「保育園の中で困りごとを抱えている親子が、今よりも過ごしやすくなるよう、保育士とソーシャルワーカーなどの専門職が一緒に考え、サポートを行おう」と、フローレンスの保育園が取り組んでいる、保育ソーシャルワーク。
「その実践についてぜひ話してほしい」と日本保育ソーシャルワーク学会からお声がけをいただき、2023年12月2日に『日本保育ソーシャルワーク全国学会大会第9回研究しずおか大会』にて、フローレンスのスタッフが登壇させていただきました。
本日は、当日の様子を事務局の新免からお伝えします!
保育ソーシャルワークとは?
困りごとを抱えている人がより良く過ごせるよう、共に考え、サポートを行う「ソーシャルワーク」。
ソーシャルワークは現在、全国の病院における「医療ソーシャルワーク」や学校での「スクールソーシャルワーク」など多様な場所で行われていますが、保育園では、まだ一般的に取り入れられていません。
保育現場でのソーシャルワークは「保育ソーシャルワーク」と呼ばれ、乳幼児のいる子育て家庭への支援の一つとして、フローレンスは2018年度より提唱・実践・推進してきました。
フローレンスの保育園ではこれまで150件以上(2024年2月時点)のご家庭のサポートを園スタッフとソーシャルワーカーで実施しました。
また、2021年度からは中野区から受託を受け、中野区内119園(2023年4月1日時点)に保育ソーシャルワークを提供しています。
中野区の取り組みについては、こちらでもご紹介しておりますのでご覧ください。
保育ソーシャルワークに取り組んだフローレンスの園からは以下のような声があがっています。
つなぐべきところとつなぐことができて、チームで家庭を支える体制を取れるようになり、よかった。
さまざまな背景のご家庭がおり、ソーシャルワークのニーズはどんどん増えている。保育者にとっても、保護者にとっても、専門職によるサポートを受けられるのは、とてもありがたいことだと思う。
不安なことや失敗しても肯定してくれて、一人じゃないと思えた。大変なことも多いが、ご家庭との関わり方を考えるきっかけになった。
保育士だけでは難しいことも、ソーシャルワーカーの協力を得ることで、丁寧に対応できて、今後どうしていくべきか見通しを持てた。
このような取り組みを全国へ広げていくための活動の一つとして、フローレンスは日本保育ソーシャルワーク学会の団体会員として登録しています。
実践者や研究者が集まって研究発表・議論をする学会大会では、これまでにも複数回発表しており、2023年度は、シンポジウムに登壇することになりました。
こどもまんなか社会における保育ソーシャルワークの役割
2023年度の学会大会は「こどもまんなか社会における保育ソーシャルワークの役割-こどもの声を聴くために-」というテーマで開催され、大会2日間で学会会員、保育・教育・社会福祉関係者、一般市民などあわせて243名(実人数)の方が参加されました。
フローレンスは1日目のシンポジウムに登壇させていただきました。シンポジウムには登壇者を除き、最大66名の方に参加いただきました。
シンポジウムのテーマは、『保育の現場をまんなかに「保育ソーシャルワーク」を考える』。
現在、こども家庭庁では「こどもまんなか」社会の実現をスローガンとして掲げ、こどもの視点や意見を尊重し、保護者が子育てに夢や希望をもてるよう、社会全体の仕組みを転換しようと試みています。
こどもとそのご家庭を支援していくうえで、特に乳幼児期や児童期のこどもの保育・教育に求められる期待は大きく、今後より一層ソーシャルワークが必要となるだろうということから、「保育ソーシャルワーク」の成果と課題、そして今後の方向性や可能性などについて考える機会として開かれました。
フローレンスの他には、以下のみなさんが登壇されました。
登壇者
◆シンポジスト
寺澤 達也先生(リーザプレスクール 園長)
後藤 久美先生(静岡市教育委員会 スクールソーシャルワーカー)
◆コーディネーター
山城 久弥先生(鎌倉女子大学 講師)
◆コメンテーター
三好 明夫先生(京都ノートルダム女子大学 教授)
まず、寺澤先生からは、「意識がかかわりを変える」というテーマで、実際に園で実践された保育ソーシャルワークの意識化についてお話いただきました。
