フローレンスでは、スタッフの市倉を中心に2019年に全国約1,600世帯の多胎児家庭にアンケートを実施し、そのアンケートに寄せられた当事者の声をもとに、多胎育児支援の政策提言を行ってきました。
特に「多胎育児中に『辛い』と感じた場面」について、89.1%が「外出・移動が困難である」と回答し、双子ベビーカーに子どもを乗せたまま、公共交通機関であるバスにも乗車できない状況が明らかとなり、この声を国や行政に届けてきました。
その多胎児育児支援アクションの成果として、「双子ベビーカー(二人乗りベビーカー)を折りたたまずの乗車」が、私営含む都内のバス全路線で解禁されました!
これまでの歩み
フローレンスが全国の多胎児家庭向けに実施したアンケートで、「双子ベビーカーではバスに乗車拒否される」「もともと乗れるものと思っていない」といった壮絶な多胎児育児の実態が明らかになったのが、2019年秋のことでした。
多胎育児支援のソーシャルアクションの中心となって日々活動しているフローレンススタッフ・市倉による度重なる交渉や陳情の末に、都が運営する都バスの限定5路線で解禁されたのが、2020年9月。
そこから、コロナ禍でも歩みを止めることなく、都営バスが都内全路線にこのルールを適用したのが、2021年6月のことでした。
「この機を逸したくない…!」との思いから、「都バスに続いて、ルールを変更してほしい」とバス事業者を束ねる東京バス協会への陳情を重ねた市倉。
そこから、東京バス協会の旗振りのもと、各社が必死に器具設置やスタッフ教育などを進めて下さり、今週5月23日より、都内全てのノンステップバス(注:「東京バス協会の会員事業者の都内一般乗合バス」)で双子ベビーカーが解禁されました!!
"多胎児家庭以外は当たり前に出来ること"
フローレンスが多胎児家庭支援ソーシャルアクションを2年半する中で、なぜこんなに「バスへの乗車」にこだわってきたかとお話したいと思います。
「バスに乗ってお出かけする」事は、生活のごくごく限られた1シーンでしかありません。バスに乗れるようになったことで、多胎児育児の負担が軽くなるとは私達も考えていません。
でも、私たちには忘れられない言葉があります。
それは、多胎育児の親御さんに「バスに乗車できるようになったら、どんな気持ちになりますかね……?」と尋ねた時に返ってきた言葉です。
「これで、やっと私達親子のことを認めてもらえたと思う。存在しないもののように扱われてきたから」
必死の思いで出かけた先で「双子ベビーカーは乗れないよ。規則だからね」と言われ、ガラガラのバスを見送らなければいけなかったこと。
「あの公園に行こうよ」と誘われても、バスに乗れないから断らなければいけない時の、子ども達への申し訳ない気持ち。
どれもこれも、多大な負担の中で必死に子どもたちのことを考えて育てている親御さんには、あまりにも悲しい出来事です。
ふたご助っ人くじで出会ったたくさんの親御さんたちが教えてくれたエピソードを思い返すたび、私達はどうしてもバスの乗車という「多胎児家庭以外は当たり前に出来ること」にこだわりたかったのです。
多くの当事者家庭のご協力を得てこのルール改善を成し遂げられたこと、非常に感謝しております。
ここからは、文化つくりのフェーズ
双子ベビーカーでのバス乗車のルールが変わった今、ここから私たちは、このルールを「新しいあたりまえ」にしていくための行動をしなければいけません。
双子ベビーカーでバスに乗ろうとしている親子を見かけたら、あたたかく見守ること。時に必要そうだったら、サポートの手を差し伸べること。
都営バスの車内では、ベビーカーのマナー動画として、双子ベビーカーでの乗車方法も紹介された動画が流れています。この動画は、フローレンスと多胎育児の当事者の親御さんとで都営バスに要望し、作成されたものです。
ルールを変えるだけではなく、みんながバスに二人乗りベビーカーが乗車するのは当たり前なんだと思ってもらえるようにという思いを込めて要望しました。
ぜひ、多胎児の親御さんは、お出かけの際には勇気を出してバスに乗ってみてください。社会全体で、二人乗りベビーカーがバスに乗車するという風景をこれからの新しいあたりまえにしていきたいと、そう思っています。
ルールは文化と一緒でこそ根付くものです。そして、その文化を作るのは、私達一人一人の明日からの行動です。
双子ベビーカーでバスに乗ってお出かけしている風景があたりまえに存在する社会に、一緒に進んでください。
今後もフローレンスは、東京都内だけでなく、日本全国のバスで双子ベビーカーのバス乗車が解禁されるよう、引き続き社会に提言していきます。
多胎児家庭にとって心地よい社会は、全ての人にとって心地よい社会
多胎育児のソーシャルアクションの中心人物となった市倉は、いつも多胎児家庭の事をお話をする時、「多胎児家庭だけを特別扱いしてほしいわけじゃない。マイノリティに光を当てられる社会は、結局は全ての人にとって優しい社会なんです」と伝えています。
駅のエレベーター配置が進めば、高齢者や足の不自由な人が使いやすい駅になります。窓口に行きにくい家庭のために行政のサービスのIT化が進めば、皆の手間が省けます。乗り物への乗降に時間がかかる人を暖かく見守れるような社会は、きっと他者に思いやりの溢れる社会のはずです。
フローレンスでは、親子の笑顔を妨げる社会課題を、事業と政策提言によって解決しています。
これからも子育て世代や保育現場の声を政治に届け続け、新型コロナの影響で苦しい状態にある家庭のために、提言を続けてまいります。
このようなソーシャルアクションは皆さまの寄付によって支えられています。引き続き、ご支援、応援をよろしくお願いいたします。