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「やったほうが絶対にいい」——確認される側の保育園の園長に聞く、こども性暴力防止法

「やったほうが絶対にいい」——確認される側の保育園の園長に聞く、こども性暴力防止法

「しろせんせい〜!」

みんなのみらいをつくる保育園東雲の園長・白鳥智洋先生は、こどもたちからそう呼ばれています。高校時代は野球漬けで、今の趣味はフルマラソン。

そんなしろ先生は、以前勤めていた保育園で、保護者から園長を通して「できれば男性の先生には着替えの介助をしてほしくない」と伝えられたことがあるそうです。

2026年12月25日に施行される、こども性暴力防止法。学校や認可保育所などに、こどもを性暴力から守る取り組みを義務づける法律です。その一つとして、こどもと接する対象業務に就く人は、性犯罪の前科がないか、国による確認を受けることになります。

「確認される側」になる保育士は、この法律をどう受け止めているのでしょうか。しろ先生に聞きました。

話を聞いた人 白鳥 智洋(しろとり ともひろ)

話を聞いた人 白鳥 智洋(しろとり ともひろ)

新卒で幼稚園に就職し、7年間勤務。別の業界を知りたくなり配達員を2年経験。保育の楽しさを再確認し、病院内保育園を経て、2017年にフローレンスへ。現在は、みんなのみらいをつくる保育園東雲の園長。


男性の先生が少ない現場で

しろ先生が最初に勤めたのは、千葉県の幼稚園です。当時、男性の先生はまだ多くありませんでした。

──幼稚園では、保育の他にもいろいろな仕事を任されていたそうですね。

白鳥

男性が少なかったので、送迎バスの運転に芝刈り、ペンキ塗りと、何でもやりましたね(笑)。

7年いたんですが、忙しすぎて、一度は配達の仕事に移ったんです。でも2年たって、やっぱりこどもと関わる仕事がしたいと思って戻ってきました。

──男性だからと頼られる場面が多かったんですね。逆に、男性であることで不安の声を受けたことはありますか?

白鳥

直接言われることは、ほとんどないんです。

前に勤めていた保育園で、園長を通して「できれば男性の先生には着替えの介助をしてほしくない」と言われたことはあります。「おむつを替えないでほしい」「対応は女性の先生に」といった要望でした。

「そうだよな」と思った

──園長を通して届いた声を、どう受け止めましたか?

白鳥

そうだよな、と。

わたしにも娘が2人います。保育士による不適切な関わりのニュースを目にすれば、親御さんが心配になるのは自然なことです。

──悔しさや、引っかかる気持ちはありませんでしたか?

白鳥

ありませんでした。

時代の流れといいますか、「どうか信頼しておむつ替えをさせてください!」と求めるのも、違うと思うんです。おむつ替え以外にもたくさん業務があるので、フラットに受け止めていました。

身だしなみを整えて、元気に挨拶する

保護者の不安を「自然なこと」と受け止めたしろ先生には、安心してもらうために続けてきたことがあります。

──保護者に安心してもらうために、気をつけてきたことはありますか?

白鳥

初めて会う男性の先生に、不安を感じる方がいるのは自然なことだと思います。だからこそ、保育士としてできることを一つずつやろうと。

少しでも安心してもらえるように、身なりはいつも清潔にして、髪も整える。送り迎えのときは、こちらから元気に挨拶する。

実際に関わってもらえれば、体をいっぱい動かして遊べるし、頼りになると言ってもらえるんです。

──続けてきて、保護者に伝わったと感じた場面はありますか?

白鳥

「男性の先生がいてくれると安心します」と言ってもらえたことはとても嬉しかったですね。

体を動かすことなど日々の保育についてもそうですが、パパの子育ての悩みなど、わたし自身の経験もお話しできたりするので、その点は男性保育士ならではだと思っています。

保育園の園長・しろ先生が、相手に笑顔で話しかけている様子

履歴書の「賞罰なし」では、わからない

身だしなみを整え、挨拶や雰囲気づくりにも気を配る。保育士一人ひとりのそうした工夫に加えて、これからは国の仕組みも加わります。

確認の流れはこうです。

事業者がこども家庭庁に「犯罪事実確認書」の交付を申請し、働く本人も戸籍の情報をこども家庭庁に提出します。こども家庭庁が法務省に照会し、結果を記した確認書が事業者に届く仕組みです。 

新しく採用する人だけでなく、今働いている人も、順次確認の対象になります。園長も保育士も確認を受けます。性犯罪の前科があるとわかった場合、事業者はその人をこどもと接する業務に就かせないなどの対応をとります。

※制度の詳細は、こども家庭庁の「こども性暴力防止法」のページで確認できます。

今まで、事業者が働く人の前科を国に照会できる仕組みはありませんでした。

──採用のとき、これまではどうやって確かめていたのでしょうか。

白鳥

履歴書に「賞罰なし」と書いてあっても、事業者には確かめようがないんです。面接でもわからない。

フローレンスでは2024年から、応募のときに性加害歴がないことを申告してもらっています。前科だけでなく、不起訴になったケースや、前の職場での懲戒処分も含めてです。それでも、本人が「ない」と書けば、こちらにはそれ以上わかりません。

