2024年7月31日、厚生労働省委託事業「男性の育児休業取得促進事業(イクメンプロジェクト)」において実施した「若年層における育児休業等取得に対する意識調査」(速報値)および、令和5年度育児休業取得率の調査結果(厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」、以下「雇用均等基本調査」)の結果を公表。厚生労働省で記者会見を実施しました。
フローレンスの会長・駒崎弘樹は、2010年のイクメンプロジェクト発足時よりイクメンプロジェクト推進委員会の委員として活動し、2013年よりイクメンプロジェクト座長を務めております。男性育休の啓発とともに、男性産休創設、男性育休義務化に向けた政策提言を長年行ってきた立場から本結果をお知らせいたします。
「若年層における育児休業等取得に対する意識調査」においては、若年層の育休取得や働き方に対する意識を明らかにし発信することで、特に男性の育児休業取得への社会的機運を高めるとともに、中小企業における育児休業取得促進、若手人材の確保・定着を図っていただきたいと考えています。
また、雇用均等基本調査においては、男性の育児休業取得率が30.1%に達し、過去最高の伸び率を記録しました。
男性の約3割が育児休業期間は「半年以上取得したい」と回答
令和6年度「若年層における育児休業等取得に対する意識調査」
会見に先立って今年6月に実施された本調査では、8000人弱の全国の若者の声を広い、学生若年層の働きがいの傾向が明らかになりました。
【調査概要】
調査手法: WEB定量調査
調査期間: 2024年6月22日(土)~2024年6月25日(火)
調査対象: 全国の18歳~25歳の男女 高校生・大学生などの学生若年層
サンプル数: 7,840件(スクリーニング調査)、2,026件(本調査)
【本調査出典について】
本調査内容を転載される場合は、出典が「厚生労働省委託事業「イクメンプロジェクト」」であることを明記くださいますよう、お願いいたします。
【調査サマリー】
1.若年層は77.9%が仕事とプライベートの両立を意識。また、「仕事と育児も熱心に取り組みたい」男女はほぼ同率の結果に
2.若年層の育休制度の認知度は「知っている」が92.4%、「取得意向」が87.7%と、ともに9割近い結果。また、配偶者に育休を取得してほしい意向も88.6%と、若年層の育休を取得したい意向の強さが明らかに。育休を取得するに当たって希望する期間を聞いたところ、男性の約3割が「半年以上」を希望し、1年以上を希望する男性も16.0%と、長期間の育休取得の希望が高い傾向に
3.就職活動においてどのような企業を選定するかにおいても、69.7%が「育休取得実績」を重視していると回答。「男性の育休取得実績がない企業」に対しては、61.0%が「就職したくない」と回答し、就職活動において「男性の育休取得実績」を重視していることが伺えた
4.就職活動にあたって、「企業からどのような結婚や出産に関わる情報があると就職したい気持ちが高まるか」という問いに対して、「男性の育休取得率」と回答した割合が3割超。育休取得率が高い企業に対しては、「安定している」(41.5%)、「社員想い」(39.3%)、「先進的」(22.6%)、 「若手が活躍できる」(21.5%)などポジティブなイメージを抱いていることが明らかに
5.結婚、子育てのハードルは、男女ともに「お金の問題」が最も高く、次いで自分や結婚相手の「働き方の問題」と回答したものの、2位以降の回答に男女差が現れており、男性は4番目に「自分の働き方」を挙げている一方で、女性は2番目に「相手の働き方」を挙げていることから、男性が自身の働き方を考える以上に女性は相手の働き方が結婚、子育てを考える上での鍵だと考えていることがうかがえる結果となった
【調査結果詳細】
若年層は77.9%が仕事とプライベートの両立を意識。「仕事も育児も熱心に取り組みたい」男女はほぼ同数の結果に。若年層が考える働きがいを感じる働き方とは、所定労働時間の中では密度濃く働き、「仕事もプライベートも両立」できるスタイルであることが明らかに
「新卒で入社をする会社を選ぶ際に、将来の仕事(キャリア)とプライベートの両立を意識していますか」の問いに対し、77.9%(男女合計)が両立を意識していると回答しました。男女別では、男性の76.8%、女性の79.1%が、仕事とプライベートを両立できる働き方をしたいと思っていることがうかがえます。
「社会に出た後の働き方」について、何に働きがいを感じるか」の問いに対しては、「仕事もプライベートも両立する」(91.2%)、「定時であがる/休みは取得するけれどもその時間内は密度濃く仕事をする」(87.2%)の順に多く、仕事もプライベートも両方大事にしたいと思っていることがうかがえます。
また、「仕事も育児も熱心に取り組む」意向については、87.0%が「そう思う」と回答しています。男女別では、男性87.9%、女性85.9%と、「仕事も育児も熱心に取り組む」意向に、男女差はみられない結果となりました。
これらの結果から、若年層が希望する働き方とは、「仕事もプライベートも両立」できるスタイルであることが明らかになりました。
若年層は77.9若年層の育児休業制度の認知度は、「(制度があることを)知っている」が92.4%、「取得意向がある」が87.7%と、ともに9割近い結果に。88.6%の若年層が、配偶者に育児休業を取得してもらいたいと考えており、自分の取得意向の高さも合わせて若年層の育休取得への関心の高さが明らかに。育児休業の取得に当たり、希望する取得期間は、男性の約3割が「半年以上」取得したいと回答し、「1年以上」の取得を希望する男性も16.0%と、長期間の育児休業を取得したい意向がうかがえる
