11月25日(水)、フローレンスが運営する障害児保育園ヘレンを利用する親御さんを中心とした「医療的ケア児・肢体不自由児の保護者の就労支援を求める会」と関係団体が小池百合子東京都知事に面会し、就学年齢を迎えた医療的ケア児や肢体不自由児の保護者の就労継続についての要望書を提出しました。
卒園後に待ち構える、「医療的ケア児小1の壁」とは
医療的ケア児とは、たんの吸引や経管栄養など、生きていくうえで医療的なケアを必要とする子どもたちのことです。新生児医療の発達にともない、こうした子どもの数はこの10年で2倍に増え、全国に約1万9000人いるといわれています。
医療的ケア児は、親や看護師による専門のケアが必要になるため、通常の保育園への入園が非常に難しい問題があります。
フローレンスでは、2014年から障害児保育事業を立ち上げ、日本で初めて医療的ケア対応の長時間保育を提供する保育園である「障害児保育園ヘレン」、ご自宅に訪問してマンツーマンの保育を行う「障害児訪問保育アニー」を運営し、医療的ケアが必要なお子さんに保育を提供するとともに、親御さんの就労を支えてきました。
また、最近は都内の認可保育園で医療的ケア児のお預かりがスタートし、区より委託を受け、フローレンスが保育士と看護師向けの研修を行っています。
ヘレンのスタートから6年、アニーのスタートから5年を迎え、保育園を巣立っていくお子さんの数もしだいに増える中、親御さんたちの目の前に、新たな壁が立ちはだかっています。それは、就学後の放課後の預け先についてです。
極度に不足する医療的ケア児の放課後預け先
障害児向けの放課後の預け先として、「放課後等デイサービス」があります。
現在、医療的ケア児や肢体不自由児を受け入れられる放課後等デイサービスは、都内でも数が非常に限られています。さらに、親がフルタイムで働き続けられるだけの長時間預かりをする事業者は都内でもまだありません。
せっかく保育園に通うことで就労が出来ても、そのキャリアが途絶えてしまうのです。
預かれば預かるほど運営が厳しく…構造的な課題
放課後等デイサービスは、利用者の利用日数によって報酬が支払われますが、医療的ケア児は体調不良による急なキャンセルが多くなる傾向があり、事業者としては収入が不安定になります。
その一方で、スタッフや看護師については固定で確保しておく必要があるため、「医療的ケア児を預かれば預かるほど、運営が厳しくなる」という構造が生まれてしまっています。
また、現状では看護師を配置するための十分な補助が無いため、そもそも看護師の配置がされにくく、医療的ケア児のお預かりは、事業者の自助努力に委ねられています。
医療的ケアに対応した放課後等デイサービスの事業所を増やし、安定した運営と長時間預かりを可能にするため、医療的ケア児を預かることに対して適切な評価と補助が支給される仕組みを早急に整える必要があります。
さらに、医療的ケア児や肢体不自由児は放課後に学校から自力で移動することは難しく、送迎の支援がある放課後等デイサービスもほとんど無いため、特別支援学校の中に医療的ケアに対応した放課後等デイサービスや学童を設けることや、お子さんの体調が優れない時に自宅で放課後を過ごせるような居宅訪問型の支援の拡充も必要です。
「今まさに声をあげなければいけない」――親御さんの決意
「笑顔あふれるヘレンにずっと居られればいいと願って止まないのですが、子どもたちもあっという間に成長し、ヘレン卒園後の地域の預け先について考えなければならない時期となりました。」
9月、フローレンス代表の駒崎宛に、障害児保育園ヘレンの親御さん3名からメールが届きました。
内容は、お子さんが卒園した後、このままでは働き続けるのが難しいこと、この現状を変えるために保護者主導で提言活動を行おうとしているということでした。
メールには、丁寧な文章でこれまでの感謝と決意の言葉がつづられていました。
「このまま何も行動を起こさなければ状況は変わらず、ヘレン卒園後の私たちの仕事継続もかなり厳しいままだと考えております。
医ケア児のおかれる状況は、ここ数年で大きく変わってきました。その理由は、ヘレンができたことや、区立保育園でも数名の医ケア児の受け入れが始まったことかと思います。 これまで保育園に入れず、医ケア児を育てながら仕事をすることは夢のような話だったのが、保育園の皆様のご協力により実現でき、私たちは医ケア児を育てながら仕事を両立させる第一世代 となりました。
