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【福祉×DX】多言語対応のデジタルマーケティングで外国ルーツ家庭に支援を届ける ~フローレンスのハイブリッドソーシャルワーク事業の取り組み~

【福祉×DX】多言語対応のデジタルマーケティングで外国ルーツ家庭に支援を届ける ~フローレンスのハイブリッドソーシャルワーク事業の取り組み~

#ハイブリッドソーシャルワーク

フローレンスでは、DXを活用して支援につながりにくい親子を必要な支援につないでいく【ハイブリッドソーシャルワーク】の取り組みを行っています。

ハイブリッドソーシャルワークでは、支援が必要な人が窓口に相談に来てくれるのを待つだけではなく、こちらから親子につながりにいくため、様々なアウトリーチ手法を活用しています。

ハイブリッドソーシャルワークの取り組みの中でも、日本に住む外国ルーツ家庭を対象に期間限定で実施したGlobal Oyako Chatプロジェクト(以下、Go Chat)では、多言語のウェブ広告を活用し、困りごとを抱えるご家庭とつながることができました。

Go Chatの取り組みの詳細はこちらの記事もご確認ください。

この取り組みの中心となったのは、みらいのソーシャルワーク事業部の逢坂とみんなで社会変革事業部の宇田(元DXDチーム)です。2人に取り組みを振り返り、座談会形式でざっくばらんに語ってもらいました。

どのような思いでこのプロジェクトに関わっていたのか、苦労した点は?などのプロジェクトの裏側を、どうぞご覧ください!


宇田葉子(フローレンスでのあだ名はうっでぃ)

GO Chatプロジェクト当時はソーシャルテック事業部DXDチームWebディレクター、現在はみんなで社会変革事業部寄付マーケティングチーム所属

パートナーの仕事等の関係でこどもの乳幼児期を海外で過ごす。

 

逢坂由貴(フローレンスでのあだ名はゆっちゃん)

みらいのソーシャルワーク事業部事業モデル開発チーム所属、Go Chatプロジェクト当時は、プロジェクト・マネジャー。

3歳のこどもを育てながら、大学院博士課程に在籍中の社会人学生。

 

 

 

ープロジェクトが立ち上がったきっかけは?

逢坂:既存のハイブリッドソーシャルワークの利用者の中に外国ルーツのご家庭が一部いらっしゃいました。しかしサービスの提供言語は日本語でしたので、外国ルーツの利用者を十分にサポートできていないかもしれないという課題意識があり、外国ルーツ家庭を対象とした無料チャット相談事業Go Chatを立ち上げようという話になりました。

ーどういう思いで、プロジェクトに関わっていましたか?

Go Chatのランディングページ

逢坂:わたしたちは、Go Chatの対象者を検討する際に、日本に住む外国ルーツのこどもは日本国籍のこどもと比べて保育園・幼稚園に就園していない「無園児」になりやすいという調査結果に注目しました。事業立ち上げ前に行った当事者へのインタビューでも、保育園や幼稚園入園までに様々なハードルがあることがわかってきました。

わたし自身も3歳の息子がいますが、保育園をはじめとする色々な支援に助けられてきたので、この事業でサポートを受けるハードルが下げられたらいいなと思いました。

宇田:わたしは、海外で2人のこどもを育てるという経験をしました。自分が生まれ育ったわけではない土地で幼児期のこどもを育てる中で、日本だったらこんなに苦労しないで良かっただろうな、と思うこともたくさんありましたが、海外で現地の人に助けてもらいながら子育てをし、無事帰国することができました。その時の恩返しをしたいとずっと思っていたのと、日本で子育てをしている外国ルーツ家庭が「日本で子育てできてよかったな」と感じてもらえるような一助になればとこのプロジェクトに関わりました。

逢坂:わたし自身も海外に住んでいた経験があります。その他のメンバーも外国ルーツ家庭支援に思い入れがある人が集まってできたプロジェクトでしたね。

ーチーム体制について教えてください。

宇田:フローレンスのプロジェクトチームだけではどうしたら良いか分からなかったですね。アクセンチュア株式会社コーポレート・シチズンシップ推進室 経済的自立支援プロジェクトの皆さんがプロボノとして支援してくださったことで、形にすることができました。また、ウェブマーケティングの専門家である株式会社パワービジョンの山田さんも一緒に、どうすればウェブ広告を活用して外国ルーツ家庭にサービスを周知できるか一緒に考えましたね。

ーそもそもウェブ広告とはどのようなものですか?

宇田:ウェブ広告とは、ウェブサイト上に表示される広告のことです。検索型広告、SNS広告など様々な種類がありますが、今回Go Chatではウェブサイトやアプリ上の広告枠に画像やテキスト形式で表示される「ディスプレイ広告」でサービス情報の周知を行いました。
ウェブサイト上に表示されているGo Chatの画像に関心を持ってくれた方がクリックすると、Go Chatのホームページに遷移して、そこからチャット相談につながるという仕組みです。

 

ー外国ルーツの親子にサービスを周知する方法の検討はどのように進めましたか?