「育児休業制度」の認知度について、若年層の92.4%が「知っている」と回答しています。男女別でも90%以上が知っていると回答し、非常に高い結果となりました。「育児休業制度」の認知度を他の制度と比較した場合においても、若年層の90%以上が「育児休業制度」を認知しており、認知度が最も高い「年次有給休暇」(92.8%が知っていると回答)との差も僅か0.4ptでした。
また、若年層に「自分自身は育休を取得したいか」と尋ねたところ、「取得したい」が87.7%と9割近い結果になりました。男女別では、女性91.4%、男性84.3%と、多少の男女差はあるものの、男女ともに9割程度の若年層が、育休取得意向がある結果となりました。
「配偶者に育休を取得してもらいたいか」の意向を尋ねると、88.6%が「配偶者に育休を取得してほしい」と回答しており、男女問わず、若年層の育休取得への意向の強さが明らかになりました。
「育休の取得希望期間」については、男性の29.2%が「半年以上」と回答し、「1年以上」の回答も16.0%、「1か月~3か月未満」が25.3%と、若年男性の希望する育児休業期間は比較的長期であることが明らかになりました。
就職活動における企業選定においても、69.7%が「育休取得実績」を重視。「男性の育休取得実績がない企業」に対しては、61.0%が「就職したくない」と回答し、就職活動における「男性の育休取得実績」の重要度が明らかに
「就職活動にあたって企業選定における育休取得情報の影響度」を尋ねたところ、69.7%の若年層が影響があると回答しています。男女別では、男性63.3%、女性76.7%が影響があると回答し、女性の方がやや重要度が高い結果となりました。また、男性の育休取得情報の影響度について、「仮に男性の育休取得の実績がない企業があった場合、その企業に就職したいと思うか」と聞いたところ、61.0%が「就職したくない」と回答しました。男女別では、男性57.3%、女性65.1%となり、男女問わず半数以上が、企業における男性の育休取得実績を重要視していることが明らかになりました。
就職活動にあたって、就職意向を高める情報の第1位は「男性の育休取得状況」、若年層の約3割が、男性の育休取得状況を公表する企業に就職意向が強まると回答し、育休取得率が高い企業は、「安定している」(41.5%)、「社員想い」(39.3%)、「先進的」(22.6%)、「若手が活躍できる」(21.5%)など、育休取得率が高い企業に対してポジティブなイメージを抱いていることが明らかに
就職活動において、「どのような結婚や出産に関わる情報があると就職意向が高まるか」聞いたところ、「男性の育休取得状況」が33.4%と最も高く、育休取得の情報が、若年層の企業選びにおいて重要視されていることが明らかになりました。
また、「育休取得率が高い企業に対するイメージ」については、「安定している企業」(41.5%)、「社員想いの企業」(39.3%)、「休日・休暇の多い企業」(28.4%)、「先進的な企業」(22.6%)、「若手が活躍できる企業」(21.5%)と続き、育休取得率が高い企業に対しては、ポジティブなイメージを抱いていることが明らかになりました。
結婚、子育てのハードルは、男女ともにお金の問題」が最も高く、次いで「(自分や相手の)働き方の問題」という回答結果に。2位以降の回答に男女差が。男性は4番目に「自分の働き方」を挙げ、一方で女性は2番目に「相手の働き方」を挙げており、男性が自身の働き方を考える以上に女性は相手の働き方が結婚、子育てを考える上での鍵だと考えていることがうかがえる結果に
調査時点で結婚の意向がない若年層に対し、「結婚のハードル」について質問したところ、「お金の問題」が53.9%と最も高く、次いで「結婚相手の働き方」(42.2%)、「自分の働き方」(36.9%)という結果になりました。男女別の回答結果では、第2位の項目に違いがみられ、男性は「お金の問題」(55.9%)に次いで、「住居の問題」(39.0%)という回答が多かったのに対し、女性は「結婚相手の働き方の問題」(46.5%)が「お金の問題」(51.8%)に次いで多い回答結果となりました。
調査時点で子どもを授かることについての意向がない若年層に対し、子育てのハードルについて質問したところ、「お金の問題」が56.7%と最も高く、次に「結婚相手の働き方の問題」(36.1%)、「自分の働き方の問題」(35.9%)と、ライフイベントの共通課題が明らかとなりました。
男女別でみると、男女ともにトップは「お金の問題」(男女とも56.7%)でした。男性は「お金の問題」に次いで、「結婚相手の働き方」(36.4%)、「住居の問題」(35.1%)であるのに対し、女性は「自分の働き方」(39.7%)、「結婚相手の働き方」(35.8%)という結果となり、男女でハードルと感じる問題に差があることがわかりました。
イクメンプロジェクトとしての提言
今回の調査結果から、若年層が非常に高い割合で育児休業制度があるということを認知し、かつ積極的に取得したいと考えていることがわかりました。特に注目すべきは、希望の育児休業期間を聞いた設問に、男性の3割が「半年以上」という回答をした点です。つまり若年男性の9割が取得したい「育休」とは、現状の職場では大半である、数週間の「取るだけ育休」ではなく、数か月以上を前提とした「共育て育休」だということです。
人手不足の労働市場において、若年層がそのような意向を持っているということは、企業側は働き盛りの男性が数か月単位で抜けても仕事が回る職場を、常日頃から作る必要があるということです。
働き盛りの男性が数か月単位で抜けても仕事が回る職場とは、どのような職場でしょうか?
