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何も知らなかったーズの多胎児おでかけ密着!!初めて多胎児家庭に寄り添った広報スタッフ2名が、社会や未来のことまでめちゃくちゃ考えてしまったお話

何も知らなかったーズの多胎児おでかけ密着!!初めて多胎児家庭に寄り添った広報スタッフ2名が、社会や未来のことまでめちゃくちゃ考えてしまったお話

#多胎児家庭支援

多胎児サポート+政策提言を続けてきたフローレンスの歩み

フローレンスでは、スタッフの市倉加寿代を中心に2019年から多胎児家庭のサポート活動、政策提言を続けてきました。活動の発端は2019年に行った全国約1,600の多胎児家庭に実施したアンケートでした。アンケートでは「多胎育児中に『辛い』と感じた場面」について、89.1%が「外出・移動が困難である」と回答し、双子ベビーカーに子どもを乗せたまま、公共交通機関であるバスにも乗車できない状況が明らかとなり、その状況を改善できないか、国や行政に提言を続けてきました。

そうした多胎児育児支援アクションの成果として、2021年6月には都営バスが先駆けてルールを改正。同年11月には「双子ベビーカー(二人乗りベビーカー)を折りたたまないままでの乗車」が、都内民間バス会社全線で、解禁されることが決定しました。

ルールは変わりましたが、当事者、バス会社、また同じバスに乗り合わせる利用客、それぞれの立場で理解を深めていくことが今後不可欠になってきます。そこで2022年12月には、東京都交通局が主催してくださり、多胎児家庭と都営バスの意見交換会が開催されました。

当日は多胎児育児の当事者として、日頃からフローレンスの「ふたご助っ人くじ」などを利用してくださっているご家庭に交換会へご参加いただきました。意見交換会の場所は都営バスの有明営業所。多胎児を連れて参加いただくには移動にサポートが必須!ということでそれぞれのご家庭の移動にフローレンススタッフが出張してお手伝いをすることになりました。

ご自宅から有明への移動→意見交換会→ご自宅へのお送りまでがトータル5時間ほど。その5時間のサポートをした広報スタッフ・アーリー(二児の母)と、現場の調整や移動手段・動線の確保に奔走した同じく広報スタッフ・うに(20代男性)。

この記事は、初めて多胎児育児に触れた2人がたった5時間で、とんでもない情報量にさらされ、焦ったり気づいたりしながら、社会と未来のことまで考えてしまったお話です。2月5日は「ふたごの日」! すべての多胎児と多胎児家庭へのエールを込めてお届けします!!


「子どもと外出するだけ」が一大イベント!!

こんにちは!アーリーです! 私は意見交換会の当日、2歳児と1歳児の双子、3人のママさんのサポートに付かせていただきました。

まだご家族に会ってもいない前日から、いきなり困難が訪れます。一番手こずったのが「タクシー手配」。双子ベビ-カーはセダン型の車両だと積み込めないため、「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」(※)または、ワゴン型やミニバンなどの大型車両を手配することが必須です。

※高齢者や車いす使用者、妊娠中や子ども連れの方など、さまざまな人が利用しやすいタクシー車両であることを国が認めるユニバーサルデザインタクシーの認定要領に適合したタクシー

年末の東京はタクシーが大混雑! 加えて車種指定という条件があるのでアプリではなく、「スタッフ総勢5名でタクシー会社に電話をかけまくるしかない」という絶望的な状況が起こりました。2時間×5人の総力戦で、なんとかご自宅→有明という往路の予約に成功!しかも座席が3列ある大型ミニバンが予約できるという幸運が!

しかし双子連れの親御さんは、乗車する場所にも気を使います。全員の乗り込みにかなりの作業量と時間がかかりますし、運転手さんの協力も不可欠。十分な道幅のある道路に一時停車させて乗り込み作業をする必要があります。前日から親御さんと私はメールで綿密な打ち合わせを重ねました。

親御さんは大通り沿いのカフェを待ち合わせ場所に指定してくれました。「そこで子どもたちに直前までごはんを食べさせて時間を待つようにするので、タクシーをこのお店の前に呼んでくださるのが一番スムーズです」と、指定してくださいました。

待ち合わせまでに考えること+やることの多さたるや!!

