男性が育休を取らない・取れない理由を、ひとつ解消する政策が発表されました。
父親が「産後パパ育休」(男性版産休)を取得し、母親も育児休業を取った場合、休業前の賃金を「夫婦ともに」実質的に100%保障するという方針を岸田首相が明らかにしたのです。
「産後パパ育休」は、「出産後8週間以内」に「4週間(28日)※4分割可能」まで男性が育児休暇を取得できるもので、2022年10月に始まった新しい制度です。現在、「産後パパ育休」取得中には、賃金の67%の育休給付金を受け取ることができますが、これを80%に引き上げるとともに社会保険料の支払いも免除することで、実質的に賃金の10割を保障するということです。
「4週間も休んだら給料が減って家計に影響が出てしまう」。これまで指摘されていた、こんな課題は払拭されることになります。
「男性の家庭進出」を目指して
親子をとりまくあらゆる社会課題の解決に取り組んできたフローレンスは、「男性の家庭進出」についても実践と政策提言を積み重ねてきました。
育休を取ることは大前提。男性育休取得率100%が自慢で、社員の実録や座談会を通して男性が家事・育児の当事者となることがどれだけ大切で魅力的なことなのか、度々発信してきました。
また、会長の駒崎は2010年に厚生労働省と有識者で発足したイクメンプロジェクトの有識者メンバーとなり、2013年には座長に就任。株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵さんをはじめ、みらい子育て全国ネットワーク代表の天野妙さん、父親支援NPOファザーリング・ジャパン理事の塚越学さんなど、子育てと働き方改革に造詣の深い有志メンバーと共に「男性産休の創設」と「男性育休義務化」に向けて政策提言とロビイングを続けてきました。
その努力は、2021年6月、育児・介護休業法の改正という形で実を結び、2023年4月にかけて段階的改正を重ねてきました。
育児・介護休業法の段階的改正
①2022年4月1日~制度の個別周知・意向確認義務
→企業は、妊娠や出産(本人または配偶者)を申し出た従業員に、制度の個別周知や取得意向を確認しなければならない
②2022年10月1日~雇用環境整備義務
→出生時育児休業(産後パパ育休)制度が新たに創設、育児休業の分割取得が可能に
③2023年4月1日~育児休業取得率の公表
→従業員1000人以上の企業は、従業員の育休取得状況を毎年公表しなければならない
男性育休の現在地 独自調査で見えてきた課題
今年4月から始まる、育児休業取得率の公表。常時雇用する労働者が1,000名を超える事業主は、育児休業等取得の状況を1年に1回公表することが義務付けられます。
これに先駆けてフローレンスは、厚生労働省「イクメンプロジェクト」、株式会社ワーク・ライフバランスとともに独自の実態調査を行い、調査協力の呼びかけに応じた141社の回答の分析結果を先日、3月15日厚生労働省において記者会見を開いて発表しました。
日本全国の男性育休平均取得率は2021年度で13.97%(厚生労働省調べ)ですが、回答した141社の取得率は2022年度の見込みで平均76.9%と、過去3年間で24.9ポイントも増加していることがわかりました。
また、男性育休取得推進に向け、企業がどのような施策に取り組んだかについても調査し、取得促進につながった施策や、取得伸び率が高いなど、さまざまな視点から注目すべき企業名とその取り組みについてもご紹介しました。さらに今後企業が進めるべき施策について、イクメンプロジェクトの立場からご提案しました。
この調査から浮かび上がってきた課題のひとつが、取得日数の伸び悩みです。
141社の平均取得日数は40.7日。3年間で大きな変化はなく、取得率が高いからと言って取得日数が長いわけではありませんでした。つまり「取るだけ育休」になっている企業があるのです。
なぜ私たちが取得日数に注目するのか。
それは、今回、「育休前賃金100%保障」の方針が示された「産後パパ育休」が重要だと考える理由につながります。
数日“取るだけ”じゃダメ 「産後パパ育休」なぜ重要か
ひとつは、産後うつの予防です。
産後うつとは、分娩後の数週間、ときには数か月後まで続く極度の悲しみや、それに伴う心理的障害が起きている状態を言い、出産した母親の10~15%が発症すると言われています。
MSDマニュアル家庭版「産後うつ病」より
2018年、厚生労働省研究班(主任研究者:国立成育医療研究センター・森臨太郎氏)が、2015~2016年に妊娠中や産後1年未満に死亡した妊産婦357例を調べたところ、死因の第1位は「自殺」で102例、うち、産後1年未満の自殺が92例でした。
「産後うつ」を予防するには、産後に7時間睡眠をとることができる生活が大切ですが、夜中も2時間ごとの授乳があり、一人で育児をすると7時間寝ることは不可能です。
産後うつのピークの時期である産後2週間から2か月の時期に夫が育休を取得することができれば、妻と子どもの命を救うことにつながります。
だからこそ「産後パパ育休」が重要なのです。
次に、少子化対策としての側面。
第2子以降をもうけるかどうかは、第1子の育児における夫の育児参画時間と相関していることを示す調査結果があります。
厚生労働省の調査によると、休日に夫が全く家事・育児を行わない場合、第2子以降の子どもをもうける夫婦は10%なのに対し、夫が6時間以上家事・育児を行う場合、第2子以降の子どもをもうける夫婦は87%。その差は歴然としています。
父親が家事・育児に参加するようになれば、母親の負担は減って、もう1人産み育てたいと思えるようになるということです。
2022年の出生数は前年比5.1%減の79万9728人。統計を取り始めてから初めて80万人を下回りました。この「危機的な状況」を改善するには、男性の家事育児参画時間が重要です。数日だけの取得では本来の役割を果たすことはできないのです。
さあ、残るは「空気の改革」です!
フローレンスが厚生労働省「イクメンプロジェクト」、株式会社ワーク・ライフバランスとともに行った調査では、「職場全体で働き方改革を実施している」企業の育休取得日数は、そうでない企業の約2倍にのぼることがわかりました。
また、平均取得日数が14日以上の企業では、「当事者以外の従業員や、パートナーが男性育休の必要性について学べる仕組みがある」「社内外に向けて、取得者の事例を発信している」など、当事者以外への情報提供をしている割合が高いという結果になりました。
つまり、取得日数を向上=本来の目的・役割を果たす育休とするには「職場全体での働き方改革」と「当事者以外への情報提供」を行う必要があります。
それはまさに、フローレンスが考えている「空気の改革」です。
「仕事を休めない/休ませない空気」「男性が育休取って何するの?という空気」「子どもはお母さんと一緒にいれば幸せという空気」。日本社会にはさまざまな「空気」がはびこっています。
ルールは変わり、賃金という経済的な障壁も取り払われようとしている今、いよいよ残るは職場と、働く人一人ひとりの「空気」の変革です。それはきっと、業務の属人化を防ぎ、誰が抜けてもチームメイトがカバーできる、真の意味での「働き方改革」にもつながっていくと思います。
「男性育休=パパが育児サポート」の時代はもう終わり。育休は、ママの『併走者』ではなく『当事者』へ意識を切り替えるスイッチです。
男女ともに家事・育児の当事者意識をもち、家庭を共同運営するという新時代の家族のあり方を、フローレンスはこれからも提案していきます。
フローレンスのこうした社会的アクションや政策提言活動は、皆さんからのご寄付によって支えられています。
いつも応援してくださる寄付者の皆さん、参加・協働してくださっている多くの皆さんに心から御礼申し上げます。
引き続きご支援・応援をよろしくお願いします。