小さな子どもが虐待を受けて命を落とす。そんな事件が、いまだ日本社会のなかで起こり続けています。
どうすればそういった事件をなくすことができるのでしょうか。
保育園を運営する事業者であるフローレンスが、その課題へのひとつの解として取り組んでいるのが、「保育ソーシャルワーク」です。
保育ソーシャルワークとは
子どもたちを取り巻く環境が大きく変化する中で、保育園でも多様な子育て問題への対応が求められています。
養育不安や子ども虐待といった親子の問題、貧困やDV、多国籍化する家庭や家族の問題、子どもと養育者の疾病や障害、 さらには保育者と保護者のコミュニケーショントラブルなど、その種類はさまざま。通常の保育では対応しきれない場合も少なくありません。
そこでフローレンスでは、課題を抱える親子により専門的なアプローチをするべく、「保育ソーシャルワーク」の取り組みを始めました。通常保育園で行う保護者支援に加えて、より相談支援・ソーシャルワークの視点を持って親子や家庭の課題に対応できるよう、専門スタッフとして「保育ソーシャルワーカー」を設置しています。
保育ソーシャルワーカーをおくことで、養育困難や虐待など緊急度の高いケースはもちろんのこと、これまで保育スタッフが「なんだか気になるけれど、どこに相談すればよいのかわからない」「気になるけれども大事にするほどではないかもしれない」と見守りがちにしていたケースについても、丁寧に状況を確認し対応していきます。
フローレンスが保育ソーシャルワークを始めた理由
フローレンスでは東京都内と宮城県仙台市に合計で18園の保育園を運営しています。
保育園では、お子さんをお預かりするだけでなく、親御さんの子育ての悩みを聞き、相談に乗ることも少なくありません。
経済的に苦しい家庭、ワンオペ育児が常態化している家庭、疾病や障害を抱えた家族のケアが必要な家庭など、悩みのバックグラウンドはさまざまです。
多くの場合は、保育士が相談に乗るなどすることで、親御さんの悩みもある程度解消しますが、場合によっては、そういった悩みが積もった結果、不適切な養育につながってしまう場合もあります。
実際に、フローレンスの運営する保育園でも、お預かりしているお子さんの家庭環境にリスクがあることがわかり、関係機関と連携して家庭の支援に入るというケースもありました。
このような事例は、実は多くの保育園でありうることです。そんなとき、現在の保育園運営の仕組みの中では、日々の保育だけでも忙しく、気づかない、あるいは気づいても対応できないケースもあるかもしれません。
そんな現状を変えるための解として始めたのが、保育ソーシャルワークです。
保育×ソーシャルワークの取り組みを広げていく
現在フローレンスでは、仙台と東京それぞれに保育ソーシャルワーカーが配置され、園からの情報の連携、関係機関とのコミュニケーションの仕方などを整えています。
現在は東京と仙台それぞれ1人ずつソーシャルワーカーを配置し、巡回などを通して園との連携と情報の共有を行っています。今後、取り組みが進む中で、最適なソーシャルワーカーの配置数などを検討していく予定です。
保育園にソーシャルワーカーを配置するという取り組みはとてもめずらしいことです。しかしご存知の方も多いと思いますが、学校にはスクールソーシャルワーカーとして、家庭支援のための専門員が配置されています。これは2008年度から始まった「スクールソーシャルワーカー活用事業」によるもので、国の施策です。
このような施策が、学校だけでなく、未就学児のための施設でも必要であることは間違いありません。むしろ義務教育に入る前の乳幼児期に関わる保育現場にこそ、ソーシャルワーカー配置は急務です。
事件化した家庭の問題を含め学齢期に発見される多くのケースで、妊娠期~乳幼児期の早い時期には既に問題が発現し、介入を要していたことは事実だからです。
妊娠期に特定妊婦へのリスクマネジメントから始まる母子保健領域のネウボラ(※)と同様に、保育現場におけるソーシャルワークの取り組みは、親子間や家庭の持つ潜在的リスクにいち早く気づき、介入・支援につなげるためのインフラになるのです。
現在は保育ソーシャルワーカーの配置に対する補助はなく、フローレンスが費用を持ち出しで採用・配置しています。私たちの取り組みで保育ソーシャルワークの事例を作り、将来的には、各保育園にひとり、あるいは子ども人数あたり何人、といったかたちで、保育ソーシャルワーカーの配置が制度化されるよう、働きかけを行っていく予定です。
※ネウボラ:妊娠期から出産、乳幼児期に、母子とその家族を支援する目的で、自治体が実施する支援制度の総称
また、フローレンスには認可保育所以外にも、病児保育、障害児保育などさまざまな保育の現場があります。どんな保育の現場でも、お子さんと親御さんの支援が重要であることは変わりません。ソーシャルワークの取り組みを横展開していき、フローレンスの保育とソーシャルワークがセットになるような形を目指していきます。
虐待事件は不適切養育の最も深刻なケースですが、虐待やネグレクトといった状況に至らなくても、それぞれの家庭でそれぞれに、保護者の方々は子育てに悩んでいます。そして子どもも、何かのメッセージを発信しています。それに気づき、支えていくことが、これからの時代に保育園に必要とされることなのです。
親子に寄り添い、その笑顔を守っていくために、フローレンスはこれからもさまざまな取り組みを行っていきます。
■国と東京都に対して児童虐待対策を求める署名活動も行っています。ぜひご協力ください!
http://www.change.org/PrayforYUA
※フローレンスは「なくそう!子どもの虐待プロジェクト2018」プロジェクトの事務局です