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「子育てやめたい」を「子どもがいて良かった」に変えたのは保育園 無園児家庭“だった”保護者の声

「子育てやめたい」を「子どもがいて良かった」に変えたのは保育園 無園児家庭“だった”保護者の声

「#無園児を無縁児にしない」。

フローレンスは、保育園にも幼稚園にも通っていない“無園児”、いわゆる未就園児が孤立するリスクをなくすため、親の就労の有無などによって定められる“保育の必要性”認定がなくても、すべての親子がニーズにあわせて利用できる「みんなの保育園構想」(こども誰でも通園制度)を政府に提言しています。

そして、ことし8月、来年創設される「こども家庭庁」の来年度予算案の概算要求に、無園児(未就園児)を定期的に保育園で預かるモデル事業の実施が盛り込まれました。

保育園をすべての親子にとっての新しいセーフティーネットに」と考える私たちの訴えが、一歩前進したと受け止めています。

ポイントは“定期的に”預かるという点です。これまでも、専業主婦家庭などが利用できる「一時預かり」という制度はありました。なぜ、一時預かりではなく、定期的であることが大切なのでしょうか。

先行実施の保育園 きっかけは保護者の声

仙台市でフローレンスが運営している「おうち保育園かしわぎ」では、ことし4月から、一時預かりの仕組みを活用した定期的なお預かりを始めています。 この保育園は企業主導型保育施設で、国の補助金を活用して運営しているため、両親ともに月64時間以上働いていることなどが利用の要件となっていますが、国の制度に基づき、定員が空いている枠を活用して、保育の必要性認定がない専業主婦のご家庭や育休中の利用も受け入れています

保育園の様子

きっかけになったのは、一時預かりで出会うお母さんたちの声でした。山本千尋園長はこう話します。

以前からリフレッシュ目的の一時預かりは行っていましたが、「転勤族で知り合いがいない」「孤立した子育てをしており、つらい」といった声に加えて、「コロナで児童館にも行けず、同世代の子と遊ぶ機会がない」という声も聞くようになりました。 一時預かりの場合、お子さんの様子や事情がわからないので、必ず30分の面談をして聞き取るようにしていますが、短時間で状況を把握するのは大変です。 定期的に利用していただければ、親御さんもお子さんも安心できるのではないかと考え、やってみようということになりました。

山本園長

現在、5人分の空き定員枠で、8家庭が利用しています。週1、2回の利用が4家庭、週3回が3家庭、そして週5日が1家庭です。 山本園長によると、定期利用となることで次のような手応えを感じているといいます。

◎保護者と連携しやすい。

お子さんの成長過程を伝えることができるため保護者の安心感につながる。

通常利用の園児も「きょうは◯◯くんが来るね」と覚えるので友達関係が築ける。

◎保護者同士の会話が生まれる。

保育士が声をかけることで「話せる大人がいて嬉しい」「ちょっとした相談ができる」と受け止めてもらえている。

「もう子育てをやめたい」から「子どもがいて良かった」と思えるように

「おうち保育園かしわぎ」の定期利用者の一人にお話をうかがいました。

Aさんは、夫と2歳半の長女、1歳2ヶ月の長男の4人家族。夫婦ともに実家は遠方で、高齢のため頼ることは難しいと言います。さらに転勤族で、ことしの春に仙台市に引っ越してきたばかり。知り合いもおらず、情報を得ることすらできない状態でした。市役所から、一時預かりを行っている保育園の一覧をもらい、片っ端から問い合わせましたが、どこも断られたということです。

誰にも頼れない子育て環境で、下の子はまだ手がかかるのに上の子はイヤイヤ期まっただ中。2人を連れて外出するのは無理!という状況でした。 一日中3人で家の中にいると、ストレスから上の子が下の子をいじめて泣かせる、テーブルや棚に登って飛び跳ねる、下の子にご飯を食べさせていると上の子がおむつを脱いで走り回る、上の子のおむつを替えていると下の子がそのうんちを触る、部屋は常に散らかっている…。 下の子は毎日夜泣きをするので、ちゃんとした睡眠が1年以上とれていませんでした。毎日イライラして上の子を激しく怒ったり、自然と涙が流れたりして、このままでは私も家族も壊れてしまう。助けを求めなくてはと思いました。

悩んでいる母親のイメージ
※この写真はイメージです

そんなとき、「おうち保育園かしわぎ」に出会ったということです。

就職して2人を保育園にとも考えましたが、このコロナ禍、休園になったら誰が子どもたちをみる?入ったばかりの職場に何日も休暇をくださいなんて言えない。夫も何日も休めない。1人だけでも預かってもらえればなんとかなる、できれば継続的に利用できないかと思いました。 たまたま、かしわぎ園に定期利用について尋ねてみると、とても明るい声で「大丈夫です!」と言っていただけて、やっと助けてもらえる!と安心したのを覚えています。

「おうち保育園かしわぎ」では、利用家庭と連絡帳をやりとりしています。Aさんに連絡帳の一部を見せていただくと、当初は、「イライラしてしまった」「もう、クタクタです」といった言葉が並んでいました。

連絡帳

園からは「本当に毎日お疲れさまです。園にいる間、ママが少しでもリフレッシュできたらなと思うのと、いつでもお話聞かせてくださいね」といった励ましのメッセージが書き込まれています。

先生からのコメント

保育園利用で子どもにも変化が

Aさんが「かしわぎ園」を定期的に利用するようになって3か月ほど。今は上の娘さんが週4回、下の息子さんが週1回、園で過ごしています。最近の連絡帳には「お姉ちゃんらしいところも見せてくれます」「ことばもすごく増えてきました」「とてもかわいいです」といった記述が見られるようになっていました。

