フローレンスには様々な経歴を持つ、各分野のスペシャリストたちが働いています。
今回の保育塾は講師に、特別支援学校・公立中学校の看護教諭の経験を持つスタッフを迎え開催しました。
10月保育塾は「子育てに悩みを抱える保護者への寄り添い方を知ろう~共感をベースとしたかかわり方のコツとは~」をテーマに開催!
17名の参加者と一緒に子育てに悩みを抱える保護者への寄り添い方を考えました。
※保育塾とは、フローレンスの全ての現場スタッフに向けた自主参加型の研修です。現場スタッフの「知りたい!」「学びたい!」に応えられるように、毎月違うテーマで研修を行っています。
養護教諭時代大切にしていたこと
様々な家庭で育つ子どもたちに出会い、「どんな家庭環境で育ったとしても自分の人生を諦めないでほしい」「あなたの人生はあなたのもの」と伝え続けた養護教諭時代。その中で大切にしてきたことは「今やっていることは、子どもにとって良いことか」ということ。
毎日現場にいると「子どもにとって良いこと」より、ときに制度や大人の都合が優先されがちです。講師は、そんなとき一度立ち止まって「その子にとって良いことなのか」という視点を常に大切にしていたそうです。
「子どもたちにとって良いこと」とは何か?を重視しながら、子どもを中心に保護者、担任や部活の先生、ときには医療や関係機関を繋ぐ存在として養護教諭をしていたとのこと。
養護教諭時代に経験した事例を紹介しながら、共感をベースとした保護者への寄り添い方をお話してもらいました。
初級編~まずは誰でもできることをしっかりと~
保護者と信頼関係を構築していく上でまず大切なことは「初対面」です。
支援者が初対面でアセスメントを行うのと同様に、子どもや保護者も私達を見ていることを忘れてはいけません。相手がどんな人なのか推測し、心を許して相談したいかどうかは、初対面で抱く「第一印象」で関係性のスタートラインが決まっていきます。
初対面は我々も緊張するものですが、表情豊かに、丁寧な言葉遣いで相手が理解しやすいよう簡潔に話すということを意識することが良好な関係性を築く第一ステップになります。
私達が思っているより、保護者は保育者の姿をよく見ています。困ったときにふと相談相手に私達の顔が浮かぶような存在になるためにも、第一印象は良くしたいですね。
その次に大切なことは「目の前のお子さんをきちんと見る」ということです。
お子さんの基本情報を事前によく頭に入れておくことはもちろんですが、保護者や主治医との間で確認した、子どもの配慮事項がある場合はきちんと守ることが大前提です。当たり前のことですが、まずはそういった日々の関わりの積み重ねの結果が、保護者との良好な関係性構築に繋がります。
保育者がどんなに「悩みを聴こう!寄り添いたい!」とテクニックを学んで努力しても、日常のお子さんとの関わりのどこかで「自分の子どもをきちんと見てもらえていないかも」と感じ取られた瞬間に、心のシャッターをおろしてしまう保護者は多いです。
まずは日々子どもときちんと向き合い、変化を見逃さないよう保育のプロとしてスキルアップしていくことが、保護者との信頼関係を構築することにつながっていきます。
「まだ関係性も築けていない段階で無理なお願いごとをされてしまった」どうする?
