前回取り上げたeNPS(従業員満足度調査)の結果を受けて、どのようにしてスタッフの満足度を上げていくのかを見ていく。
まずはマイナスをゼロに
そのポイントは2つだと述べたが、まず着手すべきは「マイナスをゼロにする」こと。なにせ、これを放置してしまうと、社内クレーマー度を高めかねない。組織にとって大きなダメージとなるのは疑いの余地がないのだ。
eNPSの結果を見ると、0~6の評価をした人の不満は、給料や労働時間など労務上の問題から発生していることが多い。そこで、それらの課題について、一つひとつ解決していく。
もどきでいい、「キャリアステップ」は創ろう
その1つが、前に「働き方のガイドライン」のところで見たように、現場からの疑問点や提案にはスピーディに対応すること。イレギュラーな課題は本部で検討し、対応策を周知させる。これだけでもかなり不満は解消される。さらに、「キャリアステップ」をきちんと示すことも重要だ。頑張って働きつづければ、やがて主任になり、園長になり、エリア統括になり……といった具合に、キャリアの階段を明確に示す。
それに合わせた「給与テーブル」も明瞭にしておく。こうした基準がしっかりあることによって、頑張ればキャリアは上がっていき、給料もアップしていくとスタッフは意識できる。そうした将来への見通しがあってはじめて、人はやる気になるものだ。なお、キャリアステップには2つの道を用意しておこう。1つが「管理職」への道。もう1つが「スペシャリスト」への道。
スタッフみんなが管理職になりたいわけではない。技術そのものを磨きたい人もいる。そうした人たちが満足して働ける道も整えてあげることが肝要だ。
ちなみに、そんな複雑なものは創れない、と尻込みしてしまうNPOもあるだろう。しかし、こんなものはググれば出てくるし、社労士さんに相談すればテンプレートをくれるので、そこを自分たちなりに埋めれば良いのだ。まずは、できるところから。
モチベーションアップ施策、あれこれ
次に、満足度を「ゼロから100に近づける」方法を見ていこう。これにはいろいろな施策があるし、色々なモチベーションアップ方法は、ビジネス本であまた紹介されているので、自分たちに合った方法を選ぶといいだろう。たとえば、経営者があれこれと口を出さずに、できるだけ権限を委譲し、スタッフを自主的に動かせるかたちを整える。これはスタッフの働きがいにつながっていく。
コミュニケーションの機会を意識的につくることも必要。社員旅行などの社内イベントや、研修、ミーティングなどコミュニケーションをとるための仕組みを整えていく。
こういうことは、どれかで爆発的に効果を生む、というよりは、細かいことをしっかり継続的にやっていって、ちょっとずつ効果を生んでいく、という形になる。ビジネス本を読んだり経営者仲間にヒアリングしたりして、良さそうなものはパクリ、試しつつ、効果出たら残し、出なかったら捨て、を地味に繰り返していこう。
単にやっていくだけだと経営者がバーンアウトするから、モチベーションを数値化し、向上を小さく祝っていくことで、経営者側のモチベーションも続いていく。そういう意味でも、eNPSはしっかり測り続ける必要はあるのだ。
理念と「制度」を結びつけよ
そして割と肝心なのが、理念の浸透を着実に行うこと。立ち上げメンバーは、経営者の「思い」に惹かれて集まってくる人が大半なので、こちらが何もしなくても理念は浸透している。ところが、新しく入ってくるスタッフの場合、浸透のレベルはまちまち。もちろん、わざわざソーシャル・ビジネスやNPOに参画しようというのだから、「儲けたい」という意識よりも「思い」を大切にする気持ちは強い。その気持ちに応えられれば、彼らの満足度は一気に上がる。そこで、スタッフが理念を共有できる場を積極的に設けていくのだ。
たとえばフローレンスでは、「フローレンス・ウェイ」という行動指針を作り、それを冊子にして配っている。それだけだと本棚でホコリをかぶって終わりなので、毎日、朝礼で「今日はフローレンス・ウェイの何番を体現していきます」と発表してもらう。更には、会議室にはフローレンス・ウェイにちなんだ名前をつけた。まるでサブリミナルである。これも理念共有のための施策だ。
そのほか、自分たちの活動のテーマとなる現場へ、スタッフ総出で「見学ツアー」をしてもいいだろう。とくに本部スタッフの場合、現場から遠くなりがちで、当初の「思い」が薄れてしまいがちだ。こうしたツアーはそれを思い出すいい機会となる。あるいは、自分たちのテーマと関連する映画を見にいく、講演会を聞きにいくといった体験も、同じような効果が期待できる。
ベタだが、四半期に一回大きな会議を行い、そこで理念を体現した人を表彰していくのも手だ。フローレンスでは、ウェイを体現した人を褒める「ピカリパット」制度があり、一番褒めた人と褒められた人を両方表彰する。景品は特別休暇1日分チケット。景品が喜ばれるのもあるが、理念に照らして「良いところ」を探してもらうことで、理念が伝わっていく、という仕組みだ。
不満続出の場合は採用活動の見直しを
ところで、eNPSを実施した結果、あまりにも不満が続出する場合には、人材の選抜の仕方に問題がないかを検討してみる必要があるだろう。自分たちの理念や働き方を、面接の段階でしっかり伝えきれていなかったり、その点を理解し共感してくれているかどうかを見抜けなかったりしている懸念が大いにありうる。なので、eNPSからの教訓は、採用面接用のチェックシートに反映させることも忘れてはならない。理念は時に最高の採用ツールになる。処遇では大企業に勝てないが、理念では勝ちうるのだ。それを利用しない手はない。
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