収束が見えないコロナ禍の中、経済的な困難を抱えるご家庭はより厳しい状況におかれています。
ひとり親家庭の中でも、特にDV等の理由により別居中で法的な離婚が成立していない「実質的なひとり親家庭(ノーセーフティネットひとり親家庭)」では、ひとり親家庭が受けられるはずの公的な支援が届かないご家庭が数多く存在します。
フローレンスが実施する「新型コロナこども緊急支援プロジェクト2022」では、こうした別居中・離婚前の実質的なひとり親状態にあるご家庭への取り組みとして、皆さんからいただく寄付を原資に、10kgのお米の配送、デジタルによる情報提供などを通じた支援を実施しました。
プロジェクト詳細
対象者:「ノーセーフティネットひとり親」家庭(別居中・離婚前の実質的なひとり親状態にあるご家庭)
対象エリア:全国
利用受付期間:2022年2月7日(月)~3月末
※利用申込は締め切らせていただきました
【支援内容】
・お米(10kg)の無償配送
・メール・LINE等を通じた支援情報の無償提供
この度、本プロジェクトにお申し込みいただいたすべてのご家庭への配送が完了しましたことをご報告いたします。
このプロジェクトで支援を届けたご家庭は「517家庭」となりました。皆さんのご支援、誠にありがとうございました。
「頑張ったごほうびみたいで、ほっとして涙も出てしまいました」
お米が届いたご家庭からは、たくさんの温かい感想を頂いています。
・お米を買うのも困っていましたので、とても助かりました。顔も知らない私たち親子に、こんなにも親切にしてくださる方がいるという事を知って勇気をもらいました。 これからも困っている方の力になってください。活動を応援しています…この度はありがとうございました。
・助けてもらえることの、嬉しさを実感しています。頑張ってて、きついんですけど、そんなにきついきついと言っても前に進めないから、ただ毎日頑張ってます。誰かに優しくしてもらいたくて。でも甘える人がいないので、こうやってほんとにお米が届いたこと、すごく嬉しいです。頑張ったごほうびみたいで、ほっとして涙も出てしまいました。こどもに食べさせることを先にしてるので、わたしはもやしが主食でしたが、こどもと、わたしもお米たくさん食べます。ありがとうございました。お米と、そしてみなさんの気持ちも一緒にいただきます!
・ちょうど子どものコロナ感染と重なり、買い物も行けなかったので、大変助かりました。メールでのやり取りもして頂きまして、ありがとうございます。気持ちが救われました。
コロナ禍で孤立が深まる中、仕事、子育て、経済的な不安等を抱えながら、公的支援が届かず、ギリギリの生活をしている親子も少なくありません。
厳しい状況においても「支える人がいる」「ひとりじゃない」と実感できることが、明日への希望につながっていくと信じています。
さらに、お米の配送をきっかけに、フローレンスが実施するデジタルソーシャルワーク「おやこよりそいチャット」による、デジタルを通じた継続的な支援につながったご家庭もあります。
デジタルソーシャルワークとは
現在の日本の福祉制度は、行政の窓口での申請など、特定の場所まで行かないと支援を受けられないことが多く、支援を受けるまでに数多くの物理的・心理的なハードルが存在しています。
フローレンスはこの課題に対し、「こども宅食」事業を通じて、支援を求められるのを待つのではなく、支援者側からご家庭に積極的に関わりサポートを継続的に届ける「アウトリーチ」と呼ばれる形の支援を推進してきました。
こども宅食の取り組みを進める中で、LINEなどオンラインでのゆるやかなコミュニケーションを通じたつながりが、支援を必要とする人の物理的・心理的ハードルを下げ、相談ができる関係性づくりに寄与することがわかってきました。
デジタルソーシャルワークとは、オンラインで可能な情報提供などの支援を提供するとともに、継続的に声をかけ、ゆるやかに雑談・相談を受けながら、さらなるサポートへつなぐ新しい支援のモデルです。
「おやこよりそいチャット」では、社会福祉士、精神保健福祉士などの専門資格を持つ「デジタルソーシャルワーカー」を配置したチームがご家庭からの相談にオンラインで対応し、継続的に寄り添います。
継続的な関わりで課題にともに向き合い、伴走する
今回の緊急支援をきっかけに「おやこよりそいチャット」でつながり、継続的な支援を届けた事例のイメージをご紹介します。
