フローレンスは、スタッフの市倉を中心に2019年に全国約1,600の多胎児家庭にアンケートを実施し、そのアンケートに寄せられた当事者の声をもとに政策提言を行ってきました。
特に「多胎育児中に『辛い』と感じた場面」について、89.1%が「外出・移動が困難である」と回答し、双子ベビーカーに子どもを乗せたまま、公共交通機関であるバスにも乗車できない状況が明らかとなり、その状況を改善できないか、国や行政に届けてきました。
このアクションを始めた2019年には、東京では、バスに双子ベビーカーのまま乗る事は、残念ながらできませんでした。
しかし、東京都交通局をはじめとした関係各社の皆さまのご尽力により、都内全線で「双子ベビーカーは折り畳まずにバスに乗れる」となったのが、今年6月のことです。
これまでも東京都交通局とフローレンスは、当事者を交えながらの意見交換を3回重ねてきており、ルール整備から半年たったこのタイミングで、改めて当事者とバス会社双方が理解を深めるための会を開くことになりました。
乗務員、双子を子育て中の保護者で意見交換
ご参加いただいたのは、都内で2歳の双子を育てる保護者と、2歳の兄と1歳の双子を育てる保護者。お二人ともお子さんを連れてご参加くださり、会は非常に賑やかなものになりました。
まず冒頭、バレーボール元日本代表の大山加奈さんより寄せられたコメントを市倉が代読しました。
本日は、私を含め当事者の皆さんを呼んでいただき、意見を交換できる場をいただけたことを、とても嬉しく思っております。都営バスの運転手さんや職員のみなさんが日頃、安心安全にバスを利用できるよう配慮してくださっていたり、快適に利用できるよう努力されていたりすることは重々承知しております。いつもありがとうございます。(中略)今現在多胎育児を頑張っていらっしゃる方や、この先多胎児を育てられるみなさんが安心してバスを利用し、あきらめることなくお出かけでき、笑顔で子育てができる、そんな社会をみなさまの力も借りながら、作っていけたらと思っております。本日はこのような場を作ってくださり、本当にありがとうございました。みんなが力を貸したり借りたりしながら支え合える、やさしい社会になりますように。
意見交換の中では、大山さんのコメント同様、バスに乗れることになった事への感謝の言葉や、実際に乗れた時の嬉しかった気持ちなどが率直に語られました。
また、交通局の方からも「ぜひたくさん乗ってお出かけしてください」という温かい言葉をいただきました。都営バスの現役乗務員さんも参加されていたので、「双子ベビーカーをちょっと見せてもらっていいですか?」「サポートをするときは、どこの部分を持つといいんですか?」などという会話も見られ、非常に有意義な会となりました。
その後、乗車体験へ……
バスの乗車体験のために、一行は屋外の試乗スペースへ。
2組とも熱心に参加され、前扉からの声掛けや、乗務員のサポートを受けながらの乗車を体験しました。
また、実は双子ベビーカーと車いすが同時に乗車することも可能なのです!車いすの方が乗車中のバスに双子ベビーカーが乗り込む場合のデモンストレーションを行い、車内スペースをゆずり合えば乗車可能なことも検証しました。
印象的だったのは、2組のお子さん達の興奮した顔!バスに興味津々な様子がこちらにも伝わってきました。
2歳の双子ママ「今回このような形で乗務員の方にお手伝い頂けると分かったので、少し、これからは外出も1人でできるかなと思っています」
意見交換はこれで4回目の実施となりましたが、実際に多胎児のお子さんをベビーカーに乗せての乗車体験は初めての実施でした。「私の経験が少しでも意見交換の役に立つなら」とご参加を申し出てくださった3組のご家庭に、心より感謝いたします。
配慮やサポートは、誰だって受けることがある
私たちフローレンスが今回東京都交通局と協働した意見交換会の実施に奔走したのは、ある思いからです。
それは、「このルールを、文化に変えていきたい」ということ。
ついこの前まで、「双子ベビーカーに乗ってバスでお出かけすること」は、残念ながら夢の話でした。
でも、多くの方のご尽力と努力があり、実現したこのルール整備。
それが「新しいあたりまえ」として定着し、その先に「誰もが気持ち良く公共交通機関に乗れる」「配慮やサポートが必要な人には、誰もが手を差し伸べたり、暖かく見守る」、そんな文化を私たちは作りたいのです。
その文化は、配慮やサポートを受ける側の人とバス事業者だけの頑張りでは作れません。他の多くの「あたりまえにバスに乗れる人」の理解と協力こそが、不可欠なのです。
私たちは誰もが明日、何らかの配慮やサポートを受ける立場になるかもしれません。それがなかったとしても、いずれ誰もが老いていきます。足が不自由になったり、動作に時間がかかるシーンも出てくるはず。
そんなときに「時間がかかって迷惑だなぁ」「サポートが必要なら、公共交通機関に乗るなよ」と白い目を向けるような社会に、私たちは向かっていいのでしょうか。
今回、報道陣の「丁寧に対応すれば運行に遅れが出るがどう対応する?」という問いに、東京都交通局の担当者さんが「相互理解ということでバスのお客様にもご理解頂きながらやっていく必要がある」と語られたのが、非常に心に残りました。配慮やサポートが必要な人を排除するのではなく、協力や見守りができる文化。それを作っていくのは、いずれ当事者になる、私たち自身なのだと思います。
最後に、今回この会を実現するにあたり、本当に細かなご調整をしてくださった東京都交通局の皆さんに、心からの御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
フローレンスでは、双子ベビーカーでのバス乗車を始めとした「多胎児育児環境のアップデート」を目指し、日本初の多胎児専門サポートサービス「ふたご助っ人くじ」の運営など、さまざまな取り組みを行っています。
『多胎育児専門サポートサービス「ふたご助っ人くじ」』について
多胎児家庭が安心できる社会をみんなでつくる
「双子ベビーカーをバスに乗せる」というフローレンスのソーシャルアクションは、当然ですが、フローレンスの収益になることはありません。でも、関わるスタッフ全員が「このままではいけない」「もっと素敵な世の中を次の世代に渡すんだ」という信念で取り組んでいます。
このようなソーシャルアクションは皆さまのご寄付によって支えられています。より良い未来を創るために、フローレンスへの応援をよろしくお願いします。