ふだんの仕事の中で、あるいはひとりの生活者として。
報道を目にしたとき、制度の動きに触れたとき、わたしたちの胸にふと立ち上がる感情や問い――。
そんな「わたしの声」をことばにして届けるのが、この「Director’s Voice」です。
フローレンスのディレクターたちが、それぞれの視点で、いまの社会に対して思うことをつづります。
今回は、フローレンス副代表理事の杉山が「障害者雇用とDE&I」をテーマに執筆。
これまでの実践を振り返りながら、「障害は個人ではなく社会にある」という視点、そして小さな実践の積み重ねが社会全体をどう変えていくのか。
一緒に考えてみませんか。
「DE&I」の最前線にある障害者雇用
9月は「障害者雇用支援月間」です。このタイミングがあることが、社会全体が「障害者雇用」を見つめ直すきっかけとなります。わたし自身もこの月にあらためて「障害者雇用」について問い直しをしています。
最近「DE&I」という言葉をよく耳にするようになりました。(世界的には、非常にやるせないことに反DE&Iの潮流へのざわつきの方が今は強いかもしれません)
ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公正性)、インクルージョン(包摂)。持続可能な社会づくりに欠かせない考え方だと紹介されることが増えています。
でも、横文字で語られると、なんだか遠い話にも聞こえます。
本質はとてもシンプルで、「一人ひとりのちがいを認め合い、それぞれが安心して力を発揮できるように社会をデザインすること」。そう考えると、障害者雇用はまさにDE&Iの実践のど真ん中にあると思います。
障害は「個人」ではなく「社会」にある
フローレンスでは「障害は個人が持っているものではなく、社会の側にあるもの」という考え方を大切にしています。
例えばメガネがない社会だったら、視力が弱い人は「障害がある」とされていたでしょう。でも、いまはメガネやコンタクトが普及し、ほとんどの人にとって大きな壁ではなくなっています。
同じように、職場にエクイティ(公正性)を実現する合理的配慮が整えば、障害のある人もない人も働きやすくなる。
障害者雇用は“受け入れる側と受け入れられる側”という分断の話ではなく、みんなが活躍できる職場をどう整えるか、という話なのだと思います。
小さな実践から見えてきたこと
フローレンスの中でも、2017年から障害のある仲間(フローレンスではオペレーションズと呼んでいます)と一緒に働く工夫を積み重ねてきました。
現場でジョブコーチとして伴走してきたスタッフは、その取り組みを一冊の本にまとめました。「事例が他社に広がれば、障害のある方が自分の望むキャリアを描きやすくなり、転職や挑戦の選択肢も増えるはず」――そんな野望が込められています。
ジョブコーチが寄り添い、仲間全員で環境を整え、理解を深めながら、一人ひとりの強みを活かしていく。その試行錯誤のプロセス自体が、DE&Iの実践だと感じます。
本のページをめくると、仲間の顔が浮かんでくるようなリアルな現場の知恵が詰まっていて、他の組織にも広がり得る「HOW」の宝庫です。
実際に働くオペレーションズのメンバーからは、
「新しい仕事に挑戦していきたい」
「どんな仕事も受けて立つ!」
といった力強い声も。
まっすぐな言葉に触れると、わたし自身も背筋が伸びる思いがします。
社会の変化とこれから
2026年には、法定雇用率が2.5%から2.7%に引き上げられる予定です。
これは単に「数字を増やす」話ではなく、社会全体で障害のある人が活躍できる土壌をさらに整えることを求められている、というメッセージだと受けとめています。
合理的配慮を整えることは、結局は誰もが働きやすい環境につながる。
障害者雇用を通じてDE&Iを実践することは、フローレンスという小さな組織にとどまらず、社会全体が「誰もが自分らしく働ける場」へと進化していく道なのだと思います。
フローレンスの障害児保育園ヘレンやアニー、医療的ケアシッターナンシーで育ってきたこどもたちが、やがて働く年齢を迎えます。その未来に、彼らと共に働く場を描けるか。
もちろん、簡単なことではありません。けれど、一歩を踏み出すことで未来は確実に変わっていきます。
わたしたちの小さな実践の積み重ねが、社会全体の変化につながる。
そんな想いを胸に、わたし自身も仲間と共にこれからも挑戦を続けていきたいと思います。
みなさんの生活や職場の中には、どんな「小さな実践」があるでしょうか。
書いた人 杉山富美子

消費財メーカーのマーケターを経て、「より社会にとって意味のある仕事をしたい」と志し、2015年、フローレンスへ入職。2019年にディレクター(執行役員)就任。保育士資格も保有。「あらゆる親子のピンチに駆けつけるフローレンス」を目指して奔走中。
趣味はフィギュアスケート観戦。試合ごとのプロトコルを眺めるのが楽しみで、オリンピックシーズンの今年は特にワクワクしている。

