現代の日本では6人に1人の子どもたちが貧困状態にあると言われているのをご存知ですか?
また、共働き家庭の増加、塾通いや習いごとといったライフスタイルの変化により、「食事の団らん」が少なくなり、家族が一人ひとり別々にに食事をとる「孤食」も増えてきています。
こうした問題に対して、「こども食堂」と呼ばれる取り組みが、東京や大阪など都市部を中心に広がっています。子どもたちが一人でもご飯を食べに来ることができ、ご飯を食べながら、いろいろな話をしたり、子ども同士で遊んだりして、夕食の時間を過ごします。日々の慌ただしさから、つい後回しになってしまいがちな「食事」と「団らん」を地域のみんなで共にし、食卓を通した緩やかななつながりを育む取り組みです。
フローレンスでも、コミュニティ創出のための施設であるグロースリンクかちどきを中心として、2015年12月、2016年1月に「わんがんこども食堂」を開催しました。
誰もが子どもを抱きしめるように迎え、お腹いっぱいになって笑顔で明日を迎えられるような場所を作りたい。
そんな想いを胸に、こども食堂オープンに向けて奔走した4人のスタッフに話を聞きました。
同じ志の上に多様な人材が活き活きと輝く……それがフローレンスの考える「チーム」のあり方です。こども食堂チームは、まさにそんなイメージの体現のひとつかもしれません。
斎藤雄介(さいとう ゆうすけ)
コミュニティ創出事業部
2014年にフローレンスに入社。グロースリンクかちどきの施設長を務める。
趣味はエレキベース。音楽フェスでステージに立つことも。
川村登茂子(かわむら ともこ)
病児保育事業部
2013年にフローレンスに入社。普段は病児保育の会員問合せ対応などを対応。時には保育現場に出ることも。
学生時代「魔法使いサリー」に似ていたため今でもニックネームは「サリーさん」
戸崎絢子(とさき じゅんこ)
コミュニティ創出事業部
2015年にフローレンスに入社。グロースリンクかちどきに勤務。
旅行が趣味。日本語が通じず日常感のない海外の国が好き。
秋葉千枝子(あきば ちえこ)
病児保育事業部
2012年にフローレンスに入社。普段は病児保育事業部でこどもレスキュー隊員のサポートを担当。
いずれカフェを開きたいと目論んでいる。
それぞれの想いを持って「わんがんこども食堂」に集う
---今日はよろしくお願いします。はじめに、こども食堂とはどのような取り組みなのか教えて下さい。
斎藤:こども食堂は、子どもの貧困や、孤食を解決するための取り組みです。無料、あるいはとても安い値段で、子どもや食の支援を必要とする親子に食事を提供するというもので、今、都市部ですごく広がっています。
大事にしなければならないのは、子どもがひとりでも気軽に立ち寄れる場所であるということですね。ちょっとしたお金を握りしめて、子どもがお腹をすかせて立ち寄れる、そういう場所であること。それがまずこども食堂を作る上でなくてはならないことです。塾の帰りだったり、親御さんが共働きで帰りが遅い子どもが、気楽に「じゃあ今日、寄ってみようかな」って思える場所を作る、それがこども食堂のあり方ですね。
---ここにいる4人が主要メンバーとして参加されたということですが、それぞれどういった気持ちで参加され、どのような役割だったのですか?
斎藤:僕のこども食堂への思い入れのひとつは、グロースリンクかちどきという場所が、地域に出て子どもたちを支え、コミュニティを作る……ということに惹かれた、というところですね。
グロースリンクは「場所」というか、コミュニティスペースなので、社会問題に立ち向かうというよりも、「広く受け止める」ための存在だったんですけど、今回初めて、「子どもの貧困」という、みずから立ち向かうべき大きな社会問題を見いだせた気がして。そこが、すごく、取り組んでいて「よし、やるぞ!」と思えるところです。
チームの役割としては、僕は営業・広報的な役割で、寄付を募るために企業さんへのご説明をしたりといったところを主に担当しています。
川村:私はもともとプライベートで、教会で毎週日曜日にご飯を作って、信徒に限らずみんなで一緒に食卓を囲むっていうことをやっていたんです。そこで調理を担当していて。
食べながら、いろんな話をして、いろんなことを分かち合って……というのは、すごく、元気をもらって帰ることができるなあという、自分の実感があるんですね。なので、こども食堂をやるということになったときに、ぜひ、手伝いたいなと思いました。日頃から、40人、50人分の調理もやっているので、調理担当として、少しでもお役に立てたらという思いでやってます。
---こども食堂をやるよという話が出たときに、「調理に関わりたい」ということで自分から手を挙げたんですか?
