こんにちは! 私は『障害児かぞく「はたらく」プロジェクト』(以下、はたプロ)ではたらく うさこです。『はたプロ』とは、一度離職した医療的ケア児保護者の「もう一度はたらきたい」をサポートするフローレンスの事業です。
8月27日に開催された重度障害児・者のeスポーツ全国大会【フローレンス杯】アイ♡スポ(以下、フローレンス杯)。フローレンスの障害児家庭支援事業を利用しているお子さんを含む多くの選手が全国から参加し、視線をパソコンのマウスのように使う「視線入力」の技術を使って、ぬりえや徒競走などのゲームを行いました。
ゲーム開始前には島根大学総合理工学部の伊藤史人助教と株式会社オリィ研究所の代表吉藤オリィ氏、フローレンス会長の駒崎弘樹による「重度障害児の就労と社会参加」をテーマとした鼎談が行われました。
4歳の寝たきり医療的ケア児を育てる私も、大会にスタッフとして参加しました。熱戦を繰り広げる選手たちの生き生きとした姿、そして、デジタルにより障害児・者の未来が広がる可能性を感じ、私自身も息子の将来に新たな希望を持つことができました。
今回はそんな思いを胸に、大会に現地で参加されたすみれさんとお母さんを取材させていただきました!
当日の大活躍の様子とともに、視線入力装置によってどの様にすみれさんやご家族の世界が広がったのか、そしてeスポーツ大会にこれから期待することをご紹介します。
「重度障害児・者のeスポーツってどんな感じ?」「視線入力って実際にどうやっているの?」などなど、気になっているみなさんにもぜひ読んでいただければと思います!
フローレンス杯当日は、大会会場である株式会社オリィ研究所が運営する「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」に5人姉妹みんなで参加してくれたすみれさん。島根大学総合理工学部 伊藤史人助教の開発した「視線入力訓練ゲームEyeMoT 3D シリーズ」で、リモート参加者とオンラインで対決しました。
後日、すみれさんのお母さん(以下、れいなさん)にインタビューしました。
視線入力は「できる」を見つけるための手段
うさこ
すみれさんは普段からよくゲームをされているんですか?
れいなさん
そうですね。いつも指で操作するスイッチ装置や視線入力装置を使って姉妹でマリオカートをしたり、ゲームをとても楽しんでいます。「負けないぞー!」とか言いながら(笑)
うさこ
姉妹みんなで楽しめることがあるのはいいですね! 視線入力装置はいつから利用されているんですか?
れいなさん
すみれが4歳の頃からです。それまでも視線入力というものがあるのは知っていたけれど、実際どんなものなのか、どうやって導入すればいいのか分からなくて。そんな時初めて伊藤先生にお会いして、すみれと同じ疾患であるSMAの先輩を紹介してもらったんです。
もう20歳を超えている方なんですが、たくさんのパソコンにモニター、iPadが揃っていて、それを使ってゲームをしたり、SNSで発信したりする姿を見て、「こんなことができるんだ!」って衝撃と希望が湧いて、私も前向きに考えられるようになりました。それから、まず環境を整えてあげようと動き出しましたね。
うさこ
嬉しい発見ですね! それまで意思疎通はどのようにされていたんですか?
れいなさん
人工呼吸器をつけていても声を出すことができているので、言葉や表情、それにコミュニケーションツールとしてiPadとスイッチ装置は早いうちから導入していました。
れいなさん
あなた、だぁれ?
うさこ
うさこです(笑)。おしゃべり上手だね。
れいなさん
こんな感じで、マイペースでひょうきんな我が家のムードメーカーです(笑)
うさこ
学校の勉強はどうやって行っているんですか?
れいなさん
例えば、授業や宿題のプリントはiPadにPDFで読み込んで、答えはスイッチ装置を使って画面上の五十音表にカーソルを合わせながら、ひとつずつ文字を選んで入力しています。スイッチ入力ってまどろっこしいんですよ。スイッチを上下左右と動かしながら文字を選ぶのにも時間がかかるし、それで学校の授業のスピードに追いつくのが難しかったり。
なので、視線入力だったら、すみれの思うスピードで文字を選ぶこともスムーズにできるんじゃないかなと思って、将来のためのツールとして導入したというところもあるんです。今後の課題は、視線入力を学習で使えるようになるために練習をしていくことですかね。
うさこ
視線入力を学習に取り入れることへのハードルは何ですか?
れいなさん
やっぱり疲れるんですよね、視線入力って。それと、やる気。楽しくないとやらないので(笑)。その子の性格にもよると思うんですけど、すみれの場合、初めから勉強しましょうって言っても続かなかったと思うので、ゲームは導入としてよかったですね。
うさこ
そうですよね。まだなかなか集中力も続かない年齢ですし。ゲームやeスポーツは視線入力の練習としても意味がありそうですね。
れいなさん
そうですね。特に今回の「視線入力訓練ゲーム EyeMoT 3D シリーズ」の場合、ゲーム自体の難易度が低く作られていて、その狙いは「みんなができる」っていうことと、「私、できるよ」っていうことを家族や周りの人に伝えられることだと思うんです。難しかったり辛いことは、子どもは続かないんですよね。
うさこ
視線入力装置を導入したことで、ご家族としても変化がありましたか?
れいなさん
「できる」を見つけるための手段が増えたのはよかったですね。いつも家族みんなで、すみれが何か「できる」ための方法を考えているんです。
eスポーツなら「自分の力でゴールまで行ける」
うさこ
フローレンス杯はどうでしたか?