次に、後藤先生からは、「スクールソーシャルワーカーから見る保育ソーシャルワークへの期待」というテーマで保護者との出会いの場であり家庭の変化にも気づきやすい保育現場への期待、幼保小中高の横断的な連携の必要について発表がありました。
保育現場、教育現場それぞれの立場の実績報告から、保育現場にソーシャルワークの視点を意識的に取り入れていくこと、教育現場とも連携していくことの重要性が語られました。
フローレンスからは、「保育ソーシャルワークの実践」というテーマで、取り組みを開始したきっかけから、実践を重ねていく中で、保育所のような施設型だけではなく、居宅訪問型の保育現場も対象にして取り組んできた実績についてお話しました。
そのほか、どのようなプロセスで保育ソーシャルワークを実践し、どのような課題感を持っているかについて、事例を交えてお話させていただきました。
報告後、コメンテーターの三好先生からは、フローレンスの発表に対して「実践発表の王道を聞かせてもらった。実際の流れを見せていただけることが学びになる」というコメントをいただきました。
また、シンポジウムでは保育園がソーシャルワークを取り入れられるだけの余力や環境が現状ないことも課題にあがり、保育ソーシャルワークを展開していくには、保育園がこどもの発達・障害、保護者の養育の悩みなどの課題に気づいたときに外部機関などにタイムリーに支援を求めることができる環境を整えていく必要があることが確認されました。
事前準備から当日運営まで、この機会を設けてくださった学会事務局はじめ、大会実行委員会・大会事務局の皆さまには心から感謝を申し上げます。
これからも保育園とソーシャルワーカーが協力して親子を支援していくために
保育現場では、こどもの発達・障害、保護者の養育の悩みなどの課題に気づく場面が多くありますが、実際に保育士が困りごとを抱えたご家庭に出会ったとき、「なんとか力になりたい」「このご家庭にはサポートが必要ではないか」と感じながらも、誰に相談したら良いのかわからず、葛藤を抱えてしまい、担任の先生だけ、または園内だけで悩んでしまうということも少なくありません。
そのような保育現場の実態は、フローレンスが行った全国の認可保育所、認定こども園、地域型保育事業、幼稚園を対象にした調査(2023年11月21日〜2023年12月15日実施/回答数236件)からも見えており、保育園は手続きの簡易化以上に、相談先と連携して動きたいというニーズがあることがわかっています。
また、家庭に対して支援を実施するにあたって園が困っていることとしては、「人手が足りない」のほか、「保育支援・ソーシャルワークなどについての研修の必要性を感じるが、機会がない」という回答が3割にのぼり、「専門機関や行政に相談をしたいが、相談先がない、またはどう相談したら良いかわからない」という回答は1割を超えました。
このように保育現場からは、相談先への期待の声があがっており、児童虐待相談件数の増加や貧困による格差拡大などこどもたちを取り巻く環境の複雑化から、今後ますます「保育ソーシャルワーク」の需要が高まることが予想されます。
ただ、こういった支援に地域格差があっては、課題の中に取り残される親子が出てしまうことになります。
そのため、保育現場を通してご家庭をサポートしていくには、全国の自治体で「保育ソーシャルワーク」が導入されることが重要です。
フローレンスでは、社外の保育園にも研修などを実施し、保育園を利用するご家庭を取り巻く環境をより良くする取り組みも行いはじめています。
これからも保育ソーシャルワークの実践を続け、自治体・保育園と連携をとりながら、支援の輪を広げていきたいと考えています。
「保育ソーシャルワーク」導入をお考えの自治体のご担当者の方へ
保育ソーシャルワークの導入を検討されている場合は下記よりご連絡ください。
sw-mirai@florence.or.jp
フローレンスにおける保育ソーシャルワークの経験をもとに、ご相談に応じます。
現在、フローレンスでは、「保育ソーシャルワーク」の取り組みだけでなく、ひとり親や経済的に厳しい子育て世帯など、社会的に孤立しやすい、支援につながりにくい世帯に対する支援を強化しています。
このような活動はみなさんからの寄付で支えられています。
保育ソーシャルワークも、ご寄付がなければ続けることはできません。
ぜひ、応援をよろしくお願いします。