川村:そうです。「やるんだったら、なんでもやるから、言って」みたいに言ってました。秋葉さんもそうだと思うんですけど。どんなことができるかわからないけども、やっぱり子どもが好きだし、子どもの笑顔が見たいし……ということで関わらせて頂いています。
戸崎:私は、もともと、食育にとても興味があったので、今回こども食堂をすることになって、食を通して人びとが集まる場所が作れるって聞いたので、それに興味があって、という感じですね。
---戸崎さんは、調理も担当されたんですか?
戸崎:いえ、みなさんの腕前がすごいので(笑)、そこは頼って、私は当日のオペレーションとか、流れの確認とかを担当していました。
秋葉:私も、戸崎さんと同じように、食育というか、食に対してこだわりがあって。食べることも作ることも好きで。
フローレンスに関わるところでは、「親子のサポートをしたい」というのがあります。普段は病児保育事業部で仕事をしてますけど、以前、グロースリンクで、イベントのお手伝いをさせていただいたときに、「こども食堂をやるって聞いてますけど、そのときはぜひ手伝いたいです!」というのを、すごい前のめりで声をかけさせていただいていたんです。
川村さんと一緒で、私の役割としては当日の調理ですね。
---勝どきのグロースリンクのメンバー、飯田橋本部メンバー、それにボランティアさんもいたということですが、どのようなチームワークだったのでしょうか?
斎藤:事前準備と当日の調理で役割が割とはっきり分かれていたというのもあって、リアルタイムのコミュニケーションが必要となるタイミングはあまりなかったですね。
秋葉:そうですね。事前の準備はお任せして、私たち調理担当は、当日会場に行って準備をして、料理を作って、片付けまでする、という感じでした。
---じゃあ、「当日みんなでばっと集まって、ぎゅっとやる」みたいなチームなんですね。
秋葉:そうですね。
斎藤:ボランティアさんとか、ふだん頻繁にコミュニケーションを取るわけではない方も、しっかり巻き込んでチームにしていくのが重要なので、当日のムード作りとかが、すごく重要だなと思うんですね。
その意味では、戸崎さんが主にやってくれたオペレーションも、単に滞りなく回すというだけじゃなくて、いろんな人にしっかり役割を割り振ってというのも大事ですよね。調理担当のみなさんも、ただ料理を作るだけではなくて、ハートフルな空間づくりというところで、チームワークをいちばん発揮していただいたところかなと思います。
ボランティアの方って、日頃からずっと関わってくれているわけじゃないじゃないですか。だからどうしても、普段からやっている僕らとの温度差って生まれてくると思うんですよ。そこをしっかり埋めるような、ハートフルな対応っていうのを、本当に、皆さんにはがんばっていただいて……ありがたいです。
「初めて会ったとは思えない!」 想いがつなぐチームワーク
---ボランティアで来る方と、こども食堂に関する「想い」の話とかもされたんですか。
川村:そうですね。もう、仲良しになっちゃって(笑)
初めてお会いした時に、どうして今日来てくださったんですか、なんてお話したんですけど、「日頃から、子どもの貧困とかについて、心を痛めていたけれど、何をしていいかわからない。でも、何かしてあげたい」っていうのがみんなそれぞれあって。それで、たまたま、グロースリンクの、こども食堂やりますっていう案内を見て、連絡をしてくだったり。
斎藤:そうです、そうですね。
川村:あとは、地域でケアのお仕事をしている方で、公の立場ではいろんなことをやるけど、個人としても、別の角度から手伝いたいっていう想いのある方もいて、そういう方が来てくださったり。
もう、そういう方たちって、初めて会った気がしなくて。
戸崎:すごかったですよね、あのチーム力(笑) みなさん、姉妹みたいで。
秋葉:月島四姉妹(笑)
---月島四姉妹!? 何ですかそれは?