講師が養護教諭時代に実際経験した事例を紹介してくれました。
まだ関係性が築けていない最初の段階で、医療機関でなければ行うことのできない処置を依頼されたことがあったそう。このようなケースでは、学校では対応できない内容の場合はお断りをするしかなくなってしまいます。このようなとき、どう保護者に共感しながら対応すれば良いのでしょうか。
このような場合に大切なことは、こちら側のスタンスをわかりやすく示すことです。お断りして終わりにするのではなく、法律や自治体の通知などをエビデンスとして、学校でできること、できないことを丁寧にご説明し、緊急時の対応を主治医とも連絡を取り合いながらこれからのことを決めていかなければいけません。
悪印象を与えたくないがゆえに、ぼかしながらどっちつかずの返答をしてしまいがちなこのような場合は、お互いに自分の思っているように解釈をしてしまうことも多く、後で誤解も生まれやすいため、ときに逆効果になってしまいます。確実に難しい場合については、理由を説明するとともにできる、できないのラインをきちんと提示しておくことが大切です。
ただ、できないと突き放すのは良くないので、言葉選びは慎重に行い、伝え方を親御さんやお子さんに合わせて工夫しましょう。
例えば「今はできないけど、体重がここまで増えて主治医の許可がでたら私達でもできる可能性があります」など、これからのお子さんの成長発達も見据えて一緒にお子さんを見ていきたいという姿勢を伝えましょう。
中級編~保護者の小さなSOSをキャッチしよう~
いつも忙しそうにしていて、信頼関係の構築が難しいと感じる保護者との関わりに悩んだことはありませんか。保育者としては、保護者としてもう少し子どもに寄り添い、子どもの目線に合わせてほしいと感じてしまうこともあるかもしれません。
コミュニケーションを取ることが難しいと感じる保護者と距離をとるのは簡単ですが、保育者としては「SOSのサインかもしれない」とアンテナが張れるようにしたいですね。
もちろん、単純に忙しすぎて話す時間も惜しい、車を停めているから急ぎたいという保護者の方もいらっしゃいます。しかし、保護者の状況をあらゆるパターンを想定して声がけをし、保護者に寄り添った対応をしていきましょう。
実際に、講師が養護教諭時代に経験したのは、「保護者自身がコミュニケーションを取ることが苦手、心を開いた人にしか自分からコミュニケーションを図ることができない」というケースでした。
他にも「仕事で手がいっぱい」「体調が悪い」「初対面が良い印象ではなかった」「以前通ってた学校で嫌な経験があり、職員と信頼関係を築いていくことに良いイメージがない」というようにあらゆるパターンを考えることができますよね。何か理由があるかもしれないと想定しておくだけで、声がけの内容もより保護者に寄り添った内容になります。
保護者との関係を築く中でうまくいったこと、失敗したことを共有しよう!
保育塾は、他事業部のスタッフとグループワークを行い、多様な保育観に触れることで、実践に繋がる学びを得る場になることを目指しています。
今回開催した保育塾でもグループワークを実施しました。
これまでの経験の中で、コミュニケーションが難しいと感じてた保護者の方はどんな方ですか?関係性を築く中でうまくいったこと、逆に失敗したことを共有しましょう!
ここで参加者から共有された経験をご紹介!
(訪問型病児保育スタッフ)
ある日の病児保育中、保護者の方が予定時間より早くご帰宅された日がありました。
本来帰宅時間に変更がある場合は、片付けや終了時の引き継ぎ準備があるため、事前にお電話で共有いただいています。しかしその日は事前連絡なしの突然帰宅。私は、片付けが終了時の引き継ぎ準備などあるので、今度からは帰宅時間の変更がある場合は、事前にお電話がほしいと優しく声がけさせていただきました。
するとその日の保護者からいただくアンケートに「仕事を早く切り上げ、良かれと思って早く帰宅したのに、事前に連絡がいるなど言われてしまって残念でした。」というフィードバックをもらってしまったのです。この経験から、保護者の背景も考えることも大切だということを改めて学びました。
この経験をグループワークで共有したところ、他事業部のスタッフから、伝えるべきことを伝えた上で、「早く帰ってきてくれてありがとうございます」とフォローの言葉を伝えると良かったのでは?というフィードバックがあったようです。
上級編~伝えにくいことも伝えなければならないときどう伝える?~
講師が養護教諭時代に伝え方を悩んだ事例として、虐待が疑われるケースについてのお話がありました。特に、保護者の方がお子さんのためを思ってされている場合や、しつけとして必要と考えられている場合は、難しい対応になることが多いそうです。
支援の大事なポイントとしては、毎日子育てに奮闘されている保護者の方が心理的に孤立することのないよう、普段一番近くで親子の姿を見ている担任などががキーパーソン的存在となること。同時に「お子さんのためを思ってやっていることでも、今の時代の子育てにおいては虐待にあたってしまうこと」を状況を見て必要があればお伝えし、理解を得ることも大切にしていたとのことです。
