厚生労働省は8月30日、ことし4月時点の待機児童の人数を発表しました。全国で2944人と、去年より2690人減少して調査を始めてから最も少なくなり、およそ85.5%の市区町村では待機児童が解消したということです。
待機児童という大きな課題の解決の兆しが見えてきた今、これまで光が当たってこなかった親子の存在に目を向けるときが来ています。保育所にも幼稚園にも通っていない未就園児、いわゆる「無園児」の家庭です。
フローレンスは、「無園児」親子が地域や外部との接点が少ない分、孤立化しやすく、困った時にサポートも届きにくい「無縁児」「無援児」となるリスクをなくしていきたいと考えます。 特に、専業主婦家庭では、平日の子育てを母親ひとりで担っていることが多く、精神的な負担や子育てについての悩み、不安を感じる割合も高いと言われています。
ひとりでの子育て “気が狂いそうに”
保育園などに定期的に通っていない場合、どのような状況に直面する恐れがあるのでしょうか。
フローレンスが運営する一時保育室を利用している皆さんに、保育園入園をあきらめた経緯やその後の育児の様子についてうかがいました。
1歳と2歳の娘、5歳の息子がいます。夫は平日深夜まで仕事です。去年は就労していなかったので保育園に入れられず、一日中3人を一人で見ておりましたが、気が狂いそうで、窓から飛び降りたい日が何日もありました。
第一子を出産後、復職せずに第二子を妊娠、出産しました。復職しないと保育園に入ることはできないと言われ、産後すぐに2人育児が始まり、体力的にも精神的にもとても大変でした。
子どもが2歳の頃、家庭での保育が非常に困難で、保育園入園を希望して区へ相談に行きましたが、“保育の必要性”について説明を受け、あきらめました。
“保育の必要性認定”という壁
厚生労働省によりますと、保育園や幼稚園、認定こども園に通っていない、0歳から5歳の未就学児は2019年度の推計で、全国におよそ182万人いる(※認可外保育施設や企業主導型保育事業の利用者を含む)ということで、このうち約177万人と大半を占めるのが0歳から2歳の乳幼児です。3歳未満は幼稚園の対象年齢ではなく、保育園や認定こども園を利用するには、“保育の必要性”があるかどうかを認めてもらわなければいけません。 “必要性”を認定する事由としては、「就労」や「求職活動」「疾病・障害」「介護」「就学」などがありますが、待機児童が多数いるなかでは熾烈な保活を強いられてきました。
なかには、こんな経験をした方もいました。
息子が1歳になってすぐの頃、片足を骨折して全治3か月の松葉杖生活になりました。 夫は多忙で近くに親族もおらず、育児どころか家事もできない状態でした。 区役所に相談すると、怪我をした場合、認可保育園に一時的に入れることができるとのことでしたが、実際はどの保育園も空きがなく、無認可の保育園に高額ですがお願いしていました。
発達特性のある長男が、入学を期に様々な不適応を起こし始めました。 時間の定まらない登下校の付き添い、家や公園でも度々トラブルを起こし、暴れることもありました。色々な支援機関に相談に行ったりしましたが、いつも1歳の末っ子を連れていました。末っ子がどんどん動けるようになり、意思表示もはっきりしてきて、遊びたい盛りなのに、まともに遊んであげることもできず、長男の用事に連れ回すか、家で動画を見て過ごさせるだけでした。このままでは、長男も末っ子もどちらの対応も中途半端、自分も身体と心が壊れると思い、末っ子の保育園の入園を相談しました。でも、「大変さを客観的に評価できないし、就業しないと入園は無理」と言われました。
“保育の必要性”を認めてもらうため、就労の有無など、目に見える「大変さ」を点数化し競わなくてはいけない、保活。待機児童が多いなかでは、やむをえない面もあった仕組みですが、保育園を必要としているかどうかは、簡単に点数化できることばかりではないはずです。
点数化できない育児の不安や困難
フローレンスは今年、株式会社日本総合研究所に委託し、全国の0歳以上の未就学児の保護者2,000人にアンケート調査を実施。保育園、幼稚園などを定期的に利用している家庭と、そうでない家庭(=無園児家庭)を比較し、生活実態や精神的な状態、保育所等の利用ニーズに迫りました。
その結果、無園児家庭は、保育園や幼稚園を定期的に利用している家庭に比べて、子育てで孤独を感じやすいことがわかりました。
また、定期保育サービスを「とても利用したい」「まあ利用したい」と答えた無園児家庭は合わせて56.4%と過半数を超え、孤独を感じていたり、虐待リスク行動が見られたりする家庭ほど、定期保育サービスの利用ニーズが高いこともわかりました。
育児の不安や孤独は、誰もがいつかどこかで抱える可能性があります。
しかし、家庭と外との接点が限られている場合は、リスクが高まっていても気づくのは難しいのが実情です。
フローレンスが運営する一時保育室の利用者からも、切実な訴えがありました。
夫は朝早くから遅くまで仕事で、加えて転勤族、実家も遠く、完全に1人での子育てで本当に気が狂いそうになりました。他の人からも大変そうだね、と言われるやんちゃ坊主で、2人で死んでしまいたいと思うほど追い詰められました。 2人目は?とよく聞かれますが、他の人の手が借りられない状態では絶対に無理だと思っています。出産費用や子育て手当なんかより、助けてくれる存在が私には必要でした。
待機児童解消後、保育園に求められる役割とは
もしも、週1日でも2日でも保育園を利用することができれば、保育士が子育ての悩みに寄り添い、継続して子どもの発達や育ちを見守ることができます。場合によっては、家庭内のリスクや異変にいち早く気づき、早期のサポートに繋ぐことができます。
保育園を、すべての親子にとっての新しいセーフティーネットに。
フローレンスは現在、希望するすべての親子がニーズにあわせて保育園の利用ができるよう「みんなの保育園」構想を、政府に提言しています。
まずは待機児童問題が解消している地域で、空き定員枠を活用し、保育の必要性認定のない専業主婦家庭などでも保育園を利用できるようにしてほしいと訴えてきました。
8月、政府は、無園児のうち育児に困難を抱えている家庭などへの支援策の検討を始め、来年4月に創設される「子ども家庭庁」の来年度予算案の概算要求には、無園児(未就園児)を定期的に保育園で預かるモデル事業の実施が盛り込まれました。
待機児童が解消していく今、保育園をとりまく環境は、大きく変わり始めています。
これからの時代の保育園について、フローレンスは皆さんと一緒に考えたいと思います。
子育ての中で感じている孤独やつらさ、周りには打ち明けづらい思いなど、下記アンケートフォームから、お寄せください。
是非、あなたの声を聞かせてください。