人が休むと回らない職場とは以下のような職場です。
- 雇用をギリギリの人数に抑え、いざという時は残業で調整する。育児中・介護中などの残業できない社員は冷遇する。長時間可能者が評価・報酬を得るので男女の賃金格差は縮まらない。
- 人海戦術で解決するので、デジタル投資しない。
これを踏まえて取り組むべきは以下のようなことです。
- 2019年から努力義務となっている勤務間インターバルを導入することなどに挑戦し、仕事の属人化を解消する
- 常日頃から「一人多く」雇用するようになり、週3勤務や、短時間勤務を積極的に採用・評価し、非正規の正規化を進める→時間内の仕事で評価され、男女の賃金格差が埋まる
- 人海戦術では残業が多くなるのでデジタル投資が促進される
「2023年度 厚労省イクメンプロジェクト調査」において、職場全体で働き方改革を実施している企業は男性育休取得日数が約2倍でした。その職場だけを支援しても日数は増えなかったことから、組織全体での働き方改革をすることが重要であることが分かります。
そのために重要なのは「均衡割増賃金率」です。時間外に労働させた場合に経営者が平日時間内労働の何倍支払うべきかを定めているものであり、日本においては1.25倍と定められています。その割増賃金率がいくつであれば、今いる従業員に残業させる1時間当たりの労働費用と、新たな雇用をした1時間当たりの労働費用が均衡するか理論上試算したものです。
産業別労働組合JAMの2020年の試算によれば53%であり、つまり時間外割増率が1.53倍であれば経営者には、今いる人材に残業させるよりも人を増やしたほうが安いことになるので、常日頃から追加人材を雇っておくインセンティブが発生します。逆に言えば現状の日本の1.25倍の割増賃金率は、ギリギリの人材しか雇用せず、残業で解決するほうが経営者が得をするようにできています。他の先進国では、平日時間外の割増賃金率は1.5倍です。
現在、日本で働くビジネスパーソンの多くが「自分が休んだら職場が回らない、だから休めない」という苦しさを感じています。 職場全体がそのような高ストレスの中でギリギリで働かされているからこそ、「子持ち様」というような反発が強くおこるわけです。「ギリギリ人員の頑張りと踏ん張りで耐え抜く職場」から、「頭数多めで、お互いの急な休みは想定済・お互い様の職場」を増やしていくことが重要です。
そうした日本社会を実現できなければ、個々の企業が選ばれないだけでなく、若者に日本で働くことを選択してもらうことはできません。今回の「若年層における育児休業等取得に対する意識調査」の結果なども踏まえつつ、経営者等の意識をかえていく必要があることをイクメンプロジェクトからは提言いたします。
イクメンプロジェクトについて
「イクメンプロジェクト」は育休制度見直しと合わせ、社会全体で、男性がもっと積極的に育児に関わることができる一大ムーブメントを巻き起こすべく、2010年6月に発足し、以降、様々な活動を展開してきました。2021年6月に育児・介護休業法が改正され、新たな「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設され、制度改正は段階的に進められてきました。今後「イクメンプロジェクト」では、新たな制度である産後パパ育休や企業の取り組みなどが社会に浸透・定着し、あらゆる職場で男性が育児休業を取るのは当然、となることを目指しています。今後も各分野の有識者等で構成される推進委員会を設置し、イクメンの皆さん、ご家族や企業・自治体等イクメンサポーターの皆さんとともに、時代を牽引していきます。
今回の記者会見に登壇した駒崎弘樹、小室淑恵の両名は、推進委員会委員(駒崎は座長)としてイクメンプロジェクトに参画しています。