川村:私と、秋葉さんと、ボランティアで来てくれた調理の方お二人で四姉妹。なんだか、不思議と、本当に初めて会うのに、想いが伝わってるっていうか、「あれをやる」って言うともうすぐぱっとできるというか。そういうの、なんだかすごいなあっていうのは、みんなそれぞれに思ってましたね。
秋葉:当日の厨房はすごくスムーズで。メニューを見て、誰が何をやりましょうっていうのも、ポンポンポンポン決まっていって。手が空いたらお手伝いするし、じゃあ今度は何やりましようかっていうのが、本当にもう、長年お付き合いしているような感覚で。川村さんが言ったように、ソウル的なつながりというか。
川村:そう、ソウルフレンドみたいな。
秋葉:集まるべくして集まった人たちかなっていうくらい……
戸崎:息がぴったりでしたね。
秋葉:やっぱり、想いが同じところにあるのかなっていう意味では、すごくやりやすかったですね。
斎藤:そのおかげでオペレーションもだいぶ楽になって、ほっと胸をなでおろしてましたね。
秋葉:それに、戸崎さんが的確に指示出ししてくださって、私たちがわからないところは、「戸崎さん、これどうしましょう」「そうですね、これはこうしましょうか」っていうのも、スムーズに決まっていきましたしね。
戸崎:みなさん、そういったことを気軽に聞いてくださるから、それに応えていってというので、キャッチボールじゃないですけど、そういうコミュニケーションができたのはすごくいいなって思います。
---みなさん、本当に同じ想いでこども食堂に来ているんですね。
秋葉:やっぱり、楽しく食べてもらいたいし、笑顔で帰ってもらいたいっていう気持ちがあるし。料理ってやっぱり、愛情がこもるんですよね。みんなで笑顔で、おいしく食べてもらいたいっていう気持ちが全部、料理に出るので。
戸崎:作ってる方も、楽しくやってるから……たぶん、それが一番大切だと思います。
秋葉:楽しいですね。
戸崎:ねえ。なんか……楽しいですよね(笑) ワイワイしていて。
秋葉:昼くらいからほとんど一日立ちっぱなしなんですけど、洗い物まで楽しい(笑)
斎藤:寄付がなかなか集まらないとか、大変なこともありましたけど、組織の中だけじゃなくて、地域のボランティアの方とか、様々な方が関わっても、想いが一つになれたプロジェクトだったというのが……「こんな風にいい場所が作れる仲間がいるんだ」ということ、そういうチームがあるんだっていうことが、ひとつの自信になったというのはありますね。
食べる子どもだけじゃなく、作る大人も楽しい「食卓」を目指して
---当日の流れや、事前の準備で、思い出深いエピソードはありますか?
秋葉:あの、カレーの話とか。
川村:カレーの寸胴鍋が大きくて、それで、普通に立ってだとかき混ぜられなくて、椅子の上に立ってやったりしてましたね。
戸崎:カレー番長って言って(笑)
---カレー番長(笑) かわいいですね。
川村:あとは、こないだ、おかずが足りなくなっちゃったというのがあって、慌てて、いただいた大根の余りとか、差し入れの煮物とかを使って、ちょっとしたおかずを出したりとかもありましたね。
斎藤:それはもう、経験がしっかりあるからこそできることですよね。
川村:準備は万全でも、やっぱり当日って、何があるかわからないので……みんなそれぞれ、持ち前の経験というか、「じゃあ、あれやろうよ」「あれ出したらいいんじゃない?」とか、そんな風に、その場をなんとかしのいで。
それで最後、笑顔で「おいしかった!」なんて言われると、「ああよかった~、慌てたけど!」みたいなね(笑)
秋葉:料理を作っている厨房のなかでは、オープンの時間までに、きちんと料理が出せるようにっていう緊張感もあるんですよね。五時半にオープンするから、それまでに準備をちゃんと終わらせる。それで、これで大丈夫だねっていう確認をして……お茶できるっていう(笑)
川村:お茶は大事ですね。
秋葉:もう必死ですから(笑) お茶の時間を作るために、みんなちゃんと準備がんばって。
戸崎:コミュニケーションの時間は大切ですよね。
斎藤:「食堂」って言ってるけど、「食卓」なんですよね。出された料理を食べるというだけじゃなくて、家庭の食卓の延長線上の場所だから、やっぱりコミュニケーションが一番重要だし。
---料理を作っている人も、ということですね。
斎藤:そうですね。それをね、思い知らされました。
---料理が機械的に出てくるだけじゃ嫌ですもんね。「こども食堂」って言ってるけど、大人は寂しそう、みたいなのじゃ。
戸崎:それは嫌ですね(笑)
秋葉:ボランティアの方は、食堂の雰囲気を良くするために、可愛らしいバンダナとかを準備してきてくれたりするんですよね。
戸崎:ドラえもんの手ぬぐいとか。可愛かったですね。そういう雰囲気作りは見習わなきゃ。
---戸崎さんも、やっぱりそういう「楽しさ」を意識していたんですか?
