近年の子どもに対する教育では、子どもが「主体的・対話的」に学ぶことが注目されています。
幼児教育でも生きる力を育むために、子どもの主体的な活動が求められています。 11月保育塾では、子どもの主体性や可能性を引き出す「こども哲学」をテーマに開催! 「こども哲学」から学ぶ、子どもの可能性を引き出す対話について学びました。
保育塾とは、フローレンスの全ての現場スタッフに向けた自主参加型の研修です。現場スタッフの「知りたい!」「学びたい!」に応えられるように、毎月違うテーマで研修を行っています。
こども哲学って何ですか?
こども哲学は、子どもが行う哲学対話の活動を指します。 哲学対話とは、人が生きる中で出会う様々な問いを、1人で考えるのではなく、みんなと言葉を交わしながら、ゆっくり、じっくり考える活動です。会議などで行う議論とは「答えをひとつに絞らない」という点で異なります。
「生きることってどんなこと?」「家族ってなあに?」など、人によって考え方、意見が違う、正解のない問いをみんなで考えて、話し合い、それぞれの意見を聞きます。子どもたちは、哲学対話を通して自分の考えを整理して相手に伝えたり、逆に、相手がどんなことを考えているのかを知る機会になります。
1人で考えるのではなく、みんなと言葉を交わしながら、ゆっくり、じっくり考えることによって、自己と世界の見方を深く豊かにしていくことが、哲学対話の特徴です。
こども哲学って、子どもにとってどんないいことがあるの?
哲学対話は行うときのルールがあります。具体的には以下のようなルールがあり、参加者の年齢や人数によって、ルールは変更する場合もあります。
・何を発言してもよい
・他者が発言したことに対して否定的な態度をとらない
・発言せず、ただ聞いているだけでもよい
・話がまとまらなくてもよい
・意見が変わってもよい
とりわけ重要なのは、「何を発言してもよい」「他者が発言したことに対して否定的な態度をとらない」というルールです。「何を言ってもいい、共に考えてくれる人が近くにいる環境がこそ、思考に広がりと深みが出てきて、対話が哲学的になる」と講師の田中さんは言います。
哲学対話を取り入れることは、子どもの思考力の育成につながます。 また安心して発言できたり、共に考えてくれる仲間がいる環境が、他者を尊重する態度を育み、ありのままの自分を大切にできるようになる力を育むのです。
哲学って難しそうだけど、子どもでもできるの?
哲学という言葉で「難しそう」「とっつきにくい」と思う方がいる思いますが、身近にある問いやテーマに関して、みんなで話すことが哲学対話です。
とくに幼児を対象としたこども哲学は「なんでおばけはこわいの?」など子どもでも話しやすいテーマで哲学対話を行ったり、絵本を題材にして対話を行ったりします。
また幼児を対象にした哲学対話では、長い間座って子ども同士で話をする、ということ自体慣れない年齢のため、大人のサポートが必要です。まずは子どもたちが話の内容を理解し、最後まで参加できることを目標にします。子どもたちが気持ちを切り替えられるよう、決まった時間の決まった場所で行ったり、ランタンをつけて、「火がついたら考える頭になろう!」というお約束のもと、いつもと違う雰囲気を作ったりします。
話始めるときには、導入として「〇〇って知ってる?」や「〇〇って聞くと何を思い出す?」といった声掛けも話しやすくなる工夫の一つです。
哲学対話を取り入れている保育園では、哲学対話を継続すると、少しずつ子どもだけで対話できるようになったそうです。
最初は言葉でやり取りや表現が苦手な子どもでも、参加する大人が「何を言っても大丈夫」といった雰囲気、安心して話せる雰囲気を作り出すことで、 対話を積み重ねていくうちに、子どもたちは考えることが好きになり、言葉が育ち、表現できるようになっていきます。
講師がこども哲学にハマった理由は「フローレンスの保育とリンクするから」
フローレンスのシチズンシップ保育は「みんなを思いやりながら自分たちの未来を変えていける力を育むために、共感性・内発性・創造性を伸ばしていく保育」を指しています。
例えば、フローレンスの保育園で行われている、3才から5才児を対象としたサークルタイムは、「今日は何して遊ぶ?」や、「自分が最近ハマっていること」など、お題は子どもたちが決めて、みんなで輪になって話をします。
講師の田中さんは前職の保育士だったときに、「シチズンシップ保育」という言葉を知りました。その時は、シチズンシップ保育についてよく分からなかったそうですが、フローレンスの保育を見て、「シチズンシップ保育とはこういうことなんだ!」と感銘を受け、シチズンシップ保育に興味を持ったそうです。
その後、子どもたちの「やってみたい!」を大切にするフローレンスの保育と、子どもの主体性を伸ばすこども哲学が共通した部分があることを実感し、こども哲学を学ぶきっかけになったそうです。
哲学対話を体験してみよう!