※個人が特定されないよう、相談支援に寄せられた多くの相談を基に作成した架空のエピソードです。
さやかさん(仮名)のエピソード
さやかさんは、2人のお子さんを育てる「実質ひとり親」です。パートナーからの身体的暴力(DV)が原因で精神的にも追い詰められ、別居して2年以上が経ちます。
離婚を成立させ、新しい人生をスタートしたいと思っていますが、パートナーが話し合いに応じず、離婚調停は不成立。離婚裁判の手続きを進めています。
パートナーから婚姻費用の支払いもなく、離婚が成立していないため、ひとり親世帯が受け取れるはずの児童扶養手当も受け取れていません。パートを3つ掛け持ちして働いていますが、2人の子どもを育てていくには経済的にぎりぎりの状況です。
そんな中、フローレンスの緊急支援の存在を知り、早速申し込みをしました。
翌週には10kgのお米が届き、さらにメールで「おやこよりそいチャット」の案内が届きます。
この先、裁判で暴力を振るってきたパートナーと顔を合わせなければいけないことに恐怖を感じていたさやかさん。でも、この気持ちをどうしたらいいのか、誰に相談したら良いかも分からず、不安ばかりが募っていました。
「話を聞いてもらうだけでも…」そう思って、LINEの画面を開き、お米のお礼と一緒に、今抱えている不安な気持ちをそのまま書いて送信してみました。
仕事終わりの夜中に送ったメッセージでしたが、次の日には返信がありました。今の状況に寄り添う言葉と、「これからのことを、私たちも一緒に考えていけたらと思います」というメッセージに心が温かくなりました。
それから先は、夜のパート勤務が終わり、子どもを寝かしつけたあと、誰にも言えずにいた悩みを「おやこよりそいチャット」で少しずつ打ち明ける日々が始まりました。
裁判のこと。子どもの通う保育園が新型コロナウイルスの影響で休園になって、仕事に穴を開けてしまったこと。その日、家ではしゃぐ子どもたちに、ついきつくあたってしまったこと。
将来本当に離婚できるのだろうか、2人の子どもをひとりで育てていけるのだろうか……。
その度、画面の向こうの「よりそいスタッフ」からは、あたたかい言葉とともに、自分が利用できる制度や近所にある支援サポートなど、解決のヒントになるような情報を提供してくれました。
頼りすぎても迷惑をかけるかな、と数日連絡を控えていたら、「さやかさん、この前の件はどうでしたか?またいつでもこちらに話しかけてくださいね」とメッセージが届き、ほっとしたそうです。
ときには、「よりそいスタッフ」が法律に詳しいスタッフと相談し、現在の状況を法的な観点で整理してもらったり、今後考えられる対応についてアドバイスをくれることもありました。
「孤独感でいっぱいで追い込まれている中、こうやって支えてくれる人がいることで、すごく気持ちが楽になりました」
離婚に向けての手続き、ひとりでの育児、仕事……忙しく出口の見えない日々はまだまだ続きますが、「困ったときに弱音を吐いたり、相談できる人がいる」という安心感があることで、以前より前向きでいられる時間も増えたといいます。
相談の中には、法や医療などの領域からサポートが必要なケースもあります。ときにデジタルソーシャルワーカーが弁護士等の他の専門職と連携し、対応を進めるケースもあります。親子がその時におかれている状況に合わせ、最も良いサポートを柔軟に考えています。
ご家庭が抱える困りごとは、多くの課題が複雑に絡み合っていることも多く、だからこそ、どこに相談したら良いのかわからないというケースも少なくありません。
一度きりの支援で、それらの課題をすべて解決することはできません。
長期的な関わりを続けながら、専門スキルを持ったスタッフがチームで連携することで、困りごとに親子と一緒に向き合い、より良い明日に向かっていくための伴走支援を行っています。
継続的な支援をより多くの人に届けるために
コロナ禍において、親子を取り巻く課題はさらに複雑化し、孤立が深まる中、その課題はより周囲から見えにくく、支援が届きにくいのが現状です。
実質ひとり親家庭に向けた緊急支援プロジェクトは終結しましたが、フローレンスでは今後も支援につながりにくいご家庭に継続的な関わりを続け、さらなるサポートを届ける「アウトリーチ」型の支援を推進していきます。
こうした緊急支援やデジタルソーシャルワークの取り組みは、皆さんからご支援いただく寄付を原資に実施しています。
引き続きの応援を、どうぞよろしくお願いいたします。