これまで以上に就学後の就労継続への気持ちも強く、今まさに声をあげなければいけない立場にあると考えております。
こうして駒崎さんへご相談させていただいているのは、私たちがフローレンスに支えられて、今、 幸せに生活できているからです。
子どもが産まれて、突然、障害と共に生きることになりました。これまで生きてきたなかで周りに障害のある人はおらず、どのような生活になるのか、この子は幸せになれるのかという不安に押しつぶされそうでした。子どものことだけではなく、医療的ケア児を受け入れてくれる保育園がなく、世の中のママは保活に励んでいるのに、自分は保育園に申し込むことさえできず、このまま仕事を辞めなくてはならないと思っていたなか、フローレンスさんのヘレンに出会い、私たちは救われました。
ヘレンのおかげで、私たちは半ば諦めていた
仕事に復帰でき、今まで通り当たり前に働くことができました。そして、改めて働くことの意義ややりがい、社会へ参加し貢献できる喜びを感じることができました。そして、何より、子どもはヘレンという居場所ができ、 毎日大好きな先生やお友達との関わりのなかで、健やかに成長していってくれています。
(中略)
ヘレンは、障害がある子の居場所と母親の就労継続を叶えてくれただけでなく、障害があっても たくさんの喜びや幸せがあることを教えてくれました。そして、先生方が注いでくださったたくさんの愛情は、これから子どもの宝物になっていくと思います。 」
メールには、みずから住んでいる区へ提出した要望書、園の保護者さんから集めた署名とメッセージ、また地域のお母さんたちへとったアンケート調査の結果が添付されていました。
駒崎は、すぐに親御さんとのオンラインMTGをセットしました。そして、これまでに実施してきた政策提言の事例を情報提供するとともに、親御さんの提言活動に出来る限りのサポートをすることを約束しました。
11月25日(水)、都知事への面会が実現!
親御さんたちの懸命な活動が実を結び、協力の輪はさまざまな当事者団体や支援団体へと波及していきます。そしてその声は、ついに東京都知事まで届きました。
11月25日(水)、東京都庁で面会の機会をいただき、「医療的ケア児・肢体不自由児の保護者の就労支援を求める会」代表の松岡さんから、小池百合子東京都知事へ以下4つの提言をまとめた要望書が手渡されました。
・放課後等デイサービスが、重症心身障害児および医療的ケア児を長時間預かることが可能となる「重症心身障害児・医療的ケア児を対象とする通所事業運営助成金」を給付してください。
・都立特別支援学校の建物内に母親の就労支援を目的とした医療的ケア児や肢体不自由児を受け入れる「放課後等デイサービス」を誘致するか、「都営の障害児向け学童クラブ」を設置してください。
・医療的ケア児や肢体不自由児が、在宅で放課後を過ごせるような新たな支援を創設するか、居宅訪問型児童発達支援を就労支援目的でも利用できるようにしてください。
・学校での医療的ケア引き継ぎ期間中に就労する必要がある保護者については「代理人」による付き添い費用を公費で負担してください。
フローレンス代表であり、全国医療的ケア児者支援協議会の事務局長を務める駒崎も同席しました。
都知事からは「誰もが持てる力を発揮して、自分らしく働くことができる東京を目指していきたい。そのために、環境の整備を推進していきたい」という言葉をいただきました。
フローレンスでは、これまで代表の駒崎が中心となって多くの政策提言活動を進め、事業と提言活動の両輪で課題解決に取り組んできました。
今回のソーシャルアクションでは、これまで事業を通じて関わり、ともに歩んできた親子がその変革のバトンを握り、次の親子へと繋いでいく、これまでにない大きな一歩を踏み出しました。
今回の取り組みが、「医療的ケア児小1の壁」問題の解決に繋がっていくことを願ってやみません。
フローレンス及び全国医療的ケア児者支援協議会では、これからも親御さん・お子さんと同じ船に乗る「クルー」となり、医療的ケア児とその家族と共に歩みながら親子を取り巻く社会課題に取り組んでいきます。
フローレンスの政策提言活動は、皆さんからのご寄付によって支えられています。
引き続き、ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。