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「産後うつがつらかった」と語った母の声 必要な支援を考える

「産後うつがつらかった」と語った母の声 必要な支援を考える

#Director's Voice

ふだんの仕事の中で、あるいはひとりの生活者として。
報道を目にしたとき、制度の動きに触れたとき、わたしたちの胸にふと立ち上がる感情や問い――。

そんな「わたしの声」をことばにして届けるのが、この「Director’s Voice」です。
フローレンスのディレクターたちが、それぞれの視点で、いまの社会に対して思うことをつづります。

初回は、代表理事 赤坂緑がつづる「産後の支援の空白」について。
ニュースの中の出来事を、わたしたちは「自分ごと」としてどう受け止め、応えていけるのか、一緒に考えてみませんか。

どんな思いで電話をかけたのだろう

5月初旬、埼玉で生後4ヶ月の赤ちゃんが亡くなったという報道がありました。
お母さんは「産後うつがつらかった」と話しているそうです。

事件の当日、児童相談所には「子育てに自信がない」と電話があったといいます。
お母さんはどんな思いで電話をかけたのだろう。泣き止まない生後4ヶ月の赤ちゃんを前にして、助けを求めたお母さんの気持ちを想像すると、胸がぎゅっと苦しくなります。
翌日には対面で支援を受ける約束もしていたようで、ほんのわずかのすれ違いが、とても悔やまれます。

さらに、5月末には千葉でも、生後4ヶ月の赤ちゃんが亡くなる痛ましい事件が起きてしまいました。こんなことが繰り返されてしまうのは、母親ひとりの問題ではなく、わたしたちや社会の側が、何かを見落としているというサインなのではないかと思っています。

「産後1ヶ月を過ぎれば、少しずつ元気になる」

そんな前提が、実はとても危ういのではと感じています。
産後うつは、10〜15%の女性が経験するという報告があります。
「しんどい」と感じたことがある人は、もっと多いはずです。

特に産後1ヶ月はリスクが高いとされますが、生後3〜4ヶ月を過ぎてから、うつ症状が出てくる方もいること。

産後1年後に、初めて深い不調を訴える方も珍しくないこと。

それらのデータや現場の声に触れるたびに、「産後1ヶ月」という区切りが、制度や支援の上でも、あまりに大きな分かれ目になってしまっていないかと考えさせられます。

産後1〜4ヶ月の“支援の空白”を埋めるために

出産後すぐは、保健師さんや助産師さんの訪問があったり、産後1ヶ月健診があったりと、いくつかの支援があります。

でも、その後って、どうでしょう。

健診の案内がまた届くのは、生後4ヶ月頃。
その間、赤ちゃんはどんどん成長していきます。特に初めての育児では少しの変化に一喜一憂したり、周りの子と比べて心配になったりする中で、誰にも相談できない。お母さんは産後からの疲れが取れず、寝不足が続いて心身ともにツライ状況で、 支援の手があまり届いていない「谷間」のような時期があります。

もしかすると、今回の事件が起きてしまったのも、その時期だったのかもしれません。

SNS相談がつなぐ、支援の糸口

フローレンスでは、「おやこよりそいチャット」というSNS相談窓口を運営しています。
いつでも気軽に子育てなどに関する相談や質問ができ、対応する専門職のスタッフが早期のサインに気づける工夫をしています。

たとえば、1歳の赤ちゃんを育てているお母さんから、「子どもが寝てくれなくてつらい」「毎日イライラしてしまう」といった日々の悩みを受け取っていた相談員が、やりとりを重ねるうちに、産後うつのサインが続いているのではと気づいたことがありました。

お母さんは、ちょうど育休から職場に復帰したばかりで、子育ても仕事も精一杯の状態。まわりに頼れる人もおらず、行政にも相談したことがありませんでした。そこで、本人と相談したうえで自治体と連携し、保健師の訪問支援につなぐことができました。産後のしんどい時期を、ひとりで抱え込まずに乗りこえるお手伝いができた出来事でした。

赤ちゃんがいて、外出が難しい時期にも、そっとつながれて、文字だけのやりとりから始められる。
そんな選択肢があることが、少しでも安心につながると信じています。

制度のすき間を埋める、次の一手

2026年度から本格実施となる「こども誰でも通園制度」も、こうした支援の空白を埋める一助になると感じています。
親の就労の有無に関わらず、誰でも保育所が利用できるこの制度は、こどもの育ちにとっても、親の孤独な子育てを解消するためにも、大きな意義があります。

ただし、現時点では利用開始は生後6か月から。
通常、保育園は生後57日からの受け入れが可能であることを踏まえると、受け入れ可能な園においては、「誰でも通園制度」も生後57日から利用できるような仕組みにしていくことが望ましいと考えています。

これからは、より多くの自治体や母子保健の仕組みとも連携して、
もっと早く、もっと確実にSOSを受け取れるようにしていきたいです。

男性育休を取ったあとのことも、もっと話されていい

また、家庭内での負担分散を進めるためにも、男性の育児休業取得促進も欠かせません。

育児の負担が母親に集中してしまう背景には、家庭だけでどうにかできる話を超えて、社会全体の構造的な課題があると感じています。

多くの家庭では、いまだに育児の主担当が母親というケースが少なくありません。
たとえ父親が育休を取っても、数週間で復職することがほとんど。産後1か月を過ぎたあたりから、再びお母さんが“ほぼ一人”で育児を担う状況に戻ってしまうことが多いです。

そのとき、お母さんの体調やメンタルの状態がどうなっているか、職場はどこまで気づけているでしょうか。

もちろん、お父さん本人の意識や意思だけではどうにもならないこともあります。
「申し訳なさそうに短期で取る」育休ではなく、もっと自然に、長めに、そして復帰後にも家族の状況に配慮できる職場の空気や制度が必要なのだと思います。

だからこそ、企業側ができることがあると考えます。

  • 男性の育休が1か月以上、当たり前に取れるような環境づくり
  • 男性の育休復帰後も、パートナーの育児や健康状態に寄り添う文化
  • 「本人」ではなく、「家族単位」でのサポート視点

育児を“家庭の中の話”で完結させない。

職場も社会も、いっしょに育児を支える。そんな「新しいあたりまえ」を、少しずつでもつくっていけたらと思っています。最後に、このたび亡くなられたお子さんのご冥福を心よりお祈りいたします。どうか、このような痛ましい事件が二度と起きない社会にするために。わたしたち一人ひとりができることを考えていきたいです。

書いた人 赤坂緑

書いた人 赤坂緑

認定NPO法人フローレンス代表理事。保育園事業・人事担当役員。慶應義塾大学卒業。事業会社にてマーケティング・育成等を経験後、2014年認定NPO法人フローレンス入職。Mr.Childrenをこよなく愛する男子2児の母。趣味のフラメンコが息抜きの時間です。


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