千葉市のとある保育所。運動会当日に期待を膨らませながらダンスやかけっこをしています。
一見すると分からないのですが、実はこの保育所には、医療的ケアの必要なお子さんが4名通っています。一緒に遊びながら、ときおり離れて血糖を測定したり、導尿のケアをしたり。こどもたちは慣れている様子で、ケアから帰ってきたお子さんを迎えてまた一緒に遊び始めました。
千葉市では約10年前から医療的ケア児の預かりをスタートし、現在7ヶ所で17名のお子さんを預かっています。試行錯誤を重ねながら医療的ケア児保育に取り組んできた千葉市の幼保指導課のお二人にお話を聞きました。

ここが千葉市の工夫ポイント!
①1つの保育所で医療的ケア児を複数人預かり、看護師も複数人を配置。看護師は週2日~4日勤務と柔軟に募集。
②医療的ケア児には担当保育士も配置。看護と保育の連携がよりスムーズになり、保育所全体でお子さんを支援できる体制に。
③幼保指導課と現場が密に連携。いつでも相談しやすい環境を整える。

フローレンス 小田
まずは、千葉市で医療的ケア児の保育について、これまでどのように取り組んできたか教えてください。


渡邉さん
元々、千葉市では障害児や重症心身障害児の保育を実施しており、幅広いお子さんを受け入れていました。
医療的ケア児についても、ニーズが増えてきたので、市としても自然と前向きに取り組んできたという流れですね。

フローレンス 小田
そうだったんですね。
いつから医療的ケア児の受け入れを始めたんでしょうか?

渡邉さん
2013年に導尿が必要なお子さんを預かったのが最初です。
当時は保護者がケアに対応する前提でのお預かりでしたが、その後、幼保指導課の看護師が対応するようになりました。

渡邉さん
2016年の児童福祉法の改正後は、医療的ケア児専門の看護師を雇用して、預かりを実施しています。

フローレンス 小田
現在はどのような受け入れ態勢なんでしょうか?

吉澤さん
2025年度は公立保育所が5ヶ所で15人、私立園が2ヶ所で2人の合計17人を預かっています。

吉澤さん
預かり時間は9時から17時までで、延長の対応はしていません。
ケアの種類としては、経管栄養や喀痰吸引、酸素療法、導尿、血糖測定とインスリン注射などに対応しています。
ポイント①:看護師の負担軽減のため一つの保育所に複数人を配置

フローレンス 石川
5つの公立保育所で15人というと、1保育所で3人ほど預かっていることになりますね。
1保育所あたり医療的ケア児1人としている自治体も多いように思います。なぜ千葉市ではそのような体制をとっているのでしょうか。


渡邉さん
預かりを始めた当初は、1保育所で医療的ケア児1人を預かり、担当の看護師1人がつく形でした。
ただ、これだと看護師が休む時は、お子さんにもお休みしてもらう必要があり、看護師も休みがとりにくい環境だったんです。

渡邉さん
医療的ケア児が増えるなかで、1保育所で複数の医療的ケア児を受け入れ、それに伴い複数の看護師を配置するようになりました。
結果として、各保育所に3~4人の医療的ケア児がいて、医療的ケアを行う週3~5日勤務の看護師2~5人を配置する現在の体制になっています。

渡邉さん
看護師を複数配置することで休みが取りやすくなりますし、互いに相談もしやすい。この点が働きやすさにつながっているのではないかと考えています。

フローレンス 石川
手厚い体制ですね。
他の自治体からは、0歳児担当の看護師以外に医療的ケア児の看護師1人をプラスするだけでも採用が大変だと聞きますが、どのように工夫しているんですか?


吉澤さん
医療的ケアを担当する看護師は、勤務日を週3日~週5日と幅広く募集しています。
ホームページなどで募集していますが、応募は比較的集まりやすいと感じています。

吉澤さん
9時から17時までの勤務で夜勤や残業がないので、子育て中の看護師の方も応募しやすいのかもしれません。

吉澤さん
やはり、フルタイム・週5日で採用しようとすると見つかりにくいのではないかと思います。
実際に勤務している看護師も子育て中の方や年配の方もいて、フルタイムで勤務するのは難しくても、週3~4日なら働けるという方が多いです。

フローレンス 石川
さまざまなバックグラウンドの看護師が勤務できる仕組みは良いですね。
ブランクがあって不安だという方もいらっしゃると思うのですが、どのようなバックアップをされていますか?

