11月29日、フローレンスを応援してくださっている寄付者の方々をお招きし、フローレンス初となる事業報告会を開催しました。
事業報告会のタイトルは「あなたが叶えた親子の笑顔」。フローレンスが、親子を取り巻くさまざまな社会問題の解決に挑戦し続けることができるのも、寄付をしてくださる皆さんのおかげです。
これまでも、メールニュースやホームページ、アニュアルレポートの発行などを通じて活動報告をしてきましたが、対面での開催は初めてのこと。まず今回は、東京近郊の寄付者の方を対象に、トライアルの意味も兼ねての開催となりました。
寄付者の方々は、私たちフローレンスとともに歩み、一緒に問題解決にあたっている同志のような存在。
日頃支えてくださっている皆さんに、感謝の気持ちをお伝えするとともに、これからのビジョンを共有する場にしたい……そんな思いを胸にスタッフ一同、約3か月かけて準備をしてきました。
満を持しての開催だっただけに、当日は始まる前からスタッフのソワソワ度と熱量が高まっていた報告会。
このレポートで、今回直接お会いすることが叶わなかった寄付者の皆さんに対しても、感謝の気持ちがお届けできたらと思います。
事業報告:フローレンスが寄付に助けられて叶えてきた親子の笑顔とは
当日はこのようなスケジュールで報告会を行いました。
・駒崎より、開会のご挨拶
・寄付を活用している各事業部からのご報告
・病児保育事業部
・障害児保育事業部
・赤ちゃん縁組事業部
・駒崎から「これから実現したい未来」について
・記念撮影
会は、代表の駒崎から寄付者の方々への挨拶で幕を開けました。
初めての報告会という場に、駒崎も少し緊張しながらも、フローレンスを支援してくださっていることに対して、心からの感謝の気持ちを述べました。
次は、事業報告会メインコンテンツのひとつである、皆様からお寄せいただいた寄付で実現した実績についての活動報告です。
寄付を事業原資の一部としている、病児保育事業部・障害児保育事業部・赤ちゃん縁組事業部の現場担当者から報告をいたしました。
フローレンスが寄付者の皆さんと叶えた「親子の笑顔」の足跡を振り返っていきました。ご報告内容の一部をご紹介します。
ひとり親家庭の病児保育問題を解決する、病児保育ひとりプラン
◎38名の利用会員で始まった病児保育事業、現在の利用会員数は6,000名を超えるまでに!
働く親御さんにとって悩ましい問題。それは、お子さんが急病になると保育園に預けることが出来なくなってしまうことです。
施設型の病児保育サービスもありますが、定員枠が少ないため、その時に利用できるかどうか約束されない施設がほとんどです。
幼いうちは体調を崩しやすいのは当然のことなのに、お子さんの看病で仕事を休みがちになったことで解雇に繋がるケースも実際に起きています。
お子さんが病気になった時、適切に回復を見守ってもらえる環境があれば、親御さんも安心して仕事を続けられます。
この病児保育問題を解決するために、フローレンスは2005年4月に日本で初めて訪問型病児保育を開始しました。
お子さんが病気になって保育園に預けられない時に、保育スタッフを派遣しご自宅で1対1でお預かりするサービスです。
38名の利用会員さんでではじまったこの事業は、現在6,000名を超える方々にご登録いただいています。先日、累計の病児保育お預かり件数は5万件を超えました。
◎寄付をもとに、お守りのような安心感を900人以上の親子に届けた「ひとり親支援プラン」
病児保育問題に取り組んでいく中で直面したのが、経済的に厳しい環境にあるひとり親家庭の問題です。
たとえば母子家庭の平均年収は、子育て中である一般世帯の平均年収の1/3と言われ、母子世帯の64%が年収200万円未満です。
しかも、母子世帯の57%が、非正規雇用で、働き手が一人しかいないにもかからず、収入源は不安定。共働き世帯と比較して、病児保育が受けられないことは深刻な問題になります。
そこでフローレンスは2008年、ひとり親世帯の就労継続をサポートする試みとして、寄付金を原資に「ひとり親支援プラン」を開始しました。病児保育のサービスを、ひとり親家庭に対して安価で提供しています。
病児保育を安心して利用いただけるようになり、それは「いざという時に子どもを見てくれる人がいる」という、親御さんの安心感につながっています。
「ひとり親支援プラン」は、延べ920名のお子さんたちに届けることができました。皆様からの寄付がなければ、叶えられなかった親子の笑顔がそこにあります。
障害児保育問題を解決する、障害児保育園ヘレンと障害児訪問保育アニー
◎日本初の障害児保育園開設から3年。保育を届けた障害児のお子さんは83名に
「待機児童問題」が騒がれる中、そんな待機児童にすらなれない子どもがいます。
それは、重度の障害があったり、医療的ケアが必要な子どもたちです。特に、たん吸引や経管栄養、酸素吸入など医療的なケアが必要なお子さんは、保育園では受け入れてもらえず、療育施設では長時間のお預かりができません。
保護者の就労を支援することを目的としてお預かりできる施設は、これまで日本にはありませんでした。