カフェで無事会えたわたしたち。第一印象で本当に驚いたことは親御さんの荷物の多さでした。大きなトートバッグや保冷バッグが合計7~8個に加え、大きな双子ベビーカーが鎮座しています。そしてこの荷物の多さの理由に、私は後で深く納得することになります。

さて、いよいよ乗り込みです。この手順の多さが想像を絶していたので可視化します。

乗り込み時の手順の多さ

① 子どもたち3名分に防寒させて外へ連れ出す(ママは終始コートの着脱はできない)

② まずは2歳児さんを車の2列目座席に座らせて、飛び跳ねないように見守る

③ 双子ちゃんAを私が抱っこ

④ ここで双子ちゃんBがぐずったので、親御さん素早く抱っこひもを装着して双子ちゃんBを抱っこひもへ

⑤ 双子ベビーカーに積載された大量の荷物を、車内で使うもの、使わないものに区分け

⑥ 車内で使う荷物を3列目座席に積む

※この間2歳児さん、ひっきりなしにママに語りかける

⑦ 運転手さん+親御さんで協力して双子ベビーカーを畳み、ラゲッジスペースへ載せる。隙間に残りの荷物をぎゅ~~~っと詰め込む

⑧ 運転手さん乗り込む

⑨ 2歳児さんが興奮し始めたため、車内で靴を脱がせる

⑩ 3列目座席に両手に荷物+抱っこひも状態の親御さんと双子ちゃんBが乗り込む

⑪ 2列目座席に2歳児さん、双子ちゃんA+荷物を抱いた私が乗る

⑫ 全員がシートベルト着用

⑬ ここで運転手さん初めて「どちらまで?」

この作業の間、三者三様の興奮する、ぐずる、「ママがいい」など、さまざまな主張を受け止めながら、私から「この荷物必要ですか?」などと聞かれながら決して声を荒げることのない親御さん。観音様のようでした。

いよいよ発進。1歳の双子ちゃんは元気と好奇心と主張がいっぱい!

閉まっている窓に頭から突っ込もうとしたり、乳児特有の「海老反り」で親御さんと私はつかんでいるのに精一杯。この車中が有明まで1時間半続きます。何度も退屈して腕から出ようとする双子ちゃんを必死に食い止めながら1時間半の片道が終わる頃には腕の筋肉が震えていました。

親御さんは巨大な保冷バッグに小さく切ったフルーツをたくさん忍ばせていていました。子どもたちの要求に合わせてフルーツ、おもちゃ、絵本、歌(合唱)、お気に入りのブランケットによる小芝居など、さまざまなアイテムを駆使して鮮やかに鎮めていきます。

「このための……!大荷物……!!」

荷物には3人分のグッズが、すぐに取り出せるようにぎっしりと詰め込まれていたのです。恐らく数日前から考えて荷造りされたのだろうな……。

「多胎児家庭にとってお出かけはハードルが高い」とは分かっていましたが、物理的な手間に加えて、あらゆる状況でも3人の無事と機嫌を守るための「計画」にも親御さんの大きなリソースが必要であることを知りました。

意見交換会は大成功! しかし多難な帰り道

そして本題の意見交換会がスタート。会のスタート前には3人分のおむつ替え(これがものすごく筋力を使う!)。親御さんと私にとっては時間通り、全員無事にこの会にたどり着き、おむつを3人分替えた時点でほとんどの体力を出し切っているほどヘトヘトでした。

意見交換会や乗車体験会は順調に進みました。

2歳児さんは都営バスの運転席に座らせてもらえた上、運転手さんの帽子までかぶせてもらって大喜び。子どもの夢を叶えてくれた交通局職員の皆様には本当に感謝です。

そして全子育て経験者が共感してくれるであろう結末を先に申します。

「帰り道、本当に大変……」

私も二児の母ですので、少し想像はしていたのですが、「早く帰りたい!」気持ちが言葉ではなく、泣き叫びで表現されます。「疲れて、お腹も空いて、もう窮屈だし、家に帰ってのびのびしたい!!」その気持ちは、大人も子どもも本当に一緒なんですよね。加えて復路は座席が2列のみのJPN TAXIで、往路よりもぎゅうぎゅうな状態でした。

親御さんはフルーツや動画作戦でなんとか応戦しますが、子どもたちの帰りたい気持ちはもう止まりません。泣き叫びと海老反り×3!!!にひたすら対応します。

そしてこのどうにもならない泣き叫びの最中にいると一番怖いのが、「どんどん焦ってくる」ことなんです。焦らなくてもいいのに。これは我が子の時にもよく感じていた名前のない焦りでした。運転手さんも「早く着いてあげたい」と焦ったせいか、どんどん運転にも反映されてしまい、車は揺れる、ますます泣くの悪循環。

