2024年6月5日、「こども誰でも通園制度」の創設を含む、子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案が参議院本会議を通過し、可決成立しました。
この制度は、親が就労しているなどの要件を満たしていなくても、誰もが定期的に保育施設へ通えるようにするものです。今後は、すべての親子がニーズに合わせて保育園を利用できる仕組みが本格的に作られていきます。
法案成立となったこの日、2年前「無園児家庭の孤独感と定期保育ニーズに関する全国調査」の記者会見の際、「無園児」を抱えて追い込まれてしまった話をしてくださった髙濱さん、全国小規模保育協議会・中陳理事が参議院へ駆けつけ、弊会会長駒崎と共に法案成立の瞬間を見守りました。
この「こども誰でも通園制度」は、日本の保育において大きな転換点です。
希望する全ての家庭が保育園を利用できるよう提言してきた私たちのこれまでの歩みと、
「大きな転換点」である理由、そして今後制度を意義あるものとするために乗り越えるべき課題を解説します。
フローレンス「みんなの保育園構想」のあゆみ
今回の法案「子ども・子育て支援法等の一部改正法」の成立によって「こども誰でも通園制度」が創設されます。この制度の本格実施は2026年度を見据えており、今後は親の就労の有無など保育の必要性の認定にかかわらず、すべてのこどもが時間単位などで保育園を利用できるようになります。
「こども誰でも通園制度」の目的・意義は以下になります。
・同世代のこどもと関わる機会を得てこどもの発達を促す
・親の育児負担の軽減や孤独感の解消につなげる
ただ「預かる」のではなく、保育園に通っていない未就園児に対してもより良い成育環境を提供するという意義があるのです。
フローレンスは、2021年から保育園等に通っていない、いわゆる“無園児”のこどもたちも保育園などを利用できるようになってほしいという「みんなの保育園構想」の提言に力を入れてきました。
2022年6月には大規模なアンケート調査結果を元に、社会から孤立している“無園児”家庭でも保育園が定期利用できるように訴える記者会見も実施しました。
同時に、仙台市にあるフローレンスが運営する「おうち保育園かしわぎ」で、一時預かりの仕組みを利用しながら未就園児の定期預かりも独自にスタートしました。
また、2023年度には、定員に空きのある保育園で週1〜2回程度受け入れる「こども誰でも通園制度」のモデル事業の実施事業者として採択され、東京都中野区、東京都渋谷区、宮城県仙台市で未就園児の定期預かりの実践を重ねてきました。
保育園誕生以来130年の歴史的転換点!
実はこの制度、就労要件を問わず全てのこどもが保育園などで過ごす機会を法律で保障されることとなり、歴史的な転換点ともいえるできごとです。
日本最古の保育園は、1890年に赤沢鍾美(あつとみ)が創設した新潟静修学校附設託児所です。当時のこどもたちは、弟や妹の世話を任されたいわば“ヤングケアラー”であり、そういったこどもたちが学校で勉強ができるようにと託児事業をスタートさせたのが始まりでした。その後、日本の近代化にともなって工場に附設された託児所が次々と誕生し、現代へと至ります。要するに、保育園の130年の歴史において、保育とは常に「働いている親のため」のものでした。
一方、世界に目を向けてみると、2000年代から保育園はすべてのこどもたちに開かれた場所へと変わってきています。背景には、さまざまな研究において、就学前教育・保育がこどもにとって非常に重要であるという考え方が広がってきたことが挙げられます。
つまり、今回の「こども誰でも通園制度」の創設によって親が働いても・いなくても保育が提供されるようになったということは、保育園の歴史を一転させる画期的なできごとであり、また、グローバルな保育の潮流に追いついたものだと言えます。
▼会長・駒崎の解説動画はこちら
意義ある制度とするために乗り越えるべき3つの課題
一方で、今回の「こども誰でも通園制度」には、まだまだ課題もあります。
「保育へのアクセス」「保育の質」の両面で課題が残る現状を踏まえ、「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」の附帯決議に「すべてのこどもが安心して利用できる保育に向けて迅速な検討を進めること」を求めています。
1. 利用時間の拡大
まず1つめの課題は「利用時間」です。
給付制度の創設は令和8年度だとしても、「月10時間上限」から「月10時間以上」への利用枠の拡大は令和7年度からに前倒しをしてほしいと訴えています。
預ける時間の上限が月に10時間では、こどもの育ちや親御さんに伴走することができません。こどもの成長にしっかり伴走するためにも、受け入れ可能な自治体では月10時間以上預けられる仕組みを取り入れてほしいと考えています。
2. 医療的ケア児を含む障害児を置き去りにしない設計
次に挙げられる課題は、「障害児に対する居宅訪問型保育」が制度から取りこぼされそうになっているということです。
「障害児」やたんの吸引や経管栄養などの医療的なケアを必要とする「医療的ケア児」を家庭で1対1でケアをしている親の負担感・孤立感は非常に大きいものです。
通園の難しい障害児・医療的ケア児が利用できる「居宅訪問型保育」が現時点では、制度の対象に含められていません。
すべてのこどもが対象であるはずの「こども誰でも通園制度」から、「医療的ケア児」「障害児」が排除されないようにするため、提言を続けています。
3. 保育現場に過度な負荷がかからないような配置基準の改善を
そして、「こども誰でも通園制度」の創設とともに、保育現場に過度な負荷がかからないような配置基準の改善も同時に行う必要があります。今の保育現場はその人手不足に加え、保育士の処遇など課題が山積みです。
保育士ひとりあたりが担当できるこどもの数を国が定めた「保育士の人員配置基準」は、日本は先進諸国の中でも群を抜いて低く、長年保育士の方々は大きな負担や責任の中で仕事に取り組んでいます。
保育の質を向上させるため、今年度からは、4、5歳児の保育士の配置基準を、「子ども30人に1人」から「25人に1人」に見直されることになりました。この見直しは76年ぶりで、改善自体は評価できますが、ほんのわずかであることには変わりなく、これにより現場の保育士不足という問題が解決するわけではありません。
こういった現状を改善しなければ、保育園や保育士への負荷は高止まりしたままとなってしまいます。今回の「こども誰でも通園制度」の創設と同時に「保育士配置基準の改善」も両輪で進めていく必要があると考えています。
「こども誰でも通園制度」をより良い制度に、今後も提言を続けていく
今回の法案成立で、全てのこどもに保育園とつながる機会が保障されました。利用しやすい仕組みをつくり、今後、試行的な事業で出て来る現場の課題や解決策を国や自治体とも共有しながら、こどもにとってより良い制度にしていくことが重要です。
今後も質の高い保育をすべてのこどもが享受でき、孤独な子育てのない社会をフローレンスは目指し、「こども誰でも通園制度」がより良い制度となるよう提言を続けていきます。