仮説をたてる
社会問題に対し、「なぜ」を繰り返し、その「構造」を把握することを前回述べた。構造が分かると、「ここを押せば問題が解決できるかも」というスイッチが得られる。このスイッチに対し、仮説としてのソーシャル・ビジネスモデルを構築していけばよい。
ソーシャル・ビジネスモデルを考える時には、「どうすれば可能か」という観点を中心に据えて考える。ダメ出しは後で「検証」というプロセスの中で存分に行える。
僕のやっている、熱を出した子どもを預かる、病児保育を例に取ろう。病児保育の構造的問題点は、国からの補助金の額が少ないことと、補助金を一旦もらってしまうと、利用者からもらえる料金設定にまで国が関与することになり、激安価格しか許されない。よって経済的に成り立たない、という点。
だとしたら、「経済的に成り立つ病児保育の仕組みをつくればよい」となる。
経済的に成り立つためには、逆説的だが補助金はもらってはダメだ。補助をもらわないとすると、既存の小児科医や保育所がやっているような、病児保育の施設を造って運営する選択肢は取れない。成り立たないものが、更に成り立たなくなる。
反証、検証、また反証…
「では、どうすれば可能か」と問う。だとすれば、施設を造らず、持たないという選択肢はないだろうか。保育士が熱を出した子どもの家にいけば、固定費はかからない。しかし、保育士だと熱を出した子どもを安全に預かれなさそうだ。
「では、どうすれば可能か」とまた問う。子どもの家で預かる前に、その子をいつも見ているかかりつけの小児科医のもとに連れて行って、預かっても大丈夫というGOサインをもらえれば、そのレベルの体調不良ならば預かれるのではなかろうか。もし預かれないくらいレベルが高い病気であれば、その場で保護者に帰ってきてもらえばよいのだから。あ、でも、かかりつけの小児科まではどう運ぶのだ。抱っこしながら10分以上歩くのは辛そうだし、自転車で搬送は危険だし。
「では、どうすれば可能か」と更に問う。歩くのが辛ければ、タクシーに乗るっていう手段がある。本社から手配すればよいだろう。でも、タクシー代を払うのは保護者の方々は嫌なのではないだろうか。うん、これは後でヒアリングで聞いてみよう。よし、検証項目に追加、と。
……という風に、部品を組み立てていく。この作業は、できれば紙とペンを手に持ち、手帳やメモに書きながら、が望ましい。目の前の模式図や殴り書きが、常に自らの思考を蓄積してくれ、自分は可能性を組み立てることに集中できる。
まとめよう。
・「可能である」ことをベースに仮説を立てる。
・もし「よく分からない」要素が出てきたら、ヒアリングや書籍、現場に入る等の方法で検証する
・モデルに反証される要素が出てきたら、「では、どうすれば可能か」を繰り返し、代替案を考え、繰り返す
ということだ。
粘りが肝心
注意してほしいのは、仮説が反証されても、凹まないことだ。今、反証されておけば、現実によって反証されるより、はるかにダメージは軽い。僕はビジネスプラン用のパワーポイントを100回以上直している。1日に何度も直したこともある。
さて、この作業をひと通り終えると、曲がりなりにもソーシャル・ビジネスモデルのたたき台程度のものができる。
このたたき台をベースに、ここからソーシャル・ビジネスモデル構築の最も難しい、「マネタイズ」の領域に話を進めていきたい。
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