保育の現場でお子さんと関わる時、声掛けやふれあい、遊びを通してたくさんのコミュニケーションの機会がありますよね。
お子さんがそれぞれ違うように、関わりかたも十人十色。
目の前のお子さんにとってどんなコミュニケーションが合っているのか、悩むこともあるかもしれません。
10月の保育塾では、重症心身障害のあるお子さんとの関わりから、ひとりひとりに寄り添うコミュニケーションを学びました。
※保育塾とは、フローレンスの全ての現場スタッフに向けた自主参加型の研修です。
現場スタッフの「知りたい!」「学びたい!」に応えられるように、毎月違うテーマで研修を行っています。
※障害児保育園ヘレンは、フローレンスが運営する、重症心身障害や知的・身体的障害のあるお子さん、医療的ケアの必要なお子さんのための保育園です。
重症心身障害とは重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態をいい、その状態にある子どもたちは思うように体を動かしたり、見る・聞く・話す、が難しい場合があります。
◯コミュニケーションの土台をつくろう
コミュニケーションの第一歩は、リラックスしてやりとりを楽しむことができる環境を整えること。
そのためには、大人がお子さんの気持ちや状況を見きわめることが不可欠です。
重症心身障害のお子さんは特に、表情を変化させたり気持ちを言葉で伝えることが難しい場合があります。
身体の緊張や、呼吸のしづらさといった不快や苦しさを抱えていても、それを満足に伝えられていないこともあるのです。
みなさんもお腹が痛いときに遊びたいとは思えませんよね。
お子さんに痛みや不快のある状態で、遊んだり、気をひこうとしてもなかなか上手くいきません。
まずは痛みや不快の原因を把握して、取り除くことが先決です。
障害児保育園ヘレンでは、お子さんが不快や苦しさを抱えている様子が見られたら、リハビリ担当や看護担当など複数のスタッフと一緒に、お子さん一人ひとりにあわせて緊張が入りにくい姿勢や楽な姿勢を探していきます。
言葉や表情・行動で訴えることの難しいお子さんでは特に、ちいさな変化から気持ちを感じとり、整える必要があります。
では、どのようにしたら、お子さんの気持ちを感じとることができるのでしょうか。
◯お子さんとの「波長あわせ」
お子さんと「波長を合わせる」ことが、ちいさな変化からお子さんの気持ちを感じとるために大切であると渡辺先生は言います。
「波長を合わせる」ことは、言い換えれば「共感」です。
ここでの「共感」は、お子さんの気持ちを読み取ることや解釈することではありません。
その子の気持ちに自分の気持ちをあわせ、「自分がその子になったように感じること」です。
それは、一緒に日向ぼっこをしている時に暖かさを共有するような、ご飯を食べている時に「おいしいね」と言い合うような感覚です。
そのためには、大人がお子さんに興味を持って、どんな気持ちなのか注意深く見つづけることが大切です。
重症心身障害のあるお子さんでは特に、ごく小さなサインをひろって共感していく必要があります。
共感を繰り返すことで、お子さんの気持ちに寄り添った声かけや行動ができるようになるのです。
こう聞くと、特別なことのように感じられるかもしれませんが、そうではありません。
何かできた時に、「上手にできたね」「すごいね」と声をかけたり、遊んでいる時に「楽しいね」「面白いね」と言うような簡単な声かけを繰り返すことで、お子さんの気持ちが育まれていくのです。
◯こどもの「伝えたい!」を育む
渡辺先生はどんなに重い障害があっても「子どもたちには人やものに働きかける力がある」と考えています。
こちらが共感しながら声をかけていくことで、子どもの伝えたい気持ちを育むことができます。
赤ちゃんを例に考えてみましょう。
赤ちゃんは、おむつが気持ち悪いときや、空腹なときに泣きますよね。
生まれたばかりのころは、不快に耐えきれず、気持ちや欲求の表出としてただ泣いています。
赤ちゃんが泣いているのに気づいた大人は、赤ちゃんの気持ちを察して声をかけ、おむつを替えたり、ごはんをあげたりします。
それが繰り返されると次第に、自分が泣く→大人が声をかけ助けてくれる→欲求が満たされたり心地よくなる、というつながりを認識しはじめ、大人が声をかけてくれると心地よく感じるようになります。
それがコミュニケーションを楽しむ気持ちのはじまりです。
自分の気持ちを受け止めてくれる相手に対しての愛着が芽生えること、つながりがもてることで、もっとコミュニケーションしたい!気持ちを伝えたい!と思える のです。
「伝えたい!」という気持ちを原動力に、自らサインを発していけるようになると、子どもたちの世界はどんどん広がっていきます。
◯表現の手段に正解はない。まず楽しんで!
障害のあるお子さんや発達のゆっくりなお子さんは、言葉の理解はできても発語が難しい場合があります。
また、耳で聴くよりも、目で見るほうが意味を理解しやすいというお子さんもいます。
お子さんの特性にあわせて、ことばと同時にマカトンサインやベビーサインなどの身振り手振りを使うことで、こちらの声かけの意味がお子さんに届きやすくなります。
身振りは、「いただきます」と手を合わせる動作のように、生活のなかで繰り返し用いることが大切です。
お子さんがことばの意味とセットで身振りを覚えると、それがお子さんの意思表示の方法のひとつとなります。
ですが、ここで気をつけなければいけないのは、身振りやことばはあくまでも表現の手段のひとつであるということ。
もっとも大切なのは、子どもたち自身が「コミュニケーションって楽しい」と思えることです。
お子さんにあった表現の手段をさがしてみてください。
◯遊びを通してつながりを知る
コミュニケーションのちからは、ことばだけでなく遊びを通しても獲得されていきます。
おもちゃを使った遊びのなかで、子どもたちは「触ったらこんな感触がするんだな」「こうするとこんな風に動くんだな」と、自分がものに働きかけることによってどんな反応が起こるかを学んでいます。
遊びを通してそのような情報を蓄積していくことで、自分の身体や外界の物事をイメージできるようになるだけでなく、自分と外の世界のつながりを認識していきます。
特に、身体をうまく動かすことができない障害のあるお子さんは、自分で自分の身体に触れてみたり自分からおもちゃで遊んだりすることが難しいため、自分の身体と外の世界のつながりをイメージできる機会を大人が作っていく必要があります。
そのため、大人がサポートしつつ、簡単な操作で分かりやすく反応するおもちゃで遊ぶことがより大切になってきます。
「手遊びうた」も効果的で、その際は子どもの身体に触れる前に「いくよー」と声をかけるなど「これから触れるよ」といったことを伝えることで、期待感を育てることもできます。
このように、遊びは、自分の身体と外界のつながりや期待感など、さまざまな感覚を育てます。
障害のあるお子さんから「遊び」のもつ意味を見ていくと、子どもたちにとって遊ぶということがとても大切であることがわかってきますね。
◯さいごに
渡辺先生は、コミュニケーションを通じて、その子の人と関わろうとする力を引き出していくことが大切だと考えています。
丁寧にこどもたちを見つめ、ちいさなサインをひろって共感し、応えながら、「伝えたい」という意欲を育てていくことは、どんなお子さんにとっても大切です。
スタッフからも、今後の保育に生かしていくという声がたくさん挙がりました。
次回の保育塾は『すぐにその場で楽しめる!~「素話」と「手遊び」から遊びのレパートリーを増やそう~』をテーマに開催します。
報告記事も近々公開いたします。お楽しみに!