あの日、こどもが学校に行けなくなった
不登校は、ある日突然やってくる
これは、わたしが4年前に体験したことです。
こどもが小学2年生のとき、学校に行けなくなりました。
それまでも週に1〜2日休むことはあったものの、ゴールデンウィーク明けを境に、ぴたりと足が止まりました。
「こういうこともあるかもしれない」
そんな予感はあったはずなのに、いざその日が来ると、親としての心がまったく追いつきませんでした。
一気に押し寄せる不安と孤立
「仕事には行かないと。でもこの子を一人で長時間家に置いて大丈夫だろうか」
「この先、この子の人生はどうなるの?」
「まず、誰に相談すればいいのかわからない」
「育て方が悪かったの? 学校に責められたらどうしよう」
「祖父母にはきっとダメ出しされる…言えない」
心配と責任と自己否定がいっぺんに襲ってきました。
学校の先生たちに相談しても、「1時間だけでも来てみなよ」などと再登校を促す言葉。
それを聞いたこどもは、表情がぐっと曇りました。
スクールカウンセラーに相談してみたものの、「これからどうするか」の具体的な道筋は見えません。
気づけば、わたしはひとりで焦っていました。
「まじでこれ、どうすんの?」
差し伸べられる助けもなく、ただ立ち尽くすだけ。
社会から見放されたように感じて、心が潰れそうになりました。
「不登校になった瞬間、家庭の責任になる」この構造は、おかしい
でも、ふと思ったんです。
こどもが学ぶことは、基本的人権のはずなのに。
不登校になった瞬間、それが家庭の「自己責任」に切り替わってしまうこの仕組みって、やっぱりおかしいんじゃないか。
社会問題としての不登校
不登校のこどもは増え続けています。
文部科学省の令和5年(2023年)の調査では、34万人を超え過去最多となっています。

文部科学省はCOCOLOプランという不登校対策を進めています。
“学校の風土の「見える化」を通して、学校を「みんなが安心して学べる」場所にします。”という理念も掲げられていますが、多様なこどもの特性やニーズに応える体制ができているとはまだまだ言い難い現状です。
そして、不登校になったこどものうち、何らかの支援を受けたこどもは61.2%で、残りの40%近くは支援にたどりつけていません。

実際に、我が子が不登校になったときの状況を思い出すと、親がかなりアクティブに活動しないと、必要とする支援にはたどり着けませんでした。
支援にアクセスできていない親子の中に、深い孤立を抱えていたり、親の就労に支障が出たり、深刻な状況に陥るケースも多々あると想像します。
学校に行くのが「あたりまえ」という価値観
わたしたちは、こどもが不登校になった瞬間に、親子がこのような困難に追い込まれる現状を変えたいと願っています。
不登校になったすべての親子が、何らかの支援に速やかにつながり、孤立や貧困などの苦難に陥ることなく、一人ひとりに合った道を無理なく選択できる社会であってほしいです。
しかし、ここまでにお伝えした通り、かなり厳しい現状です。
最も大きな要因の一つは、一条校(学校教育法第一条に規定された学校のことで、一般的な公立・私立の学校)に通うことが「あたりまえ」で、それ以外の過ごし方は、「あたりまえではない」ものとして扱われている点だと思います。
本来あるべきは「多様な学び」
本来は、学校が多様なこどもの特性やニーズに応えられる場所であれば、不登校のこどもの人数はここまで増えなかったはずです。国でも学校を変えていくアクションを進めていますが、現状は厳しく、不登校になったこどもたちの多くにとっては、しんどい場所です。
不登校になった直後、傷ついたこどもは「自宅で何もせずゆっくりと傷を回復する」時間が必要です。
学校の集団教育で学ぶことが難しい特性を持つこどもは「自宅で学ぶ」のが適しているかもしれません。
そのこどもに合った「フリースクールで学ぶ」選択肢もあるかもしれません。
しかし、そうした選択に対して、家族や、学校の先生や、地域の住民から、「問題のあること」として言葉をかけられることがあります。
こどもが平日日中に不登校とは別の理由でお医者さんにかかったときに、「学校に行ってないの?」「どうして?」と、あたかも問題があるような態度で問い詰められた経験がわたしにもあります。
不登校のこどもたちへのニーズ調査でも、「不登校への偏見をなくしてほしい」という声が44.5%で、最も多かったです。

加えて、支援にたどり着くまでの難しさや、学校以外の選択肢の少なさなどの要因が重なり、親子が苦しい立場に置かれています。
夏の終わりに、悩んでいる親子へ
夏休みが終わりに近づくこの時期。
お子さんの行きしぶりや不登校に、不安を感じている保護者の方。
「9月からちゃんと学校に行けるかな…」と、胸をざわつかせているこどもたち。
どうか、忘れないでください。
不登校にともなう苦しみや戸惑いは、決してあなたのせいではありません。
それは、長年にわたってつくられてきた価値観や社会の構造が生み出しているものです。
学校に行くことが最適なこどももいれば、今は行かない選択をするほうがよいこどももいるはずです。いま必要なのは、「無理に合わせること」ではなく、「自分に合った過ごし方を一緒に探すこと」です。
どうかご自身の気持ちを大切にしながら、無理のない選択で9月1日を迎えてほしいと願っています。
頼っていい。ひとりで抱えなくていい
もし困ったときは、ぜひ、まわりの誰かを頼ってみてください。
まずは、学校のスクールカウンセラーに相談するのが一つの手段です。
支援のあり方には地域差や担当者による違いがあるのも事実ですが、丁寧に寄り添ってくれる方もたくさんいます。「合わないかも」と感じたら、遠慮せず他の相談先に目を向けてください。
各自治体には、不登校に関する相談窓口があります。
「親の会」など、同じ立場の人とつながれる場も全国に広がっています。
また、フローレンスグループが運営する〈フローレンスこどもと心クリニック〉でも、不登校外来を受け付けています。
「頼る」という行動は、決して弱さではありません。
むしろ、それは「いまを生きる力」の一つだと、わたしたちは信じています。
もし、あなたの身近に不登校の家庭があったら
この記事を読んでくださった方の中には、ご自身やご家族が当事者でない方もいるかもしれません。
身近に不登校のこどもがいたら、まずはその存在を、静かに、やさしく受けとめてください。学校に行くことが「あたりまえ」ではない価値観で、声をかけてください。周囲のまなざしが変わることで、こどもたちの未来は、もっと自由であたたかいものになるはずです。
まずは、当事者と、周囲にいる人たちから、少しずつ、不登校の「あたりまえ」を変えていけたらと願っています。
新しいあたりまえを、少しずつ
不登校のことを「問題」としてではなく、「ひとつの選択肢」として捉えられる社会にしたい。それが、わたしたちの願いです。
そして、その変化はきっと、当事者と周囲の人たちが、日々のなかで小さな声を交わしていくことから始まります。
書いた人 陣内 一喜

システム開発会社でのエンジニアを経て、「お父さんの働き方を変える」ために2014年フローレンス入職。
事業拡大期にバックオフィスのマネージャーとして組織づくりに従事し、現在はフローレンスの人事部である「迎える育む」チームで人材開発・組織開発を担当。
不登校親としての経験から、不登校支援プロジェクトを立ち上げ、第一歩として身近な当事者同士で支え合うための社内版・不登校親の会を運営。