渡邉さん
ケアに必要な手技については、お子さんが主治医を受診する時に同行して指導を受けられるようにしています。
機械の操作についてメーカーの方に説明してもらうこともあります。
また、地域の病院等が主催する研修を見つけて保育所に紹介することもあります。
ポイント②:保育現場をスムーズにする“担当保育士”

フローレンス 小田
千葉市では、昨年から医療的ケア児に担当保育士さんを追加でつけ始めたと伺いました。
どのような役割なんですか?


渡邉さん
看護師と連携してそのお子さんの医療面についても理解し、保育とつないでいく“窓口”のような役割です。
医療的ケア児1人もしくは3人あたりに、担当保育士1人を配置するようにしています。

渡邉さん
以前は医療的ケア児に対して看護師が1対1でついていたので、保育士が積極的に関われず、看護師が孤独感を感じることもありました。

渡邉さん
医療的ケア児担当の保育士を置くことで、保育士もケアについて理解を深めることができ、保育の内容にも落とし込めるようになってきたと感じています。
「分からないから一歩引く」のではなく「ケアはその子の一部」と捉えることで行動が変わってきて、ケアに必要な物品をどこに置くか、どうしたら遊びに参加できるかなど、保育士からもアイディアがたくさん出てくるようになったようです。

フローレンス 小田
見学させていただいた保育所では、医療的ケア児と他のお子さんが一緒に遊びながら、合間に自然なかたちでケアをしている時間もありました。
保育士と看護師の連携がそれを支えてるんですね。

吉澤さん
千葉市では、「保育の一部に医療的ケアがある」という考え方を大切にしています。
なので、看護師も保育について理解を深めてもらえればと、2025年度から保育士研修や要配慮児保育研修などに参加してもらうようにしています。

吉澤さん
保育士の研修には保護者対応や障害児保育、不適切保育、人権擁護などさまざまな研修があるので、看護師にとっても保育の観点を理解できたり、こどもへの言葉かけなど接し方を学んだり、良い機会になっているのではないでしょうか。

吉澤さん
医療的ケア児に加えて、他のお子さんとも接することが、保育所で看護師が働く楽しさややりがいにもつながるように思います。
ポイント③:入所の前後に現場と密に連携

フローレンス 石川
実際に医療的ケア児を受け入れる際の、幼保指導課の関わりについて教えてください。
保護者がお子さんを保育所に預けたいと思った時、まずはどこに相談するのですか。

渡邉さん
まずは区役所のこども家庭課にご相談いただき、その後幼保指導課で保護者の方と面談をして、医療的ケアや必要書類についてご説明させていただきます。
必要な書類とともに申請いただいた後は、こども家庭課の方が中心になって、申請後の面談を進めます。その後は集団保育でお預かりした際の対応方法等を諮る審査会に移ります。

フローレンス 石川
集団保育での受け入れが可能となった後、幼保指導課はどのようにサポートするんですか?

吉澤さん
集団保育が可能ということになれば、利用調整をして保育所が決まります。
保育所が決まった後、保護者と面談する際に幼保指導課も同席します。お子さんの症状や医療的ケアについてスタッフとともにヒアリングして、安全に預かれるように準備していきます。

吉澤さん
保育所・主治医・嘱託医・幼保指導課の4者の合同会議の開催をし、お子さんの様子、緊急時の対応、登園の目安などについてきちんと認識を合わせます。

吉澤さん
現場の声を受けて、ここ最近、特に保護者に丁寧に説明をしているのが「ならし保育」です。

フローレンス 石川
ならし保育は保育所生活の始まりで、お互いを知る大切な時期ですよね。
どのような点に気をつけて説明されていますか?