れいなさん
すみれは徒競走のゲームが好きで、すごく楽しかったみたいです。でも、上には上がいて、「負けちゃった」ってつぶやいていましたね。今まで「競う」っていう気持ちはあまりなかったので、運動会を通して競争心を持ったり。でも、負けても気持ちはスッキリ、みたいな爽快感もあって成長を感じましたね。
他の子たちを「がんばれー!がんばれー!」って応援していて、そういうのもすごくいいなと。人を応援したり応援されたりっていうのもすごくいい経験でしたね。
うさこ
現地会場は声援で盛り上がっていましたね。
れいなさん
そうですね。お子さんも観戦者もみんなすごくいい表情で、みんなで一致団結、楽しんでいる感じがあって、とっても素敵な場だなぁって思いました。
うさこ
フローレンス杯に向けては結構練習しましたか?
れいなさん
すみれにしては練習しましたね(笑)。だから初めて1勝できました! ギャラリーの応援があったのもすごく大きいかなって思いますね。家の中じゃない環境で、自分が主役になれる。いつもは運動会にしても誰かにバギーを押してもらわないといけないのが、自分の力でゴールまで行けるっていうのは嬉しいですよね。
うさこ
お姉ちゃんや妹さんも大会を楽しんでいましたか?
れいなさん
そうですね。他の子どもたちも視線入力ゲームが好きなんですよ。「一緒にやりたい」って。
うさこ
なるほど! 健常のお子さんも楽しめるんですね!
れいなさん
そうなんです。少しハンデをつけたりして一緒に楽しめるんですよね。なので、学校のお友達を家に誘って一緒に遊べるようになったらいいなと思っているんです。
視線入力を使ったピアノにも挑戦したい
うさこ
今後、視線入力装置を使って挑戦してみたいことはありますか?
れいなさん
今度、学校の音楽発表会があって、そこで使ってみたい視線入力用のピアノアプリがあるんです。それで練習してみて、「ほら、こんな方法あるよ」って見せに行こうかなって思っていて。できること探しですね!
うさこ
そうした専用アプリはいろいろな方が開発しているんですか?
れいなさん
そうですね。いろいろな先生方が開発されていて、それを見つけた人がSNSで情報を発信してくれています。でも、それぞれに発信しているので、自分で情報を拾いにいかないといけないんですよね。
うさこ
そうした情報がまとめて見られるサイトとかあったらきっと便利ですよね! 先日私の息子も視線入力ゲームを体験する機会があったんですが、知的障害のある息子でも想像以上に上手にゲームをこなしていて、新しい可能性を発見できました。ぜひ我が家でも視線入力装置を導入してみたいなぁと思っています。
れいなさん
いいですね! 「できる」が見つかると嬉しいですよね。
うさこ
これからeスポーツに期待することはありますか?
れいなさん
学校単位での対決とかあったらいいですよね! そうしたら先生たちも視線入力装置の導入や活用に本気を出してくれるんじゃないかな?(笑) まずは支援者たちがやる気にならないと進まないですからね。
うさこ
そうですよね。今は個人個人がツテや情報を探して装置を導入している状況ですが、そのハードルは結構高いですよね。視線入力を通して、子どもたちの可能性がもっともっと広がっていってほしいですね。
第2回フローレンス杯があったら、また参加されたいですか?
れいなさん
はい、喜んで行きます(笑)
れいなさん
1位がいい!
いかがでしたでしょうか?
すみれさんとご家族ができることを積極的に探そうとする姿勢に、私も勇気と前向きな刺激をいただきました。そして、視線入力によって「できる」が広がり、障害者・健常者の垣根を超えて楽しめるeスポーツの未来が少し垣間見えた気がしました!
当日一緒に取材を行った、同じ『はたプロ』の仲間であり、重度障害児を育てているちりさんからも、以下のような感想をもらっています。
真剣な眼差しで画面を見つめるみなさんの姿がとても輝いて見えました。対象者はみんな重度障害児・者。でも一人ひとり「できる」方法が違います。
指は動かせないけど、スイッチは押せる。
腕は動かせないけど、顎でタッチすることはできる。
顔は動かせないけど、視線でなら操作できる。「できる」を見つけ「できた」を積み重ねることで喜びに繋がるということを、この大会を通して肌で感じることができました。
私は一時期、息子に対して、「どうせわからないから」「きっとできないから」と、希望を持つことを諦めていました。
期待してできなかった時に落ち込むよりは、最初からチャレンジしない方が楽だと思い、本当の気持ちをグッと押し込めてきました。
でも、嬉しいと笑い、不快だと泣く息子は、ちゃんと自分の気持ちを表現してくれているということに気がついた時、私が息子の可能性を潰してしまっていたのかもしれないと深く反省しました。
今は息子が今日より少しでも楽しく、笑顔が増える明日になるように、『期待し過ぎず、希望を持って』をモットーに日々を過ごしております。そしていつか息子の「声」を聴く方法も見つかるかもしれないと、私自身また一つ希望が生まれた大会でした。
フローレンスでは様々な障害児家庭支援事業に取り組んでいますが、今後は日々の活動の中でもデジタルを活用した療育の可能性を模索していきたいと考えています。ぜひ色々なご家庭からご意見いただきながら、一緒に新しい未来を作っていきたいと思います!
▼重度障害児・者のeスポーツ全国大会【フローレンス杯】アイ♡スポ 本大会の様子