ノリの違う人たちの登場!
組織を立ち上げた当初のメンバーは、創業者の熱い「思い」に共感して集まってきた人が大半。なので、その「思い」を実現するためには、何時間働こうがたいして厭わないはずだ。しかも、人数も少ない。この段階では、「労務管理」なんて発想はとくに必要ないといえる。ところがスタッフが増えてくると、そうもいかなくなる。立ち上げメンバーとは明らかにノリが違う人が入ってくるのだ。理念に共感し、頑張って働いてはくれるが、そのぶんの対価もしっかり要求する人たち。彼らから「残業はちょっと…」とか「就業規則」といった言葉が出るたびに、最初のメンバーたちは「はぁ?」とドン引く。しだいに「立ち上げメンバー」vs「新メンバー」という構図が色濃くなっていくのだ。
経営者としては、この状況を黙って放置しておくわけにはいかない。より多くの利用者に十分なサービスを提供するには、人員を増やすことは必須。しかしこれは、さまざまな価値観をもつ人が入ってくることを意味する。そうなれば、創業当初の「経営者とスタッフが一丸となって」といった理想論だけではすまない。新しい段階に入ったのだと腹をくくり、そうした人材に対応した仕組みを整えていく必要がある。
突発的な案件は「働き方のガイドライン」で
そこでまず着手すべきは2つ。「就業規則」と「働き方のガイドライン」の整備だ。
「就業規則」は、社会保険労務士などの専門家に相談しながらつくっていくといいだろう。ただし、丸投げはNG。組織の実情を反映しないものになってしまう。これでは、スタッフに遵守してもらうのは難しい。なので、「就業規則」づくりの主体は、あくまでもこちら。担当のチームをつくり、現場の意見を聞きながら構築していく。必要なときに専門家に相談するといったスタンスがいいだろう。
もう一つの「働き方のガイドライン」とは、就業規則の下部ルールにあたるもの。簡単にいえば、働き方のルール集。就業規則は組織にとってオフィシャルなもの。一度決めた内容の変更は簡単ではない。一方で、働く現場からは、こちらが想定していなかったような疑問点や提案などが毎日のように上がってくる。「仕事を家に持ち帰った場合、就業時間とカウントされますか?」「現場から直帰して良い時と悪い時は?」など、何となく、で済ませていた領域で、検討課題が次々と出てくるものだ。経営者としては、一瞬、めんどうくさいと思うかもしれない。でも、あいまいなままにすれば、現場のスタッフの不満につながりかねない。スピード感をもって対応していかなければならない。その基礎となるのが「働き方のガイドライン」なのである。現場から課題が上がってきたら、本部ではすみやかに検討。その対応策を「働き方のガイドライン」に、ルールの変更や追加のかたちで落とし込んでいくのがよい。
スタッフに周知させる方法もルール化
さらに、ルールの変更や追加があった場合には、関係するスタッフ全員にそれをきちんと周知させることも忘れてはいけない。書面に落とし込み、みんなでシェアする。シェアする方法は、メールやグループウェアを活用したり、現場のリーダーが説明したりなど、いろいろある。自分たちの組織に合った方法を選ぶといいだろう。ただし、どのようにシェアするかはきちんとルール化しておくこと。そこをいいかげんにしてしまうと、全体に行き届かなくなりかねない。
たとえばフローレンスでは、情報のシェアに関して、<1>スタッフ用のメールで伝える<2>グループウェアに上げる<3>毎週の研修で対面で伝える、の3つを必ず行うようにルール化している。何重にもシェアできる機会を設ければ、スタッフはどこかで必ずそれを見るはずだ。これで「聞いていない」という漏れを確実になくすことができる。
尽きることない現場の課題
「働き方のガイドライン」は、つねに変わっていく。「A」という案件に対応するためにあるルールをつくれば、現場からは新たに「では、A’の場合にはどうなるのか?」と疑問が出てくる。現場の課題は尽きることがないのだ。それに対して本部は、そうした案件一つひとつを検討し、対応策を出していく。そこまで丁寧に対応する必要があるのかと思うかもしれないが、こうすることが、結局はスタッフの不満を減らし、さらには満足度を上げていくことにつながる。組織をうまくまわしていくには、地道な作業が不可欠なのである。
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