日本の障害児の母親の常勤雇用率は、僅か5%。母親全体の常勤雇用率34%に対し、約7分の1です。子どもを預けられないため、就労を希望しながらも、働けない障害児の母親が存在します。
それを「障害児保育問題」とフローレンスは呼んでいます。
どんなお子さんでも保育を受けられる権利がある。そして、親御さんにとっては働くことを選択する権利がある。
すべてのお子さんに保育を届けたい。
そんな想いから、医療的ケアができて長時間お預かりすることの出来る保育サービスを日本で初めてはじめました。それが、障害児保育園ヘレンと障害児訪問保育アニーです。
これまでにお預かりしたお子さんは、83名。利用者の親御さんのうち、希望する全員が就労可能になりました。
保育を必要とする東京23区の医療的ケア児数は約200名。そのうち41%のお子さんにヘレン・アニーによって保育を届けることが出来ています。さらに、来年には約6割まで到達する見込みです。
この事業は国の福祉制度を受けて運営していますが、サービス開始のための初期補助がありません。
そのため、開設時の設備投資費などの初期費用や保育スタッフの研修・育成費は、皆さまからご支援いただいた寄付を活用させていただいています。
プレゼンでは、障害児保育園ヘレンにお子さんを預け、社会復帰されたお母さんからのメッセージが紹介されました。
「介護のようだった子育てが育児になりました」
「私を社会に戻してくれてありがとう」
寄付者の皆さんとフローレンスで一緒に起こした変化の一片を噛みしめました。
赤ちゃんの虐待死問題を解決する、フローレンスの赤ちゃん縁組
◎715人の予期せぬ妊娠に悩む女性を支え、6人の赤ちゃんの縁組を実現
約1,300名もの皆様からのクラウドファンディングによる支援を受け立ち上がった赤ちゃん縁組事業。2016年4月にサービスを開始してから約1年半が経過しました。
日本で虐待死する子どものうち半数は0歳児です。2週間に1人の割合で赤ちゃんの虐待死が起きています。
赤ちゃんの虐待死の加害者は9割以上が実母です。予期せぬ妊娠に悩みながらも、周囲に相談できないまま、臨月を迎えてしまうことで、このような悲劇に繋がっている現状があります。
そこで、赤ちゃんの虐待死をなくしていくための解決策としてフローレンスが始めたのが赤ちゃん縁組事業です。
妊娠期に課題を抱える妊婦さんの相談を受け、生まれてくる赤ちゃんを育てられない場合には、出産と同時に子どもを望む育ての親に託します。
赤ちゃんの虐待死を防ぐためには、生みの親の支援と育ての親の支援、この両輪が必要です。
私たちは赤ちゃんも、生みの親も、育ての親も皆が幸せになる「赤ちゃん縁組」を目指しています。
スタートから1年5か月、715人の予期せぬ妊娠に悩む女性の相談を受け、また特別養子縁組を活用して、6人の赤ちゃんを新しい家族に迎えていただくお手伝いをすることが出来ました。
今回の事業報告会には、この「赤ちゃん縁組」を通じて、赤ちゃんを迎えられて、最近お父さんになられた方がお話しをしてくださいました。
家庭もより明るくなり、とても幸せな毎日です。
多くの皆さんから支えられて娘を迎えることが出来たわけですから、その方々のためにもしっかり育てなくちゃいけないと思っています。
まだまだ日本では、養子縁組の事例が少ないので、これから娘はいろいろな見方をされながら育っていくのかもしれない。でも、自分たちは隠すつもりもないですし、養子であっても家族であることに変わりはありません。
私達が幸せな家族でいることが、社会の理解にも繋がるのではないかと思っています。
これから実現したい未来を、寄付者の皆さんといっしょに
各事業部からの事業報告の後は、休憩を挟んで、代表の駒崎から、2017年に新たに始めた事業や、注力したロビイング活動、そしてこれからフローレンスが寄付者の皆さんとともに創っていきたい未来についてお話しました。
◎‘’7人に1人が貧困‘’子どもたちの命を繋ぐ「こども宅食」
フローレンスをはじめとする非営利団体や企業と文京区が共同で運営し、生活の厳しい子どもの家に、定期的に食品を届ける取り組み「こども宅食」が2017年10月にスタートしました。
駒崎:子どもの貧困問題に取り組もうと、2015年にこども食堂を始めました。とても好評ではありましたが、本当に困っている人を支援できているのか確信が持てませんでした。
貧困を隠そうとする家庭が多いので、周囲からは見えにくいんです。
来てくれたら相談に乗りますよ、という形だと支援が届かない。
待っているだけではなくて、こちらから困っている人と繋がりに行く必要がある、そのような考えで生まれたのがこども宅食です。
人が訪問をして食料を「手渡す」ことができれば、子どもたちや保護者と直接コミュニケーションが取れる。そうすることでそれぞれの家庭が抱える問題が分かり、必要に応じて社会的資源に繋げていくことができます。
この取り組みはとても反響を呼び、150世帯を対象として想定していたところ、3倍の450世帯から希望をいただきました。
