「休日に家族で水族館に行く」ーーー
一見どこにでもあるありふれた休日のようですが、なかには出かけたくても色々な事情で”家族そろっての外出”へのハードルが高いご家庭もあります。
その一つがたんの吸引や人工呼吸器など医療的なデバイスとともに生きる医療的ケア児を育てるご家庭です。
今回フローレンスでは、「医療的ケア児家庭のお出かけ」という社会課題に関心を寄せていただいたチューリッヒ保険会社(東京都中野区)さん(以下、チューリッヒさん)とともに、フローレンスの「医療的ケアシッター ナンシー」を利用中の2つのご家庭の『遠足プロジェクト』を行いました。チューリッヒさんにはかねてより、フローレンスの活動にご寄付もいただいています。
チューリッヒさんは資金提供だけではなく、1年ほど前から企画の検討にも参加。頭を突き合わせて「この先も遠足プロジェクトを続けていくための型づくり」に一緒に取り組んできました。事前の下見や遠足当日のボランティアにも数名の社員さんにご参加いただきました。
「単に金銭的なサポートではなく、企画を一緒に作り、ボランティアとして当日参加することで、お出かけする際のご家族のご苦労を実感し、必要とするサポートを理解することができた」と当日ボランティアに参加したチューリッヒスタッフさん。
そもそもなぜ「水族館への家族でのお出かけ」に下見やたくさんの人手が必要なのでしょうか。
「ちょっとしたお出かけ」が一大プロジェクトになってしまう理由とは?
この写真は実際に遠足プロジェクトに参加されたお子さんの荷物です。実はこの他にも必要なケア用品を入れた大きな荷物が一つあります。
医療的ケア児を子育て中のご家庭は、外出先でも必要なケアが実施できるように、医療機器も含めて多くの荷物を持って外出をしています。人工呼吸器のバッテリーの充電や必要な酸素の量が足りるかなど、外出先での出来事を想定しながら、念入りに事前準備が必要です。
特にごきょうだいが多いご家庭では、ごきょうだいとの時間も作りながら、荷物を準備・持参しての外出はとても大変なため、サポートがない中で家族揃ってのお出かけをすることに難しさを感じているご家庭がたくさんいます。医療的ケアができる看護師をサポートのために1日確保し、介護タクシーを手配するとお金もかかりますが、その費用を補助する制度はありません。
また、外出先でケアをする場所があるか、呼吸器や吸引器の電源を充電できる場所はあるか、比較的大きい子ども用車椅子も入るエレベーターはあるのかなど事前に確認しなければならないポイントも多く、日々のケアをしながら親御さんが下調べをすることも容易ではありません。
今回お出かけプロジェクトに参加したWさんご一家とTさんご一家も例外ではなく、医療的ケアの必要なお子さんが生まれてからは外出を控えたり、家族でお出かけするときには医療的ケアのあるお子さんは一時的に預けたりされてきました。
Wさんご一家
・6人家族
・ごきょうだいは、小学5年生のお兄ちゃん、小学1年生のお姉ちゃん、0歳の弟くん
・Mちゃんは3歳。必要な医療的ケアは人工呼吸器、胃ろう。キラキラしているもの、コモドドラゴンの人形、お歌などが好きで、最近どんどんいろんなものへの反応が出てくるようになり、表情も豊かになってきています。
Tさんご一家
・5人家族
・ごきょうだいは、小学5年生のお兄ちゃんと1歳の妹さん
・Rくんは小学2年生。必要な医療ケアは人工呼吸器、胃ろうからの注入、気管切開部・口鼻からの吸引。好きなこと、嫌いなことがはっきりしていて、スタッフに教えてくれます。抱っこしてもらうのが好きです。
医療的ケア児家庭「遠足プロジェクト」始動!チューリッヒさんとの協同
そんな「医療的ケア児の家族でのお出かけ」の課題に関心を寄せ、何かできないかと申し出てくれたのがチューリッヒさんでした。
チューリッヒさんとの出会いは、コロナ禍の困窮家庭への支援。そのご縁をきっかけに何か一緒にできないか模索する中で、特に支援が行き届いていない分野へのサポートをご希望いただき、「医療的ケア児の家族でのお出かけ」の課題に対して支援の事例を作って広めていくことに取り組むことになりました。
そこで、なんとチューリッヒさん、遠足プロジェクトの資金を集めるために、社員の自主企画としてチャリティ付きビンゴ大会を企画。約130人のチューリッヒ社員がビンゴカードを購入し、集まったものと同額を本社からの寄付としてマッチングし提供してくださることに!
