社会課題の見える化と価値観の提起

ソーシャルアクション

「ルールと空気が変わり続ける日本」を叶えるとりくみ

ソーシャルアクション

Story ストーリー

まだ見ぬ課題を見つけ、光を当てる。
社会を巻き込みながら、
解決の「うねり」を生み出す。

「ソーシャルアクション」と聞いても、なかなか具体的なイメージが湧きにくいと思います。しかし「病児保育」、「医療的ケア児」「イクメン」……。今ではすっかり社会に浸透した言葉は、このソーシャルアクションによって生まれたものなのです。一言で言うと、「社会課題を見える化して、新しい価値観を提示する活動」。フローレンスでは、それをソーシャルアクションと呼んでいます。

Journey & Reflection 歩みと想い

1本道を歩く2人のこども

イシューレイジング

見えづらい問題に「社会課題」の光を当てる、言葉の力と伝える力

わたしたちが厚労省と行った「イクメンプロジェクト」は、それまで家庭内・夫婦間で抱えていた問題を、「社会で取り組む課題」として立ち上がらせることから始まりました。
当時、「父親」という言葉は「家事」や「育児」というイメージからはほど遠いものでした。しかし父親が家事育児に参加しなければ、母親だけが育児負担を背負うことになる。ならば「育児をする男性はかっこいい!」というイメージを広げることが必要でした。
そこで、わたしたちは、当時容姿が優れた男性を示す俗語である「イケメン」をもじった「イクメン」という造語(社会記号)を採用し、キャンペーンを行いました。結果として「イクメン」は一般化し、男性が積極的に家事育児に参加するのはあたりまえ、という価値観が急速に浸透していきました。

また、医療的デバイスをつけたまま生活するこどもたちのことを、「医療的ケア児」という社会記号をつくることで、その存在を世の中に広めました。当時は当事者や医療関係者の間でも呼び名が統一されていなかったため、「医療的ケア児」という言葉に一元化し、共通概念にすることで、社会で支えるべき存在として見える化。政策提言へと繋げていき、社会的記号である「医療的ケア児」を冠する法律の施行にもつながりました。
このように、社会記号を生み出し、メディアやネット等を通じてその概念を広げ、社会課題を見える化。同時にその解決策・支援策を提示していくことで、新しい認識と価値観を創っていくのです。これがわたしたちのソーシャルアクションです。

社会課題を解決する第一歩は、解決の「コンセプト」を見つけること

社会を変えるのが、“仕事”になる⁉️ 「社会起業家」という新しい概念
社会を変えるのが、“仕事”になる⁉️ 「社会起業家」という新しい概念

社会課題の解決は、政治家や官僚等の限られた人が担うもの。少なくとも日本においてはそれが「あたりまえ」だった2007年。この年の終わりに、駒崎弘樹初めての著作『「社会を変える」を仕事にする』が出版されました。「熱を出したこどもの預け先がなく、親が安心して働けない」という声を拾い、初めて「訪問型・共済型」という病児保育の事業モデルを生み出したフローレンスの創業物語が本書に詰め込まれました。

当時は、NPOといえばボランティア、という認識が色濃い時代。しかし、社会課題の解決を、プロとして仕事にし得る。フローレンスの病児保育事業は、日本においてそのことを証明した事業でした。本書で駒崎は「社会起業家」という日本ではまだ認知されていなかった概念を紹介し、新しい生き方を提示しました。

民間の立場のまま、政策や法律づくりに取り組む「政策起業家」へ

社会起業家として、新しい事業モデルを提唱することで、社会課題の解決策を提案したフローレンス。その後複数の福祉事業を続けるなかで、さらに課題の根本について目を向けるようになっていました。目の前で困っている人々を助けても、課題が生まれてしまう原因を断たなければ、また別の課題は生まれ続けてしまう。それが現場で課題解決に取り組むわたしたちならではの実感でした。

そこで、事業モデルを提示することと並行して続けてきたのが、時代や実情に即した新しい社会のルールを提案することでした。この政策提言の歴史を1冊にまとめたのが22年に出版された『政策起業家—普通のあなたが社会のルールを変える方法』(ちくま新書)です。

