

毎年1.5万人が亡くなっている受動喫煙を防ぐべく、東京都受動喫煙防止条例の創設
毎年1.5万人が亡くなっている受動喫煙を防ぐべく、東京都受動喫煙防止条例の創設

こどもたちにとって、「たばこ」は人生で最初に遭遇する深刻な健康上のリスクです。
たばこは喫煙者本人のみならず、周りのたばこを吸わない人々の健康も損ない、年間14.5万人(受動喫煙1.5万人・能動喫煙13万人)の命を奪っているというデータもあります。

こどもたちは自らの意志で有害物質から逃れることができません。特に呼吸器障害のある医療的ケア児にとっては、命に関わる問題です。こどもや妊婦を含むすべての人々をたばこから守るため、社会環境の整備が不可欠であると、わたしたちは考えました。

そこで17年3月、健康増進法改正(通称・受動喫煙防止法)に関して、塩崎厚生労働大臣(当時)に要望書を提出。慶應大学総合政策学部准教授(当時) 中室牧子先生、産婦人科医の宋美玄先生、元世界保健機関たばこ規制部長・日本対がん協会参事(当時) の望月友美子先生がこの要望書にご賛同くださいました。

他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙対策について、厚生労働省は18年1月、国会に提出予定の健康増進法改正案の骨子を公表しましたが、この時点ではまだまだ不十分な法律でした。例外規定によって屋内での喫煙は実質容認されており、「こどもに受動喫煙をさせない」という本来の目的からはほど遠いものだったのです。そこで再度中室先生、宋先生、為末大氏、そして医療的ケア児のご家庭と協働して、東京都に政策提言を行いました。

こうした多数の訴えの末、18年7月に国は健康増進法の一部改正、東京都も受動喫煙防止条例を制定。20年に施行され、屋内の「原則禁煙」が決定されました。

保育士試験の年2回化

保育士不足解決のために、年1回しかなかった保育士試験を2回に
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13年から内閣府に設置された「子ども・子育て会議」では、子ども・子育て支援法の施行に関する重要事項を調査審議しています。駒崎弘樹はこの会議に有識者委員として参加。長い間懸念されていた、保育士不足問題の打開策として、「保育士資格試験を、年1回から複数回へ!」の訴えをこの場で続けてきました。

会議設置当時の13年、日本はまさに保育園不足、保育士不足のまっただ中にありました。10年に待機児童問題解決のモデルとして、すでに小規模保育園「おうち保育園」を立ち上げていたフローレンスは、保育士増員を急ぐ必要性を痛感していました。

この訴えは多くの関係者の耳に入り、14年6月、内閣官房・地域活性化統合事務局の特区担当部署に、現場の実態や改善策についてプレゼンテーションする機会をいただきました。そうした訴えの結果、同年10月に安倍晋三首相(当時)が官邸において「地域を限定して、保育士試験を年2回やる」と発表しました。

施行当初は、神奈川特区での取り組みに留まったものの、この決定はまたたく間に全国区へ。16年度から全国的に「保育士試験は年に2回」実施されることになりました。

休眠預金で社会を良くするしくみづくり

忘れられていた年間数百億の「休眠預金」を、日本中の困っている人々のために
忘れられていた年間数百億の「休眠預金」を、日本中の困っている人々のために

04年に法人を設立し、病児保育事業の創業と運用、小規模保育園というしくみの立ち上げと園の運営。そんなことに奔走する毎日だった10年のこと、これまでの支援事業に加えて、本格的に政策提言の舞台に出ていくきっかけになったのが、この「休眠預金の福祉利用」についてのロビイング活動でした。

きっかけは当時支援をしていたひとり親の方々との会話でした。
じゅうぶん過ぎるほどに”がんばっている”ひとり親の方々でも、一向に経済的には安定しない。そんな方々に少しでも安心して日々を送ってもらいたい。そこで駒崎が目を向けたのが、銀行で手つかずのまま眠っている「休眠預金」を福祉利用している、イギリスや韓国などの事例でした。
日本においてアントレプレナーを増やす活動をしているNPO法人Etic.の力で、プロボノリサーチャーたちが調査協力をしてくれました。そしてイギリスでは「Big Society Capital 」という休眠預金を活用した社会ファンドが作られていることと、その詳細を知ることができました。

休眠預金

日本における「休眠預金」とは10年以上、入出金等の取引がない預金を指す。09年1月以降に最後の異動があった預金等が原則として対象になります。

※参考出典 https://www.fsa.go.jp/policy/kyuminyokin/kyuminyokin.html

当時、日本の金融機関全体で年間に算出されていた休眠預金は約1000億円。この巨額な資産が毎年、金融機関の利益として処理されていました。駒崎は日本ファンドレイジング協会の鵜尾雅隆氏、弁護士の大毅氏らとともに、「日本版Big Society Capital」創設の政策提言活動を開始します。コツコツと志を持った政治家に働きかけ、こうした事例を伝え続けました。やがて、ともに動いてくださる議員の方々が現れ、次第に党を超えた動きになってきました。
ソーシャルセクターの多くの仲間たちも、ムーブメントを支えてくれました。全国各地で議論を行うイベントを開き、休眠預金を活用して人々を助けるしくみについて議論しました。

こうした地道なロビイング活動の結果、16年12月、ついに「休眠預金法」が成立しました。毎年発生する休眠預金を、預金者の権利は保護しながらも、制度の狭間で支援対象から外れてしまう人々を支援するために活用する。こうした理想的な社会スキームが誕生したのです。

これからしていくこと

次世代を担う政策起業家が増えるよう、横の連携を充実させます。さらに各テーマで民間からの政策提言がなされ、より良い制度が次々と生み出されていく社会を目指します。

Social Impact 社会的インパクト

赤い文字で「Florence」と書かれた白い壁の一部

国に働きかけて、政策として実現した提言

16

  • フローレンス設立当初から、2024年4月末時点までの結果

New Normal 新しいあたりまえ

国会前に集合する医療的ケア児の家族と支援者たち

古いあたりまえ

政策をつくるのは、政治家や官僚の仕事!

新しいあたりまえ

民間からでも、政策を提言できる!