Aさんの話です。

子どもと離れる時間ができたことで、一緒にいるときに本当にかわいいと思えるようになりました。 上の子は、保育園で思い切り体を動かして遊ぶことができるようになり、同年代の顔なじみのお友達と毎日触れ合って、言葉が増えました。園で小さい子とも触れ合っているせいか、弟に優しくなりました。 また、私が下の子に手をかけられるようになり、離乳食を完了させ、幼児食に移行することができました。上の子に邪魔されてできなかったお昼寝もゆっくりできるようになって、眠くて不機嫌な時間が減ったと思います。

保育園はAさんにとってどんな存在か。改めて尋ねると、次のような答えが返ってきました。

ひとりで背負うしかないのかな、もう逃げたい、子育てやめたい…を、やっぱり子どもはかわいい、子どもがいてよかった!に変えてくれた唯一の存在です。

定期預かりで広がる可能性

現在、フローレンスが運営する保育園で定期預かりサービスを利用されている方々にアンケートを行っています。これまでに回答してくださった全員が「子どもがかわいくてたまらないという気持ちが増えた」「全般的に子どもが成長したと感じる」と答えています。

自由記述には、こんな声もありました。

「子どもの好きなこと、できることが増えたように思います」。

「偏食で悩んでいましたが、保育園の給食は完食してくることが多く、うちに帰ってからも今までは口にしなかった食材を食べる気持ちが芽生えてきたりして、気持ちが楽になりました」。

「先生やお友達も変わらないので、子どもも慣れた環境で遊べて安心感があるように思います。定期的に通えることで、うちに帰ってからの子どもの言動に成長を感じることが多くて、いつも驚かされています。同じくらいのお子さんたちと一緒に過ごせる環境で色々と学びコミュニケーションが豊かになりました」。

そして回答者全員が「今後も定期預かりサービスを利用したい」としています。

フローレンスが今年、株式会社日本総合研究所に委託し、全国の0歳以上の未就学児の保護者2,000人に行ったアンケート調査でも、無園児家庭の56.4%が定期保育サービスの利用を希望していました

定期保育サービスの利用意向のグラフ

もしも、週1日でも2日でも保育園を利用することができれば、保育士が子育ての悩みに寄り添い、継続して子どもの発達や育ちを見守ることができます。場合によっては、家庭内のリスクや異変にいち早く気づき、早期のサポートにつなぐことができます。 働く親のための保育園から、すべての子どものための保育園へと、私たちが考える理由はここにあります。

「おうち保育園かしわぎ」の山本千尋園長は、こう話します。

保護者自身や保育士の中にも、子育ては家庭ですべきで、保育園に預けるのはかわいそうと考える人が少なくないように思います。でも、親御さんに心の余裕があったほうが子どももハッピーです。子どもを預けてもいいんだよと、決して責められることがない社会にしたい。「かわいそう」とおっしゃる保護者の方には「我々は子どもを楽しませるプロなので任せてください!」と言うようにしています!

保育の様子

これからの時代の保育園 できることを模索し続けます

未就園児(無園児)を定期的に保育園で預かる国のモデル事業は、来年度始まる予定ですが、フローレンスではそれを待たずに、保育の必要性認定のない場合も、空き定員枠を活用して定期的に保育園を利用していただく取り組みを試行していきたいと考えています。

また、ほかの保育事業者とも、これからの時代の保育園について一緒に考えていきます。 全国で認可保育所などを運営する、どろんこ会グループ(社会福祉法人どろんこ会、株式会社ゴーエスト、株式会社日本福祉総合研究所、株式会社南魚沼生産組合、株式会社Doronko Agri)とは、保護者の就労の有無に関わらず利用できる保育園を共に目指しています

どろんこ会グループは東京都の認証保育園の補助金制度が変更になったのを受け、週2日(月8日利用可能)、週3日(月12日利用可能)の新契約プランの導入を各自治体の状況に応じて進めることになりました。 今後、多様化する保育ニーズに対応できているのかどうか、利用後の保護者の孤立感の緩和など地域の子育て家庭のセーフティネットになり得ているのかといったエビデンスを示していけるよう、利用者へのアンケート調査なども実施していく予定だということです。

フローレンスが運営する「おうち保育園かしわぎ」では2019年から、週末に「ほいくえん子ども食堂」をオープンしています。保育園は、子どもが安全に遊べるスペースがあり、子育ての専門家である保育士がいて、つくりたての食事が提供できる給食室を備えています。自然なかたちで親子に伴走し、親子と地域住民をつなぐ場になることができると考え、2020年からは認可保育園の「おうち保育園こうとう台」、2022年からは同じく認可保育園「おうち保育園木町どおり」でも実施。

コロナ禍のため、お弁当をテイクアウトするかたちですが、東京・渋谷区の「みんなのみらいをつくる保育園初台」でも始めています。 さらに、10月からは、子ども食堂に来ることが難しい医療的ケア児家庭に、子ども食堂のお弁当を月に1回無料で届ける「医ケア児おやこ給食便」のトライアルを仙台市内でスタートさせます。

給食の様子

保育園を、すべての親子にとっての新しいセーフティーネットに。

待機児童問題が解消に向かいつつある今、フローレンスは、子どもを預かるという役割にとどまらず、保育園が持つ機能を生かし、地域の子育て支援施設としてできることを模索しています。

そして皆さんとも一緒に考えたいと、アンケートを行っています。 子育ての中で感じている孤独やつらさ、周りには打ち明けづらい思いなど、是非、あなたの声を聞かせてください。


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