本書では、待機児童問題を解決するためにつくった「おうち保育園」が、「小規模認可保育所」という名称で制度化されたこと。医療的ケア児のための保育園をつくり、それがやがて「医療的ケア児支援法」という法律の実現につながったエピソードなど、フローレンスが起こした数々の制度変革について紹介。民間の立場から社会は確実に変えられる。そのことを実例を通して伝えました。

「働く」を再定義。「働き手が主役」にスイッチしよう

親子の課題に立ち向かうときに必ずついてくるのが、親たちの「仕事と育児の両立」問題でした。

09年に駒崎は『働き方革命—あなたが今日から日本を変える方法』(ちくま新書)を出版しました。「働く」の定義を、賃金労働に限定せず「傍(はた=他者)を楽(楽しく、負担を軽く)にする」こととして、とらえ直した内容です。会社で賃金労働をしながらも、他者を楽に、楽しくさせるために、いくつもの軸を持って生きていく。そのための業務のスマート化、時間の使い方、意識の持ち方について、具体的な提案を挙げています。

この「働き方革命」の考え方は、その後、男性育休の問題、ひとり親支援、障害児家庭の就業支援など、多くの取り組みへと波及し、わたしたちの活動を押し広げていく力になりました。

保育士という仕事に、名実ともに光を当てられる制度を

保育事業当事者として、またイシューレイジングを主導する団体として、保育士という職業の社会面・賃金面での処遇改善は、早くから訴えてきた課題でした。長時間こどもの命を預かる責任の重い職業でありながら、その専門性はそれに見合った社会的評価を得られておらず、平均給与も社会全体のそれから大きく差をつけられていました。

フローレンスは、慢性的な保育園不足の原因として、保育士の処遇の低さに注目。保育園を増やしていくためにも、保育士の処遇改善を急がねばならないことをさまざまなメディアで訴え続けました。多くのメディア、そしてフローレンス以外の有識者の方々も保育士の処遇問題に言及してくれた結果、2017年厚生労働省主導によって、「処遇改善Ⅱ」が発出されるなど、段階的ではありますが政府主導による処遇改善は進められるようになりました。

この問題提起を、まずは自分たちから実践しようと、創業から現在も定期的に、自社で働くスタッフの処遇の見直しと改善を継続しています。

キャンペーン

世論に訴えかけ、瞬発的なムーブメントをつくる

児童虐待防止署名キャンペーンと「児童虐待八策」の提唱
児童虐待防止署名キャンペーンと「児童虐待八策」の提唱

18年6月、日本中に衝撃のニュースが駆け巡りました。両親に宛てて覚えたてのひらがなで「おねがい ゆるして」と書き残し、わずか4歳だった船戸結愛ちゃんが虐待によって命を落としたのです。
これ以上、こどもを虐待で亡くす国であってはならない——。フローレンスは事件の翌週には「なくそう! 子どもの虐待プロジェクト2018」を立ち上げ、署名活動を開始しました。
このキャンペーンでは、再発を防ぐ制度をつくることを政府と東京都に求めるため、専門家の知見を踏まえた「児童虐待八策」を提唱しました。

署名キャンペーンはわずか10日間で約10万人もの賛同署名が集まりました。
フローレンスはこの結果を受け、キャンペーンを推進してくださった有識者の皆さんとともに記者会見を実施。多くの報道で取り上げられました。加藤勝信厚生労働大臣(当時)、小池百合子都知事に署名を届け、提言を政策に盛り込むよう訴え、わずか1カ月後に、政府が総合緊急対策を発表しました。

ブラック校則にNO! 企業と連携した「#この髪どうしてダメですか?」キャンペーン
ブラック校則にNO! 企業と連携した「#この髪どうしてダメですか?」キャンペーン