吉澤さん
ならし保育は、親御さんとお子さんに新しい環境に無理なく慣れてもらうとともに、担当看護師がお子さんに合わせた医療的ケアを習得したり、お子さんの個別性を理解したりするための期間で、保護者にも園で一緒に過ごしていただきます。
安心安全にお子さんをお預かりするためにとても大切なことです。

吉澤さん
医療的ケア児は感染症にかかったときに重症化しやすく、ならし保育中に体調不良になったり入院したりと、ならし保育がなかなか進まないケースもあります。
保護者も仕事の関係があるので復帰を急いでいることもあり、安全に預かりたい保育所と調整が必要になることもありました。

吉澤さん
なので、事前にきちんと、ならし保育とは何か・期間の目安や延長する可能性があることなど丁寧にご説明するようにしています。

吉澤さん
実際にならし保育が始まると、その間に幼保指導課もお子さんや保育所の様子を確認しに行きます。

フローレンス 石川
ならし保育が終わり、実際にお預かりが始まったあとはどのようにサポートしていますか?

吉澤さん
月に1回、幼保指導課のスタッフが巡回しています。
医療的ケアを滞りなく行えているかを確認することはもちろんですが、それ以外にも、保育所でスタッフが困ってることがないか、相談したいことがないかなどを聞いています。

吉澤さん
医療的ケア児を預かる際、個別に配慮が必要であっても、集団の中なので対応しきれない部分も出てきます。
そういった際に、保護者の方にどのようにご説明するか、どのような対応ができるか現場と一緒に検討しています。

吉澤さん
お子さんにも顔を覚えてもらいたいので、なるべく保育所に行くようにしているんです。
審査会の時に、保育所の状況を説明する必要があるのですが、実際に見ないと分からないことも多いですからね。

フローレンス 石川
見学させていただいた保育所でも、所長先生が「幼保指導課がお子さんの名前や顔を把握していて、何でも相談できることが心強い」とおっしゃってたのが印象的でした。
巡回以外にも相談や報告があるんですか?


渡邉さん
ヒヤリハットの共有ですね。大事に至らないことでも、荷物の確認漏れや、返却ミスなどを出してもらうことで、改善につなげていくようにしています。

フローレンス 石川
そういったヒヤリハットは各保育所に共有してるんですか?

吉澤さん
月1回、オンラインで公立保育所の担当看護師のミーティングを行っているので、その場で共有しています。
ミーティングではお預かりしてるお子さんの様子を報告し合ったり、ヒヤリハットを共有したりしています。
あとは保護者への説明の仕方やサマリーの書き方など、その時々のテーマに応じて、意見交換しています。

吉澤さん
受け入れを実施している保育所の所長会議も実施しているので、そこでお互いに困ったことや悩みごとも相談しています。
医療的ケアの有無に関わらず一緒に過ごす大切さ


フローレンス 小田
所長先生が「医療的ケア児を預かることで医療面で考えるべきことは増えたが、最終的には1人のこどもとして成長発達を支える保育の原点に立ち戻ることができた」と話していたのが印象的でした。
保育所を支えるお立場から見て、医療的ケア児を預かる意義について、どのように感じていますか?

渡邉さん
医療的ケアの有無に関わらず一緒に関わって遊ぶ環境が、一番大切だと考えています。
日常的に関わるなかで、お子さんの表情が柔らかくなります。

渡邉さん
また、周囲のお子さんも「◯◯ちゃんが笑ったよ」と教えてくれるなど、自然と心を寄せるようになります。
幼いころから医療的ケア児が当たり前にいる環境に触れることで、いろんなお子さんがいて、それでいいんだと理解できるでしょうし、個々の違いを自然に受け入れられるように育つのではないでしょうか。
お互いにすごくいい影響があると感じています。

渡邉さん
保育するうえでは色々な工夫が必要ですが、言葉で表現することができないお子さんが表情で伝えてくれたり、それを周囲のお子さんが理解したりすることで、保育士も看護師もうれしい気持ちになるのではないでしょうか。
医療的ケア児の保育の未来のために

フローレンス 石川
医療的ケア児が増えていくなかで、保育のニーズも高まっていくと予想されます。どのような取り組みをしていきますか?

