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「日本版DBS」法がついに成立!さらに乗り越えるべき3つの課題

「日本版DBS」法がついに成立!さらに乗り越えるべき3つの課題

#政策立案・政策提言 #日本版DBS

2024年6月19日、「日本版DBS」の創設を含む、こども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律案)が参議院本会議を通過し、可決・成立しました。
この制度は、こどもたちを性被害から守るため、こども関連施設・事業者に対し、就職希望者の性犯罪歴の有無の確認を義務付ける制度です。今後は、性犯罪を起こしたらこどもに接する職業に就きづらくなり、性犯罪の抑止力につながります。

日本版DBSについてさらに詳しく知る

フローレンスの「日本版DBS」創設までの歩み

わたしたちフローレンスは国内のこども・子育ての社会課題解決に取り組む認定NPO法人として、この課題にいち早く取り組み、2017年から日本版DBSの制度創設を提言してきました。

2020年6月、ベビーシッターの連続わいせつ事件を受けソーシャルアクション開始。

2020年6月にベビーシッターのマッチングサービスに登録していたシッターが、小児わいせつの疑いで逮捕される事件が発生。フローレンスではこの事件を受けて再度、こどもたちを性被害に遭わせない仕組みづくりが必要と訴えました。この時の「#保育教育現場の性犯罪をゼロに」との訴えは大きな反響を呼びました。

2020年7月に行った記者会見では、性犯罪者を教育現場に立ち入らせない制度として、「日本版DBS」創設の必要性を改めて主張。
この会見の3日後には森法務大臣(当時)に、そして2020年7月末には橋本内閣府特命担当大臣(当時)に「日本版DBS」創設を求める要望書と21,000筆以上集まった署名をお渡ししました。

こども家庭庁の目玉施策として、「日本版DBS」制度化への議論が加速。

「日本版DBS」制度化へ向けたアクションが実を結び始めたのは2022年6月のことでした。
岸田内閣のもと閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2022」に、「教育・保育施設等において働く際に性犯罪歴等についての証明を求める仕組み(日本版DBS)の導入」(骨太p. 13)が明記されました。
そして同年8月、令和5年度(2023年度)こども家庭庁の予算概算要求に「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組み(日本版DBS)の導入に向けた検討【新規】」が加わりました。これによって2023年4月に新設されるこども家庭庁において、「日本版DBS」は重要な施策であることが位置づけられたのです。

対象をこどもと関わるすべての仕事へ!署名を集め大臣へ提出。

日本版DBSの導入に向けた検討が大詰めを迎えていた2023年8月、国は日本版DBSの対象施設を保育園・学校などに限定しようとしているという報道がなされました。民間の塾やスポーツクラブなどの習い事などでもこどもの性被害が起きているのに、これではこどもたちを真に性犯罪から守ることはできません

そこでフローレンスは、8月10日に緊急署名活動をChange.orgで開始。
8万筆超の署名が集まり、9月1日、こども家庭庁の小倉こども政策担当大臣へ署名を提出。日本版DBSの対象を塾や習い事、無償ボランティアも含めた「こどもと関わる仕事すべて」とすることを強く要望しました。

2024年ついに「日本版DBS」法が成立。

これまで行ってきた様々な提言活動が実を結び、2024年6月19日、「日本版DBS」の創設を含むこども性暴力防止法が成立。こどもを性被害から守るための社会づくりに向けて、大きな一歩を踏み出しました。

法案成立となったこの日、「日本版DBS」創設に向けて共に歩んできた仲間が集まり、記者会見を実施しました。

フローレンス代表理事 赤坂緑コメント
「日本版DBS」創設は、こどもたちを守ることはもちろん、こどもと関わる現場で働く大人たちを守る意味でも必要です。
本日「日本版DBS」法が成立し、まずはここが第一歩と考えています。
改善すべき点はまだまだあると考えているので、引き続き議論は必要です。
真にこどもたちを守ることができる制度をつくっていくために大人たちの責任が問われていると考えています。
私自身も2人のこどもの母です。保護者の方や世の中の多くの方にまずは現状を知っていただくことが大事だと思っています。
よりよい制度にしていくことができるようフローレンスとしても、引き続き提言を行ってまいります。

学習塾「花まる学習会」代表 高濱正伸氏コメント
私自身、学習塾の経営を30年弱しています。そのなかで性被害を防ぐために、事業者としてもどうしたらよいか悩んでいました。
前科になりづらいゆえに、性暴力がきっかけでクビになった後も他の事業者で活動しているという横滑りの課題もあります。そういったことに問題意識を持っていました。
今回の法成立は大きな一歩。事業者としても問題意識を持っていたのでフローレンスさんたちが動き出してくださって感謝しています。
まだまだ課題はあるとは思いますが、ここから知を結集して制度をつくっていけると良いと思っています。