多胎児育児の大変さは、3人分の対応力が問われながら、対応できる手はだいたい2本しかないというところに尽きます。少し想像すれば分かることですが、1人の人間が対応できることには限りがある。どんどん焦る。どんどん視野が狭くなる。でも自分が目を離せば即、子どもは命の危険にさらされる。私も当時、たった2人の異年齢の子どもでもそんな恐怖を何度も経験しました。

3人の乳幼児(2人はまだ立てない)を誰1人怪我させることなく移動させる。それは体力と神経をフルに使う格闘技に近い時間でした。しかもそこには全員分の命がかかっているという意味で、格闘技より心理的に過酷かもしれません。

「人より少しスペースを取る」という理由だけで、親御さんは涙が出るほど孤独で過酷な心理状態の中で移動しています。十分な計画と配慮があっても、「移動中全員が泣いている」ことは日常茶飯事です。「頼むからもうちょっとがんばって」と祈りながら命をかけて子どもたちの安全を守っています。その姿を「迷惑」と斬ることが誰にできるでしょうか。

意見交換会は年末だったので、私はこの日得た体験を、年末年始多くの友人や家族に話しました。誤解を恐れずに言えば、皆本当に「楽しそうに」聞いてくれました。なぜそんなに楽しそうなのかな?と思ったのですが、「誰かの生の体験によって、知らない世界を知る」という経験は本能的に嬉しいことなのだなと気づきました。

知らなかった世界を知って、もっと深く考えた仲間がすぐ隣にいましたのでバトンタッチします!


こんにちは!広報チームのうにです。

僕は意見交換会の当日、メディア対応と撮影を担当しました。

双子のお子さんとは常に付きっきりではなかったのですが、まだ子育て当事者ではない男性の立場からも、たくさんの気付きがありました。

「すみません」で消耗する子育て当事者

意見交換会が終わったタイミングで帰りのタクシーを手配したのですが、双子のお子さんの帰りの準備に時間がかかってしまったり、いざ帰るぞっていうときに限っておむつの交換があったり、ベビーカーを折りたたむのにも時間がかかり……。

結局、タクシーに乗り込むまでに約15分もかかってしまいました。

タクシーの運転手さんも待ちぼうけています。

思わず「すみません!」とタクシーの運転手さんに謝ったのですが、その時に「『すみません』ってこんなにも身を削られる言葉なんだ」とハッと気づきました。

今回のように、親御さんが「すみません」と謝る場面も多いのではないかと思います。

もちろん、自分が悪い場合は謝る必要がありますが、子どもがいることで思い通りにならないことは育児経験者なら誰しもあるのではないかと思います。

ましてや、多胎児育児はアーリーさんも体験談を書いている通り、過酷そのもの。

「すみません」と謝るたびに(自分だけが社会に迷惑をかけているのではないか?)という想いが段々と積み重なっていきます。そして、心が擦り減っていく。呪いのような言葉だなぁと感じた出来事でした。

このエピソードを、他のスタッフにも話したところ、

「これは『迷惑をかけた』のではなく『助けてもらった』のだから、ありがとうってお礼を言うようにしているよ」と教えてもらいました。

たった5文字の「すみません」を「ありがとう」という感謝の言葉に変えるだけで、言われた方も嬉しいし、自分の心にも優しいですね。

マイノリティの生きづらさは自己責任なのか?

突然ですが、僕自身はこれまで障害のある当事者を一緒に巻き込みながら、ワークショップやサービス開発を行ってきました。

さまざまな当事者の話を聞くと、当事者しか気づくことができない困りごとがたくさんあります。

2019年に行った全国約1,600の多胎児家庭に実施したアンケートでも見られるように、非常に多くの多胎児家庭が外出・移動に困難を抱えています。

アンケート結果の数字だけ見ると、ただ数が多いなという印象を持ちますが、たった1日の多胎児育児に同行しただけで「あ、これは母親だけで外出するには厳しすぎる」という現実を思い知らされました。