講義の後半は、こども哲学の基礎である哲学対話を参加者が実践!
お題は参加者が決めました。今回のお題は「【許す】と【理解する】はどうちがうのか」です。 哲学対話ではコミュニケーションボールという道具を使い、ボールを持った人だけが発言します。発言したい人はボールをもらって発言します。
対話が始まった数分間は、参加者の皆さんが他の人の様子を伺ったりしていましたが、少しずつ自分の考えを発言していくうちに、他人の考えを聞いた別の人がそれに対して意見を出したり、「私はこう思います。」と生き生きと発言していく様子が見られました。
また対話中、参加者の皆さんは他人の意見を聞き、頷いたりして、安心して話せる場を作っていました。対話の後半になると、最初に発言した考えが、他人の意見をふまえて深まったり、違う見解になった参加者もいて、皆さんの思考が深まっている様子が見られました。 対話の中で出た意見をいくつか紹介します。
・許す、許さないはどういうことなのかは、どんな相手によっても違うのではないかという意見がありました。もしかしたら許さないことはどうでもいい相手だと起こらないかもしれないとか。許すこと、理解することについて皆さんそれぞれののイメージがあるが、「わかる、わかる!あるよね~」と共感できる場面が多かった。言葉一つとっても、思いとか感じ方があるので、対話をして初めて気づくんだなとわかった。
・はじめは対話はどうして初めていいのかわからなかったけど、自分のエピソードを話すことで他の人の意見のときに「わかる~!」という場面もあって話すことができた。面白いなと思ったのは、許すと理解するは遠いところにあるといい考え方の人もあれば、近い気がすると思った人もいて、奥深いなと思った。
参加後には「対話を重ねる中で、様々な考え、解釈を得て、自分の考えが柔軟に変化していく体験が興味深かった。これを積み重ねた子ども達の未来を頼もしく想像した。」という感想や、「許すと理解するの違いという題材も良く、皆さんと話すことで考えが豊かになり、何故か癒されました。」という感想がありました。
安心して自分の意見を言える場があること、他人の意見を聞いて、自分の考えが豊かになっていくことは、大人にとっても居心地の良いものですね。
まとめ
11月の保育塾はこども哲学をテーマに講義を開催しましたが、こども哲学のすべてを網羅しきれていません。 日常にある小さな疑問、気にしないとそのままにしてしまう疑問も、他人と一緒に考え、意見を出し合うことで、自分の思考が深く、豊かになる教育の題材になるのです。
「この保育塾をきっかけにして、こども哲学に興味を持って、対話を積み重ねてくれたら嬉しい」と講師の田中さんは言いました。
自分自身が主体的に考え、行動するとともに、耳を傾けてくれる人を大切にする気持ちを、みらいをつくる子どもたちにしっかりと伝えていきたいですね。 筆者も参加者の皆さんが哲学対話を通して、自分の考えが深まっていくこと、変化をしていく様子をみて、人との交流のすることで、逆に自分自身を見つめることができる面白さを感じました。
ぜひ読者の皆さんも哲学対話をしてみてください!
次回の保育塾は、障害児保育事業部アニーの保育スタッフを講師にお招きし、「その子らしくいきいきと遊ぶためには?~作って楽しい!遊んで楽しい!制作をみんなで一緒につくってみよう!~」をテーマに開催しました。
今年度初の制作がテーマの保育塾、ぜひお楽しみに! 保育塾で学ぶことが出来るのはフローレンスのスタッフだけ!
フローレンスの保育をのぞき見できるイベントや説明会を行ってます。 フローレンスに興味がある方は、ぜひご参加ください。