渡邉さん
ニーズに合わせて、お預かりする保育所も看護師も増やしていくという形になると思います。
審査会で集団保育が可能と判断されたにもかかわらず、入れる保育所がないとか、看護師がいないといった理由でお預かりできないような事態は、その子やご家族にとって悲しいことですので、そういったことにならないよう取り組んでいきたいです。


フローレンス 石川
まだ医療的ケア児を預かったことのない公立保育所もあると思います。「いざ!」という時に取り組みやすいように、何か工夫していることはありますか?

渡邉さん
毎月、所長会議や主任保育士研修、看護師研修、栄養士研修などがあり、医療的ケア児のお預かりの様子について共有します。
近隣で実施している保育所がなくても、その記録を見ることで医療的ケアについて知ってもらえるんですね。

渡邉さん
いつか、自分が勤務する保育所で受け入れることになっても、こういった他の保育所の取り組みを覚えていれば、心理的なハードルが下がるのではないかと考えています。

フローレンス 石川
ニーズが増すと私立園の協力も必要になりそうですね。巻き込みに苦戦する自治体も多いようです。

渡邉さん
今、医療的ケア児を受け入れている2つの私立園は、たまたま在籍されているお子さんに医療的ケアが必要となり、卒園まで継続して保育するために対応を始めた園もありますし、ぜひやりたいと手を挙げてくれた園もあります。

渡邉さん
千葉市でも私立園での受け入れが広がればという思いから毎年説明会の時に、医療的ケアについてや補助金について説明しています。

フローレンス 石川
なかなか私立園が増えていかない現状には、どんなことが要因として考えられますか?


吉澤さん
今の補助金制度では看護師を雇用するのは大変な面があります。
例えば、2025年度に医療的ケア児の預かりを始めても、補助金が出るのは翌年度ということもあり、保育園の持ち出しで看護師の給料を払わなくてはいけない点がハードルです。

吉澤さん
また、補助金は実績に応じて支給されるので、途中で医療的ケアが必要なくなったり、転園したりしても補助されなくなります。
一方で看護師の雇用は守る必要がありますから、経営の面でも難しさがあります。

吉澤さん
保育園全体での理解が進むことも重要です。園長先生が受け入れようという方針を掲げても、保育士や他の職員の理解がないと進みません。
みんなで「やりましょう」という流れにならないと、私立園で広げていくのは難しいのかなと感じます。

フローレンス 石川
最後に、お二人が「これからこんなことができたらいいな」と考えていることがあれば教えてください。

渡邉さん
対応できるケアの範囲を広げていくことは今後の課題かなと思います。
例えば、必要なケアの一部だけを保育所で対応しているお子さんがいます。対象外のケアが必要になると、お迎えに来てもらっている現状があり、保育所でできることを検討していく必要があると感じています。

吉澤さん
看護師の配置などの課題もあるので実現までに時間はかかると思いますが、どの保育所でも医療的ケアが受けられ、在所中に医療的ケアが必要になったお子さんは、その保育所で保育を続けられるのが理想だと思っています。
今の保育の形に一足飛びでたどりついたわけではなく、「市民のニーズと目の前の課題にひとつひとつ対応し積み重ねていった」と話してくださった渡邉さんと吉澤さん。「まだまだ課題はあります」と話す様子に、これまで着実に歩みを進めてきて、これからも前に進む千葉市の姿が見えたように感じました。
医療的ケア児支援法の施行後、各地で保育園での医療的ケア児のお預かりに向けて試行錯誤が始まっています。一方で、前例がなく戸惑いを抱える自治体や、預かるなかで孤独感を感じる保育園のスタッフの方も少なくありません。
フローレンスでは各地の事例を共有したり、保育園に勤務する看護師や保育士の地域を超えた横のつながりをつくることで、現場で奮闘する皆さんを後押しします。障害の有無に関係なく誰もが安心して住まいの地域で暮らせる社会へ──。これからも皆さんと一緒に取り組んでいきます。