本人の申告だけに頼るよりも、事業者が国に確認できるほうが理にかなっていると思います。

──「確認される側」の保育士にとっては、どうでしょう。

白鳥

そこは大きなメリットです。これまでは、自分で「ない」と言うしかなかった。それを国が確かめてくれる。採用する側も、安心して迎えられます。

真面目に保育をしている先生たちを守るものでもあるんです。一緒に働くスタッフみんなが、保育に集中できるようになります。


──しろ先生ご自身も、2人の娘さんの保護者ですね。

白鳥

親としても、確認されているというのは安心です。現場の先生も安心だし、こどもも安心。やったほうが絶対にいいと思います。

わたしの娘は英会話教室に通っています。学校では学べないことを学んでほしくて通わせているのに、そこで心と身体に傷を負うことになったら、親としては悔やんでも悔やみきれません。

なお、学習塾やスポーツクラブ、放課後児童クラブ(学童)、ベビーシッターなどの事業者は、学校や認可保育所と違い、この法律に基づく認定の取得は任意です。こども家庭庁に申請して認定を受けた事業者には、性犯罪の前科確認を含め、法律で定める取り組みが求められます。ただし、個人で活動しているベビーシッターは、この仕組みの対象外です。

認定を受けた事業者はこども家庭庁のウェブサイトで公表され、認定事業者マーク(こまもろうマーク)を表示できます。

確認だけでは防げないから、毎日していること

法律で国が確認できるのは、裁判で有罪が確定した性犯罪の前科です。不起訴になったケースや、職場での処分は含まれません。

だからこの法律は、性犯罪の前科の確認だけでなく、こどもの様子の日常的な観察、面談やアンケート、相談窓口の設置、働く人への研修を事業者に求めています。性暴力を未然に防ぎ、早く気づくための取り組みを、ふだんから続けることが前提です。

──この法律で、こどもへの性暴力は防げるようになりますか?

白鳥

前科のある人を、こどもと接する仕事から遠ざけることはできます。でも、初めての加害は、この確認だけでは防げません。

だから、一緒に働いている人が声に出せる環境をつくること。それから、こどもたちに「イヤなことは、イヤと言う」と伝えていくことが大事だと思っています。

──園では、どんなことをしていますか?

白鳥

フローレンスの保育園では「自分の体は自分だけのもので、とても大事なもの」ということを、お子さんの年齢や発達に応じて伝えています。

おむつ替えや着替えのときは、パーテーションを立てて、周りから見えないようにしています。園内にはカメラも設置しています。不適切な保育の防止や、ケガや事故があったときの状況確認のためです。あとから振り返ることもできますし、抑止力にもなる。万が一疑いが生じたときに、スタッフを守ることにもつながると考えています。

白鳥

今回の法施行に向けて、保育スペースの死角をなくすため、カメラも増設することにしました。

こうした関わりや環境があるから、こどもたちは「いいこと」と「ダメなこと」を学んでいきます。触られたり見られたりして嫌だと思ったときに、「イヤだ」「やめて」と伝えられるようになるんです。

他の大人やこどもから着替えやおむつ替えの様子が見えないよう、パーテーションを立てている様子
他の大人やこどもから着替えやおむつ替えの様子が見えないよう、パーテーションを立てている様子

──「イヤなことは、イヤと言う」。小さなこどもには、どう伝えるのでしょうか。

白鳥

フローレンスの保育園では毎日、みんなで話し合う時間があるんです。サルやトラの人形を使って、「おもちゃを取られたサルくんは、今どんな気持ちかな」と一緒に考える。自分の気持ちも、相手の気持ちも大切にしていい。それを小さいうちから感じてもらっています。

「イヤだ」と言えるのは、その延長にあると思っています。

もっと小さい子には、言葉だけでは難しいです。なので、トイレや着替えは他の人に見えないところでする、という環境を毎日整えて、こどもにもわかるようにしています。

しろ先生が手にサルとトラの人形をつけ、輪になって座るこどもたちに語りかけている保育園での話し合いの時間

──スタッフ同士では、どんな工夫をしていますか?

白鳥

スタッフからの提案は、できるだけ取り入れるようにしています。言いたいことを言える雰囲気があるかどうかは、ふだんの積み重ねなので。

保育士が自分自身を守る上でも、それぞれのスタッフが声を出し合える関係性であることが大切だと感じています。

──法律への対応として、研修も受けたそうですね。

白鳥

はい。

研修を受けて、スタッフ一人ひとりが意識して取り組めると感じました。一過性のものにせず、しっかり続けていきたいです。

12月25日を前に

──法施行を前に、今どんなお気持ちですか?

白鳥

こどもたちを性被害から守るための仕組みがないままだと、何かあったときに悔やむことになる。ずっとそう思っていました。

悲しい思いをする人が減るのは、とてもいいことです。お子さんをお預かりする現場としても、すごく安心です。

──最後に、保護者の皆さんに伝えたいことを教えてください。

白鳥

園でどうしているのか気になったら、遠慮なく聞いてほしいです。着替えやおむつ替えのこと、スタッフの研修のこと。園で実施していることをお話しします。

お子さんの様子で気になることがあったときも、確信がなくてもかまわないので、相談してください。

おうちでも「イヤなことは、イヤと言っていいんだよ」と伝えてもらえたらうれしいです。園でも同じことを伝えています

12月25日から、こどもが通う園や学校には、こどもを性暴力から守る取り組みが求められます。学習塾や習い事、学童、ベビーシッターなどでは、国の認定を受けた事業者が表示できる「こまもろうマーク」が目印になります。

「どんな取り組みをしていますか」。

そう聞いてみることも、保護者にできることの一つです。


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