逢坂:最初に「来日したばかり。日本語で情報を得るのが難しい人」など、対象者のペルソナを考えた上で、その方に伝わるようなメッセージはなんだろう、というのを検討しました。

宇田:ディスプレイ広告は、正方形や長方形の画像からなる「バナー」と周知したい内容を表す「バナー文言」でできています。

広告バナーは、スマホの画面にチャットの吹き出しのイラストを用いて、Go Chatのサービス内容のイメージを持っていただけるようなデザインを採用しました。

一般的にペルソナに近い人物を用いてバナーを作ったりしますが、今回それをしなかったのには理由があります。母親や父親、こどもなど、人物の写真やイラストを入れると、「わたしは肌の色が違うから対象外かもしれない」「イラストにいるのは3歳位の女の子だけど、うちの子は1歳の男の子だから相談に乗ってもらえないのでは?」などと思われる可能性があるのです。このような発想は、これまで様々なご家庭を支援してきたハイブリッドソーシャルワークチームのアウトリーチの知見があったからこそだと思います。

バナー文言は「保育園・幼稚園に行きませんか?」というような書き方ではなく「無料で子育てについて相談しませんか?」など、日本の子育て支援制度の前提知識がない人でもサービス内容がイメージできる内容にしました。日本だと「未就学児は保育園や幼稚園に行く」のが常識になっていますが、海外は必ずしもそうではない。そのような背景も意識して文言を作りました。

逢坂:どのウェブサイトに広告を表示すると、より多くの外国ルーツの親子に情報周知できるかを考える際は、アクセンチュアさんが、広告媒体ごとの特徴、メリット・デメリットを整理してくださいました。検討の結果、様々な国の人が使っていて、提携している媒体が多く、限られた予算でも効果的にいろんなチャネルを通じて情報を周知できる方法(Google広告)を選びました。

ディスプレイ広告のバナー事例

 

ー今回のプロジェクトで苦労したところはどこですか。

宇田:多言語化は大変でしたね。外国語への翻訳は、ベトナム語がネイティブのフローレンス社員に頼んだり、事業部を超えて総力戦でしたね。

わたしたちだけだったら、外国語になった途端、どこで改行すればいいのかも分からない(笑)ウェブ広告は文言の文字数にも30文字など制限があるのですが、丁寧に翻訳したら文字数が増えて入稿できなかったりして。しかもどこを削れば良いのかもさっぱり分からない。

逢坂:最近は機械翻訳もレベルアップして、便利になりましたが、広告に載せる文言というのは、わたしたちの事業に関心を持っていただく上で一番大事な部分なので、ちゃんとネイティブの人に確認していただくというのは大事にしていました。

宇田:Go Chatではチャット相談も、外部の通訳会社の方に入っていただいて、支援者が伝えたいことのニュアンスや情報がきちんと伝わるようにしていたもんね。

ーこのプロジェクトではどのような学びがありましたか?

宇田:日本に住む子育て中の外国ルーツ家庭にウェブ広告を出すというのが初めてだったので、試行錯誤しながら進め、いろんな発見がありました。

最初は子育て中の女性のみを広告の対象にしようかと思いましたが、検討の末、男女ともに表示することにしました。結果的に、子育て中の男性にもサービスを利用していただきました。

逢坂:子育て支援のチラシのイラストが「お母さんとこども」になっていたり、男性が使いにくいデザインになっていることもよくありますよね。

宇田:あと、広告をどの言語で表示すれば対象者につながることができるかについても、色々な発見がありました。
最初はベトナム語とフィリピン語(タガログ語)の2言語でウェブ広告を出していました。多言語のサービスなのに英語話者ばっかりが流入してしまうことを懸念していたからです。

逢坂:自治体のウェブサイトや窓口も英語で情報発信したり、窓口対応しているところは多いですが、その他の言語になると、情報量が限られていたり、相談窓口の対応時間が限られてしまうことが事前の調査でわかったという理由もありましたね。

宇田:しかし、事業を進めていく中で、英語圏以外の国出身の方だけど、英語で相談してくれる人が一定数いることがわかってきました。

逢坂:日本に住んでいる英語圏以外の国出身の人が日本で何かを調べるときに、オンライン上によりたくさんの情報がある英語で検索している場合がある。だから、英語でも広告を発信したらより幅広い層の人につながることができるんじゃないかという仮説のもとに山田さんが提案してくださいました。

宇田:結果的に英語が母国語以外の外国ルーツの方も英語の広告を見て流入してきてくださったり、相談も英語でしてくださる場合もありました。英語で広告を出してからは、英語圏出身者だけではない、より幅広い国籍の子育て家庭とつながることができました。

逢坂:ウェブ広告の良いところは、利用者がどの言語のどんなデザインの広告を見てわたしたちのウェブサイトに流入してきてくれたかをデータとして見ることができて、戦略の修正ができるところですね。チラシなどの紙媒体だと、追跡がなかなか難しい。

宇田:やってみないと分からないいろんな気付きがありましたよね。

ーウェブ広告を活用した結果、どんな外国ルーツのご家庭につながれたんですか?