「知っている」と「体験する」は大違いであることを改めて認識したのです。

電車やバスなど、公共交通機関は「誰でも、自由に利用できる状態にあること」が原則です。

しかし、今でもSNSでは、双子ベビーカー利用者に対して

「バス運転手に負担を強いるならサービス料を払え」

「人の手を借りないといけないなら外出するな、自家用車を使え」

といった心無いコメントも見られます。

マイノリティの側にいるだけで、「日常を過ごす」だけでも大きな労力を必要とされています。

しかし、わたしたちは「公共交通機関に乗ってお出かけをする」という、たったそれだけのあたりまえのことを、あたりまえに享受できるようにしたいのです。

たまたま子どもが双子で生まれただけで、どうして自己責任な社会で生きなければならないのでしょうか。

ルールは変わった。あとはわたしたちだ

今ではさまざまな人が利用するバスも、約50年前はバリアフリー設備すら設置されていなかったのはご存知でしょうか?

かつて、バスには車いすを固定する設備がなく、運転手の裁量で乗車させていました。しかし、乗車拒否が多く、車いす利用者はバスに乗れないケースが相次いで発生していました。

この状況のなかで、1977年に脳性まひの障害者団体が社会運動を起こしてバス会社と対峙。「なぜわたしたち脳性まひ者はバスに乗れないのか? みなさんと同じ人間ではないのか」とバリアフリー問題を社会に知らしめました。

後に登場するノンステップバスや、交通バリアフリーに関する法律など、バリアフリー化の礎を創りました。

2006年に「バリアフリー法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)」が成立しました。「障害者等」の「等」には、ベビーカー利用者をはじめ、妊産婦、けが人などが含まれ、幅広い利用対象者を念頭に置いています。

また、移動等円滑化に関する国民の理解と協力、いわゆる「心のバリアフリー」の推進が盛り込まれました。これは、施設整備(ハード面)をするだけでは限界があるため、当事者の抱える困難を自らの問題として認識し、心のバリア(ソフト面)を取り除き、その社会参加に積極的に協力することが重要と考えられたものです。

今回の双子ベビーカーへ話を戻します。

東京都交通局をはじめとした関係各社の皆さまのご尽力により、昨年6月から都内全線で「双子ベビーカーは折り畳まずにバスに乗れる」というルールに改正されました。

多くの路線バスでノンステップ化が進み(なんと都営バスはノンステップバス導入率100%!)、ルールも変わりました。ハード面は整っているのに、なぜ「ベビーカーで公共バスに乗る」ことが、日本社会ではことさら議論を巻き起こしてしまうのか。

それはわたしたちの「心のバリアフリー」が、まだまだ進んでいないからなのではないでしょうか。

でもそれは、ノンステップバスが普及するより、ルールが変わるより、本来はずっと時間もお金もかからないものなはずです。

だって、わたしたちみんなが、相手の事情や背景に思いを馳せて、今日からの行動を変えればいいだけなのですから。


「#多胎児育児のリアル」を語ることが、社会の意識を変える

これまで多胎育児の問題解決に取り組むも、今回初めて体験したフローレンススタッフの2人。

多胎育児の大変さを改めて目の当たりにし、「何も知らなかったー!」と言わざるを得ませんでした。

わたしたちが知らなかったことは、きっと他の多くの人も知らないこと。今回はこの生の体験を語ることによって、知らない世界をより多くの人に知ってもらいたいと思い、この記事を執筆しました。

まずは困っている人がいたら声をかけてみる。そこで知らなかったことを知る。得た経験を他の人にも伝えてみる。それを聞いた人がまた新たに困っている人に声をかける。

やさしさが伝播していくように、マイノリティにやさしい社会をつくるには、この積み重ねなのかもしれないと感じています。

わたしたちは、明日事故に遭って、足が不自由になるかもしれない。そして遠くない将来、老いて動作が遅くなり、バスの乗降に時間がかかる身になります。

そう考えれば、公共交通機関に乗る・乗れないの問題は、誰もが当事者です。私も、あなたも。

将来「乗り降りに時間がかかるなら、バスに乗らないでくれ」と言われる社会か。

「ゆっくりで良いですよ」「必要なサポートありますか?」と配慮しあえる社会か。

どちらの社会に進むかは、今日のわたしたちの行動にかかっているのだと、心底思います。


2月5日は「ふたごの日」。

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あなたも多胎児育児の体験談や記事の感想をシェア拡散して、新しいあたりまえを更新しよう!!


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