東京大学多様性包摂共創センター准教授 中野円佳氏コメント
2020年のベビーシッターの連続わいせつ事件を受けジャーナリストとして報道していました。そのなかで「日本版DBS」の必要性も訴えてきました。
今回の制度で、最低限前科がある人がこどもに関わる仕事を選ぶことを避けるようになると思います。小児性犯罪は再犯性も高い犯罪と言われているため、そこはひとつ評価できるところと考えています。
ただ前科をつけることには高いハードルがあると思います。被害者のなかで逮捕立件までいける方がそもそも少ない。今回は一歩前進ではあるが最低限ではあると思っています。
初犯をいかに防ぐかという部分で、研修や相談体制など支援する仕組みも必要だと思います。また、ある程度の年齢のお子さんには、何かおかしいなと思うことがあった際に、周りの人に相談できるような環境も必要だと思っています。

日本大学 文理学部教育学科教授 末冨芳氏コメント
今回の成立は大変意義深いと思っています。成立に至るまでの道のりが大変難しかった。
今回の成立の一番の意義は、わたしたちがやっとこどもたちを性暴力から守ることができるスタートラインに立てた、それに尽きると思っています。
ここから更にこどもたちを守りきれる日本にしていくことが非常に重要だと思っています。
法が成立しないとDBSの運用は動いていかない。
実装していかなくてはならないのは、どういう責任体制を組んで、どういう研修やノウハウを共有し、そこを国としてバックアップしていくのかという部分だと思っています。
教員養成課程や保育士養成課程では、こどもへの性暴力への禁止・防止・起きてしまったときの対策やケアについて学ぶ機会がなく、これはただちに改善が必要と考えています。
加害者を少なくしていくことも大切です。加害者側の治療やカウンセリングも重要だと思っています。
あらゆる場面でこどもたちが守られるより大きな仕組みが必要と考えています。

さらに意義ある制度とするため、乗り越えるべき3つの課題

一方で、今回の「こども性暴力防止法」には、まだまだ課題もあります。

1.照会の対象となる性犯罪歴の範囲

性犯罪歴を照会する対象となっているのは、刑法・条例に違反する行為(こどもに対する性的な行為、痴漢等)で有罪判決を受けた者(前科者)の情報のみです。つまり、起訴猶予(※)等は対象外となり、犯罪を行ったことが明らかでも、性犯罪歴のデータベースには載らないことになってしまいます。

小児性被害の中には「不起訴処分(起訴猶予)」や「懲戒処分」にしかならないものも多く、小児性犯罪で起訴され、有罪が確定するもの(前科)はごく一部。「こどもの証言」だけで、加害者が否認している場合、嫌疑不十分で起訴すらされないことが多く、保育・教育現場の小児性犯罪事件は内々の処理で終わることが大半と言われています。我々は、前科だけでなく起訴猶予等も対象とするべきだと考えています。

※犯罪の嫌疑が証拠によって認められているが、起訴して裁判を受けさせるまでの必要はないと検察官が判断した場合

2.性犯罪歴を照会できる期間

性犯罪歴を照会できる期間は、

禁錮以上 :刑の執行終了から 20 年
執行猶予 :裁判の確定日から 10 年
罰金   :刑の執行終了から 10 年

となっており、最長でも20年です。

一方、小児わいせつ型の性犯罪で有罪確定した者のうち、それ以前に2回以上の性犯罪前科を有している者について見ると、それらの前科も同じく小児わいせつ型であった者の割合は84.6%でした(※)。この数値は再犯率ではないものの、小児わいせつ型の性犯罪に及んだ者の中に、複数回の刑事処分を受けているにもかかわらず、同じく小児わいせつ型の性犯罪を繰り返す者が一定数存在することが認められているといえます。
現状性犯罪歴を照会できる期間は最長20年ですが、できる限り長い年数照会できるよう法案を見直す必要があります。

※ こども家庭庁「第2回こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」資料1「性犯罪の再犯に関する資料」

3.認定制度の課題

保育園や学校は「日本版DBS」が義務付けられましたが、塾や学童保育、ベビーシッターなどの民間事業者は「認定制」となりました。民間事業者は義務の対象事業者と同等の措置を実施する体制が確保されている場合、認定を取得することが可能です。
認定を取得するかどうかは任意ですが、認定を取得していない事業者は利用してもらえなくなる可能性が高いので、殆どの事業者が認定の取得を希望すると考えられます。

一方、児童への性暴力を防止するための措置を講じることが認定の条件となっていますが、教員への研修の実施や相談体制の構築、性犯罪前科の有無の確認などの条件を全て整えることは、特に人的・経済的に余裕のない中小事業者にとってハードルが高いと言えます。認定を取りたくても取れない事業者が出てこないよう、認定を取りやすい仕組みを整えていく必要があります。

今後も政策提言を継続

日本にもようやくDBS制度が導入されます。ただこどもを性犯罪に遭わせない社会づくりは始まったばかり。まだまだ課題は残されています。
法案成立後も、施行までに制度の詳細を決定、また施行から3年で法案の見直しが入ります。真にこどもを守る制度となるよう、フローレンスはこれからも国の動きを注視し、政策提言を続けていきます。


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