ありがちなトラブルへの対処法
これまで、NPO/ソーシャルビジネスの立ち上げ方や経営の仕方、展開の手法等、網羅的に語ってきた。こうしたノウハウも非常に大切だが、実際の社会起業および経営では、「日々発生する辛いことに折れない心とその対応方法」もまた、同じくらい大事だったりする。
特にNPOや社会起業の場合、成功しても経済的な見返りがあるわけでもなく、そもそももうからないから誰もやっていないような領域で、好き好んで事業を行うので、辛さもひとしお。
僕自身、NPO経営を始めて12年が経つが、「重き荷を背負い、長き道を行くがごとし」という徳川家康の言葉に全力で同意したい日々だった。
そこで、そうした日々ありがちなトラブルの千本ノックに、どのように対応していけばいいのか、経験を基にアドバイスをしていきたい。
周囲の9割はネガティブな意見を言うものである
さて、ソーシャルビジネスやNPOをスタートアップしようとすると、「そんなの無理だよ」「志はすばらしいけど、現実はもっと厳しいと思うよ」などなど、まわりから萎えることを言われることが多々ある。
そうなると、「やっぱり難しいかな……」と不安がどんどん大きくなっていき、盛り上がっていた気持ちもどんどん殺がれていく。
こちらの夢を殺いでいく存在を、僕は「ドリームキラー」と呼んでいる。文字どおり、夢を殺す人たち。
何かを始めようとすると、周囲の9割方は「ドリームキラー」になると覚悟しておいたほうがいい。家族であれ、近しい人であれ、たいていが反対する。
「無理だよ」にはたいてい根拠はない、が……
勘違いしないでほしいが、この方々は、基本的には善い人たちだ。彼らの善さが、あなたを止めさせる。悪意で言っているのではない。誰よりもあなたを思い、心配すればこそ、ダメだしをするのだ。
僕はこうした心や優しきドリームキラーに対して、基本的に「スルー力(するーりょく)」を発揮するようにしてきた。つまり、気にしない。「貴重な意見ありがとう!(でもまあ、俺はやるけどね)」と、自分の道に邁進するのだ。
そもそも彼らのほとんどは起業の経験がない人たち。「無理だよ」にはたいてい、根拠はない。彼らがなんとなくそう思っているだけだ。だから、いちいち気にかけて、自分の夢を殺がれていくのはもったいない。
経験に基づいた意見が価値ある情報になることも
ただし、完全に無視するのもNG。なぜなら、ドリームキラーの意見のなかには、1~2割、こちらにとって大いに役立つ、キラリと光るものがあるからだ。「病児保育をやりたい」という自分の夢をけちょんけちょんにけなされるなかで、僕は率直にそう感じた。
たとえば、あるとき、「子どもが病気のときって、たいがい実家の親に頼むから、病児保育って事業として成立しないんじゃない?」という意見をもらったことがあった。
僕は「たしかに……」と落ち込みそうになったが、同時に「ちょっと待てよ!」とも思った。彼の言うとおり、「親にお願いする」という選択肢がある人たちは、たぶん病児保育のサービス利用者にはなりにくいだろう。
一方で、親に頼れない人たちも一定数、存在する。実家が遠かったり、すでに親が亡くなっていたり……。こうした人たちには、「病児保育」のサービスを使ってもらえる可能性がある。
否定的な発言がきっかけを与えてくれた
ここで僕はようやく、自分の事業のメインターゲットを明確にイメージすることができた。彼の否定的な発言こそが、むしろそのきっかけを与えてくれたのだ。
さらに、彼らがどのようなライフスタイルをもつ人たちなのかを調べていくなかで、その具体的な人間像も見えてきた。マーケティング用語で言うところの、いわゆる「ペルソナ」に迫れたわけだ。
「なんで?」と聞き返すことを習慣にする
その意味で、ドリームキラーの意見はすべてスルーしない。とくに、その人の体験に基づいた具体的な意見は、自分のビジネスモデルを検証するうえでの貴重な情報となる。ぜひ活用させてもらったほうがいい。
ここで、その意見が自分にとって重要かそうでないかを見極める方法を紹介しよう。それは、ドリームキラーから意見された際に、「なんで?」と、その根拠を尋ねること。そのとき、相手が「なんとなく」とか「新聞やテレビとかでも言っていたし……」といった具合に、根拠が曖昧ならばスルーしてOK。
一方、それなりの根拠が感じられた場合にはスルーせずに、しっかりと向き合うこと。その意見を参考にしながら、より適切なかたちにビジネスプランを整えていくといいだろう。
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