ひとりでも多くの支援を必要する方にサービスを届けられるよう、引き続きふるさと納税のクラウドファンディングに力を入れています。
◎「子どもを預かる」から「家庭を支える」へ。保育ソーシャルワーク
フローレンスが東京と仙台で展開する「おうち保育園」。8年の運営を通して、保育園に求められる、新しい親子の支援のかたちが見えてきました。
駒崎:子供たちを取り囲む問題は多様化しています。既存の保育の考え方では、‘’お子さんを安全にお預かりして良い保育をしていく場所‘’というのが保育園でしたが、一歩進めて、家庭で子どもが安心して過ごせているのかどうか、保育園以外のところで起きていることまで目を配る役割があると考えています。
もし、家庭で不適切な養育があったとしたら、保護者の相談にのって、課題解決を一緒にやっていくことが大切です。保育の世界にソーシャルワークというものが入り込む必要を強く感じています。
既にフローレンスでは、新たな保育園の形を目指し動き出しています。
「保育ソーシャルワーカー」という新職種の導入が決まり、今後はフローレンスで運営する小規模認可保育園「おうち保育園」においてソーシャルワーク機能を備えていく予定です。
具体的には、保育ソーシャルワーカーが「おうち保育園」を定期的に巡回し、実際に保育にも入りながらお預かりしているお子さんと保護者の様子を把握していきます。その中で課題を抱える親子がいた場合にその保護者および保育スタッフとともに相談しながら、その親子にとって最適な「できること」を考えてアクションを起こしていきます。
◎法制度を変えて問題解決を目指す、ロビイング活動
社会にはさまざまな問題があります。古い社会通念や過去の生活様式を前提とし、社会の変化に法制度がついていけず、そのため多くの人が不利益を被っている、そんな状況はさまざまな分野で起こっています。
事業というかたちで、ひとつひとつの問題に解をつくっていくだけでなく、ということも重要です。
駒崎:国や行政に保育の現場や当事者の声を届け、保育や子育ての課題を認識してもらうことも、僕たちがすべきことのひとつだと考えています。
「ここにこんな問題があるよ」「こんな風に困っている人がいるよ」
そうやって光のあたりにくい課題をきちんと伝えていかなければ、世の中の認識は変わりません。これからも声を上げ続け、また声を上げる人たちをしっかりと支援していきたいと思います。
実際に、ひとり親の児童扶養手当の増額を求めるキャンペーンが立ち上がったことで、40,000人以上の署名が集まり児童扶養手当の二人目以上の給付額が引きあがった事例もあります。
法律や制度の変更をしないとなかなか課題解決に至ることが難しいものも数多くあります。本当に困っている親子に支援の光が当たるよう、今後も駒崎を中心に、政策にアタックしていく活動を続けていきます。
◎今より良い社会を、子どもたちに
駒崎は言います。
日本の未来はどうなっていくのでしょうか?
できれば、今よりも良い社会を子どもたちにプレゼントしたい。
たとえば10年後、こんな風に世の中の認識が変わっているかもしれません。
‘’医療ケア児が保育園に行けない時代があったんですか?‘’
‘’病児保育がない時代があったんですか?‘’
‘’イクメンってなんですか?‘’
同じ思いを持っている皆さんと一緒に力を合わせていけば、物事を解決しながら一歩一歩前へ進んでいけると信じています。
寄付者の方々は、さまざまなお気持ちを携えて事業報告会にお越しくださいました。
駒崎もスタッフも、可能な限りお一人お一人と触れ合い、お話しをさせていただきました。
ご友人のひとり親が亡くなったことをきっかけに寄付会員になってくださった方。
病児保育の利用会員でありながら、寄付者として貢献してくださっている方。
ひとり親支援を受けた後に、今度は寄付者として支援する側にまわってくださった方。
皆さんそれぞれ温かいお気持ちをお寄せくださり、親子の笑顔を叶えるエピソードのひとつひとつも一緒に喜んでくださいました。寄付者の方も、スタッフも一緒になって涙をこらえながら動画に見入っている時間もありました。
最後に、ご来場いただいた寄付者の皆さんと記念撮影を行い、事業報告会は閉会となりました。
初のフローレンス事業報告会。
「みんなで一緒に親子の笑顔をかなえていく」
そんな思いをひとつに分かち合えた、かけがえのないひとときとなりました。
フローレンスに所属するひとりひとりが、寄付者の皆さまへの感謝の気持ちを忘れず、ご支援を原動力にしてこれからも頑張ってまいります。
最後に、8年近く支援して下さっていた寄付者のOさん。
癌で余命宣告されている中、足をお運びくださいました。
「会えるのは今日で多分最後だと思うけど、来れて良かったよ」と笑顔でおっしゃっていました。
去る12月某日にお亡くなりになったことを受け、フローレンス一同、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
寄付者の皆さんと共に、まだ見たことのない未来をつくっていくことを誓って。
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