「困っている人達」のために「個人商店」脱する必要
僕はこれまでに、ソーシャルビジネスやNPOが「個人商店」から脱皮できないまま、代表者(経営者)の高齢化や死とともに、その役割を終えた事例を数多く見てきた。
それではいけない。なぜなら、僕たちが展開するソーシャルビジネスは、先述したように「公の器」という存在なのだから。その組織や事業がなければ、今まで支えていた「困っている人達」が、真っ逆さまに奈落の底に落ちて行くことだってあり得る。
「経営者がどうなろうと、その組織は続いていく」
それこそが、社会事業を立ち上げた人間の責務だと僕は考える。
永続のための仕組み化と、それゆえの距離
それゆえ、仕組み化は欠かせない。最初は全部自分でやるが、徐々に下の人間を育てていき、任せていく。管理職という職位をつくり、スタッフ達への指示は自分ではなく、彼あるいは彼女を通して行っていく。
ところがそうなると、おのずと現場と経営者とのあいだには距離ができてくる。現場のスタッフからすれば、それまで同じ目線でいっしょに働いていた経営者が、どこか遠い存在になっていってしまうのだ。スタッフのなかにはそれに不満を感じ、経営者に向かって感情的な批判を口にする者も出てくる。
ここで大切なのは、「職位的な遠さ」と「心理的な遠さ」をイコールの関係にしないように努力することだ。
まず「なぜ」のコミュニケーション
自分の経験を話したい。もちろんフローレンスでも、そうしたことは起こった。それに対して僕がとった対応は、現場のスタッフたちと積極的にコミュニケーションをとり、僕がフローレンスをどういった組織にしたいのかを丁寧に伝えていくこと。
その際、とくに心がけたのが、「なぜ、僕が『組織』づくりに力を入れるのか」をきちんと説明することだ。
その最大の理由とは、利用者の皆さんが困らないため。フローレンスのサービスがストップしてもっとも困るのは、利用してくださる皆さん。だからこそ僕は、フローレンスを駒崎弘樹の「個人商店」で終わらせたくない。僕がいなくなっても、きちんとまわる組織にしたいのだ。
こうした話を、スタッフに何度も何度も、いろいろなかたちで伝えていった。
ベタにコミュニケーションし続ける
ただ、最初に理由だけ言っていれば、皆分かってくれる、というほど甘くない。折に触れて継続的にコミュニケーションし続けることが重要だ。
改まった場だけではない。飲み会、ランチ会、休み時間、朝礼、色んな機会をつかまえては、無駄話や家族の話、ちょっとした冗談も含めて、軽いコミュニケーション(=ストローク)をしていく。良いことを言う必要も無い。「軽く話を交わせる関係」を創ることが、距離を埋めていくプロセスなのだ。
心理的距離が近いと、何がもたらされるか
そこまでして、スタッフ達との距離を気にしなくてもいいのでは?という意見もある。普通の会社でも、普通は経営者と一般社員の距離は近くはない場合が多いだろう。大きくなればなるほど。
ただ、心理的な距離の近さは、思わぬメリットを生む。例えば先日、ある人と名刺交換をしたら、たまたまフローレンスの病児保育を利用してくれている方だった。
彼女は言った。
「この前利用させて頂いて、利用後ちょっと保育スタッフさんとお話ししたんです。そしたら、駒崎さんの話になって、彼女、目を輝かせてフローレンスのビジョンや駒崎さんの思いを語るんです。びっくりしちゃいました。そんな現場の方にも、理念を浸透させるのって、どうやってしているんですか?」
嬉しかった。と同時に、ベタにコミュニケーションを取り続けて良かった、と思った。とても大変だけど、経営者と心理的な距離感の近さを感じることで、理念の浸透が進むし、共通価値も形成されやすい。
こうした数値に置き換えられない部分は、真似されづらく、それがその組織の強みにもなっていく。あるあるトラブルだが、それは我々に何かを教えてくれるトラブルでもあるのだ。
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