障害児が保育園に通うことは、現状、まだ高いハードルとなっている地域も多いです。実際に障害のあるお子さんの親御さんで、「相談したけど断られた」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ただ、少しずつではありますが、受け入れできる保育園が増えていたり、行政側でも受け入れ可能水準を広げたり、といった動きがあります。
仙台にあるフローレンスのおうち保育園では、この春にも障害のあるお子さんの入園がありました。今回の記事では、前年までは難しかったかもしれない中度以上の障害があるお子さんの通園がかなった背景や、実際に通園を始めてお子さんやご家族に起こった変化について紹介していきます。
仙台市の認可保育園にて障害児入園拡大の動き
仙台市における保育園での特別な支援が必要なお子さんの保育(プラス支援保育制度)は、昨年まで中度~軽度のお子さんが対象でした。しかし、その受け入れ基準ではより障害が重いお子さんは保育園に通うことは叶わず、働きたくても働けない、という親御さんの悲痛な声が多くありました。
これについて、わたしたちフローレンスは市に対して要望し続けてきました。また市民団体からの要望書の提出がされるなど、この声は次第に大きくなっていきました。そしてついに今年の4月から入園基準が変わり、より障害が重いお子さんも受け入れ可能になったのです。
障害児入園基準改定で保育園通園がかなった佐々木さんへインタビュー
現在2歳の佐々木ひなたくんは脳性麻痺がある障害児です。この春から中度以上の障害がある子でも認可保育園に通えるようになった制度改定のおかげで、4月からおうち保育園木町どおりに通園できることになりました。
「保育園という選択肢を諦めないといけないのかなと思ったこともありましたけど、保育園に通うことができて本当によかったと思っています」とおっしゃる母親の佐々木さんに、保育園通園までの道のりや通園後の変化、今の気持ちなどを伺いました。
ーーーまずは保育園に通えるようになるまでの道のりを教えて下さい。
佐々木さん:保育園に通えるようになったきっかけは、お世話になっていたソーシャルワーカーさんからフローレンスの保育園を紹介されたことです。
まず最初に自治体の発達相談窓口の方に相談したときには、「ひなたくんの状態だと、保育園には預けられないと思います」と言われてしまいました。その時わたしは育休をとっていたんですが、当然復職する気でしたし、障害があるから保育園に預けられないなんて全く想像していなかったので、とても驚きました。でも、その方に案内されたのは保育園という選択肢ではなく、療育を受けるために親子通園(療育を受けるために親も一緒に通園すること)をするという流れでした。その時は、正直言って心が折れましたし、泣いたこともあります。
でも、どうしても諦められなくて。本当に無理なのかな?って思って調べたら、障害児向けの特別支援保育(プラス支援保育)というものがあると知りました。それで、お世話になっていたソーシャルワーカーの方に相談してみたら、フローレンスの保育園で障害児を受け入れてくれるかもと紹介してくれたんです。
その直後に「こども誰でも通園制度」という国のモデル事業がフローレンスの保育園で始まるというのを仙台市からのメールで知って、これならもしかして?と思って問い合わせしたことがきっかけになり、まずはこのモデル事業を使って週に1度通園できることになりました。
もしこの保育園で合わなければもう諦めよう、そういう気持ちで不安なまま通わせ始めたのですが、不安はすぐに解消されました。保育園に通ってみていい変化がたくさんあったんです。
ーーーそれは素敵ですね!いい変化とはたとえばどんなことですか?
たとえば、離乳食が進められるようになったことですね。うちの子は嚥下がしっかりできなくて、丸飲みしてつまらせてしまうのが怖くて、生後7ヶ月の形態から進められずにいたんです。でも保育園の先生が、「ひなたくんが食べる様子を見ていると、食事の形態を進めてみてもいいんじゃないかなって思います」とアドバイスをもらって、つまらせないような工夫も教えてもらって、そのとおりに試したら食べられたんです!!わたし一人だったらたぶん進められなかったと思います。いろんな子を見ている先生だからこそ気づくこともあるんだなと、すごく勉強になっていますし、感謝しています。
それから息子にも変化がありました。保育園に通うようになってから、人見知りが始まったんです。今まではどんなところに行っても泣くことはなかったんですが、今は知らない人や場所をちゃんと認識して泣いたりするようになりました。そういうことも、親としては成長だなと思って嬉しくて。この子が「社会進出」したんだなと思いました。
ーーーお子さんの「社会進出」っていい表現ですね!
ちょっと大げさかもしれないですが、でも、こどもにとって保育園に入ることって、社会進出かなって思っているんです。この子が社会で育っていくための、最初の入口になっているなって。
実際、預けてみて、園のこどもたちも障害のある子に対して普通に接してくれていたのを見て、この子も社会で暮らしていけるんだ、大丈夫だなって、感激しました。
保育園に入れることは、もちろんわたしが働きたいからというのも大きいですけど、こどもにとってもいいことなんじゃないかなって考えていたのですが、それが確信に変わりました。ずっとわたしがこどもと離れずにいるよりは外に出ていってほしい。他の人からの刺激を受けたり、自分と他の人との違いを知ることができたり、親と一緒にいるだけでは得られないことがきっとあるなって。もしかしたら家で過ごしていたらわからないような好きなことが見つかったり、できることが増えたりすることもあるんじゃないかなって思います。
ーーモデル事業の定期通園を経て、この春からは認可保育園への入園が決まったとお聞きしました。
はい、おかげで4月から復職もできることになりました!わたしだけの力ではなくて、色んな人がこれまでに声を上げてくれたからこその結果だと思っています。本当に感謝していますし、運もよかったなって思います。
実をいうと、保育園に入れて復職することが本当に正解なのかな?って迷うこともありました。療育に通っている他のママから話を聞くと、「そっちのほうがよかったのかな、息子のためにはわたしが仕事をやめて療育に通ったほうがいいんじゃないかな」って、今でも思うこともあります。こどもが話せないと気持ちを聞くこともできないし、これが正解なのか、自信はありません。でもこどもは楽しそうに通っているし、どうしても合わなければ仕事をやめる覚悟は持っています。
何よりも、保育園に入れたことで社会の中で育っていく、ということが実感できたことがかけがえのない経験になりました。今は不安なく、毎日通うことができているので嬉しいです。
狭き道でも、諦めなければ道は拓けるかもしれない
佐々木さんは、当初自治体の方に言われた「保育園に預けられません」という言葉を鵜呑みにせず、自分で情報収集し、保育園への通園が実現しました。「タイミングもよかった」と佐々木さんはおしゃっていますが、そのタイミングで動き続けた佐々木さんだからこそ有力な情報にたどり着いたという側面もたしかにあると思います。
そしてその影にはより障害が重いお子さんも保育園への入園が可能になるようにと動いてくれた先輩方や仙台市職員の方の力もありました。
佐々木さんの行動力に敬意を表するとともに、フローレンスでもこういった方の行動が実るような社会になるよう、活動していきたいと考えています。
フローレンスのおうち保育園では現在入園を受け付けております。
ご見学・お問い合わせはこちらから。