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「こどもへの性加害はなぜなくならないのか」わたしたち大人にできること

「こどもへの性加害はなぜなくならないのか」わたしたち大人にできること

#ディレクターズボイス

ふだんの仕事の中で、あるいはひとりの生活者として。
報道を目にしたとき、制度の動きに触れたとき、わたしたちの胸にふと立ち上がる感情や問い――。

そんな「わたしの声」をことばにして届けるのが、この「Director’s Voice」です。
フローレンスのディレクターたちが、それぞれの視点で、いまの社会に対して思うことをつづります。

今回声を寄せたのは、フローレンス代表理事の赤坂緑。
2回目となる今回は、「なぜこどもへの性加害はなくならないのか」という問いを入り口に、新しく成立した「こども性暴力防止法」の意義、そしてわたしたち大人にできることを考えます。

こどもへの性加害はなぜなくならないのか

学校教員などによる、こどもへの性加害の報道が後を絶ちません。

こどもに関わる仕事をする者として、また、小・中学生のこどもを持つ親として、報道を見るたびに怒りと悲しみがこみあげます。信じて預けていたこどもが被害に遭うことほど、親にとって辛いことはありません。

そして何よりも、こどもが感じたであろう恐怖や孤独、その後の苦しみを思うと、社会の一員としても「二度と繰り返してはいけない」と強く思わずにはいられません。

では、なぜこんなことが次々に起こり、なくならないのでしょうか。
その大きな理由のひとつは、これまで「こどもを性加害から守る仕組み」が日本には十分に整っていなかったことにあります。

声を集め、つないできた5年

こどもたちへの性加害をなくしたい。撲滅したい

わたしたちフローレンスは、この想いから2019年、英国で導入されていたDBS(犯罪歴証明)制度を参考に、日本版DBSの導入を呼びかけました。つまり、「こどもに関わる人の性犯罪歴を事前に確認できる仕組みを、日本でもつくろう」と声をあげたのです。

署名活動を通じて集まった数万の声は、一人ひとりの「こどもを守りたい」という願いそのものでした。わたしたちはその声を、協力・応援してくださる皆さんと力を合わせながら、政府や国会議員に届け続けました。議論を重ねる中で、少しずつ理解と共感の輪が広がっていきました。

そして2024年6月、日本版DBSを含む「こども性暴力防止法」が成立しました。5年にわたる歩みが、ひとつの形となった瞬間でした。

「こども性暴力防止法」とは

この法律は2026年12月に施行予定で、現在詳細が検討されています。
この法の施行により、性犯罪歴のある人が教育や保育の現場に入ることを防ぐ仕組みが整います。さらに、初犯を防ぐために大人への研修やこどもたちの相談体制を整えることなども盛り込まれています。こうした仕組みは、こどもを守るうえで大きな前進です。

ただし、まだ「とりこぼし」や「抜け道」が残っています

たとえば、こどもの持ち物に体液をつける行為は法律上は「器物損壊」、下着の盗難は「窃盗」とされ、性犯罪歴確認の対象外です。これでは次の被害を防ぐ手立てになりません。

また、学校や保育所は性犯罪歴の確認が義務化されますが、塾や学童、ベビーシッターなどは「希望すれば申請できる」認定制。つまり、事業者によって対応に差が出てしまうのです。

これから先も、より実効性のある制度になるように声をあげ続けることが欠かせません。

制度だけでなく、文化も変えていく

こどもを守るのは、法律だけではありません。日々こどもに向き合う先生や保護者、地域の人々が、「こどもの権利や安全を第一に考える文化」を育むことが欠かせません。

  • 先生が悩んだときに「一人で抱え込まなくていい」と安心して相談し合える環境があること
  • 保護者や地域が制度を理解し、一緒に守ろうとする姿勢を持つこと
  • こどもが自分の心や身体を大切に思い、必要なときに安心して声をあげられるような環境をつくること

こうした小さな積み重ねがあってこそ、制度は生きたものになります

本気が問われているのは、大人たち

法律ができたことは大きな一歩です。
けれど、それを本当に意味のある制度にしていけるかどうかは、わたしたち大人一人ひとりの本気にかかっています。

まずはこの法律のことを、多くの人に知ってほしい。
そして、こんなふうに「自分ごと」として考えてみてほしいのです。

  • 自分のこどもが通う保育園や学校では、どんな取り組みが進んでいるんだろう?
  • こどもを守るために、学校の死角にカメラを設置すべき?
  • 学習塾や習い事、キャンプや野外活動はどうなっているんだろう?
  • もし、身近にいるこどもが、体液をかけられたり、下着を盗まれたりしたら?
  • そもそも、うちの子は「性加害」ってどういうことか、知っているのかな?

こうした問いをきっかけに、一人ひとりが考え始めることが大切です。

そして、「もっとこうしてほしい」「ここは改善してほしい」という声をあげ、社会全体で制度を育てていく必要があります。

こどもがいる人もいない人も、すべての大人が社会の一員として「こどもたちを性加害から守るために、自分は何ができるか」を考え、行動していく。
その積み重ねが、こどもたちが安心して学び、育つことができる未来につながると信じています。

書いた人 赤坂緑

書いた人 赤坂緑

認定NPO法人フローレンス代表理事。保育園事業・人事担当役員。慶應義塾大学卒業。事業会社にてマーケティング・育成等を経験後、2014年認定NPO法人フローレンス入職。Mr.Childrenをこよなく愛する男子2児の母。趣味のフラメンコが息抜きの時間です。


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