多くの方が子どもと接する際に、「子どもの意志を尊重したい」と考えるのではないでしょうか。
一方で、その思いとは裏腹に、自分の心に余裕がない時や、予期せぬことが生じてしまった時、子どもの意思を尊重する言動をとることが出来ず、どう対応すべきだったのか悩むことも、あるのではないでしょうか。
8月保育塾では、「子どもの権利」について参加者の方と学びを深めていきました。サポーターには、虐待予防のための戦略・計画を検討するPJ(旧名:子どもの権利委員会)プロジェクトマネージャーの福田一友さんをお迎えしました。
保育塾とは、フローレンスの全スタッフに向けた自主参加型の研修です。毎回異なるテーマをもとにサポーターをお呼びし、アクティブラーニングを通じて学びを深めています。
今年度の保育塾は「子どもにとってより良い環境を考える姿勢をもちながら、日々の業務に取り組むきっかけとなる場」をデザインしています。
子どもの権利とは
国際連合では子どもの権利条約という、子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約が制定されています。
そこでは18歳未満の児童(子ども)を、権利をもつ主体と位置づけ、おとなと同様、ひとりの人間としての人権を認めるとともに、成長の過程で特別な保護や配慮が必要な子どもならではの権利も定めており、子どもは「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」が保証されるとしています。
「子どもにとってどうか?」を考える
今回の保育塾では、基本的な子どもの人権を改めて周知、再確認した後、ワークを通して、保育の日常で発生する具体的な場面を想定したケースワークをきっかけに、自分たち自身の普段のお子さんへの関わりを振り返る時間をとりました。
ワーク①
ご飯の時間で、子どもが、全く野菜と水分を食べようとしません。
「いや!!」と言って、野菜が入ったお料理はお皿ごと退けようとしてしまいます。
あなたはどんな感情になりますか。またどういった行動をするでしょうか?
子ども目線で考えた時、どのような感情になるでしょうか?★状況
リサちゃん:2歳。イヤイヤ期真っ最中。家、園ともに特に食事時のイヤイヤが激しい。
親御さん:家庭内でのイヤイヤに困っており、特に食事量が少ないことを気にしている。
連絡帳、食育相談ともに活用。園での食事量の記載に対し「せめて園ではしっかり食べてほしい」と気持ちを吐露している
ワーク②
ご飯の時間で、全く野菜と水分を食べようとしない先程の「リサちゃん」に、
あなたの同僚(身近な仲間)が、「食べないと鬼が来るよ!」と言いながら無理に食べさせようとしています。
あなたはその時どういった感情になりますか。どんな行動をしますか?
具体的な場面を通して、「自分だったらどうするか」だったり、「子ども目線に立った時、子どもはどう感じているだろう」と考えたり、「自分自身が保育するにあたり、どんな葛藤がでてくるだろうか」など、様々な切り口で、思考を整理する時間になりました。
保育塾では、グループディスカッションを通じてさまざまな意見交換をしています。保育現場や事務局に限らずフローレンスの全スタッフが参加可能なため、事業部の垣根を超え学びを得られるのは保育塾ならではの魅力です。
今回の保育塾では、病児保育事業部保育スーパーバイザーの秋山笑美さん、みらいの保育園事業部おうち保育園門前仲町園長の野口恵美子さんにもご協力いただきました。
グループワークのシェアを行った後、秋山さん、野口さんに、それぞれのワークに対してこんなアドバイスがありました。
【ワーク①】お子さん、親御さん、どちらの気持ちも「うんうん。今こういう気持ちなんだね」とまずは受け止め、子どもが「食べる・食べない」だけに大人がフォーカスしすぎない。子どもが食べること、食べ物と関わることを楽しめるように長期的に構え、食事の時間や食事自体を楽しめるようにアイデアを出し合っていく工夫をシェアいただきました。
【ワーク②】子どもにかかわる大人同士も、正しいことを振りかざすだけでなく、その事象や行為にどういった思いや意図があったのか?を含め、話を聞き合う関係性が理想。「子どもと同様、大人も様々な意図、意見、性格の人がいることを受容し、安心して対話が出来るチームづくりの重要性や、対話づくりのアイデアとして「子どもの人権について考えるワーク」など、普段から話す場を作るなどの工夫の方法が挙げられました。
参加者にとって明日からの保育や、チーム作りに活かすヒントを得る時間となりました。
子どもの権利を守るために
最後に、「普段の保育や子どもとの関わりの中で、子どもの視点に立つことを意識している場面について話そう。それをどうすれば、続けていけるかを考えよう」というワークに取り組みました。
そこでは参加者から、子どもの気持ちに寄り添う姿勢で意識している事や、言葉がけの工夫がシェアされました。
中には「子どもの『嫌だ!』といった感情も含め、周囲の人に受け止めてもらうことが、その子の心の栄養となり、その積み重ねで、その子自身が相手の気持ちを受け止められるようになると感じるのではないか。」という気づきがありました。
サポーターである福田さんは、保育塾の中で「自分たちが無意識・意識しているに関わらず、ご自身や仲間ができていること、頑張っていること、当たり前になっている素敵なことが、子どもの権利の視点でも沢山ありませんか。改めて目を向け・探し・称え合うこともとても大事だと思います。」といったことを挙げていました。
子どもに対する言葉がけ一つとっても、受け取られ方も発言者の意図も、状況や関係性の中で当然異なります。
大人にとっても、子どもにとっても、安心した保育現場を作っていくためにも「〇〇はダメだ」と思考や議論を止め、単純に判断してしまわず、スタッフと子どもの気持ちや声に丁寧に耳を傾け、受け止め、同時に自由に意見できる。子どものことも、大人のことも大切に出来る、そんな心理的安全性が高い環境づくりが大事だと考えます。
子どもの権利を守るために、そして大人自身がフローレンスで働いていることが心から幸せだと全員が思えるために、今一度組織全体で、「子どもの権利を尊重した保育」の在り方をフラットに自由に話し合いたい。そして保育業界全体にも「子どもの権利の新しい当たり前」を広げていきたい。個人の限界を、チームや組織で超え、「子どもの権利を一緒に守っていきたい」というメッセージで、保育塾の場は締められました。
私たちが学び続ける理由
フローレンスでは保育に関わるすべてのスタッフが大切にしている約束、心がけている姿勢を「フローレンス保育クレド」を掲げています。その一つに、「保育者として常に最高の保育に向かって学び続けるプロです。」というものがあります。
私たちは保育に携わる従事者としても、そして何より「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」を目指す、団体としても、役割・役職に問わず全スタッフが学び続ける機会を充実させています。
フローレンスではともに考え、ともに学び、社会をよりよくしていく仲間を心からお待ちしています。