キャンペーンの中には、企業と協働してメッセージを発信したものもありました。
19年、こどもたちの人権を無視するような、いわゆる「ブラック校則」へ問題提起した「#この髪どうしてダメですか?」キャンペーンに参加。
地毛が明るい色のこどもでも、黒く染めさせられる「黒染め指導」を問題視したもので、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社)のヘアケアブランド「パンテーン」のキャンペーンに賛同し、署名活動を展開しました。
署名は約2万人賛同を集め、東京都教育庁に提出することができました。これを受けて、東京都議会において、都立高校などで「黒染め指導」を停止する旨の答弁を引き出すこともできました。

こども予算倍増キャンペーン #子育て無料社会の提言
こども予算倍増キャンペーン #子育て無料社会の提言

22年に出生したこどもの数が80万人を割り込むという急速な少子化の進行を受け、23年に、岸田文雄内閣(当時)は「異次元の少子化対策」を打ち出しました。
それに対しフローレンスでは、出産から大学までの子育てにかかる費用を無償化する「#子育て無料社会」を訴え、新しいキャンペーンを展開。日本は他の先進国と比べて、対GDP比の家族関連支出が極めて少ない点を指摘。予算を先進国並みにし、「子育てにお金はかからない」と若い世代が思えるくらいに大胆な施策が必要なことを訴えました。
特設キャンペーンサイトでは妊婦健診と出産費用、0~2歳の保育料、小中学校の給食費、高校までの医療費など、子育て家庭にとって負担となっている費用項目を列挙し、それぞれに試算を添えて提言しました。

トレーニング

講演や研修でノウハウと思想を広く手渡していく

これまで、世にない事業モデルを創出した経験や、社会のルールづくりに携わってきた経験などを生かし、イシューから得た学びを広げる活動にも取り組んでいます。わたしたちがお伝えできるテーマは、例えばこんなものです。

プレパパの育児トレーニングの場「パパトレ」

日本の男性の育休取得率は少しずつ改善されていますが、家事育児への参加率はいまだ低いままです。そこでフローレンスの保育園をトレーニングの場として、育児の初歩的なノウハウをお伝えする「パパトレ」を提供。特にプレパパ向けに行うことで、具体的なシーンを通して、心と知識の準備をすることができます。

こどもへのハラスメント防止研修

「日本版DBS」の成立によって、教育現場の性犯罪の「再犯」は防げるようになっていく見込みです。しかし「初犯」防止はまだまだ難しいのが現実です。そこで、性犯罪が起きにくくするために、こどもに関わる現場の皆さんを対象に研修をすることで、現場の風土と空気を変えていく取り組みを行います。

保育園向け医療的ケア児受け入れ研修
保育園向け医療的ケア児受け入れ研修

「医療的ケア児支援法」によって、認可園での医療的ケア児受け入れが進みつつあります。しかし保育園の現場では、受け入れ体制をつくる上で戸惑いの声も上がっています。日本で初めて障害児を専門に長時間預かる保育園をつくりいち早く運営してきたフローレンスは、実用的な現場のノウハウを潤沢に持っています。オンライン研修と実習を組み合わせたトレーニングを提供し、医療的ケア児を安心して受け入れられる環境を一緒につくります。

これからしていくこと

目の前の人を事業で助け、制度を変えても、人の心や価値観が変わらなければ、真に社会を変えたことにはなりません。人の心や価値観の集合体が、文化です。だからこそ、「新しい文化をつくる」を加速させていきたい。
それにはフローレンスだけではなく、企業や市民の皆さんなど、さまざまなステークホルダーとの連携が不可欠。多くの仲間とともに新たなムーブメントを起こし、常に人々の心にさざなみを起こす存在でありたいと考えています。

Social Impact 社会的インパクト

赤い文字で「Florence」と書かれた白い壁の一部

フローレンスが立ち上げた署名活動に賛同してくださった人数

261,056

  • 2024年3月末時点までにフローレンスが立ち上げた4件の署名活動の累積

直近(過去4年間)のメディア掲載件数

3,248

  • 2020年4月1日~2024年3月31日のメディア掲載数

New Normal 新しいあたりまえ

国会前に集合する医療的ケア児の家族と支援者たち

古いあたりまえ

常識なんて変わらない!

新しいあたりまえ

新しいあたりまえはつくれる!