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総裁選、「次元の異なる少子化対策」はどこへ消えた?――こどもたちの現実を前に、何を語るのか

総裁選、「次元の異なる少子化対策」はどこへ消えた?――こどもたちの現実を前に、何を語るのか

#ディレクターズボイス

ふだんの仕事の中で、あるいはひとりの生活者として。
報道を目にしたとき、制度の動きに触れたとき、わたしたちの胸にふと立ち上がる感情や問い――。

そんな「わたしの声」をことばにして届けるのが、この「Director’s Voice」です。
フローレンスのディレクターたちが、それぞれの視点で、いまの社会に対して思うことをつづります。

今回は代表理事の赤坂が、少子化対策のいまを見つめながら、こどもたちの未来に寄せる想いを語ります。

「次元の異なる少子化対策」から2年

かつての岸田総理が「次元の異なる少子化対策」を打ち上げてから2年が経ちました。

早くも、「少子化対策」は過去のものとなってしまったのでしょうか?

今、自民党の総裁選が行われています。自民党の総裁選で選ばれた人は日本の「総理」となり、今後日本が進んでいく方向性を決めるリーダーとなる可能性が高い。それが「自民党総裁選」です。

各候補者の公約を見ると、「物価高騰対策」「経済対策」「防衛・外交」「地方創生」…

「次元の異なる少子化対策」はどこへ行ってしまったのでしょうか?

確かに、子育て政策や、教育についての政策を掲げてくださっている候補の方もいらっしゃいます。経済政策が少子化対策に繋がると考えて、経済対策に力を入れよう、という候補の方もいるでしょう。

しかし、まだまだ「少子化対策は全く重要アジェンダになっていない」と感じます。

日本の未来にとって、非常に重要な課題であるにも関わらず、真正面から語ることを避けている。「もう政府は少子化を食い止めることは諦めてしまったんだろうか?」とすら感じてしまいます。

依然として下降を続ける出生率

現在政府は、「2030年までに出生率1.8を実現する」ことを目標としていますが、依然として出生率は下降を続けており、2024年には過去最低となる1.15を記録しました。

出生数のピークを迎えた1949年には年間約270万人の新しい命が誕生していましたが、2024年には68万人と、ピーク時の約4分の1にまで減少しているのが現状です。(※1)

令和5年12月に閣議決定された「こども未来戦略」には、下記のような記述があります。

「若年人口が急激に減少する 2030年代に入るまでが、こうした状況を反転させることができるかどうかの重要な分岐点であり、2030年までに少子化トレンドを反転できなければ、我が国は、こうした人口減少を食い止められなくなり、持続的な経済成長の達成も困難となる。2030年までがラストチャンスであり、我が国の持てる力を総動員し、少子化対策と経済成長実現に不退転の決意で取り組まなければならない。」(※2)

ここに書かれているように、「少子化を食い止めること」と「経済成長」はまさに両輪。

こども未来戦略で記されたような少子化に対する危機感は、果たして総裁選で語られているでしょうか。

今を生きるこどもたちを取り巻く、厳しい状況

また、今を生きるこどもたちも、厳しい状況におかれています。

こどもの貧困率は11.5%と、9人にひとりは貧困状態に置かれていると言われています。特に、ひとり親家庭の約5割は貧困状態と、事態は深刻です(※3)。

また、ユニセフの調査によると、日本のこどもの「精神的幸福度」は36カ国中32位(※4)。これに呼応するように、こどもの自殺者数は2024年に529人と過去最高を記録しています(※5)。

さらに、不登校状態にある小中学生は全国に34万人います(※6)。当事者であるこどもだけでなく、不登校のこどもを持つ親もまた、深い葛藤を抱えながら過ごしています。

そして、1週間にひとり、虐待によって命を落とすこどもがいます(※7)。

「孤育て」に悩み、誰にも助けを求めることができず、自分自身も苦しみながらこどもに手を上げてしまう親がいます。

総裁選にも、こどもの未来の議論を

こうしたこどもを取り巻く危機的な状況を、なんとかしたいと語る総裁候補が現れてほしいのです。

わたし自身、中学生と小学生のこどもを育てる親です。

ひとりの親として、日々悩みながらもこどもたちに愛を持って子育てをし、未来の世代に、少しでもより良い社会を手渡していきたいという想いでフローレンスで微力を尽くして奮闘する毎日です。

それでも、ときどき「この子たちがあと数年後、今の日本でこどもを産むことに希望が持てるだろうか?」と不安になることがあります。

こどもを持ちたい人が、こどもを持つことを諦めなくて良い社会。
生まれたこどもが、自分らしく、たくさんの大人に見守られながら育っていける社会。
すべての人が、差別されず、多様なあり方が受け入れられ、インクルーシブな環境で生きていける社会。
こどもを産んだ人が、「産んで良かったんだろうか?」なんて悩まなくてもいい社会。

そんな未来を、これから総裁になる方には語っていただきたいのです。 

メディアの方も、どうか少子化対策、子育て政策をもっと取り上げてください。

そして、わたしたち市民も、総裁選でこどもたちのための政策を議論してもらうよう、声をあげましょう。

総裁選の投開票日まで残り数日。

日本の少子化やこどもが置かれている状況を真正面から見つめ、こどもが希望と手を繋いで歩いていける未来のためにどんな社会をつくるべきか、議論するきっかけにしませんか。

(※1)「厚生労働省「令和6年(2024) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」(2025)
(※2)内閣官房「こども未来戦略~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」(2023)
(※3)厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」(2023)
(※4)公益財団法人日本ユニセフ協会「ユニセフ『レポートカード19』先進国の子どものウェルビーイングコロナ禍後、急激に悪化」(2025
(※5)厚生労働省・警察庁「令和6年中における自殺の状況」(2025)
(※6)文部科学省 「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」(2024)
(※7)こども家庭庁「こども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第21次報告)」(2025)

書いた人 赤坂緑

書いた人 赤坂緑

認定NPO法人フローレンス代表理事。保育園事業・人事担当役員。慶應義塾大学卒業。事業会社にてマーケティング・育成等を経験後、2014年認定NPO法人フローレンス入職。Mr.Childrenをこよなく愛する男子2児の母。趣味のフラメンコが息抜きの時間です。


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