逢坂:Go Chatの利用者にアンケートを取ったところ、「気軽に相談できる人がまわりにいますか?」という質問に「いない」と答えた利用者がたくさんいました。ウェブ広告を通じて、わたしたちが外国ルーツ家庭に積極的に事業の情報を届ける試みによって、「困っているけど、周りに相談できる人がいない」という人につながれたことはとてもうれしかったです。

宇田:ウェブ広告は、既存の対面支援や相談窓口に言語や文化、地理的な障壁でなかなかつながりにくい外国ルーツ家庭につながるための一つの手段となりそうだ、ということが今回の取り組みでわかってきましたね。

地方などでは特に、予算やリソースの関係で、外国人向けの支援を充実させるのは難しいことも多いかと思います。そのような中で、ウェブ広告を活用しながらハイブリッドソーシャルワークで支援をしていくことは、まさに「社会福祉のDX」ですね。

ーウェブ広告を用いたアウトリーチについて社会福祉系の学会で発表したとか。

逢坂:はい。わたしたちは、これまでも既存の支援につながりにくい、窓口に行って相談することが難しい子育て家庭に向けて、オンライン上でご家庭にアウトリーチして、伴走支援を行う取り組みを行ってきました。

今回のウェブ広告を利用する取り組みの中でわたしたち自身にも気づきがたくさんありました。その気づきをきちんとした形でまとめたいと思ったのです。

学会発表後の質疑応答では、「社会福祉の分野でアウトリーチと聞くと直接対象者の自宅に支援者が行って支援をするイメージ。ウェブ広告を活用して利用者につながりに行き、オンライン上で相談支援を行うというのは新しい手法で、興味深い試み」といったご意見や「自治体で子育てアプリを導入し、オンライン相談に関心を持っている。オンラインで相談支援を行うソーシャルワーカーはどのようなスキルが必要か」といったご質問をいただきました。

宇田:こういう新しい取り組みについて学会でより多くの方に知っていただき、意見交換できたのはよかったですね。

ー今回の経験を活かして、今後取り組んでみたいことは?

宇田:困難を抱えているけど支援につながることが難しい人へのアウトリーチはこれからも頑張っていきたいです。今フローレンスで実施している「無料産院プロジェクト」は予期しない妊娠をした方や、様々な事情で妊婦健診を受診をできない方を対象にしています。難しい状況にある方に届く広告のデザインや文言をブラッシュアップしていきたいです。

逢坂:社会福祉の領域では、支援を受けるためには、窓口での申請やたくさんの書類の提出が求められます。困っている人が支援を受けられるようになるまでには、数多くの物理的・心理的なハードルが存在しているのです。

Go Chatの取り組みで既存の方法では、様々な障壁により支援につながりにくいご家庭に支援を届ける一つの手法としてウェブ広告の可能性を感じました。企業のマーケティングではよく用いられる方法ですが、福祉領域ではフローレンスも毎回試行錯誤しながら実施しています。過去の取り組みの分析を行ったり、同様の方法を用いている他の団体さんとも協力しながら、支援につながりにくいご家庭につながる方法をレベルアップしていきたいです。


Go Chatの取り組みをサポートしてくださった皆さん

 

  • アクセンチュア株式会社

アクセンチュア株式会社コーポレート・シチズンシップ推進室 経済的自立支援プロジェクトの皆さんがプロボノとして支援してくださいました。

 

  • 株式会社パワービジョン

ウェブマーケティングの専門家である株式会社パワービジョンの山田さんには、ウェブ広告を活用して外国ルーツ家庭にサービスを周知できるかの検討にお力添えいただきました。

 

  • 株式会社セールスフォース・ジャパン / 「みてね基金」

Go Chatをはじめとするフローレンスのハイブリッドソーシャルワークの取り組みについて、株式会社セールスフォース・ジャパンと「みてね基金」より、取り組みの開始当初から大きなご支援をいただいています。

 


現在、フローレンスでは、外国ルーツの親子だけでなく、ひとり親や経済的に厳しい子育て世帯など、社会的に孤立しやすい、支援につながりにくい世帯に対する支援を強化しています。

このような活動は皆さんからの寄付で支えられています。

ハイブリッドソーシャルワークも、ご寄付がなければ続けることはできません。ぜひ、応援をよろしくお願いします。


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