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【社会起業のレシピ】vol.9「マネタイズモデル(受益者労働モデル)」

【社会起業のレシピ】vol.9「マネタイズモデル(受益者労働モデル)」

#政策立案・政策提言

今、僕は東京・虎ノ門にあるスワンベーカリーというカフェで原稿を書いている。今日のテーマがここにある。スワンベーカリーは一見するとソーシャルビジネスには見えない。普通の上品で感じの良いカフェだ。しかしここには大きな特徴がある。それが、働いている人が知的障害者である、という点だ。これが今日お話しする受益者労働モデルだ。

マネタイズ・マトリックス

マネタイズのための2つの道

通常では受益者とはサービスの受け手を指す。しかし受益者労働モデルは、労働を通じて社会的包摂をもたらす。主に、なかなか一般的な労働市場では働きづらい、高齢者・障害者・難病患者・元受刑者・ホームレス等に労働参加してもらい、一般消費者にモノやサービスを提供することで収益を稼ぎ、結果として労働参加した人たちに雇用を提供できる。しかし一般的な基準で言うところの労働生産性が高いとは言えない人々に労働してもらうことが、経済的に成り立つのか。二つの方策がある。自主事業路線と公的スキーム路線だ。

自主事業路線

この路線の代表格は、ビッグイシューだ。皆さんも駅前で雑誌を手売りしている人を見たことがあるかもしれない。このビッグイシューという雑誌を買うと、一部が売り手であるホームレスに行く。そうすることでホームレスが現金収入を得て、社会復帰へとつながる、というモデルだ。イギリスで生まれ、日本にも広がっている有名な事例である。また、徳島県上勝町のいろどりも著名だ。これは高齢者が山野から葉っぱを採集し、それを高級料亭のつまものとして加工し、出荷するというモデル。年収1000万円を超えた高齢者を輩出する等大きな実績を出し、超高齢化時代に希望を与える事例となった。

フローレンススタッフと駒崎
NPO法人フローレンスのオフィスでスタッフと談笑

公的スキーム路線

もう一つは、法律に基づいた事業にすることで、公的補助が出る、という道筋だ。典型的なものが、障害者雇用における就労継続支援A型・B型である。これは2006年施行の障害者自立支援法によって定められたもので、障害者を最低賃金以上の給与を払って雇用し、何らかの事業を行った場合、一定の給付金(補助)が入ってくる、という仕組みだ。この補助によって事業運営のハードルが下がり、雇用を生みやすくなる、という。以前は福祉工場等と呼ばれていたものである。

事業の鍵

自主事業路線の場合は、とにかくマネタイズ可能なビジネスモデルをゼロから創りあげるところが最も難しいところだ。公的スキーム路線の場合は、補助が入ってくることによって現場の障害者賃金はほぼ賄えることから、事業難易度自体は自主事業路線に比べ下がる。とはいえ、継続的に障害者等を雇用・訓練・定着させていかなくてはならないことから、マネジメント力の巧拙が大きく問われることになる。また、販路を拡大しなければやがてジリ貧になってしまうのは、通常のビジネスと同様なので、マーケティング力も必要になってくる。「障害者がつくったクッキーだから」買ってもらえる、というスタンスでは到底やっていけないのだという。

一般企業でも参入可能

また特徴的なのは、企業には従業員数の2%にあたる人数分の法定障害者雇用義務があるのだが、特例子会社を設立し、そこで障害者を雇用すれば親会社の雇用としてカウントしてもらえる。そうすると、特例子会社で新規のソーシャルビジネスを行うことで、自らの企業の法定雇用義務を満たすこともできるのだ。これまで遠かった障害者福祉の現場と企業の現場が、近づきつつあると言えるのではなかろうか。

ビジョン

この受益者労働モデルは、ともすれば一方的に「助けてもらう立場」の人が社会に参加し、価値を生むという大きな社会的意義がある。働くということは、単にお金だけでなく、社会に必要とされている実感を、働く人々に感じさせてくれるものだ。全ての人々に、居場所と出番を。これが受益者労働モデルの目指すところだろう。

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