看護師が医療的ケア児をご自宅で預かる「医療的ケアシッター ナンシー」のスタッフもチューリッヒさんの社内ラジオに参加して医療的ケア児家庭の外出の課題についてお話をさせていただきました。
これっきりのお出かけにしない!続けるためのモデルケースづくり
この取り組みで大切にしたことは、2回のお出かけを通じて、“医療的ケア児の家族のお出かけのためのモデルケースを作ること”。
フローレンス寄付担当の佐藤は「チューリッヒさんの素晴らしかったところは、フローレンスとチューリッヒだからできることにするのではなく、今回参加する2家庭以外の未来も視野に入れて一緒に伴走してくれたことです」と言います。
初回のお出かけにあたってチューリッヒさんとフローレンスの看護師で一緒に水族館に下見に行き、どんな観点で会場を確認すればいいか洗い出しました。
・遠足の途中で医療的ケアを行う場所はあるか
・館内に医療機器の充電場所はあるか
・子ども用車椅子が移動しやすい動線はどこか
・震災時はどんな対応をするのがよいか
・体調不良時の近隣の医療機関について
そして洗い出した点や、ご家族構成、体調の変化しやすい医療的ケア児のお子さんに必要な配慮といった点を踏まえて、当日の計画を練ります。
いざ水族館へお出かけ!
当日はフローレンスの看護師2名がご家族を自宅にお迎えに行き、介護タクシーに同乗して現地へ。
一方、チューリッヒさんのボランティアスタッフ3名とフローレンススタッフ1名は事前打ち合わせ。当日の流れと必要な動きを確認します。
ご家族と合流後、チューリッヒさんのボランティアスタッフはお出かけのサポート隊として動きます。
カメラマンとして写真撮影をしたり、昼食のレストランやイルカショーの場所取りを先回りして行ったり。
イルカショーの間、車椅子席の周囲に強風が吹き荒れていたので、体温調節の難しいRくんを風からガードします。
フローレンスの看護師もお子さんの痰の吸引や栄養の注入などの医療的ケアを行ったり、モニターの数字をチェックしてRくんの体調管理に目を配ります。
途中で減ってきた人工呼吸器用の蓄電池を充電したり、子ども用車椅子の操作をしたり、大忙しです。
その間にご家族はイルカと触れ合ったり、ショーを楽しんだり、アトラクションに乗ったり。予定していたプランを満喫いただきました!
それぞれのご家族の1日はこちらから
▼Wさんご一家
遠足プロジェクト!家族で水族館へ出かけよう!チューリッヒさんと一緒にイルカに会いに行こう!
▼Tさんご一家
遠足プロジェクト第2弾!家族でお出かけしよう!チューリッヒさんと八景島シーパラダイスへ行こう!
「お兄ちゃんも楽しかったようで、帰ってからも水族館やチューリッヒさんの話をよくしてくれます」とTさん。「息子を連れて外へ出るにはまだまだ周囲の目が気になります。また場所によってはエレベーターなどの環境が整っておらず出かけづらかったりします。時間はかかると思いますが、色んな状況を受け入れてくれる環境が整うといいなと思います。サポートがあるならいつでも喜んで出かけたいです!」
Wさんも「きょうだいを見ながらMちゃんの体調や医療機器の数値を気にするなど、家族だけで実現することは難しかったと思います」と当日を振り返ります。「家族みんなで楽しく行って帰ってこれたのはみなさんのサポートがあったからです」
すべてのご家族にとって「お出かけ」をあたりまえにしたい!
「次もまた遠足プロジェクトができるなら、一緒にお出かけしたいなって思ってるお子さんがたくさんいるんです」とフローレンスの「医療的ケアシッター ナンシー」の事務局スタッフ大津留は話します。「家族で旅行したい、動物園に行ってみたいといったようなお声をたくさん聞いています。家族で写真を撮りたい、楽しい経験を一緒にいっぱいしたい、そんな気持ちは家族の形に関わらず共通しています。お子さんの体調や病状によってはいつでも行けるとは限らないので、“今、いこう”というその時に一緒に行くことが大切と強く感じています」
『遠足プロジェクト』と銘打っていますが、本当はどのご家庭でもあたりまえに叶えられるはずのお出かけです。
今は“プロジェクト”と名前をつけ、人と資金を集めなければ実現しない医療的ケア児家庭の家族揃ってのお出かけ。
サポートするための制度、周囲の見る目など、まだまだ変えていかなければならないことがたくさんありますが、まずは“出かけてみた!”という事例をたくさん作って知っていただくことで、環境が少しずつ変わっていくとフローレンスは考えています。
チューリッヒのご担当者の佐々木さんからのメッセージ
フローレンスさんから話を聞く中で、医療的ケア児が日本全国に約2万人もいること、外出や通学のハードルが高いという現状を知りました。弊社のスイス本社にあるZZF財団は、気候変動、メンタルウェルビーイング、社会的公平性の3本の柱を支援の重点に置いているため、私たちは『社会的公平性』の機会創出の観点で遠足プロジェクトを実施しました。医療的ケア児さんについての啓蒙セミナーとチャリティビンゴ大会の収益をプロジェクトの原資にしました。社内初の試みでしたが、マネージャーや大勢の社員の協力によって実現されたイベントです。私たちの小さな一歩が、いつか大きな進歩へ変わることを願っています。
遠足プロジェクトに一緒に取り組んでみたい、と考えてくださる企業さんを募集しています!
興味を持たれた方いましたら、ぜひお声がけください!