誰がどのタイミングで何を伝えるかについては、十分に検討して支援の方向性を揃えておく必要があります。
ご家庭の状況によっては、必要に応じて子ども家庭支援センターや、児童相談所の専門家の力も借りながら、親子にとって良い方向に進めるような支援のあり方をチームで模索することも必要な場合があります。
見てわかるはっきりとした虐待ではなくても、子育ての中ではマルトリートメント(不適切な養育)という言葉があるのですが、これはどんな家庭でも起こりうるものです。しつけとして行っていたり、人間ですので保護者も感情コントロールが効かなくなる時ももちろんたくさんあります。
子どもがなかなか言うことを聞がないときに車で待っていなさいと一人にしてしまったり、買い物中に駄々をこねられつい手が出てしまったり。このような不適切な養育に対して、保護者に加害の認識がない場合でも「行っている行為自体は子どもにとっては不適切」ということはタイミングを見てきちんと伝えていかなければなりません。
いちいち指摘するのではなく、おたよりや全体への連絡を活用したり、「最近おうちでの様子はいかがですか?」などのさりげない声掛けで、保護者がポロッと本音や愚痴をこぼせるような状況が作れたら、一緒に対応を考えていくこともできると思います。ただ一方的に伝えるのではでなく、一緒に考えることで、親子の成長のきっかけにしていけると良いなと思います。
~発達が心配なお子さんがいたときには~
養護教諭時代、たくさんの子どもたちと接する中で「うちの子は発達障害かも?」という相談を受けることは少なくありませんでした。また教員からの相談を受けることも多くありました。親子にとって、発達障害かもしれないということは、漠然と将来に大きな不安を感じたり、精神的ショックを受けることも多い非常にデリケートな話題です。
たとえ支援者側が気になったからと言って、保護者の方にすぐに「お子さんの発達が少し心配です。」と伝えるべきではないと思います。いまこのタイミングでその話をする必要があるか、その内容は自分たちから伝えるべきことなのか、一度踏みとどまってチームで検討することが大切です。
それでも伝えなければいけないときがもしあったら、伝える前にやるべきことを整理することが大切です。正しい情報、正しい知識を得て、親子が将来の見通しが持てるような伝え方になっているか意識します。
何もかも現場のスタッフが担う必要はないので、専門家の力を存分に借りるということも有効な方法です。保護者の方も専門家から直接説明されたほうが、納得感を持てることも多いです。その一方、担任など普段親子のそばで多くの一緒に時間を過ごしている保育者が、一番の味方であり支えになることで親子が安心できることもあります。また保護者は、どうしても不安になりネットの情報に振り回されてしまうことも多いです。
ネット上には専門家が書いていない記事も溢れていて、どの情報が正しいのか保護者の方が判断するのは難しいことも多いです。支援側として正しい知識を学んでおき、自分の主観は抜きで保護者の方とコミュニケーションを図れるよう、準備しておくといいですね。
さいごに
保護者に悩みを打ち明けてもらってもどうにも言葉をかけられないようなときもあるかと思います。そのような時には、「成長や発達は人それぞれ違うことは分かっていても、自分の子どものことが大切だからこそ色々考えてしまいますよね。」というような声掛けで、お子さんを大事に思う保護者の気持ちに共感するだけでも、奮闘されている保護者の方にとっては安心感につながると思います。
また子どものことだけではなく「お母さんは最近寝れてますか?」「ご飯は食べれてますか?」など、保育者と保護者という距離感を超えない程度で、保護者の自身の健康や精神状態にも目を向けてもらうような言葉がけも、ときに保護者の心を軽くすることがあります。まずはできることからやってみて、自分の中で引出しを増やせていければいいですね。
まとめ
今回の保育塾の中で印象に残ったのは「100点満点の保護者はいない」という言葉です。
保育者の正義感を押し付けることなく、頑張りすぎている保護者の方には「頑張りに共感し、息抜きできる言葉がけ」もときに必要ということを学びました。
「自分が完璧にやらなければならない!」と思い込んでいるがゆえにいっぱいいっぱいになってしまうような責任感が強い保護者には、「完璧じゃなくてOK」というような、子育てのハードルを下げる声がけも必要ですね。この時期でいえば布マスクなど、なんでもかんでも自分で作らなくても、「最近の100均優秀だよ!買っていいんだよ!」と伝え寄り添うことを忘れずにいたいです。
次回の保育塾は【子どもの可能性を引き出す対話とは~こども哲学について学ぼう~】をテーマで開催します。ご報告をお楽しみに!
保育塾で学ぶことが出来るのはフローレンスのスタッフだけ!フローレンスの保育をのぞき見できるイベントや説明会を行ってます。
フローレンスに興味がある方は、ぜひご参加ください。