戸崎:いろんな人に食べに来てほしいなとは思ってたんですけど、まずは、せっかく一緒にやっているチームの人が、楽しくやってもらえる場になったらいいな、って一番初めに思ってたので……お茶の時間、絶対作りたいなって(笑)
一同:(笑)
戸崎:まずは、みんなが楽しくしている雰囲気の中に、お子さんがやってくるというのをイメージしていたんです。だから、みなさん、ホスピタリティに溢れているというか、誰かのために何かしたいって思っている人が多かったから、まさにその通りで、本当に、素敵だなあって思いました。
---お子さんのための場であると同時に、食事を提供する側も、ボランティアや地域の方たちとひとつのコミュニティを作ることが大事ということですね。
戸崎:はい。それに、楽しくなきゃ、続かないかなって。
秋葉:そうですね。
これからのわんがんこども食堂とグロースリンクかちどき
---今後は、こども食堂でこんなことをやってみたい、こんな風にしていきたいというのはありますか?
戸崎:今は、まだ始まったばかりでバタバタしているので、もっと、コミュニケーションがとれて、お互いの顔を知って、「おかえり」と言えるような感覚の場所にしていきたいなとは思ってます。
斎藤:「当たり前にある場所」であってほしいなとは思いますね。「なんかイベントがあるらしいから、行ってみよう」って感じではなくて、「ああ、今日あの食堂の日だね、じゃあ行こっか」みたいに、地域になじんだ場所になってほしいなというのはあります。
川村:私は、こども食堂をここ(勝どき)で定着させていくことも大事だと思うんですけど、たとえば、隣町とか、また違う地域にも広がったらいいなって。
だから、私個人としては、ずっとここに居座るつもりはなくて、落ち着いて、地域の方で「そういうことなら、私がやるわよ」っていう方が来たら、やっていただいて、自分はそっと抜けて……また隣の町で始めるとか。
それで、たまにお菓子を持ってお茶を飲みにくるみたいな。
戸崎:素敵ですね!
川村:そんな関わり方がいいなって、個人的には思っています。この場所を定着させるために、今はもうちょっと、ひと頑張りっていう感じかな。
あとは、人のつながりがありがたいですよね。ここで知り合って、ちょっとプライベートでもお話できる、いろんな情報交換できる関係ができて。仕事とか近所の付き合いとは別の、新しい人間関係が広がって、すごくよかったなって思います。
---まさに「月島四姉妹」ですね。同じく四姉妹の秋葉さんはいかがですか?
秋葉:少しずれちゃうかもしれないんですけど……フローレンスの、一人暮らししている社員のみなさんとかも、ひとりでご飯を食べるのってやっぱりちょっとさびしいかななんて思ったりします。例えば、こども食堂の、フローレンス社員版の、ランチ会みたいな、そういう会も作っていけたら楽しいかななんて。
食でつながっていくイベントというか、コミュニティみたいなものを、フローレンスのなかでも広げていく……そういうこともできたら楽しいかなって思います。
斎藤:「コミュニティ」に関して言うと、僕が勝手に言ってることなんですけど、「暮らしを大事に考える」って、大事な問題認識のひとつかなと。
例えば戸崎さんがよくやってくれるんですけど、「補食で食育」であったりとか。このこども食堂も食がテーマだし、あとは、フリーマーケットとか、地域で衣料を回して使おうとか、もっと暮らしをよりよくしよう、暮らしの問題を大事にしようっていう、そういうことをコミュニティで解決しようとするのは、グロースリンクのテーマのひとつでもあるのかな、なんて思ったりもしてますね。
---人びとの普段の生活の中にある、大事なものということですね。
斎藤:はい。今回話をして、みなさん、細やかなコミュニケーションをすごく大事にしてくれてるんだなっていうのがよくわかりました。日頃から自分も、ここに、グロースリンクに来る人との細やかなコミュニケーションを欠かさないようにしようって思ってるので、それをチームのみなさんも同じように大事に感じてくれてるってことはすごく嬉しいです。
秋葉さんや川村さんは、ボランティアさんと一緒に「月島四姉妹」だし、戸崎さんも、秋葉さんや川村さん、地域のボランティアさんにもしっかりケアを欠かさないで、本当に細かく細かく声をかけてくださっているのを、よく見てますし。
そういう姿を見ていて、コミュニティを作っていくってことは、やっぱりこういう姿なんだよな、って思います。人を招き入れることもそうだし、僕らが外に出て行くこともそうだし、これからもこんな風にやっていけば、きっと、地域で信頼してもらえる場所に、存在になるんじゃないかなと思ってます。
---どうもありがとうございました。
同じ想いを持つメンバーだからこそ生まれたチームワークと、それを支える細やかなコミュニケーション。とても素敵なチームだなと感じました。
きっとこれからも、たくさんの子どもたちの笑顔があふれる、素敵な食卓を作ってくれるのではないかと思います。
次回のわんがんこども食堂は4月に開催予定です。
中央区にお住まいの親子のみなさま、ご来場お待ちしています!